第201話「荒野の白魔獣」
黄昏の荒れ野での時間はよく解らない。
だが、交代で見張りと睡眠をして、サダらは目覚めた。
空は、相変わらず紫色だが、また明るさを取り戻していた。
紫色なのは空だけでなく、流れる雲も紫がかった色をしている。
キオウ「まさか、雨まで紫って事はないよな?」
カディン「その雨、体に触れても害は無いのかな?」
フォド「もしも、降って来たら、フードを被りましょう。」
「それがいいかもしれないな。」
朝の食事を終えると、サダらはまた丘に登った。
キオウ「どっちに進めばいいと思う?」
イルネが方位計を取り出した。
イルネ「私達は東から来たわ。このまま西の方角に進み続けましょう。この方位計が狂っていなければいいけど。」
方位計は、北を刺しているようだが、信じて大丈夫だろうか?
「なら、あの丘みたいな方向でいいのかな?」
「そうね。その先は、向こうに着いてから考えましょう。」
サダ達が丘を降りると、仲間らがテントを片付けていた。
荷をまとめると、再び馬に跨り西に向けて出発した。
カディンはサンタを先行させている。
進み始めたが、目に入るのは見渡す限りの荒野だ。
そこには、草一本生えてはいない。
カディン「本当に、寂しい場所なのね。」
マレイナ「何も無くて、つまらない場所だよね。」
そんな場所だが、何故か魔獣らはいる。
その数は、決して多くは無いのだが。
野営した場所から、数kmは進んで来た。
魔獣にも遭遇しないので、順調に進んでいる。
だが、馬も休めなければならない。
荷物から盥を取り出すと、そこに魔法で水を溢れさせ、馬や小脱兎鳥に飲ませる。
ついでに、サダらも休憩だ。
カディンはサンタを呼び戻すと、今度はタルナを呼び出して上空を警戒させる。
タルナは、カディンの上空を旋回し、周囲を見張り始める。
タルナの目ならば、数百m四方を見張る事が出来るそうだ。
その探知能力は、皆の警戒スキル以上を監視出来る程だ。
ディーナ「召喚獣の特性を組み合わせたら、凄い事が出来るわね。」
カディン「そうですね。一時的に、並のパーティーと同等の事はさせられますね。でも、一時に召喚獣を同時に操るのは、難しいけど。」
休憩を終え、馬を一部で変えると、再び前進を始めた。
見渡しても、何も新しい発見は無い。
周囲の風景にも、既に飽きていた。
だが、タルナが警戒の声を上から送って来た。
タルナが左手の方に向かうと、その辺りの上空を回り始めた。
その下を見ると、地表に動く物が幾つも見えた。
その姿が、白く見える。
キオウ「やっと来たか。丁度、退屈していたところだぜ。」
数は、5つ。
まだ、相手は何者なのか解らない。
人型で、武器を携えているようだ。
イルネ「あれは、角無し鬼ね。」
大型な体形の魔獣が接近して来る。
サダにキオウ、イルネとディーナが前に出る。
前衛の4人を後ろから仲間らが、魔法を掛けて援護する。
迫る魔獣に立ち向かう。
角無し鬼は、革鎧に長剣、戦斧など様々な武器を手にして、それを振り上げて襲い掛かって来る。
その頭髪も、肌も白っぽい。
普通の角無し鬼とは、見た目が違う。
元から腕力のある魔獣なので、それが繰り出して来る一撃が重く感じる。
(こりゃ、まともに攻撃を受けたら堪らないな。)
出来るだけ、奴等の攻撃は武器で受けずに、体を逸らして避ける。
こいつら、普通の奴等よりは力は強いが、技量はそれ程に高い訳ではなさそうだ。
だが、一撃を喰らえば大怪我だ。
振り下ろされた戦斧を避け、こちらからも切り付ける。
奴が戦斧を下から振り上げるが、それも避けると、また切る。
後ろから、回り込もうとする奴には、仲間の呪文がぶち当たる。
体力はあるが、負けるような相手ではない。
着実に、打撃をじわりじわり溜めてやる。
やがて、その耐久力を失った奴が倒れる。
その数が増えると、こちらの数が勝って行く。
やがて、白い角無し鬼を全滅させた。
体力があるので、戦闘が長引いた。
倒した奴等の武器をイルネが見ている。
「何か気になるのか?」
イルネ「ええ、妙に手入れが行き届いているとは思わない? こいつらの武器が?」
言われてみれば、刃もちゃんと研いであるようだ。
他の魔獣も、剣やその他の武器を使ってはいるが、手入れをした物は珍しい。
錆びだらけの武器も、珍しくはないのだ。
キオウ「こいつらが、手入れを欠かさないって事か?」
ディーナ「手入れをする頭はあるとは思うけど、こんな荒野にいる奴らが、マメに出来るのかしら?」
フォド「砥石なども、解って入手してるのでしょうか?」
「そう考えると、不自然だな。誰かが、代わりに手入れしてるとか?」
カディン「そんな器用な魔獣がいるの?」
こいつらが、手入れをしているのかもしれないが、それにしては手慣れてる。
魔獣にも、そんな器用な奴がいるのか?
魔獣に対する考えを改めるべきなのかもしれない。
白い角無し鬼と戦った後も、サダらは進み続けた。
何度か、丘を見付けたが更に進み、空が暗くなり始めてから、見付けた丘の傍に野営する事にした。
薄暗くなって来たが、その丘の上に登ると、周囲を観察する。
相変わらず、何も無い荒野が周囲には続いている。
所々に、今いるような丘が点在する。
高い山などは見当たらない。
どこまでも平らな土地が続いているようだ。
サダが丘を降りようとした時だった。
マレイナ「あれ、何かな?」
マレイナが指差した。
その方角を見てみると、
「あれは、灯りか?」
薄暗くなった地表の遥か向こうに、何かの光が見える。
しばらく見ていると、辺りが薄暗くなって行き、更に前方の光がしっかりと見える。
それも、1つではなく、その周囲に幾つもあるように見えた。
イルネ「あれ、何なのかしら?」
「方角は、どう?」
イルネが方位計で確認する。
イルネ「真西ではないけど、概ね西の方角ね。」
「休んでから、あの方角に行ってみるか?」
マレイナ「そうしようよ。」
丘を降りると、仲間らに見て来た物を報告した。
キオウ「灯り? こんな何も無い所にか?」
「ああ、何が光っているのかは解らないが、幾つも光が見えたよ。遠いから判断は出来ないけどな。」
カディン「魔獣とかじゃないの?」
「そうだとしても、確認はしてみる必要はあるさ。」
キオウ「でも、何だろうな? 誰か、他にもここにいるのか?」
「だとしても、目的は何だ?」
ポイ「こんな場所に、すき好んで来るなんて、変わってますね。僕なら嫌だな。」
「まあ、明日、行って確かめればいいさ。」
食事をして、テントで眠る。
いつもの警戒も忘れずに施しておく。
翌日、目が覚めると、辺りは明るくなっていた。
皆、起き出して来たので、荷物をまとめる。
出発前に、丘に登って灯りの見えた方角を見てみた。
イルネ「今は、何も見えないわね。」
キオウ「見間違いじゃあ、ないよな?」
「それでも、確認してみないとな。」
灯りの見えた方角を目指して進む。
距離にして、数km先であろうか?
馬を進めて行くが、その先には何も見えない。
(もしかして、目の錯覚だったか?)
何も見えないので、自分の感覚の方が疑わしく思えて来る。
だが、数km進むと、変化が現れた。
キオウ「あれは、何だ?」
ディーナ「建物かしら?」
地平の先に、何かがあるように思える。
カディン「岩とかじゃないよね?」
場所は、多少、起伏がある場所の上に、建物のような物が見える。
近くに寄ると、それが幾つも丘の上にあるように見えた。
最初に見えた、高さのある物は、もしかして、見張り台のような物なのか?
更に近付いてみた。
マレイナ「あれは、村じゃないの?」
ディーナ「かもしれないわね。幾つも立っているわ。それに、あれは煙かしら?」
村のような物から、薄い色の煙のような物が空に上がっている。
「間違いない。あれは人家だ。でも、誰がこんな所に?」
カディン「魔獣の住処って事はないよね? 見付かったら、面倒じゃないの?」
キオウ「もし、そうなら、さっきの野営地に引き返そう。その前に確認だな。」
もしも、魔獣の住処であれば、その数はこちらの倍以上がいるであろう。
確認するには、もっと近付かないと。
近付いて見たが、住人の姿はまだ見えない。
かなり、村に近付いた。
もう、この距離から見ても、それは間違いない。
村だ。
この荒野に、何者かが作った村がある。
村の周囲には、誰が世話をしているのかも解らないが、畑がある。
(こんな所で、作物が育つのか?)
でも、畑には、何やら植物のような物が生えている。
今までに、見た事もないような形の植物もどきが。
(葉っぱらしい物も無いな。)
蔓のような物が、地面をうねるようにして生えている。
その根っこらしき物が、大きく地表にも一部が見えている。
巨大な根菜なのだろうか?
更に、村に近付いた。
すると、中から誰かが出て来た。
見た感じは、人間のようだ。
向こうも、不思議そうに、こちらを見た。
イルネと2人で、その住人に向かって馬を進めるサダ。
他の仲間らは、少し離れた場所で待機だ。
イルネ「こんにちわ。ここは、人間族の村なの?」
「住んでるのは人間だけじゃないが、そんな物だ。あんたらは?」
「ラッカムラン王国から、旅をして来たんだ。」
「おや、遠くから来なさったな。」
イルネ「この村の中に入っても、構わないのかしら?」
「ああ、来る者拒まずが、ここのルールさ。良かったら、村の中に入っておいで。」
サダとイルネは、仲間らの元に戻った。
キオウ「どんな様子だ。」
イルネ「中には入ってもいいみたい。」
ディーナ「大丈夫なの?」
「それは、入ってみないと。」
キオウ「行くしかないか。」
皆、気持ちは同じようだ。
「よし、村の中に入ってみよう。」