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第215話「ハノガナの休み」

 サダらは、ケリナの街からハノガナの街に帰って来た。

街道を進んで行くと、懐かしい城壁に囲まれた街が見えて来た。

キオウ「あの姿を見ると、帰って来たと思うな」

サダらは、今まで何ヵ所もの街を巡って来た。

ハノガナよりも、大きく華やかな街も沢山ある。

だが、この光景が、いつの間にか、他に無い大切な場所に思えるようになっていた。

城門を潜り、一路、アグラム伯爵の城館を目指した。


敷地内に入ると、厩に馬達を連れて行く。

今回の旅は、いつになく馬達にも負担の大きな旅であっただろう。

サダは、馬達を馬丁らに渡した。

その後は、伯爵の執務室へと向かった。

アグラムが、サダらを迎えた。

アグラム「諸君、ご苦労であった。無事で何よりであった」

サダらは、今回の旅の報告を伝える。


大まかな事は、既に文でも伯爵には伝えてあった。

今は、その詳細を語り、紫光石や牛頭巨人の鎚鉾を伯爵へ渡した。

アグラム「紫光石の事は知っていたが、あの荒れ野で産出しているのは知らなかった。あの地の開拓をしてみたいが、流石に遠過ぎる。これは、クライツ地方の領主に教えてやるしかないな。あそこは、カイエツ子爵の領地だ。奴に、花を持たせてやるかな?」

勿論、伯爵の事であるから、周辺の領主らにもそれとなく情報を流す事であろう。

子爵が不正を働かないように、何か手を打つのかと。


アグラム「それにしても、バカデカイ武器だな。魔法の武器でも、これはこのまま使える者などおらんだろう。こういう物は、王都に謙譲する方が使い道もあるであろう」

この鎚鉾も、強力な武器だが、使えないのでは致し方ないであろう。

話題はポイの事になった。

アグラム「魔界か。安全な場所ではないのであろうな。あの者でも、大丈夫であろうか?」

イルネ「はい、ポイもただ者ではありません。それに、私達が見た以上の力も秘めているようですから」

アグラム「魔族に名前を付けるか。簡単なようで、そんな意味があるとはな。名前という当たり前の物が、案外、魔力を秘めているのかもしれない。我々も、知らないだけで、とんでもない事をやっているのかもしれない」

確かに、名前の事を深く考えた事はない。

それは、ポイも同じように見えたが。

いや、フェムネも名前を持った者は少ないそうだから、あれは意図的に行ったのか?

もしくは、あれでブランの力を探っていたとか?

アグラム「無事に、戻って来てくれれば良いのだが。魔界の話を彼に聞いてみたいものだ」

ポイが帰って来るとしても、それはいつの事になるのだろうか?


伯爵への報告は済んだ。

アグラム「今回も長い旅であったな。今はゆっくり休んでくれ」

サダらは、伯爵に別れを告げ、家へと帰った。

キオウ「ああ、懐かしの我が家だな。もう、しばらくは何もしたくないが」

マレイナ「ちょっと休み取りたいよね。掃除とかもしないといけないし」

サダらは数日は、休む事とした。


 翌朝、少し遅くに起きたサダらは、家の掃除やら片付けをしていた。

留守中も、伯爵の家の者が今回も様子を見に来てくれていたが、中の掃除まではしてくれない。

1ヵ月以上分の埃が、部屋の方々に積もっている。

その片付けが終わるには、夕方近くまで掛っていた。

そんな片付けで、1日が終わる。

その次の日ものんびりしていると、昼前にイルネとカディンがサダらの家にやって来た。

今日も、何をする訳でもないが、マレイナの作った昼食を食べ終わると、全員でギルドに向かう。

ハノガナの街での登録を行うのもあるが、情報集めの目的もある。

まだ早い時間帯で、依頼から戻って来ている冒険者はほぼいないが、受付のヘルガに近況を聞いたりする。


ヘルガ「あら、あなた達、しばらく見なかったわね? 今度は、どこに行ってたの?」

サダらは、簡単に今回の旅の説明をした。

ヘルガ「そうなの、黄昏の荒れ野ね。何も無い場所なんでしょ? それに、ポイが魔界に? 何だか、想像も出来ない事をあの子はするのね」

ヘルガには、ポイも可愛い生き物にしか思えないようだな。

確かに、ポイがとんでもない魔法が使えるなど、一緒に活動した者らにしか解らないかもしれない。


しばらく、ヘルガと話し込んでいると、ぽつぽつと依頼を終えた冒険者もギルドに戻って来る。

早く戻って来る者らは、迷宮の浅い場所に潜っていた連中だ。

より深い場所に行っていた者らの帰りは、更に遅くなる。

また、今なら、各拠点を中継に使う者らもいる。

その中には、サダらも見知った者らが幾人もいた。

そんな彼等と、再会を喜び、互いの近況を話し合ったりする。

迷宮では、ここ最近は大きな変化は無いらしい。

だが、第二拠点から先は、随分と開拓も進んでいるのだとか。

「見た事もない魔獣もいるし、手強い魔族にも出会うようになったよ。サダ達も行くならば、注意をしろよ」

迷宮の中の最前線も、随分進んでいるらしい。

サダらは、それを確かめてみたい気もするが、今はもう数日は休むつもりである。

ギルドの仲間らに挨拶をして、サダらは今日は家に戻った。


 それからも、数日、サダらは休みを取っていた。

家にいると、それなりに雑用もある。

サダは菜園の手入れをし、それを仲間らも手伝っていた。

カディンは、毎日のようにサダらの家にやって来ては何かしらの手伝いをしていた。

「イルネは、どうしてる?」

カディン「屋敷からは出てないけど、毎日、伯爵に何か呼ばれてるよ」

マレイナ「また、何かあるのかな?」

カディン「今は、荒れ野の事とかで、また話しているみたい」

キオウ「それで、また、どこかに行かされる事になるのかな?」

ディーナ「また、荒れ野に行くのは、しばらく先にして欲しいわね」

カディン「そう言えば、紫光石は、街の工房に持って行ったみたい。何か作るみたいだよ」

フォド「持ち帰った量だけでも、魔道具を幾つか作れるという話でしたね?」

マレイナ「何を作るのかな?」

カディン「あのカイエツ子爵って人にも、文を送ったらしいよ」

ディーナ「紫光石の取引、本格的に行うようになるのかしら?」


キオウ「そう言えば、何で、カディンは毎日、ここに来るんだよ?」

カディン「だって、顔見知りが余りいないから。イルネは忙しいし、ポイはいなくなっちゃったから。そりゃ、屋敷で話し相手もいるけど、昼間はみんな何かしら、仕事があるからね」

「そうか、そうだよな。お前、まだ知り合いが少ないからな」

カディン「一応、冒険者でも仲のいい人もいるからね。でも、彼女らもこの時間は迷宮に行ってたりするから」

キオウ「なあ、カディン。お前もこの家に住んだらどうだ?」

カディン「えっ? でも。部屋は余ってないんでしょ? まさか、幾ら兄妹だからって、お兄ちゃんと一緒の部屋は嫌だよ」

「こっちも、それは困るよ」

カディン「お兄ちゃんは、別の人とならいいのかな?」

「何だよ、それ」

キオウ「いや、部屋はあるよ、俺が伯爵の城館に引っ越すのはどうかなって」

ディーナ「キオウが引っ越すの? ここでの生活が嫌になった?」

「何か、問題でもあるのか?」

キオウ「嫌、みんなとの生活が嫌だとかじゃないんだよ。俺、騎士になるのが夢だった。それで、領主の屋敷に住み込むのも、経験したいと思ってさ。どうかな?」

カディン「そういう事なの? なら、伯爵に聞いてみようか?」

キオウ「いいのかな? 今度、俺も聞きに行ってみるよ」

カディン「なら、今は休みの期間なんだから、この機会に引っ越しするといいかも」


話は進み、伯爵からもキオウがカディンの代わりに城館で暮らす事が許可された。

アグラム「住み込むからには、相応に働いて貰うので、覚悟しておいてくれ」

伯爵は、笑いながらキオウに宣言していた。

キオウ「そこは、お手柔らかに」

イルネ「私の助手になって貰えるのよね?」

ガラワン「俺らの後輩になるんだから、覚悟しておけよ」

ガラワンからも、キオウは言われていた。

引っ越しは、数日の間に終わった。

これからは、キオウは伯爵の城館で生活し、カディンはサダらとの共同生活を始める事になる。


マレイナ「よろしくね、カディン」

カディン「お兄ちゃんだけでなく、お姉ちゃんとも暮らせるのは、嬉しいな」

「まだ、妹って存在に、こっちは慣れてないけどな」

カディン「もう、それなりの期間、一緒にいるんだから、そろそろ慣れてよ」

「兄弟がいた事ないから、どうもまだ感覚がさ」

カディン「そうだね。私も一番上だったから、兄さんが出来るなんて思いもしなかったから。妹や弟らは、どうなっちゃったんだろう?」

マレイナ「そんな悲しい顔しないで。きっと楽しい人生だったと思うよ」

そうだといいなと、サダは思った。


 それから数日後、サダらは久し振りに装備に身を包むと、ギルドに出掛けた。

そこで、キオウとイルネとも合流した。

サダらの顔を見て、キオウがぼやき始めた。

キオウ「サダらは、いいよな。ゆっくり休めて。こっちはしばらく、屋敷で扱かれたよ」

イルネ「騎士なんだから、あれ位は当たり前よ」

何やら、屋敷ではいろいろとやらされているようだ。

カディン「なら、やっぱり私が戻ろうか?」

キオウ「嫌、いい。選んだのは俺だからな。こんな短期で逃げ出したくない。さあ、久し振りの依頼だ。気合い入れてこうぜ」

皆で、依頼の張り出されている掲示板に向かった。

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[一言] 正式なパーティーメンバーからサダ以外の初期の人間は皆抜けてしまったな……
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