表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
200/232

第200話「紫色の空の下」

 サダらは、黄昏の荒れ野に到着したようだ。

その数歩手前で、馬を一度止めた。

自分達の真上から後ろは、青い空が広がっている。

だが、その先は何故か、紫色をした空になっている。

その空の境界線の下が、今いる場所なのだ。

ここから見上げると、はっきりと空の色が二分されている。

空に一直線の境界があるように見えるのだ。

そして、先の紫の空の下は、風景が一変している。

そこからは、草木も生えない荒れた原野である。

剥き出しの土、凸凹とした地面。

それでも、雨は時折降るのだろうか?

所々に水溜まりも見えた。


キオウ「本当に、荒れ野だな。草も生えてない。こんな所で、魔獣も生きていけるのか?」

イルネ「災厄の時代の終わりから約180年。ここの空は、ずっとこうだったみたい。草も木も生えないのでしょうね。」

フォド「もしかしたら、これが魔界の風景なのかもしれませんね。」

ディーナ「ここが、魔界の? だから、魔族もいるの?」

「余り会いたくないけどね。」

カディン「何となく、虚無の迷宮みたい。何が似てるのかは解らないけど。」

ポイ「あそこの沼地みたいな所が、ここに似てるのかな?」

「かもしれないな。」

マレイナ「その迷宮に、ここに似た場所が?」

「偶然に、少し似てるだけだと思うけどね。」

紫色の空の下、サダらは進み始めた。


青空も、後ろに遠くなった。

周囲は、少し暗い紫色の空に染められている。

今の所、魔獣を含めて、動く物は見えない。

ただ、微かに風が吹いているだけだ。

カディンは、50m程先にサンタを呼び出して先行させている。

上空では、これも呼び出したタルナが警戒している。


カディン「本当に、何も無いし、いないのね、ここは。」

既に、荒れ野に入り込んでから、2km以上は進んで来た。

地形は多少の起伏があり、窪んだ場所には水が溜まっていたりもする。

だが、鳥も小さな虫さえもいない。

時々、馬を停めるが、彼等も不安そうである。

タルナもサンタも、何も動く物を見てはいない。

ポイ「これは、良くない土地だよね。大地さえ死んでいるように思える。こんな所は来たくはないよね。」

ポイもどこか不安そうである。

キオウ「まだ、早いけど、野営はどうする?」

イルネ「余り見晴らしが良過ぎる場所も嫌ね。どこかテントが隠せそうな場所は無いのかしら?」

「もう少し進もう。それで、もし、いい場所を見付けたら、時間が早くても、そこで今夜は休もう。」

カディン「ここに、夜が来ればだけどね。」

再び、馬を進めて行く。


カディンは、サンタとタルナを呼び戻すと、今度はバルマを呼び出して、先行させた。

マレイナ「蜘蛛にも警戒がさせられるの?」

カディン「目が8個もあるから、監視には向くのよ、姉さん。」

マレイナ「私が、姉さん?」

カディン「あっ、兄さんが出来たから、お姉さんもいたらな~って思って、つい。」

マレイナ「いいよ。私が姉さんでも。」

カディン「ありがとう。なら、これから姉さんって呼ぶね。」

マレイナ「うん、うん。」

カディン「ねえ、いいでしょ? 兄さん。」

「もう、好きにしろよ。」


サダらは、進み続けていたが、まだ何も見えない。

そろそろ、昼食をという事で、馬と鳥を止めた。

ここも、ほぼ平らな場所だ。

ポイ「ふう、やっと食事だ。」

ディーナ「あなたは、しょっちゅう何か食べてたでしょう。食べ物が無くならないように注意しなさいよね。」

周囲を見回す。

イルネ「あれは、丘か山かしら?」

確かに、前方に起伏がある。

「なら、今夜は、あそこで休むか?」

向かう方向が決まったので、まずはここで食事だ。

ここで食べるのは、ライドリアンの町で買った野菜やパンなどだ。

最初は新鮮な物が食べられるであろうが、途中からは味気ない携帯食料になるであろう。

それでも、空腹よりはマシだ。

食事と休憩を済ますと、馬にまた乗る。

そして、少しばかり前進した時であった。

バルマが走り寄って来た。

カディン「何か、いたみたい。」

一同に緊張が走る。

進行方向の右手から、何かが近寄って来る。

まだ、距離はあるが、人型の何かだ。


「何か、白く見えるな。」

紫の空の下、薄暗い大地を白い姿の物が近付いて来る。

フォド「あれが、例の色の違う魔獣でしょうか?」

頭などが白く、鎧も着ているらしい。

こんな所で、他の人間に遭遇する事など無いであろう。

馬を降りると、戦闘態勢に入る。

相手は、4匹のようだ。

サダ、キオウ、イルネが前に出る。

他の者らは、援護と馬や荷物を守る。

(あいつらは?)


更に近付き、相手の正体が解った。

それは、白い狗毛鬼だ。

キオウ「いきなりの強敵か? それとも、ただ色が白いだけなのか?」

奴らも長剣を抜いて切り掛かって来た。

(こいつは?)

相手の強さは、本物だ。

4匹共が、あの白狗毛鬼なのだ。

凄まじい攻撃を受ける。

だが、こちらも前より各段に強い。

それに、武具も強化済みだ。


強敵である白狗毛鬼に遭遇したが、サダらは互角以上の戦いをする。

仲間らの支援の様々な魔法もある。

武器で切り合うが、少しづつ相手を圧倒し始める。

1匹、2匹と白狗毛鬼を倒し、ついには全滅させた。

「相変わらず、強いな。こいつらは。」

キオウ「ああ、だが、やってやったぜ。」

イルネ「でも、ここでは、白いのが最弱なのよね。まだ、この上の敵がいるって事ね。」

黄昏の荒れ野の恐ろしさを改めて実感した。

白狗毛鬼が最弱だって?

なら、他にどんな奴がここにはいるんだよ。

周囲を見回しても、他に動く物はいない。

再び、今夜の野営地候補の前方の丘を目指す。

だが、あの場所も、安全な所なのだろうか?

一同に、不安が過ぎる。


 白狗毛鬼と遭遇した場所から、更に3km程進んで来た。

見えていた丘は、30m程の高さがあった。

サダとイルネ、それにディーナが、丘に登り周囲を見回す。

離れた場所にも、幾つか丘や山はある。

だが、動く物は今は見当たらない。

ディーナ「本当に、ほとんど何もいない場所ね。」

イルネ「死の大地とでも言えるのかしら。」

「こんな所、長居はしたくないよな。」

イルネ「もう、数日の辛抱よ。」

ディーナ「こんな場所ならば、ハノガナの迷宮の方がいいわね。」

イルネ「そうね。あそこなら、まだ命を感じられるわ。ここには、それが希薄よ。」

丘を降りると、皆で野営の準備をする。


テントを幾つか張り、その周囲をポイを中心に結界を築く。

仕上げに、その上に幻術も掛ける。

キオウ「本当に大丈夫なのか? これで?」

ポイ「信用出来ないなら、キオウがずっと起きて見張っててよ。」

「まあ、交代で見張るから。」

カディン「それに、うちの子にも警戒させるから大丈夫よ。」

何重にも、対策を施していれば、まずは安心だろう。

ここの怪異に、それで対処が出来ればの話なのだが。

特に、今まで何が起きた訳でもない。

だが、ハノガナの迷宮などの経験を考えれば、何かが起きる可能性はあるとは思う。

ここが、ただ空の色が違い、強力な魔獣がうろつくだけの土地にも思えないのだ。

空の明るさは、少しづつ消えて行った。

体感では夜に入った時間だと思うが、空はまだ薄暗く、周囲も先程まではいかないが見渡せる。

この暗さが、ここの夜のようだ。


少しばかり暗くなったが、相変わらず聞こえるのは風の音だけだ。

何かが動く音も、鳴き声も全く聞こえない。

他に聞こえるのは、自分達や繋がれた馬らが出す音だけなのだ。

「静かだな、ここは。」

冒険者稼業、200話に到達しました。

物語は、まだ続くかと思います。


そして、別件ですが、昨日から「ミンチにされてからの異人生再スタート」の連載も開始しました。

あちらは、ストックがほとんど無いので、不定期更新になるかと思いますが、本作共々よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 200話到達おめでとう&お疲れ様です。 不気味な土地やな……深層や虚無の迷宮みたいな意味不明さがありそう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ