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第20話「封印されし壺」

 地下迷宮の新たな発掘場所を探そうと、マグルに声を掛けた。

マグル「おう、いいぜ。また、お宝を手に入れようや。」

マグルも新たな場所を探していたようで、ナグナとアガラ姉妹と共に探索に加わってくれると言う。

今回は、何時もの迷宮の入口ではなく、別の場所から入る事にした。

「ここから潜るのは初めてだな。」

マグル「そうだったか。オレは、何度か入った事があるから、安心してくれ。」

キオウ「マグル、頼んだぜ。」

キオウ「けど、それも中層の入口付近までだ。その先は、まだ行ってないぜ。そこまで行くまで、目ぼしい物が無かったからな。」

マレイナ「えっ、それっていいの?」

マグル「途中まで無くても、その先は解らないぜ。その時は、オレもまだ腕の方が不安だったからな。」

逆に他の冒険者も余り寄り付かない場所であるので、まだ見ぬ遺物が見付かる可能性もあるかもしれない。

旧市街の迷宮入口から地下へと進む。


入口からしばらくは、他の迷宮と同じく人工的な通路だった。

通路は時に枝分かれし、時に曲がり角になり続いている。

たまに遭遇するのは、一角鬼などの余り強くはない魔獣のみだ。

マグル「おっ、降りの階段だ。ここから降りるぜ。」

「下も、まだ通路だな。」

その先が、まだまだ続く。

キオウ「もう、ここは中層の入口かな?」

「それくらいの深さには潜ったみたいだな。」

今のところ、何も見付からない。

この先に、果たしてまだ見ぬ遺物が眠っているのだろうか?

マグル「おっ、また下へ向かう階段があるぜ。」

「よし、行こう。」

思っていたよりも早く奥へ辿り着けそうである。

キオウ「今度は、洞窟だな。」

マグル「すまん、遺物の方は期待できないかも。」

「いや、他に、何かあるかもしれない。もう少し先に進もう。」

この辺りに来ると遭遇する魔獣も徐々に強くなっていた。

今回は、それらの討伐で稼ぐしかないかもしれない。


 しばらく進み、少数の狗毛鬼を倒し終った頃、周囲の洞窟に変化があった。

所々、洞窟の壁に窪みがある。

窪みの大きさは様々だが、中にはギリギリ人が入り込めるような大きさの物もある。

キオウ「何だろうな。丁度入り込めそうな大きさの穴だな」

マグル「何か隠してあるかもしれないぜ。」

窪みの奥はちょっとした空間のようになっており、たまに割れた壺などが残されている場所もあった。

「キオウ、ああ、遺物もあるんじゃないか?」

何度か窪みに潜り込んでいると、割れていない壺を見付けた。

その壺は両腕で抱える程の大きさがあり、蓋がしてある。

「何だこれ、蜜蝋か何かで蓋がしてある。」

ナイフで蜜蝋を剥がし蓋を開けると、僅かに刺激のある匂いが中からする。

「うっ、何か臭うな。」

壺の中には防虫効果のある乾燥した香草で満たされていた。

「あれ? 何だ、また壺があるな。」

中の壺を取り出す。

これも蜜蝋で封がされていた。

「何だ、巻物か?」

ナルルガ「ちょっと貸してみて。・・・、これ魔導書ね。」

その後も何度か同じような物を見付けた。

中身は古い金貨なども含まれている事もあったが、厳重に封印されている物には巻物がある。

他にも遺物の小物が幾つか見付かった。

それなりの収穫となったので街へ戻る事にする。

ナルルガ「ねえ、今日見付けた巻物、納品は待って貰えない?」

「えっ、別にいいけど、何でだ。」

ナルルガ「ちょっと珍しい事が書いてあったの。だから、それを書き取っておきたいのよ。」

マグル「別に、いいぜ。」

ナルルガ「書き写したら、ちゃんとギルドに納品するから。」

この日から遺物探しの目的にナルルガの魔導書制作という新たな目的が加わった。


迷宮で見付けた巻物には、古い時代の魔法に関わる様々な知識、呪文などが書かれているそうだ。

今の時代にも伝わる知識もあれば、過去に失われている物もある。

魔術師には、魅力ある遺物である。

引き続き、あの窪みのある地域を探索する事になる。

巻物の探索は、ある魔法によって簡略できた。

ナルルガが巻物から読み取った魔法の探索術で、その在り処を探る事ができるのだ。

瞬く間に周辺の巻物の探索が終わり、合計で50巻近くを集める事ができた。

その他にも、遺物、金貨、貴金属なども見付かり、これがそれなりの稼ぎになった。

最終的に、1人20ゴールド程の報酬になった。

最初に付き合ってくれたマグルらにも、5ゴールドづつ渡した。

ナルルガの魔導書も、ついに完成した。


失われた呪文が数々記載されたその写しを、ギルドからも求められた。

その写しは、希望する魔導師らに販売されているそうだ。

見付かった巻物だが、今から200年程前にとある魔法使いが迷宮に隠したようだ。

その魔法使いの名前は冒険者ギルドの記録も残っており、その時代にはそれなりに高名な人物だったらしい。

だが、その記録は断片的であり、意図的に削除された可能性もあるそうで、消されるような事があり、それで迷宮内に自身の研究の結果を隠したのだろうか?

その後も付近を調べると、巻物がまた幾つか見付かった。

ナルルガの魔導書の重みが増した。


 巻物の捜索が一段落したと思えたある日、久し振りに迷宮ではなく野外での依頼を受ける事にした。

ハノガナの街の郊外で、魔獣が多数目撃されているという。

既に何組かの冒険者が討伐に向かったが、数が多いので依頼が何度も出されていた。

魔獣の目撃は夕方から夜に掛けてが多いので、夕方に街を後にする。

目指すは、旧市街の更に向こう側である。

旧市街を突っ切り、森と廃墟となった街の堺の辺りを探索する。

魔獣は、周辺の森から旧市街へと侵入して来るのだ。

今までは、奴らが街へつながる橋を渡って来た事はないが、迷宮からの帰り道の冒険者と戦いになったり、用事で森に入った市民が襲われた事もあったそうだ。

旧市街の外れの建物の傷み具合は、予想以上に酷く崩れ落ちた物が多い。

それ故に、魔獣が隠れ潜む場所も多い。


崩れた廃墟を探っていると、早速何か動く物が目に入る。

角狼つのおおかみがいるぞ。」

狼型の魔獣で、普通の狼よりも一回り大きく体長は2mを越える。

人を見付けると襲い掛かって来る厄介な相手だ。

特徴は頭に生えた大きな一本角だ。

キオウ「何か、食べているのか?」

「そうみたいだな。」

よく見ると、家畜の羊らしき死骸を一心に貪っている。

そんな相手に魔法と弓で奇襲を掛ける。

「一匹、逃げるぞ!」

キオウ「任せろ!」

キオウの戦槍が、角狼の横っ腹に突き刺さる。

幸先良く、魔獣の反撃を受ける事無く討伐できた。

引き続き、周囲を捜索する。


続いて遭遇したのは、

マレイナ「岩熊だよ。」

こちらは先制攻撃とは行かず、こちらが気付いた時には向こうもこちらを認識していた。

岩熊の巨体が2本脚で立ち上がりこちらを威嚇するように向かって来る。

キオウ「囲んで叩くぞ!」

散った仲間の誰を攻撃しようか、一瞬戸惑った岩熊を左右、そして前から切り付ける。

前衛で攻撃を仕掛けるのは、自分とキオウ、マレイナの3人だ。

すかさずフォドが、3人の防御力を魔法で底上げする。

前脚の爪の攻撃を避け、剣を繰り出す。

ナルルガ「下がって!」

彼女の声に反応して前衛の3人がさっと岩熊との距離を取る。

魔法の詠唱が終ったのだ。

ナルルガの右腕から魔法で作り出した炎の鞭が伸びる。

その炎の鞭が岩熊に叩き付けられる。

苦悶の声を上げる岩熊。

叩き付けられた炎の鞭は、そのまま岩熊の体に巻き付き高速で回転を始める。

回転を続ける炎の鞭は岩熊にダメージを与え続ける。

その回転が終わり炎が消え去った時、岩熊も息絶え絶えであった。

そこを前衛の3人が止めを刺す。

火炎鞭かえんべん、これは迷宮で集めた巻物に書かれていた呪文の1つだった。

以前は苦戦した岩熊も、今の自分達に掛かればこんな物である。


その後も、角狼、大食おおぐおになどを数匹退治して回った。

そろそろ街へ引き返そうと思った時、背中にぞくりと寒気を感じた。

冷や汗も全身に湧いて来る。

(何だ? 何かが見ている。)

マレイナ「何だろう? 前にも、こんな事、」

視線の先を探ってみると森の中に何かいる。

以前にも感じた嫌な感覚を覚える。

(ああ、あいつだ。)

バロの魔犬まけんが、森の木々の間から自分達を赤い目で見詰めている。

その数は、4匹。

いや、森の奥から更に3匹の魔犬が、ゆっくりと進んで来る。

7匹の魔犬が、自分達と向かい合っている。

「バロの魔犬だ。みんな、気を付けろ。」

キオウ「あれが、そうなのか?」

奴らの話は、何度も仲間内でして来ている。

こんなにも早く、連中に再開するとは予想外であった。

自分の中で、恐怖と怒りの感情が同時に湧き上がって来る。

以前と戦った時よりは強くなっているはずと、自信はあった。

迷わず、1匹の魔犬に切り掛かる。

一撃目は避けられたが、それを見越して二撃目の攻撃へと連続で移す。

魔犬の胴を切り裂き、構わず三撃、四撃と連続で切り付ける。

崩れ落ちる魔犬、まずは1匹。

キオウやマレイナも、それぞれ1匹づつ倒している。

不意に1匹の魔犬が大きく飛び上がり、後衛へと襲い掛かる。

狙われたのはナルルガだ。

魔導士のナルルガは、接近戦は苦手であり不利な状況ではあるが、今の彼女には奥の手がある。

杖を左手に持ち替えたナルルガが、右手を襲い掛かる魔犬に向ける。

すると、彼女の右腕から3本の炎の爪が伸びたかと思うと魔犬の正面から叩き付ける。

炎の爪の長さは、片手剣位か?

その3本爪が、魔犬の顔面を切る付ける。

意外な攻撃に驚く魔犬に、容赦なく連続で切り付けるナルルガ。

炎の爪が、魔犬を切り刻み、燃やして行く。

絶命する魔犬。

この火炎爪も、巻物から得た新たな魔法である。


その後は、一方的に自分達が魔犬を狩る。

バロの魔犬が恐ろしい魔獣である事は変わらないが、今は魔法の武器もあり、同数の相手ならば引けを取るような事はない。

多少の傷は負ったが、気が付けば戦闘は終わっていた。

街へ戻ると、バロの魔犬に遭遇した事もギルドに報告した。

ハノガナの街の周辺に、魔犬が出現するのは初めての事だそうだ。

元から遭遇する事の少ない魔獣だが、街や冒険者らに魔犬への警報が出される事になった。

市民や初心の冒険者には、手強過ぎる相手である。

今回の討伐報酬は、1人2500シルバーとなった。

その後、幾度か周辺での魔獣退治の依頼を受けたが、魔犬に遭遇する事は無かった。

連中は、どこからやって来るのだろうか?

謎が残った。

その夜、久し振りに両親の夢を見た。

(父さん、母さん)

両親の顔は穏やかだったが、その口が動いても言葉の意味は解らなかった。

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