第207話「山の上の廃城」
サダは、野営していた丘の上から、進行方向を眺めた。
遠くに小山のような盛り上がった場所がある。
その上に、目指す城のような物が見えていた。
キオウ「あれが、目標のその城なのか?」
「方角は、多分、合ってるよな」
マレイナ「合ってると思うよ。他の城は無いと思うし」
カディン「まだ遠いからよく解らないけど、ちゃんと形が残ってるみたいね」
キオウ「中がどうなってるかだな」
サダは、丘の途中まで降りて、仲間らと合流した。
城に向けて出発だ。
しかし、視界に入ったからと言って、容易に城に到着出来る訳でもない。
まだ、距離がある上に、途中には岩蠕虫の縄張りもあるので、そこは迂回した。
だが、他の魔獣との遭遇する事が無くなってはいた。
岩蠕虫は、地中を移動しているが、たまに地表にも姿を現した。
魔獣を捕食する為だけでなく、その体を地表にさらす事が時々あるのだ。
改めて見て、その大きさに驚く。
体長が長く、体は細いのだが、それでも50m前後はあるのだ。
並の樹木よりも巨大な生き物が、突然に地下から這い出て来る。
こんな光景をサダらは、他では見た事もない。
この荒れ野には、とんでもない大きさのバケモノがいたものだ。
けれど、噂されていた魔族には、まだ出会ってはいない。
もしかして、魔族まで岩蠕虫の餌食になっているのであろうか?
目標の城は、随分と近くになった。
このまま進めば、今日のうちに辿り着けるであろう。
だが、その頃には、日が暮れてしまう。
どこか、その手前で、夜を明かせる場所を探す。
すると、城の手前で1kmも無い場所に、丘がある。
今まで見てきた、標準的な高さの丘ではあるが、城の築かれた小山よりは低い。
城のある小山は、100m程の高さがあるようだ。
そこは、踏破して来た荒れ野では、一番高い場所である。
サダらは、見付けた丘の中腹辺りの平らな場所に、設営を始めた。
準備をしながら、キオウが話し始めた。
キオウ「そう言えば、こんなに平らな場所も珍しいよな」
荒れ野に入って100km以上進んで来たが、たまに今いる丘のような物はあったが、山や谷が無い。
フォド「それも、不思議ですよね。もしかして、星が落ちてきた言い伝えに関係があるのでしょうか?」
イルネ「地表の地形まで変えてしまう、何かが昔、あったのかしら?」
ディーナ「すると、その頃から、あの城はあるのね。何で、あそこだけ残ったのかな?」
カディン「考えても、答え出て来ないね」
設営が終わったので、全員が城を見る。
ここからでも、城壁や尖塔が見えた。
マレイナ「建物も、残ってるみたいだね」
ポイ「誰か、まだ住んでるのかな?」
「だとしたら、誰も近づかないのは、何故だ?」
全ての疑問が、明日、解決するのだろうか?
丘の周囲を見てみると、採掘跡があった。
坑道のような物は無いが、露天掘りした形跡がある。
ただ、試しに掘っただけなのだろうか?
サダらも、またスコップを取り出した。
カディン「また、掘るの?」
「まだ、夕飯に早いから、少し試してみるよ」
スコップを持って、サダとキオウが掘り返してある場所に向かう。
ここなら、坑道よりも楽に掘れるかもしれない。
しかし、その考えは甘かったか、1時間以上も掘ってみたが、ただの石ころしか出てこない。
鉱石も岩塩も、何も出て来はしない。
諦め掛けていた時であった。
何か、土の中に埋まっている。
大きさは、20cm程の大きめの石だ。
やや黒っぽい石で、周囲とは色も違う。
掘り出してみると、例の紫の鉱石だ。
キオウ「こんな風に、土の中に埋まってるのか?」
「もしかして、やっぱり、この石は空から降って来て、方々に埋まってるのか?」
周囲も探してみると、先ほどよりは小さいが、幾つも紫の鉱石が見付かる。
キオウ「これだけあれば、何か作る位はあるんじゃないか?」
「ああ、明日、また掘ってみるか」
サダとキオウは採掘を中断し、食事の為に仲間の所へ戻る。
仲間らは、食事を始めていた。
そこへ、石を抱えたサダらが戻って来た。
カディン「見付けたの?」
サダ「ああ、とりあえず、これだけな」
キオウ「明日の朝、もう少し掘ってみるよ」
ポイ「それだけ集めれば、何か作れそうですね」
「そうだな。だから、もう少し頑張りたい」
サダは、鉱石を荷物の所まで持って行き、体に付いた砂埃を払う。
それから、食事を始めた。
朝が来た。
食後に、サダとキオウ、それにマレイナとディーナが鉱石を少しばかり掘り始めた。
30分程で、昨夜と同じ位の量の鉱石が出て来た。
ディーナ「後は、あの城から帰って来る時に、荷物に余裕があれば、また掘ってみない」
キオウ「城で、お宝が見付からない時は、そうするか」
出発の準備を整えたら、馬に乗った。
馬に跨がったまま、城を見る。
少し高い場所にあるので、顔を上に向けた。
丘の上から観察したが、ここから城までに岩蠕虫の痕跡は見えなかった。
カディン「あいつらも、城は避けてるの?」
キオウ「かもな。そんな避けたい奴が、あそこにいるのかもな」
サダらは、馬に合図すると、彼らは進み始めた。
小山の上の城に向かって。
近付けば近付く程に、城の細部が見えて来る。
多分、厄災の時代の前からある城であろうから、最低でも200年近くは、この場にある事であろう。
それに、あの時代以降は、無人のままならば、誰も手入れもしていないはずだ。
その割には、綺麗で形を保っている。
城壁も、それなりの時間の経過は見えるが、崩れている場所などは、まだ見えてはいない。
ハノガナの街の西側にある無国籍地帯にあった廃都市よりも、遙かに形が残っている。
誰もいないのは、誤りではないのか?
サダらは、小山の麓に到着した。
ここから、多少の屈曲はあるが、城門まで道がある。
馬を止めて耳を澄ますが、城の方からは、何も聞こえて来ない。
この周囲には、岩蠕虫のいないので、あの地鳴りも聞こえない。
「行くか?」
サダらは、仲間の顔を見た。
キオウ「ここまで来たんだ。早く行こうぜ」
馬に斜面の道を歩ませる。
斜面の道は、右に左に曲がりながらも、少しづつ登って行き、それが城門の前まで続いている。
登り切った所で、正面に城門が見える。
城の周りには、堀などはないので、そのまま進めば、そのまま門に到着する。
もしかして、昔は小山の周囲に、堀があったのかもしれない。
城門の前に進む。
中央には、巨大な金属製の格子状の門があり、それは閉じられている。
格子の向こう側に城内が見える。
当然、誰もいないが、この土地は草も生えないからか、中も荒れてはいないようだ。
サダは、馬を降りると、その脇にある木製の小型な入り口を試してみる。
木の取っ手を操作すると、木戸は開いた。
脇門も、馬を充分に通せる程の大きさもあるので、皆で馬を引いて中へと入る。
中も、思った以上に綺麗だ。
誰かが清掃している訳ではないが、散らかってもいない。
城門の中には、幾つも建物がそのまま立っている。
この辺りは、市民の居住地かもしれない。
中身は空だが、馬屋を見付けたので馬達をつなぐ。
街中は安全かは解らないが、ここの方が安心であろう。
キオウ、ディーナ、カディン、ポイを馬と荷物の見張りに残し、他の仲間らが街の探索を始めた。
街には、数百の家屋が並んでいる。
多少、埃などは積もってはいるが、今も掃除をすれば住めるであろう。
家財なども残っている。
マレイナ「カドの村の人達とか、ここに住めばいいのに」
フォド「そうですね。でも、そうはしない理由もあるのかもしれません」
何軒も中まで見て歩いたが、誰も住んでいる痕跡も、何かが最近来た様子も無い。
「荒野の中の無人の城か」
思わず、サダは呟いた。
一通り、街の中を歩いてみた。
街の奥には、塀で囲まれた大きな屋敷があるが、そこがこの城の上層部の物のようだ。
そこの探索は諦め、一度、馬を見ているキオウらと合流する事にする。
帰って来たサダらをキオウ達が迎えた。
キオウ「どうだ? 何か、お宝とかあったか?」
サダは両手を脇の高さに上げて、何も無いと合図を返した。
「いや、ダメさ。目ぼしい物は、街には無い。家の中も奇麗ではあるがな」
マレイナ「少し掃除すれば、住めるよ」
イルネ「奥に、指導者らの屋敷があるわ。その先は城の中枢部でしょう」
キオウ「なら、馬も、もう少し奥に移動させるか?」
皆で、馬と鳥を移動させる。
街を抜け、屋敷の1つに入る。
その門は、脇の入口から裏側に回って閂を抜けば開いた。
ここも、貴族の屋敷であったのだろうか?
かつての庭園は、草木も残ってはいないが、噴水や池の名残はあった。
母屋の離れに馬小屋を見付けたので、そこに馬も置く。
飼葉桶なども残っていたので、使わせて貰う。
馬小屋に、馬と小脱兎鳥は残し、念の為にその周囲にポイが結界を張った。
そして、サダらは母屋へと入って行く。
マレイナ「お邪魔します」
マレイナの声が、広めの玄関内に響く。
当然、返事は無い。
屋内の部屋を調べてみたが、人もいなければ価値のありそうな物も無い。
食器や服などは残ってはいるが、装飾品や金目の物も無いようだ。
誰かが盗んだ様子も無い。
だが、この屋敷で寝泊まりは出来そうである。
イルネ「ここを拠点に、城内を探索するのが良いようね」
マレイナ「そうだね。それがいいよ」
皆の意見も賛成だ。
まずは、各自が休める場所を確保しよう。