表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
209/232

第209話「廃城の奥」

 黄昏の荒れ野の廃城の中心の探索を、サダらはこれから始める。

昨夜、今までに見た事の無い程の数の魔族が、そこから湧き出していた。

城の奥に、一体、何があるのであろうか?


ここは、元は、この城の領主の館と思しき場所である。

その門の中にサダらは踏み込んだ。

敷地内には、母屋や、その他の建物が幾つもあるようだ。

まずは、その母屋の玄関へと向かう。

その扉には鍵が掛っているが、ポイが魔法で開錠した。

キオウ「お前、何でも出来るよな」

キオウが感心して、ポイを褒めた。

ポイ「この位、簡単な初歩の魔法さ」


元領主の屋敷の中を見回ってみたが、そこは城内の他の場所と変わらない。

邸内には、埃が薄っすらと積もり、目ぼしい物はほぼ持ち出されてしまっているようである。

武器や鎧の類も多数残されてはいるが、どれも兵士向けの大量生産品であり、価値のありそうな物は無い。

武器庫や倉庫を開いても、がっかりするだけであった。

キオウ「お宝は、ここでも無しか」

イルネ「どうも、街の方もそうだったけど、慌てて出て行ったという訳ではなさそうね」

ディーナ「でも、結局は放棄したのよね。やっぱり、荒れ野で沢山の人が生きて行くのは難しかったのね」

カディン「でも、少しは残しておいてくれてもいいんじゃない?」

「空っぽではないが、空の城か」

マレイナ「それ、何か変な表現だよね」

フォド「まあ、荒野で野宿するよりは、良かったのでは?」

カディン「かもしれないけど、探索の終点がこれじゃあ、つまらなよね」

ポイ「きっと、まだここには何かあるよ」

そう、あの魔族らが湧き出していた場所も、まだ見付けてはいない。


屋敷の母屋は入り組んだ構造になっている。

長年の間に、増築や改築を何度も行っていたようだ。

連結された廊下や通路が、別棟や尖塔につながっている。

だが、屋上階にも地下室にも塔にも、妖しい場所は見当たらない。

室内は奇麗な方であろう。

馬屋や納屋、中庭であった場所まで探ってみたが、あれだけの魔族がいた場所も見付からない。

ディーナ「流石に、変ね。もう城の中に探す場所なんて無いはずだけど」

ポイ「あっちの奥はどう?」

ポイが指し示した場所が、まだあった。


それは、裏庭とでも言って良いのだろうか?

サダらは、そこに移動した。

前庭や中庭程の広さは無い。

だが、それなりの広さはあり、何やら構造物も少しばかり立っている。

屋根の付いた休憩場所のようである。

だが、これと言って、他に何も無いようだが。

だが、そこにポイがすたすた歩いて近付いて行く。


休憩場所の手前で、ポイが立ち止まった。

しきりに、その周囲を伺っているようで、鼻やら何やらを動員しているようだ。

カディン「何があるの、ポイ?」

ポイ「おかしいよね。ここは」

何も見えないが、ポイが警戒を続けている。

キオウ「ここも、何も無いだろ。やっぱり、ここは空の城なんだよ」

それでも、ポイは諦めていない。

そして、彼の杖を取り出した。

フェムネの体の半分位の長さがある、50cm程の木の杖だ。

あれも、虚無の迷宮から持って来た物だったと思うが。


ポイが杖で、空間に何かを描くように動かした。

すると、2つの休憩所の間の空間が歪んだように見えた。

そして、その空間の向こう側が変化した。

こちらの紫色をした空の下ではなく、まるで青空の下のような空間がそこに見えていた。

カディン「何なの、その向こう側は?」

ポイ「ほら、抜け道があったよ」

皆が驚いていたが、ポイだけは、さも当然とした様子だ。

ポイ「ここが、魔族がいた場所だと思うけど、どうする?」


「何だ、これ?」

ポイ「うん、何だか空間が歪んだ場所があるなと思ったら、これが開いたよ。多分、ここから別の場所に行けるんだよ」

フォド「もしかして、魔界ですか?」

ポイ「そこまでは、解らないや。でも、その可能性もあると思うよ」

カディン「この先が、魔界なの? それにしては、明るいよね」

イルネ「魔界が、どんな場所なのかは解らないけどね」

マレイナ「行ってみないと解らないって事かな?」


皆で相談を始めた。

ポイが開けた空間の先を探りに行くのかどうかと。

ディーナ「この中に入ったとして、戻って来られるの?」

ポイ「解らないよ。でも、多分、魔族が出て来たのはここからだと思う」

キオウ「なら、やっぱり、この先は魔界か?」

ポイ「それは、何とも」

イルネ「行って確かめるしかないわね」

意見は、半々だ。

中を確かめたいと言う、イルネ、ポイ、フォドにマレイナだ。

行かないとまでは言わないが、不安を感じているのは、キオウ、ディーナ、カディンだった。

カディン「兄さんは、どうするの?」

カディンがサダを問い詰めた。

「ああ、自分は、あの向こうが見てみたい。折角、ここまで来たんだ。ここで引き返すのは違うかなって」


再度、皆、考えたようだ。

そして、導き出した結論は、

キオウ「だよな。今まで、いろいろな場所に挑戦して来たんだ。ここで尻込みするのもな」

皆が、開いた空間の向こう側を探る事に賛成した。

イルネを先頭に、歪んだ空間を潜り抜けた。


(んっ、何も感じないな)

サダは空間を潜り抜けたが、まるで何も無い場所を歩いたような感覚しかなかった。

紫色の空の下から、雲はあるが青空の下に出た。

ただ、元の場所よりも、僅かに気温が低く感じた。

行き付いた場所を見回してみたが、どこかの台地か何かの上らしい。

目の前に、長い石橋が続いている。

いや、その光景が何かおかしい。


キオウ「おい、ここは、空の上だぞ!」

キオウが声を上げた。

周囲を見ると、今立っている場所は、まるで空に浮いた小島のようになっている。

その他には橋しか見えないが、それが何も無い空間に、ただ真っすぐに伸びており、その先は雲に隠れて見えなくなっている。

カディン「これ、落ちないのかしら?」

ポイ「大丈夫だよ。落ちるとしたら、長くはここには無かったと思うよ」

確かに、石橋はなかなかに古い物のように見えた。

だが、これも不思議な事に、石橋を支える橋桁が無い。

何も無い空間を石の橋だけが伸びている。

ディーナ「あの橋、渡っても大丈夫なの?」


周囲を再度見回したが、ここには目の前の橋しか無いようだ。

不安はあるが、この橋の上を歩いて行くしかない。

キオウ「途中で魔族に遭ったら、逃げ場がないな」

石橋に踏み出して行く。

全員が乗っても、橋はびくともしないようである。

橋の幅は約5mで、手摺も横にあるので、落下する心配も無さそうだ。

サダらは、空中に架かる橋の上を歩き出した。


風も吹いているが、強くは吹かず、微かに髪の毛を揺らす程度だ。

橋の上にも、空にも、魔族や何物の姿も無い。

橋の下を見るが、その下にも何も見えない。

カディン「落ちた時の事は考えないようにするわ」

やがて、前方の雲が晴れて来て、橋の終点が見えて来た。

そこの空中に浮かぶ島のような物であるが、橋の出発点の数倍の大きさがある。

少しばかり高台になっており、その上に建物が見えた。

城か神殿のように見える。

キオウ「あそこも、空っぽじゃないよな?」

カディン「ええ、手土産の1つ位は用意しておいて貰わないとね」

そして、サダらは橋を渡り終えて、その島に上陸した。


目の前には階段があり、高台の建物に続いている。

30段程を登ると、建物の前に着く。

ここは城と言うよりも、神殿だったらしい。

建物の前に10m程の高さの円柱が横に並び、その上には石像が1つづつ設置されていた。

翼の生えた異形の物の石像が。

フォド「魔族の像ですね。すると、ここは連中の」

フォドが言い掛けた時、神殿の中から十数の影が湧き出して来た。

屋内からだけではない。

周囲を飛んで来た連中が囲んでいる。

全部で30匹はいるであろう。


キオウ「やっとお出ましか?」

皆が、武器を抜いた。

周囲を完全に魔族の群れに囲まれてしまった。

だが、奴らは囲むだけで、それ以上の動きが無い。

そいつらの顔を見てみた。小魔人に、赤の魔人、黒の魔人などがいる。

すると、神殿の奥から何やらまた出て来た。

「どうした事だ。ここに人らがいるとは?」

声のした方を見ると、新たに出て来た紫の魔人が2匹いた。

「正に、珍客よな。ようこそ我らの神殿に」


紫の魔人が出て来ると、サダらの前で立ち止まった。

手前の魔族らは、その魔人らに道を譲っている。

「お邪魔だったかな?」

「いや、そんな事は無いぞ。客が来る事など滅多にはない。歓迎する用意があるが、どうかね? 我らの招きを受け入れてはくれまいか?」

敵意が無い事を示す為か、紫の魔人は4本の腕を横に広げて掌をサダらに示した。


(ここは、どうする?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ