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第23話「迷宮水没」

 水辺の大空洞の周辺を、しばらくは経験稼ぎの狩場としたかったのだが、なかなかにそう上手くは行かない。

この地域に雨季は無いのだが、河川の上流で大雨がしばらく降り続き氾濫した。

その溢れ出た河川の水は、迷宮内にも流れ込んだ。

迷宮も広く全ての場所が水没する事はないが、狩場にしていた大空洞は河川近くにあった為に水没した。

試しに向かってみたが、胸の深さまで水が流れ込み、行き来する事が難しい。

その上、どこからか水竜すいりゅうが入り込んでいた。

水竜と言っても、龍の仲間ではない。

体長5mを越える、大型の水辺に棲むトカゲだ。

しかし、今の自分達の手に余る相手であり、しかも相手の得意とする水辺では成す術が無い。

キオウ「何だ、あいつは?」

「あんな奴には、まだ手は出ないな。」

マレイナ「諦めるしかないね。」

キオウ「水が引いても、あそこに居続けるんじゃないか?」

フォド「その可能性もありますね。」

水竜を見て、自分達は逃げ出す事しかできなかった。


迷宮内の水が来ていない地域で、活動するしかない。

迷宮内で新たな活動の場を探してみたのだが、思った以上に水没した範囲が広い。

キオウ「くそっ、ここも水浸しだ。他へ行こう。」

水に行く手を遮られては、別の場所を見に行く。

すると、他の冒険者らと顔を合せる機会が増えた。

マレイナ「また、別のパーティーがいるよ。」

キオウ「このままじゃ、魔獣の取り合いになるぞ。」

他のパーティーを避けて進めば、また水の溜まった通路にぶつかり、引き返すを繰り返した。

久し振りに狗毛鬼こうもうおにの集落まで行ってみたが、誰か他の冒険者らが襲ったのか廃墟になっていた。

それなりの冒険者らが束になって攻め込まないと、そんな事はできないはずだが、彼らの小屋は壊され一部は燃やされていた。

ここに居た狗毛鬼は討伐されたか、迷宮の奥に逃げたかしたのだろう。

連中を追い掛けて迷宮の奥へ向かっても良いが、今は警戒が強くなり難しいだろう。

また、別の場所を探る。


 ギルドでマグルを見掛けた。

「ねえ、マグル、迷宮以外にいい場所は無いか?」

マグル「そうだな。廃鉱跡なんかどうだい?」」

キオウ「廃鉱跡?」

マグル「ああ、街の郊外に、昔の鉱山があるんだ。今は、大掛かりな採掘はしていないけど、まだ掘れば鉱石も見付かるぜ。」

街の近くに、30年程前まで鉱物を採掘していた廃鉱があるそうだ。

こちらも坑道が入り組み、迷宮状になっていると言う。

廃鉱にはなったが、今も鉱物の採掘が可能な場所もあり、魔獣の入り込んでいる場所もあるそうだ。

地下迷宮の代わりの探索場所になりそうだ。


 そこは、街から歩いて1時間程の所にあった。

廃鉱の入口が山の麓に開いている。

閉山になったのは、鉱山の奥で落盤事故があった為らしい。

それなりの被害となり、鉱山は閉鎖された。

ただ、鉱脈が尽きた訳ではないので、今も細々と採掘は続けられているそうだ。

坑夫らが、少数のグループを作り出入りしている。

単独で入らないのは、魔獣に遭遇する可能性もあるからだ。

今回は、下見と採掘を兼ねて中に入る事にする。

坑道が山の中に深く続いている。

痕跡を調べてみると、洞窟大どうくつおおネズミが出入りしているようだ。

おおネズミの仲間は様々な場所で見掛けるが、他の魔獣らの食料にもなっている。

ここでも大ネズミを狙って蛇や大蠕虫おおぜんちゅうの類も入り込んでいるようだ。

人が採掘の為に掘り進めた道なので、中は比較的歩き易い。

所々に枝分かれした道はあるが、ほぼ真っすぐに伸びている。

奥に進むに従って、やや気温も下がって行く。

魔獣に遭遇する事無く、発掘できそうな場所に至る。


キオウ「ここらが、採掘場所らしいな。」

「そうだな。試しに掘ってみるか?」

少し掘ってみると、黒鉄鉱が幾つも採取できた。

掘り出した鉱石を背嚢に詰め込んでおく。

持ち運び出来そうな数を掘り出して、また奥へと進む。

洞窟大ネズミや大蠕虫に出会ったが、難無くそれを排除する。

それなりの時間も経過したので、街へ戻る事とする。

報酬は、1人3ゴールド。

最近にしては収入は少な目だが、大した危険度が無いのだから仕方ない。

廃鉱でも、それなりの魔獣に出会えると良いのだが。


 翌日も廃鉱跡へと向かう。

延々と続く、鉱道跡を進んで行く。

しばらく進んでいると、奥の方から何やら声が聞こえる。

いや、声だけでなく、地響きを伴なう何かがぶつかるような音も聞こえる。

キオウ「何だ、あの音は?」

マレイナ「叫び声も混ざっていない?」

「行ってみるか?」

急ぎ、物音のする方へ向かう。

向かって行くと、何物かが坑道を塞いでいる。

キオウ「落盤したのか?」

フォド「いえ、落石とかではないようです。」

「じゃあ、何だ、この鉱道にあるのは?」

その奥の方から、誰かの悲鳴も聞こえる。

道を塞ぐ物を観察してみると、土の色に近い物が蠢いている。

キオウ「何だよ、これは?」

フォド「これは、大蠕虫です。それも、恐ろしく巨大な。」

鉱道の大きさいっぱいに成長した、とてつもなく大きな蠕虫の尾部が蠢いている。

その先では、誰かが襲われているのかもしれない。

とりあえず、その尾部に向かって武器を振るう。

巨大ではあるが、単なる蠕虫だ。

逆に大きくなり過ぎて動きが取れなくなっている。

それを容赦なく切り刻んで行く。

予想外の所から攻撃を受けた為か、蠕虫がのたうちながら奥へと逃げて行く。

こちらも攻撃を続けるが、相手が大き過ぎて致命傷を与えてはいないようだ。

その動きも早く、やがて奥へと逃げられてしまった。

鉱道の脇道に、坑夫らが逃げ込んでいた。

彼らは採掘中に、先程の巨大蠕虫に襲われたと言う。

長い事この鉱山に来ているが、あんなに巨大な奴に遭遇した事は無いという。

彼らに礼を言われ、また鉱物の発掘場所を教えて貰って別れた。

教えられた採掘場所で、鉱石を掘り街へ戻った。

巨大蠕虫は取り逃がしたが、ギルドには報告した。

この日の稼ぎは1人250シルバー。

採掘を頑張ったが、収入は少ない。


 その後も数日は廃鉱に通いを続けたが、地下迷宮の水も粗方引いたようなので、そちらに戻る事にした。

まずは深層近くの大空洞に向かってみたが、まだ水竜が居座っているので引き返す。

「ダメだ。奴は、まだ居る。」

キオウ「奴を何とかしないと、ここは進めないな。」

「別のルートから進もう。」

まずは、中層の今まで行った事のある場所へ向かう。

ある場所に、急な下り坂を見付けた。

これならば、深層へ向かっているに違いない。

下向きに下る洞窟を降りて行く。

しばらく下り道であったが、やがて水平の洞窟が続く場所へと出た。

多分、深層の入口の辺りに達したであろう。

周囲を警戒しつつ進む。

すると、狗毛鬼こうもうおにの小集団と遭遇する。

久し振りの対面であったが、ものの数分で連中を片付ける。

この辺りも、狗毛鬼の縄張りなのであろうか?

その先は、少し広がった洞窟であった。

洞窟内を探ると、幾つかに枝分かれしている事が解かる。

その1つを選び、更に先に進む。


マレイナ「前から、何か来るよ。」

数は多くはないが、洞窟の先に何かいるようだ。

向こうもこちらに気付いたようで、立ち止まって様子を伺っているようだ。

50m位先に、何かが立ってこちらを見ている。

キオウ「何だ、松明なんか持ってるな。冒険者じゃないよな?」

マレイナ「人とかじゃないよ。あいつらも魔獣だよ。」

人型の何かがいるが、あちらは松明を持ちこちらの出方を見ているようだ。

「人間臭い奴らだな。」

松明を使っているからには、ある程度の知能があるであろう。

狗毛鬼かとも思うが、何か違う。

こちらが立ち止まって様子を見ていると、向こうから近付いて来る。

その距離、30m程に縮まっただろうか?

相手の様子も、これだけ近付けば、ある程度は解かる。

2匹のそれは、まるで冒険者のように鎧を身に付け、腰に剣をぶら下げている。

やや尖った顔付をしていて、頭から首にかけても毛が生えているのが解かる。

それが、こちらを鋭く睨み付けている。

獣悪鬼じゅうあっきだ。

人型の魔獣で、狗毛鬼よりも強力な相手だ。

その怪力や武技は、中級の冒険者に匹敵すると言われている。

地下迷宮でも深層付近に行かないと、滅多に遭遇する事はないはずだ。

今の自分達で、連中に敵うのであろうか?


ここまで近付いては、引いた方が遣られる。

双方、武器を構え、更に距離を縮める。

洞窟は狭いので、キオウと自分が並んで獣悪鬼と立ち向かう。

後は援護で、後衛に回って貰う。

フォドがお馴染の魔法で、防御力を上げてくれる。

更に、腕に別の光が宿ったのは、腕力強化の呪文も掛けて貰った証だ。

獣悪鬼が装備しているのは、片刃のダンビラのようだ。

その重い刀身を、こちらに叩き付けるように切り掛かって来る。

やはり狗毛鬼、いや黒狗毛鬼よりも手強い。

辛うじて、その攻撃を避ける。


キオウ「こりゃ、結構な相手だぜ。」

「ああ、冒険者や古参の戦士並の腕がある。」

キオウは槍の間合いを利用して攻めるが、これもいなされている。

接近しているので、後衛からの援護も難しい。

その辺りの事情を、獣悪鬼も承知しているように思える。

連中は、前衛の自分らから離れないように戦っている。

剣技で大きな打撃を与えたいと思うが、大技を狙えば相手に付け入られそうである。

威力は小さいが手数の多い技で攻めてみるが、速度の上がったこちらの技に向こうも合せて来る。

瞬速斬は、一気に何度も切り付ける技だが、その速度に合せて防ぎ、また攻撃して来る。

小手先の技で、何とかなる相手ではない。

こちらの攻撃を避けるだけでなく、鋭い攻撃を何度も返して来る。

剣と剣、槍と剣の攻防が続く。


体を動かし続けているのと緊張で、喉の渇きを覚える。

いつぞやの相手の武器を壊す事を試みるが、このダンビラは無骨で耐久力もあるようで、何度も打ち付けているが壊れる気配はない。

(こっちは、魔法で強化した剣だぞ。何でこいつの武器は壊れないんだ!)

だが、転機は訪れた。

何十と刃を交えていたが、ふと何か思い付く。

獣悪鬼の剣を少し弾くと、そのままこちらの剣を相手の剣に合せて滑らせて行くように無意識に動かす。

相手の剣は逸れるが、こちらの剣はそのまま向こうの腕目掛けて伸びて行く。

咄嗟に奴は、剣を持ち換えようとしたが、もう遅い。

そのまま相手の右腕を切り裂く。

手甲をしているが、そこは魔法で強化された剣だ。

そのまま右腕を切り裂く。

叫ぶ獣悪鬼の首を目掛けて、次の一撃を繰り出す。


仕留めたかは確かめず、そのままキオウと向き合う獣悪鬼へ切り掛かる。

自分が切り捨てた奴へは、後衛からの魔法攻撃が集中されている。

残った獣悪鬼は体勢を立て直そうと引き下がるが、そこをキオウの槍と自分の剣が追い詰める。

流石に2対1では、相手も防ぎきれない。

それでも、幾度もこちらの攻撃を防いでいたが、最後には切り伏せた。


 久し振りに、苦戦を強いられた。

だが、獣悪鬼の数が少なかったから、何とかできたのであろう。

同数の相手では、こちらが負けていた戦いである。

ここをこのまま進むのは難しいと判断し、引き返す。

ここから先の深層の奥へ進むには、自分達にはまだ早いようだ。

諦めて別のルートを探そう。

「先はまだ長いな~。」

キオウ「いいじゃないか。まだ、迷宮には、行く場所があるって事さ。」

マレイナ「そうだよ。強くなってから、またここへ来ようよ。」



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