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第231話「手すきの依頼」

 ポイの手伝いをする為か、それともアグラム伯爵の焦りがそうさせたのか、サダらは再びケリナの街に滞在していた。

ポイの手伝いと言っても、他にナルルガを含めて幾人かの助手もいる上に、魔法学院自体が、全面的にポイを援助している。

カディンは、その助手をしていたが、サダらに用はほとんど無い。

蚊帳の外のサダらには、寂しい状況になっていた。


魔法学院のポイへの待遇も凄いものだ。

ポイは、学院の名誉教授に任命されていた。

ある意味で、停滞していたこの国や世界での魔法、更には魔界や魔族の研究がポイの経験や持ち帰った物で一気に加速し始めたのだ。

魔法関連だけではない。

神殿も神官を派遣し、魔界や魔族の事をポイから聞き出し、ポイの記録を調査し始めていたのだ。


その上、一部の人しか知らなかったフェムネという生き物らと、人間達は、交流の場を広げていた。

フェムネの住まう場所の保護や、交流の場を儲けたり、彼らを迎え入れる場所も作られた。

ただの獣という認識から、同等の関係へと変わりつつあった。

そういう意味でも、ポイはフェムネの解放者という面も合わせるようになっていた。

正しく、ポイはフェムネの英雄なのである。

それだけに留まらず、ポイは人間らの世界でも、要人となりつつあった。


 今では、国内の様々な人々が、ポイに会いに来ていた。

魔法関係から神殿関係、王族まで会いに来た程だ。

王室からは、ポイに学者の称号も授与された。

学者は、国家に認められた学問を極めた者に送られる称号なのだ。

ポイの場合は「魔法学者」である。

この称号は、ケリナ魔法学院の院長や、一部の教授も授けられていたが、あのタバル教授もまだ受けてはいない物であった。


ここまで、ポイの評価が上がると、嫉妬などを買いそうなものではあるが、不思議とそれは無かった。

フェムネらをただの獣と蔑む者もいない。

そこが、フェムネの面白い所であった。

「いや、僕等はね。まあ、それは言わない事にしておこう」

何やら、秘密があるのであろうか?

そう言えば、フェムネは幻術も得意ではあったが。

今では、様々な人々がフェムネに友好的な態度を示していた。

その中でも、王族や貴族の女性らがフェムネの保護に熱心らしい。

狩猟用の森や野をフェムネ保護区に指定した地方も出て来ていた。


ここまで、ポイやフェムネが評価されるのも、ポイの知識がそれだけ重要だからである。

今では、何故、過去の魔族が自分達の知識である魔法を、この世界に広めたのかは解らない。

そのお陰で、こちらで魔族に対抗が出来るようになったのも、言い過ぎではない。

更に、それが、様々な分野に活用され、文明も進んだのだ。

ポイの話では、魔界にいつの時代にも、複数の魔王がいるようだ。

その力関係が、こちらの世界への干渉にも影響するのであろう。

もしかしたら、特定の魔王がこちらで勢力を広め、魔界での支配力を強めないように牽制する為であったのかもしれない。

今となっては、当時の魔王はもういない。

その考えは、もう、聞けないのであろう。

ポイも現代の魔王に、魔法を学ぶ事を許可されたそうだ。

その魔王は、ポイが魔界に残るのか、それともこちらの世界に帰るつもりなのか気にしていたそうだが。


 ポイの忙しさも、まだまだ続くようだ。

サダらは、ポイとカディンをケリナの街に置いたまま、周辺の町で依頼を受ける事にした。

今いるグラナイト地方にも、ケリナの街を離れれば難易度の高い依頼を受けられる場所が幾つもあるのだから。

そんな町を数日おきに移動して歩いた。

どの町の周囲にも、魔獣は出没する。

その為に、冒険者が存在する。

この稼業が、稼ぎにならない世は、まだまだ先の事らしい。


今日も、立ち寄った町で依頼を受ける。

ケリナの街では少なかった魔獣の討伐である。

町を出て街道から、森や丘に入る。

すると、姿を隠していた魔獣らに遭遇する。

奴らの住処は、至る所にあるのである。

水辺には、そこを好む奴らが、廃屋や洞窟にも、そこに適応した奴が。

そこから、人々がいる場所へ出て来ては、悪さをする。

彼らが、人を困らせようとしている訳でもないのだが。


街道や農地、集落の近くに魔獣が出るのは困る。

だが、もっとも厄介な相手は、水場に出る奴だ。

水場は、農業用水にも、様々な加工、工作にも使う。

そして、人々や家畜にも、様々に利用される。

そこを魔獣に占領されると、最悪の場合はその集落を放棄するしかなくなる。

そんな小さな集落は、時たま出来てしまう。

それを防ぐ為に、定期的に水場の見回りの依頼もあるのだ。


 占領は、その水場自体に水棲魔獣が住み付く事もあれば、陸棲の物に縄張りに取り込まれる事もある。

水棲の魔獣の退治は、より困難である。

奴らにとって水辺は、その力を最大限に発揮できる場所なのだから。

有鱗鬼ゆうりんおにも、そんな水辺の魔獣である。

魚の特徴を備えた人型魔獣で、普段は河川や湖沼に住んでいるが、たまに流れに沿って人家近くの水辺にいる事もあるのだ。

そんな面倒な魔獣が、村のため池から水路にいるというので、付近の町で依頼を受けて向かう。

小さな村にギルドが無いので、連絡も遅れがちである。

既に、村の水源に奴らが住み始めてから、1週間以上が過ぎているそうだ。


その間、耕作地への水撒きなどにも、村の井戸から汲み上げた水を使っているので、他の生活用水も圧迫しないか心配だとの事で、討伐は急がれた。

溜池と言っても、50m四方程の大きな物で、そこに幾つかの水路がつながっている。

奴らは自由に水の中を移動するので、それを全滅させるのも一苦労である。

退治の仕方は、池の畔から見付け次第、呪文や弓で攻撃するしかない。

だが、水深も5m以上あり、潜られると厄介である。


奴らも、サダらが近付けば警戒して池の中央に退避し、更には水中に姿を隠す。

そこを当てずっぽうに、地属性の呪文で岩塊を幾つか叩き落とす。

奴らが慌てて顔を出せば、そこをまた呪文や弓で狙い打つ。

すると、また水の中に消える。

それを幾度も繰り返し、徐々に数を減らす。

これが陸上にいれば、簡単に切り倒せるような相手なのだが。

呪文を多用するので、魔力の消耗も大きい。

休みを取りたいところだが、そうすると奴らが逃げてしまう事もある。

逃げても、またここに戻られては面倒なので、一気に片を付けたいところだ。


ダメージを負った奴らが数匹、水面に浮かんでいる。

だが、まだその全てを片付けた訳でもない。

仲間らを二手に分け、挟み込んで攻め立てる。

岩塊が水面に水柱を幾つも立てる。

あの岩塊も、後で処理しないといけない。

出来る事ならば、数多くの岩塊を放ちたくはないのだが。


有鱗鬼は、泳ぎも達者だが、水中でも呼吸が出来る。

その気になれば、何時間も潜っているられるので、手間が掛る。

出来れば、岩塊を投げ付けた時に倒せれば良いのだが、それは巧みに身を躱している。

それでも、根気よく呪文を放ち続けるサダ達。

時間は掛るが、確実に数を減らして行く。

やがて、水面に奴らは姿を現わさなくなった。

浮いた遺骸は、ロープで輪を作り、それを引っ掛けて岸へと運ぶ。

その作業が妨害されないという事は、奴らを全滅出来たのか?

念の為に、溜池や水路を見回るが異常は見付からない。

村人にも、退治が終わったであろう事を伝えてから、その場を後にする。

キオウ「これで、片付けばいいんだが」

マレイナ「また、棲み付かれると面倒くさいよね」

「11匹倒したから、しばらくは来ないんじゃないのか?」

そう思いたかった。


依頼を受けた町まで戻ると、討伐出来たであろうと報告を済ませる。

面倒な依頼なので、そこの受付嬢にも労わりの言葉を貰う。

「皆さん、ご苦労様でした。水に棲む奴らでしたから、大変でしたね」

そう何度も戦いたい相手ではない。

後は、町で飯を食って宿で休むだけである。

(こういう魔獣らには、ポイやカディンがいた方が楽だろうな)

ポイの魔法は強力であるし、カディンの召喚獣や呪文ならば戦い易いのではないか?

こうして、魔法を多様すれば、その能力が伸びるのだから、良い機会ではあっただろう。


翌日も、サダらは依頼を受け、それを消化して行く。

このグラナイト地方も広く町村も依頼も、幾つでもあった。

場所が変われば、その受けられる内容も変わる。

だから、飽きるような事も無い。

もし、飽きたらば、拠点の集落を変えれば良いだけである。

そんな生活が、2週間ばかり続いた。

そろそろ、ケリナの街に様子を見に戻ろうか?

まだ、ポイの仕事が終わっていないのであれば、またこうしてうろついていればいいのだ。

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