第21話「妖精のいる村へ」
マレイナ「ねえ、フォドの故郷ってどんな所?」
フォド「そうですね、古い森の中です。その森の中に、私達が住む家が点在しています。中には、大樹の上に家を作る者もおりますよ。」
ナルルガ「何か素敵ね。森の中の街なのね。」
フォド「ええ、そこは、妖精族が昔から住んでいる森なのです。ここからは、5日程の距離でしょうか?」
マレイナ「その森、行ってみたいな。」
フォド「ごめんなさい。皆さんが信用できないという訳ではありませんが、他種族の方を招き入れる事は、なかなかに難しいのです。」
マレイナ「ええ~っ、残念。」
フォド「その代わりなのですが、故郷の近くにある村があります。そこでしたら、他の種族の方々も行く事はできます。そこなら、妖精族の者も大勢住んでいますよ。」
キオウ「なら、一度、その村に行ってみようぜ。」
フォド「村までは、歩けば3日は掛かりますが、乗合馬車もありますから、それなら1日で行けますよ。」
話が出た数日後、自分達はその村に向かう乗合馬車の中にいた。
マレイナ「楽しみだね。妖精の沢山いる村ってどんな所かな?」
フォド「ついでに、私も久し振りに故郷へ顔を出そうかと思います。皆さんは、手前の村でお待ちください。村もなかなか興味深い場所かと思いますよ。」
ハノガナの街から乗合馬車を使い、ニニニガの村へ向かう。
2台の乗合馬車が、それぞれ8人づつの客を乗せていた。
意外と、村へ向かう人は多いのかもしれない。
朝方に街を出て、村に着いたのは夕方であった。
半日馬車に乗り揺られていただけだったが、体が強張り疲れた。
ニニニガの村の住人の約半数が妖精族であり、その他は人間やその他の種族である。
妖精族と他種族が、半々で住むような土地は珍しい。
妖精族は変化を嫌い排他的な所もあるが、それでも他種族との交流を完全に否定している訳ではないようだ。
ただ、彼らの故郷へ他種族を迎い入れる事は余り無い。
彼らの伝統や生活を守る為には、この村のような緩衝地域も必要なのだろう。
この日は宿を取り、夕食を食べて部屋で寝るだけで終った。
翌朝、フォドは馬を借り1人で故郷の町へと向かった。
町へは馬で1日程、3日後に村に戻って来るというので、自分達はニニニガの村でぶらぶらして過ごす事にする。
村の市場を覗いてみる。
市場には妖精族の物なのか、他では無い珍しい物が並ぶ。
昨夜や今朝の食事も見慣れない野菜やキノコなども調理されていた。
食品、装飾品なども珍しい物が、市場の露店に並ぶ。
武器も売られており、弓や片手剣などが多く並べられていた。
弓を物色していたマレイナは、今まで使っていた短弓よりもやや大きい半弓が気に入ったようで購入していた。
半弓、短弓と長弓の中間位の大きさの弓で、この位の大きさならば地下迷宮などでも差ほどに邪魔にならないだろう。
値が張るのは、+1の魔法の威力強化がされている為であろう。
マレイナは値下げ交渉をして、1050シルバーを支払っていた。
ナルルガは、魔法の護符を幾つか買ったが、自分達も防御強化の魔法の護符を買った。
護符は首輪型で、1つ4ゴールドの値段だった。
ナルルガ「他で買えば、もっと高いはずよ。」
市場には、魔法に関わる品が多いが、どれも他より安価で売っている。
妖精族は魔法に長けた種族であり、それで様々な装飾品や武具などを作っているようだ。
これだけ種類が多いのも、妖精族が多い場所ならではである。
特にナルルガが、興奮したように露店を回っている。
自分も珍しい品に目を奪われて、いろいろと触れて回った。
買い物や村や周辺の散策をしていると、3日があっという間に過ぎて、フォドが戻って来た。
こんな平和な日々も、たまには良いだろう。
サダ達にはすまないと思う。
折角、私の故郷の近くまで来て貰ったのに、招き入れる事ができない事を。
彼らと知り合ってから1ヵ月以上が経過したが、共に組み、そして生活して来て信用できる人達である事は解かった。
妖精族は、他種族と距離を置き過ぎると常々思う。
種族の伝統的な文化、習慣を守る事が悪い事とは思わないが、他種族との交流が必要な事も解かっているはずだ。
これからの時代は、様々な種族がその長所を活かし協力し合うのが当たり前だ。
それなのに、妖精族だけは、頑なに外部との距離を取る傾向にある。
何とか、緩衝地帯であるニニニガの村を作るのが、限界だった。
だが、これも最初の一歩なのかもしれない。
これから、次の二歩目を踏み出して行けば良い。
そんな事を考えながら馬に跨っていると、故郷のニケの森へと着いた。
ニケの森、それは森の妖精族のとある一族が暮らす集落なのだ。
ここでは自分の一族の約500人が暮らしている。
まずは、久し振りに会う両親や兄弟、親族らに挨拶をしよう。
故郷の町から戻ったフォドには、連れがいた。
その女性はフォドの親族であり、占い師をしているそうだ。
名前は、マルカナ。
占い師は珍しい職業ではない。
各町村に必ず居るような職業ではないが、多くはその年の作物の出来や天候など占う事がほとんどで、その結果で農家やその他の職業の仕事の計画を立てる。
ただ、マルカナの場合、個人の未来などを占うという。
自分は、そんな占い師がいるのを今まで知らなかった。
マルカナが村まで来たのは、フォドの仲間である自分達に挨拶をしたいとの事であったが、ついでに皆の未来を軽く占ってくれるという。
まずは、キオウが占って貰う。
マルカナは、自分の首からぶら下げた、少し長めの首輪に着いた水晶を自分の額に当てて目を瞑る。
宿屋の食堂の机を挟んで、神妙な顔をするキオウと、マルカナが向かって座っている。
キオウ「よ、よろしく、お、お願いします。」
マルカナ「ふふ、そんなに緊張しないでください。お気を楽に。」
キオウの何時もと違う真剣な顔を見て吹き出しそうになったが、堪えて2人を見守る。
マルカナ「・・・、そうですね。キオウさんは怪我に注意です。」
少し前に、怪我で療養したばかりのキオウが緊張している。
マルカナ「それと、あなたの願いはこの数か月で叶う事でしょう。」
キオウ「ほっ、本当ですか?」
マルカナ「ええ、ですから、もう少し待っていてください。」
キオウ「やった。そうか。ありがとう。」
キオウの願い、それは何だろうか?
マルカナの占いが終った。
次は、ナルルガの番だ。
キオウと同じようにマルカナとナルルガが向かい合う。
マルカナ「う~ん、探し物は近いうちに見付かるでしょう。夢の方は、まだ先になりますが。」
ナルルガ「そう、まだなの。」
ナルルガの占いはキオウよりも短い時間で終った。
ナルルガは、少し残念そうな様子である。
探し物とは何だろう?
そして、その次は自分が占って貰う事に。
マルカナの向かいに座り、彼女の顔を見詰める。
「えっと、よ、よろしくお願いします。」
その姿が可笑しかったのか、キオウとナルルガが笑いを嚙み殺している。
しばらく目を瞑って瞑想していたマルカナが、急に驚いたように目を開けて自分を見詰める。
マルカナ「あなた達は、誰ですか?」
唐突な質問に驚いたが、しどろもどろに自分の名前を言う。
自分の名前はフォドが村に戻って来た時の挨拶で自己紹介して伝えたはずなのだが。
あなた達と聞かれたのだから、パーティーの他のメンツの名ももう一度伝えた方が良いのか?
戸惑っていると、マルカナが言葉を続ける。
マルカナ「サダさん、あなたの中に他の誰かがいます。」
(他の誰か? 何の事だ?)
マルカナ「サダさん、何か変わった体験などはしていませんか?」
自分の事をマルカナに説明した。
過去の事、バロの魔犬の事、そして、その後に冒険者になった事、2年間の記憶が無い事も伝えた。
マルカナ「そうでしたか。多分、あなたの中にご両親もいるのですよね。それだけでも信じられないのに、他にお2人が入ってます。」
「両親と、また別に2人? それは誰なんですか?」
マルカナ「いえ、そこまでは、何か普通の人とは違うようですし、細かい所までは解らないのですが・・・。」
何を言われたのか意味が解らないが、たまに記憶が混乱するのは、その為かもしれない。
「あの、自分みたいな人は、他にもいるんですか?」
マルカナ「そうね、とても珍しいというか、他にはいないかもしれないわ。妖精族の中には自我の他に精霊の魂が宿っている者もいるけど、それは妖精族が精霊に近い存在だからだわ。サダさんとは条件が違うから。」
人間族でありながら、幾つも魂を持つ人物に彼女は出会った事が無いと言う。
マルカナ「精霊ではなくて、人間の魂がそれも幾つも混ざっているなんて、聞いた事は無いの。でも、実際にサダさんという存在がいるという事は、それもあるんでしょうね。」
今まで、自分のそんな状態に気付いた事は無いが、何か不自由があったとも思えない。
なってしまった事は、なるようにしかない。
謎は深まるだけだが、最後にマレイナが占って貰う。
彼女の占いも複雑な結果が出たようだ。
向かい合っていたマルカナの表情が曇る。
マルカナ「難しいですね。解決するのは、まだずっと先の事かと。」
マレイナ「そっ、そうですか、やっぱり。」
言われたマレイナの顔が強張る。
何時も陽気なマレイナと、同じ人物とは思えないような、切羽詰まった表情をしている。
マルカナ「探している人とは、もう会えないかもしれません。東へ向かえば、障害は大きいですが、解決へつながるかもしれません。」
東に何かあるのかな?
彼女の故郷だったか?
マルカナ「でも、まだ、その時ではないようです。」
マルカナの占いは終ったが、マレイナは一言も発せずに俯いていた。
自分の事も気になるが、マレイナの方が悩みは大きいのだろう。
自分にも、何か彼女に協力する事が出来るのだろうか?
夜、宿で寝床に就いてから、しばらく占いの事を考えていた。
やはり、自分はバロの魔犬に襲われた時に、死んだのだろう。
だが、何故かこの世に戻って来れた。
それも、両親らと共に。
自分の意識には、元のサダという人物の物しかないように思えるが。
たまに、頭に浮かび上がる記憶は、その別人の物なのか?
2年も記憶の無い時間があるが、そこに蘇った秘密があるのかもしれない。
考えても、答えは出て来ない。
そもそも、1人の人間に何人もが入っている事などあるのだろうか?
今は、自分の事を考えるのが精一杯で、他の仲間を気遣う事はできなかった。
翌日、マルカナに見送られ、再び乗合馬車でハノガナの街に戻った。