第226話 外伝6「ポイの魔界紀行~交換編~」
巨大な魔族の体が吹っ飛んだ。
ポイの呪文が、10mを越える巨体の魔族を倒したのである。
周囲の地面には、無数の魔族が倒れている。
更に、20mは高さがあろう魔族がポイに向かって走って来るが、それに怯む事なく、ポイは魔法の詠唱を始める。
ポイの後ろには、ブランと魔王に付けられた案内役の魔族が見守っている。
ポイの呪文が完成したようで、巨大な魔族の周囲で連続して爆発が起きた。
その黒煙が収まると、巨大魔族は地に倒れ伏していた。
「これで、終わりかな?」
戦いの終わったポイは、涼しい顔である。
「じゃあ、行こうか?」
ポイらは、騎乗用の生き物に跨った。
これで何度目であろうか?
ポイが魔界を旅していると、何故か魔族らに呼び止められ、それから戦いを挑まれるようになった。
ポイとしては、そんな事をしたくはないのだが、魔族らは挑戦をして来る。
その全ての魔族をポイは魔法で打倒していた。
最初は1人の魔族に挑まれるだけであったが、いつの間にか複数で迫られ、更にはそれが集団に膨れ上がった。
今も、50以上の魔族の集団であった。
そんな数多くの魔族との戦いが続くと、ポイも自分の中の魔力がどんどん増大して行くのを感じていた。
魔法は、魔界で生まれた。
その魔界に住む魔族らを相手に魔法を使うのだから、その成長も相当な物であろう。
魔法に興味のあるポイだが、その成長をそれ程には望んでいないのであるが。
魔王の城で学んだ呪文が役立ち、その精度がまた強化されていた。
(魔法使いだからかな?)
魔王に送られた魔法使いの称号のお陰でもあったのか?
今では、巨大な魔族でも、ポイの敵ではなかった。
そんな事よりも、ポイは魔界の風物や魔族らの生活の方が見たかった。
魔界は、巨大な山もあれば、深い谷もある。
河や海もある。
住んでいるのは魔族だけでなく、魔界にも様々な生き物もいた。
それから、もっとも大切な事だが、魔界にも美味しい食べ物がある。
それらを手に入れるにも、何かしらの代価がいるのだが、それはポイに挑んで来た魔族から受け取っていた。
それは、彼らの差し出した魔力であったのだ。
その魔力を使い、ポイは様々な物と交換していた。
既に、膨大な量の魔力をポイは受け取っているのだ。
それは、魔道具に溜め込んでいた。
「魔力を貯められる魔道具があるのは知らなかったよ」
見た目は、水晶球なのだが、それに魔力を蓄積できる。
しかも、ポイは、その水晶球を複数所持しているのであった。
「魔界も思ったよりもいい所だけど、何で戦いを挑んで来るんだろう? 僕は、そんな事をしたくはないのに」
ポイには、魔族らの動機が解らない。
「それは、魔界故の事。強き者は、それだけ影響力を持つ。今のポイは、魔界において強大な存在になった。だから、戦いを挑まれる」
「そうなんだ。それが魔界の仕来りならしょうがないか」
ポイに負けた魔族らは、眷族なりたいと言って来るのだが、ポイはそれは断っていた。
もし、それを受け入れていれば、ポイの勢力はなかなかの規模になっていただろう。
ふと、ポイは思い付いた。
「ねえ、この魔力を貯めた水晶を魔導書や魔道具とかとも交換出来るの?」
「それは、当然に出来る。そのような物をポイは欲しいのか?」
「交換出来るならね。興味が無い訳じゃないから」
道案内の魔族に、魔法に関する物を多く扱っている場所に案内して貰う事になった。
リュファの背に乗るポイに、魔族の街が見えて来た。
リュファの背から降りて、ポイらは街の中に入った。
他でも、魔界で街に幾つか来たのだが、ここはまた変わっている。
まるで、巨大な図書館か博物館だ。
魔導書らしき物や、魔道具などが丁寧に並べてある。
そのどれもが、貴重な物らしい。
けれど、虚無の迷宮の奥底を見た経験のあるポイには、それ程の物には思えなかった。
「うん、どれも、余り珍しくない物ばかりだね」
周囲の魔族は、ポイの言葉が解ったのか、慄いている。
それでも、街の中心に向かうと、並ぶ物がより貴重な物へと変わって行く。
虚無の迷宮程ではないが、なかなかの品が置いてある。
やっとポイも、納得したようだ。
並べられた物を足を止めて見る事が増えていた。
どこまで街の中を歩いても、魔法に関する品々が尽きる事はない。
ポイは、魔導書数冊と、杖などを水晶と交換した。
それでも、もっていた半分の水晶に魔力は溜まったままである。
「ブランも、何か欲しくはないの?」
「無い訳ではないが、魔力が足りない」
「なら、僕が出すよ」
「それはいけない。主が眷族に与えるなど」
「主って、配下の面倒を見るものでしょ。僕にも、ブランの面倒を見させてよ」
ブランは、指輪を1つ選びだした。
それをポイは、水晶の魔力と交換してやった。
「こうして、使うなら、魔力を集めるのも無駄ではないね」
街からポイは出ると、またリュファの背に跨がる。
案内の魔族が、どこか行きたい場所は無いかと、ブランを通して聞いて来た。
だが、ブランを介さずとも、ポイにも魔族の言葉がかなり解り掛けていたのだが。
「なら、次は、食べ物だね。お勧めの食べ物が沢山ある所に行きたいよ」
進路は決まったようだ。
ポイらは、また騎乗の生き物らを飛ばせた。
その背で、ポイは入手した魔導書に目を通し始めていた。
魔界での旅も、数週間続いていた。
様々な場所を見て、街にも立ち寄る。
所々で、ポイが魔族の挑戦を何度も受け、その度に打ち負かす。
戦いで溜まった魔力を、ポイは魔道具や食べ物に変えた。
ブランにも、幾つか欲しい物を交換してやり、それは案内役の魔族にも分けてやった。
案内役の魔族は、かなり遠慮していたが、「感謝だ」とポイも譲らない。
結局、魔族の方が折れて受け取っていた。
そろそろ、魔界の様々な場所を見終わったようにポイは感じ始めた。
(余り長く留まって、また時間が凄く流れていたなんて嫌だからね)
ポイは、ブランに聞いてみた。
「ねえ、僕のいた世界にそろそろ帰りたいんだけど、いいかな?」
ブランは頷いた。
「では、帰れる場所に案内をしよう」
ポイの新たな行先が決まったようである。
「何カ所も、元の世界に帰れる場所はあるんだよね? なら、あの空に浮かんだ神殿からじゃなくてもいいのかな?」
「あそこ以外からも帰れるが、それでも良いのか、ポイ?」
「うん、帰れるならば、どこからでもいいな。でも、余りサダ達がいる場所から遠いいのは困るよ。僕は、彼らのいる場所に戻りたいから」
「神殿からも、世界の各所にも飛べるのだが、そこから戻るか?」
「僕は、ハノガナの街に住んでいるんだ。その街の横は迷宮があって、そこの奥は魔界につながっているんだってさ。そこへ行けないのかな?」
「私は、そこがどこかは解らない。だが、魔族にも、あちらの世界に詳しい者もいる。その者に聞いてみるか?」
ブランが、またポイを連れてどこかに向かう。
ブランがポイを連れて行ったのは、ある魔族の街であった。
そこにいる1人の魔族に、ポイを引き合わせた。
ポイは、その魔族に自分の希望を伝えた。
その情報の対価も魔力である。
ポイは水晶に貯えた魔力をその魔族に分け与えた。
「それじゃあ、元の世界に戻れる所を教えてね」
魔族は、ポイとブランにその場所を教えた。
今回で、外伝のポイの魔界紀行を終えます。
次からは、本編の続きとなります。