第232話「魔鉱石と魔道具」
そろそろ、ポイの仕事が終わったであろうとサダらは考え、ケリナの街の周囲での出稼ぎを切り上げて、街に戻って来た。
そんな彼らの顔を見たポイは、ある頼み事をして来た。
「ああ、みんな、いい所に帰って来た。ねえ、頼みがあるんだけど、ちょっと魔鉱石を幾つか探して来て貰えないかな?」
今度は、ポイの使いのようだが、他にやる事もない。
「採掘場所とかは、採掘ギルドの人に聞いてみて」
ポイの指示に、サダらは従う事とした。
サダらに、フェムネが2人、同行する。
何でも、魔鉱石を探す為の魔道具を操作出来るというのだ。
採掘場所は、採掘ギルドの職員から地図を渡されて示された。
「ただ、大雑把な場所は解るが、後は現地で魔道具を使いながら探してくれ」と言う。
何でも、探す場所は開発された鉱山ではなく、山の中だそうだ。
馬は、付近の町村に預け、そこから先は歩いて山に踏み入るのだとか。
しかも、数日は山中で採掘をしながら寝泊まりするであろうと。
魔道具以外にも、収納数を増やした鞄なども貸して貰えた。
これで、道具や食料等の備品、採掘した魔鉱石を持ち帰るのである。
採掘場所は、1つではないので、作業は、また数週間は掛るであろう。
採掘ギルドの職員に教えられた町の1つにサダらは到着した。
町の周囲は山で囲まれている。
その町の宿屋に部屋を取り、馬を預けた。
これから、山に踏み入り、魔鉱石を探すのだ。
フェムネの1人が何やらヘルメット型の物を被った。
それを操作すると、前方を光が照らした。
「あっちだね。距離は2km位かな?」
光が方向や距離を示すらしい。
その光を頼りに、サダらは山道を歩いて行く。
最初は山道があったが、段々と藪や斜面を進んで行く。
そんな悪路でも、フェムネの足は止まらない。
サダらは、遅れまいと必死にフェムネを追う。
フェムネの方では気を遣い、たまに休みながら進んでくれる。
マレイナ「あなた達、山の中も自由に移動出来るんだね」
「まあね。僕らは、森や山に住んでる事が多いから。泳ぐのだって得意なんだぜ」
ディーナ「本当に、フェムネは器用ね。その鉱石を探す魔道具は、どうしたの?」
「ああ、これは、ポイと採掘ギルドで共同開発した魔道具さ。魔鉱石には、それぞれ特有の波長があるんだって。それを捉えて、方向を教えてくれるんだよ」
キオウ「それも、ポイのアイデアなのか。あいつ、本当に凄いよな」
やがて、フェムネの被る魔道具の光が点滅し始めた。
これが近くに魔鉱石がある合図だそうだ。
剥き出しになった岩場に、光が当たっている。
「ここだ、ここだ。みんな、ここに埋まってるよ」
フェムネの指示で、皆で鶴嘴やハンマーで岩を叩き始めた。
最初は、何も含んでいない石ばかりであったが、掘って行くと岩の色が変化し始めた。
「もう少し掘った方が、純度の高い石が採れるよ」
サダらもぼんやりと、魔鉱石の感覚を受け取っていた。
ここは未開発だが、それなりに有望な鉱脈のようである。
採掘ギルドに貰った地図にも、採掘場所の印を付けた。
掘り出せたのは、虹白色石と呼ばれる様々な色に見える魔鉱石であった。
「これも、魔道具を作る素材にするんだよ」
何でも、武具などに属性を付与する時にも使う魔鉱石らしい。
魔道具だけでなく、魔法の武具の材料となる鉱石である。
こんな魔鉱石を何カ所もサダらは探し回り、ポイの要求した種類と数を集める事が出来た。
全て終わるのに、2週間以上が過ぎていた。
時に、山の中で寝泊まりして山中を彷徨い、また採掘場所の山や洞窟を移動してひたすらに掘って歩いていた。
人里を離れた場所では、魔獣に遭遇する事もあった。
そいつらを切り倒しながらの採掘作業だった。
サダらは、ケリナの街に戻って来た。
集めた素材は、ユドロ侯爵の別宅ではなく、魔法学院へと届けてやった。
「流石だね、みんな」
サダらの成果に、ポイも満足らしい。
集めて来た魔鉱石は、魔工術師らが調整してから、様々な魔道具や武具を作って行くらしい。
サダらは知らないが、今は、ラッカムラン王国内の様々な場所で魔鉱石が集められ、魔道具などが作られていた。
ここまで、一度に魔鉱石を集めるのは、滅多にある事ではないのだが。
(これも、ポイが魔界から持ち帰った知識のお陰なのか?)
そんな半面もあったが、それだけではないようであった。
サダ達の持ち帰った魔鉱石は、早速、様々な加工をされているようである。
また、魔鉱石の在り処を記した地図は、採掘ギルドに返還した。
「いや、この記録は、活用させて貰うよ。ありがとう」
今後は、採掘ギルドが人を派遣して採掘する事になるのであろう。
ただ、場所によっては、魔獣が出没する場所もある。
そんな場所は、冒険者を雇って向かうのであろう。
サダらが採掘から戻って来てから数日が過ぎた頃に、ポイは指輪を配ってくれた。
「これは、今回、みんなが集めて来た魔鉱石から作り出した魔道具の指輪だよ。体力回復に、腕力強化の効果があるから、使ってね。それに、武器と防具の強化も出来るから、工房と相談してよ」
今回の採掘は、主に、ユドロ侯爵の配下の装備の為であったらしい。
その他に、魔法学院の幾人かの魔術師らの装備の強化も目的であったとか。
ケリナの街でも、密かに戦力の増強が行われているようだ。
だが、それだけでなく、ポイは幾らか必要な素材を水増ししておいたので、サダらの分も確保してあったようだ。
武器と防具をまた強化したサダ達、使い込んだ装備が、また一段と強力な物へと進化したのである。
ポイの仕事も順調に進んでいるようだ。
魔界から持ち帰った魔導書は、注釈が付け加えられ、写本が幾つも作られており、様々な関係部署に送られている。
ポイが覚えて来た呪文も、その多くが新たな魔導書にまとめ上げられつつある。
ブランも協力して作り出した魔族の言語の辞典なども、かなり製作作業が進んでいるようだ。
ポイの持ち帰った様々な事柄が、世界に広がりつつある。
魔鉱石の探知機以外にも、幾つかの魔道具も新たに生み出されたのだとか。
自動書記機なども、その成果の1つだ。
原文を誤る事無く、正確に読み易い文字で写して行くその魔道具は、誤字が多く、時として呪文の効果を失わせる魔導書の写本を作る時に重宝されている。
ポイの魔導書も、その機器によって複製されているのである。
だがしかし、写本で小遣いを稼ぐ学生らには、評判の悪い魔道具でもあるのだとか。
新たな魔道具が出来ると、それまでその代わりに働いている者にも影響する。
そんな事は、過去にも幾つもあったのだ。
装備を揃えたユドロ侯爵の配下らに、ナルルガは魔法を教えてもいた。
今は、彼らに魔法をフェムネらも教えている。
侯爵も、配下の者らに、対魔族、対魔票の対処法を学ばせていたのだ。
彼らとは、サダらもよく手合わせをするようになっていた。
侯爵の配下で、戦闘を受け持つ騎士の代表は、セトレンという30代中頃の男性であった。
やや神経質そうだが、剣の腕前はなかなかの物である。
彼に、サダらも魔族との戦闘や魔票で支配された魔獣の事などもよく聞かれた。
「ここにいると、魔族に出会う事など、ほぼ無いからな」
彼らにしてみれば、魔族と出会う機会など少ない。
ブランはポイと行動を共にしているが、彼女には余り魔族らしさを感じないようだ。
それは、サダ達も同じであった。
今まで戦って来た魔族と比べると、ブランは人間臭いとも思えるのだ。
サダが最初に天空の神殿で出会ったブランは、もっと魔族らしい存在であったが。
魔族に出会った事がほぼ無いセトレらではあるが、魔獣との戦いの経験は豊富である。
ケリナの街の周囲だけでなく、グラナイト地方で何かしらの問題があれば、彼らが対処していた。
ユドロ侯爵も、地位はアグラム伯爵よりも上なので、その配下の規模もより大きい。
伯爵の手勢以上の戦力を侯爵は、備えているのである。
魔族には、滅多に遭遇しないのが普通である。
今の時代、サダらのように数々の魔族と遭遇する者の方が珍しい。
だが、ポイが行き来したように、この世界と魔界のつながりは、今も続いている。
多くの人々が気付かないだけで、魔族はこちらにも来ているのだ。
その魔族らは、闇に潜んでいる事が多い。
どこか深い洞窟の底、夜の闇に。
また、放置されて荒れ果てた廃墟などに棲み付いていた。
そんな奴らも夜になると、外をうろつくのである。
「夜になると、見慣れない魔獣が出る」
そんな話は、魔族が絡んでいる事も多い。
魔族への対抗手段を得たユドロ侯爵の配下らも、そんな噂を領内で聞き付けると、調査に向かっていた。
それでも、彼らが討ち取って来るのは、小物の魔族である小魔人程度だ。
今の彼らには物足りない相手ではあるが、魔族と初めて戦う者の方が多いので、良い練習相手になっているようだ。
魔族退治の為に、不審な場所を探って行くので、グラナイト地方は、より安全な場所へとなっているようである。




