第211話「旅立ったポイ」
ポイが魔界へと旅立って行った。
サダらは、天空に浮かぶ神殿に残っている。
魔界がどんな場所なのか、サダらには想像も出来ない。
キオウ「なあ、向こうは安全なんだろうな?」
キオウが紫の魔人に詰め寄ってた。
それに、魔人は答えた。
「君達のこの世界も、安全なのかな? それは、どこでも同じであろう。程度の差があるが、我らの世界もそなたらの世界も、強き者が生き残る。それは、世界の理でもある。だが、安心するが良い。あの小さき者は、そう簡単に破れるような事はないであろう」
マレイナ「そうだね。ポイは強いから」
「あの者が持つ魔力、相当な物と見た。でなければ、魔族に名など与えられるはずもない」
カディン「そうなの? ポイは、普通にやっていたけど」
「ただ、呼び掛けるのは簡単よ。だが、それを相手が受け付けるという事は、少なくとも名を受けた者よりも強大だ。ブランと名付けられた者も、弱者ではない」
フォド「もしかして、ブランは、あなた方よりも強いのですか?」
「そうだ。ブランは我よりも各段に強い。しかも、今は名を持つ者になった。その力、想像も付かない」
キオウ「まさか、案内させる奴の方が強いとは、思いもしなかったぜ」
「客人は少ない。それをもてなす気持ちは、我らにもある」
イルネ「ならば、私達にも、ここを案内してくれるの?」
「それを望むのであれば」
なりゆきで、魔人らに、ここの神殿を案内して貰える事になった。
案内に、紫の魔人が同行してくれる。
キオウ「俺らには、あんた達しか案内役はいないのか?」
「許せ。こちらにいる者で、我が最高位故に」
ディーナ「変な要求は失礼よ」
キオウ「へいへい」
神殿には、様々な区画があった。
こんな巨大な島のような陸地が空に浮かび、その上大きな神殿までが浮いているのは不思議な事である。
フォド「この島が浮いているのも魔法の力ですか?」
「そうだな。これは、ある魔鉱石を加工し、魔力を持たせておる。空中に浮かぶようにな」
イルネ「これも、魔界の知識なの?」
「元はそうであるが、こちらの世界にも、施した場はここだけではない」
カディン「なら、こんな場所が、世界のどこかにも?」
「存在する」
キオウ「その魔鉱石って何だ?」
「それまでは、明かせぬ。ただ、こちらの世界でも見付かるとだけ言っておこう」
全てを教えてくれる訳ではないようだ。
魔人に導かれて来たのは、神殿の祭壇がある間のようである。
その中心に巨大な像が1つ立っている。
像は、羽の生えた人間のようにも見えるが。
フォド「これが、あなた方の神ですか?」
「そうだ、我らの神だ。そなたらは、影の神と呼ぶようであるな」
フォド「その名前も、一般的ではないのですが。他の四主神は祀らないのですか?」
「それは、我らが恩恵を受ける神ではない。故に、我らは祀らぬ」
フォド「あなた方は、神の声が聞けるのですか?」
「それは、まずない。だが、聞いた者もおる。その者は、それ故に特別な存在になる」
イルネ「特別な存在? 魔族の中でもそんな存在が?」
「そうだ、それが魔王の資格である」
ディーナ「魔王? やっぱり、そんな物もいるの?」
「そうだ。それは、お主らの王も同じではないのか?」
フォド「太古の王はそうであったとも聞きますが、現在ではいないのではと」
「ほう、ならば、そなたらの王は力を持たぬ者もなれるのか?」
少し、魔人は蔑んだような顔をした。
イルネ「そんな資格は、滅多に得られる事ではないからね」
「そうか。我らの方が長寿故、そのような機会も多いのであろう。失礼した」
カディン「その魔王は、今もいるの?」
「常にいる訳でもないが、今は幾人かおる」
力ある魔王が数人もいるのか。
それは恐ろしい事だな。
神殿の他の場所も見せて貰った。
ある場所には、見覚えのある物が設置されていた。
魔法陣のようだが、それが様々な色に光っている。
あれは、そうだ転移装置だ。
それに入り込んだ魔族が消えたかと思うと、今度は何も無い場所に魔族が現れた。
フォド「あれは、転移装置ですね?」
「そうだ、知っておったか?」
キオウ「ああ、前に見た事があるからな」
転移装置が8つ程、そこにはあった。
イルネ「これで、世界の各地を移動してるのね?」
「そういう事だ。これがあれば、世界を自由に旅する事が出来る」
「これは、ここ以外の場所にもあるんだよな?」
「そうだな、ここだけの物では無いし、珍しい物でもない」
という事は、魔族の移動は、思った以上に頻繁に行われているのか?
その他、サダらは魔族の休憩所なども見て回った。
この神殿だけでも、数百の魔族がいるようだ。
となると気になるのは、あの事だ。
神殿の一角に落ち着いたサダらは、魔人に質問を続けた。
「なあ、昨夜、あんた達の仲間が荒れ野に向けて沢山飛んで行ったが、何をしてたんだ?」
「あれを見ていたか? まあ、こちらも見られて困る事ではない。そなたらが荒れ野と呼んだ場所に向かった者もいれば、その外を目指す者もいた。目的は、それぞれよ」
イルネ「荒れ野には、何の用事が?」
「そうだな。あの地は、我らにとっては気持ち良いのだ。そこにいるだけで、体が休まる」
カディン「魔界に似てるの?」
「そうではないが、静かな場所である。故に我ら好みの場である」
ディーナ「魔獣とは、仲良くしてるの?」
「魔獣? ああ、知恵無き者らか。そうだな、我らは彼等に恵を施す。故に、あのような土地でも奴らは生き永らえておる」
キオウ「なら、あの色が違う魔獣は、お前らが作ったのか?」
「作るのとは違うな。ただ、恩恵を分け与えただけだ」
マレイナ「あんなのが、世界に溢れたら、こちらは困るけど」
「そうか、だが安心するが良い。与えた力が永遠に続くのでもない」
ならば、荒れ野限定と考えても良いのか?
「ただ、他の場でも似たような事はあろう。我らは、そなたらが思うよりも多くが潜んでおるからな」
魔族の影響は、思った以上に大きいらしい。
ここでふと、疑問が浮かんだか、イルネが聞いてみた。
イルネ「ねえ、こうしてあなたと話しているけど、私達と魔族は解り合えるの?」
「それはどうかな? こうして会話は出来る。だが、解り合えるかは解らん。それは、我らの中にも様々な者がおり、そなたらの方もそうであろう」
イルネ「それはそうね。でも、解り合える魔族もいると考えてもいいのね?」
「その可能性はある。だが、多くは期待せぬ方が良いであろう」
イルネ「でも、それを確認出来ただけでも収穫よ」
「我も、そなたらと話せて楽しかったぞ」
そろそろ、この場から去る時間のようだ。
紫の魔人には、礼を伝えた。
「何、何、客人をもてなしただけよ。碌なもてなしは出来なかったかもしれないが。そうだ、せめて、これを持って行くが良い」
魔人が、何やら小さな空間の歪みを生み出した。
そこに魔人が手を入れると、中から1冊の本を取り出した。
「何かの役に立つであろう」
その本を魔人はイルネに差し出した。
本の中身を確認するイルネ。
それを仲間らにも確認させた。
内容まではよく解らないが、魔法に関する書物のようである。
イルネ「いいの? これって、多分、私達が知らない魔法の事が書いてあるんでしょ?」
「構わぬ。そもそも、そなたらに魔法を秘匿するならば、初めから教える事はしない」
イルネ「それじゃあ、ありがたく頂いて行くわよ。ありがとうね」
「土産をそれしか用意出来なかったのだ。こちらこそ許して欲しい」
魔人は、橋の所まで送ってくれた。
「それでは、こちらの世界の者らよ。達者でな」
「ああ、いろいろと世話になった。仲間のポイの事もよろしくな」
サダ達は、橋を渡って行く。
魔族らが追って来るような気配も無い。
橋を渡りながら、皆は話し始めた。
キオウ「なあ、これで良かったのか?」
カディン「ポイ1人で行かせても良かったのかな?」
「それは、ポイが望んだ事だし、あいつなら大丈夫さ」
マレイナ「お腹、壊したりしなきゃいいけど」
フォド「それよりも、想像以上に魔族がこちらの世界に関わっているみたいですね」
イルネ「世界中に、沢山の魔族が潜伏してる。それは間違いないわね」
ディーナ「これから、そいつらと出くわす事が増えそうね」
「貰った本にも、魔族への対処法が書いてあるのか?」
イルネ「この本の中身は、解らないわ。これは、ケリナの魔法学院に届けた方が良いでしょうね」
話している内に、橋を渡り終えた。
目の前に、空間の歪みがそのままになっている。
サダらは、その歪みを抜け出た。
空間の歪みを抜けると、そこは元の城の裏庭であった。
空は相変わらず、紫色で、やや暗くなり始めていた。
サダらは、拠点としていた貴族の屋敷らしき建物に戻って来た。
まずは、馬を確認する。
馬屋の馬達も、ポイの小脱兎鳥も無事である。
日も暮れて来たので、出発は明日にする事にした。
夕食後に、サダらは話し合った。
ポイが抜けた事は、なかなかに大きい。
野営地での結界などをどうするのかなど、話し合った。
ポイの結界を張る手法は真似る事は出来る。
だが、フェムネ独自の幻術は真似は出来ない。
これからは、警戒を厳重にして行くしかないであろう。
それと、ポイが運んでいた荷物であるが、そのほとんどは食料であった。
今ある食料でも、荒れ野を抜けるには充分な貯えもあるので、それは心配がなかった。
サダらは、また屋敷の中で眠りに入った。