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第198話「武具の錬成」

 アグラム伯爵からの新しい依頼は、黄昏の荒れ野の探索であった。

魔族が出現する場所と言われる、災厄の時代に荒れ果てた土地。

そこでは、今まで以上の激しい魔族との戦いが予想された。


危険な場所に向かうのに、武具を強化する必要を感じた。

伯爵は、新たな装備を用意してくれるようであるが、ここでポイから発言があった。

ポイ「でも、どうせなら、使い慣れた武器とかの方がいいんじゃないの?」

キオウ「それはそうだけど、今のままの装備じゃ心もとないぞ。」

ポイ「なら、強化しようよ。その方がいいさ。」

ディーナ「それはそうだけど、強化するにも魔法石とか必要よ。それを人数分揃えるのも大変だし。」

ポイ「大丈夫だよ、僕が持っているから。」

ポイが風呂敷から取り出したのは、大量の武具強化に使う魔法石だった。

「これ、どうしたんだ?」

ポイ「いやね、虚無の迷宮の宝物庫から頂いて来てたんだ。」

カディン「こんな数をいつの間に?」

ポイ「僕は素早いからね。金とかには興味は無いけど、魔法の物は別さ。」


ポイのコレクションに救われたようだ。

だが、武具の強化錬成に長けた工房と言うと、

アグラム「ナグトアンの所がいいな。あそこは、良い鍛冶師らが揃っている。」

ナグトアン子爵の領地は、ここから東方にあるテリオン地方だ。

そのデルキトンの街へと、サダらは向かった。


 デルキトンの街のナグトアン子爵の城館に、サダらは着いた。

今回の旅も、伯爵に借りた馬に跨ってである。

来る前には、カディンの乗馬練習などもしていた。

ポイは、フェムネ流で、小脱兎鳥を呼び出して、その背に乗っている。

街の滞在は、子爵の城館になっており、子爵の家中の者が様々な世話をしてくれる事になっている。

その辺りの事は、事前にアグラム伯爵が伝えているはずである。

グランマド「よっ、久し振りだな。サダ、体の方は、もういいのか?」

「もう、大丈夫さ。あんたにも心配掛けたようだな。皆のお陰で回復したよ。」

グランマドにも、サダの容体をキオウらは報せていた。

エルノア「サダさん、ご無事で何よりです。また、お会い出来て、光栄です。」

「エルノアも、ありがとうな。もう、ハノガナの迷宮に潜れる程になったよ。」

お馴染みの顔にも会えた。

ここに滞在中も、彼等にも世話になる事であろう。

お返しにと言っては何だが、彼等に新しい光属性の呪文を伝授する事になっている。

その教育係になるのは、

ポイ「皆さん、初めまして。僕はフェムネの大魔術師のポイだよ。よろしくね。」

グランマド「ああ、よろしくな。フェムネって、初めて見るぜ。」

エルノア「よろしくお願いします。大魔術師ポイ殿。」


挨拶もあり、ナグトアン子爵にも、執務室で久し振りに顔を合わせた。

ナグトアン「やあ、君達、久しいね。」

ナグトアン子爵、相変わらず線の細い優男である。

精力の溢れるようなアグラム伯爵とは、随分と違うタイプの領主である。

イルネ「そう言えば、ロットラム王国のタイゲン伯爵ともお知り合いだとか?」

ナグトアン「おや、義兄を知っていますか。そうですね、義兄がこちらの王国に来ていた時代は、よく遊びましたよ。お宅のアグラム卿と共にね。」

イルネ「タイゲン伯爵が義兄ですか?」

ナグトアン「ああそうだ。私の妻は、タイゲン卿の妹でな。今年で一緒になって10年になるな。」

イルネ「そのようなご関係でしたか? 知りませんでした。少しばかり前になりますが、アグラムの命であちらの国で、タイゲン卿にお目にかかりましたので。」

ナグトアン「そうか、他国へも諸君は赴く事もあるのだな。此度も大変な仕事を命じられているとか。我も、出来るだけの協力はしよう。君達にも、世話になっているからな。」


グランマドに案内されて、街の武具工廠に連れて行かれた。

ここでは、武器や防具の製作、修理の他にも、魔鉱石を使った強化錬成なども行われる。

工廠の職人らに依頼し、各自、武器と防具を1つづつ強化して貰う事にした。

素材は、ポイが提供した魔鉱石である。

ただ、ポイのみ金属製の防具を持たないので、杖だけの強化だけにした。

キオウ「悪いな。ポイから貰った魔鉱石を使うのに、ポイの防具だけ強化できないなんて。」

ポイ「いやいや、仕方ないですよ。それに、今、使っている帽子もマントもそれに腹帯も、虚無の迷宮でそれなりの物を持って来たので、ご安心を。」

「これだけ持ち込まれると、少し時間が係るよ。4日は、猶予をくれ。」

4日後に、工廠に取りに来る事となった。

それまで、ナグトアン子爵の配下や、この街の冒険者の幾人かに呪文を教える事とする。


 翌日から、子爵の城館の練兵場で、グランマドらに新しい呪文を教える事になった。

ポイが教え、それをイルネとフォドがサポートした。

サダらも、それを眺めながら、時に協力した。

教えるのは、遊光球と神聖火である。

2つの呪文共、ポイは既に修得済みである。

遊光球は、初日から使えるようになった者も幾人かいた。

だが、神聖火は、魔術師らでも使えるようになったのは僅かだ。

それは、決してポイの教え方が悪いのではなく、呪文の修得難易度が高いからだ。

ポイ「うん、初日にしては、上出来だよ。まだまだ、時間はあるから、大丈夫だよ。」

グランマド「フェムネって、体はちっこいのに魔力が半端ないな。」

「魔力だけでなく、いろいろ器用にやるんだよ。」

エルノア「可愛い見た目に、惑わされてはいけませんね。」

ポイ「可愛い? 僕が?」

エルノア「あっ、失礼しました。お気を悪くなさらないで。」

ポイ「うううん、可愛いなんて、滅多に言われないから、嬉しいよ。」

エルノア「そうでしたか。良かったです。」


 魔法を教えた後は、雑談になった。

ここテリオン地方と言えば、ガイデイル渓谷である。

グランマド「あの川沿いの遺跡は、そのままだぜ。あの変な装置も、あれから弄ってはいないから、新たに、魔族が出て来る事もないよ。」

「そうか、あれを止めておいて、正解だったんだろうな。」

グランマド「あの装置が、どこにつながってるかは解らずじまいだけどよ。」

フォド「そこから、魔界に行けたのか、それとも、この世界のどこかにつながっていたのか、謎のままですね。」

エルノア「装置を使えば判明するでしょうが、危険は犯せませんから。」

グランマド「そこまで、俺も無謀じゃないからな。」

フォド「向こうに行けても、戻って来られるかは保障も無いのですから、無茶は出来ませんよ。」


キオウ「あそこの渓谷と言えば、あの変な奴にも会いに行ったな。」

ディーナ「そうね。でも、結果として、あの人の言った事は正しかったのかもね。」

「その変な奴って誰だい?」

マレイナ「それはね、サダが眠っている時に、会いに来た人の事だよ。会話も、まともに出来なかったんだけど。」

「そんな事まであったのか。いろいろ、苦労を掛けたな。」

イルネ「本当に解っていたのか、それとも解ってなかったのか判断は出来ないわ。でも、解ってたなら、もっと説明しなさいよとは思うわね。」

ディーナ「あれで解ったら、苦労はしないわ。」

カディン「そんな事もあったんですね。私も、誰かが魂を探してたのかな?」


 4日後、工廠に預けていた武具が完成した。

「見た目も、身に付けた感覚も違和感はないだろう。だが、全て強化は成功したぞ。お前さんの魔鉱石の純度も高かったから、効果は高い。いや~、久し振りに、いい仕事をこっちもさせて貰ったよ。逆に礼を言いたいよ。」

ポイ「役に立てて嬉しいよ。まさか、あそこから持ち出したのが、こんなに早く役立つとは思わなかったよ。」

サダは、強化して貰った長剣や胸甲を身に付けてみた。

しばらく使いこなして来た装備故に、体に馴染む感覚がある。

その秘めた力も、何となくだが感じられる。

(ちょっと、試したくもあるよな。)

武具の強化も、グランマドらへの呪文の伝授も終わった。

サダ達は、ハノガナの街に向けて出発した。

馬に跨り、ハノガナの街を目指す。

まだ、乗馬に不慣れなカディンに合わせて、休憩時間をマメに取る。

ゆっくりと進んで来たが、街の城壁が見えて来た。


ハノガナの街に戻ると、数日を掛けて、黄昏の荒れ野の事を調べた。

街にある文献や記録なども調べていたし、中には資料を遠方から取り寄せもした。

荒れ野も、部分的に地図も作成されており、それを写し取り各自で携帯する事にした。

必要な道具なども買い揃えたりもした。

イルネは、伯爵から魔法の背嚢を授けられた。

これで、4人が魔法の鞄類を持った事になる。

総勢8人だが、荷も多めに持って行く事になるので、今回は10頭の馬を伯爵から借り、荷運びと予備の馬とする。

ポイも、小脱兎鳥を現地で調達出来るか解らないので、3羽を呼び出し、常に同行させる事にしているそうだ。


黄昏の荒野の情報である。

イルネ「何でも、常に夕暮れ時のような明るさらしいわ。昼も夜もね。ただ、夜は、かなり薄暗くなるそうだけど、周囲が見えない程じゃないみたい。それから、空の色も独特みたいよ。」

マレイナ「真っ暗にはならない所なんだ。それって、眠れるのかな?」

フォド「それに、注意すべきは、魔族だけでなく、特殊な魔獣があの辺りには出没するみたいです。」

キオウ「特殊な魔獣がいるのか? 普通より、強いのか?」

フォド「そうですね。それなりに、強いそうです。そのような個体は、色が違うようです。」

「色が違う? それは、白とか黒の狗毛鬼のような?」

フォド「ですね。でも、色は白、黒、赤などがいるそうですが、今言った順に強くなるようなんです。」

キオウ「狗毛鬼は、黒い奴より白い方が強いけど、それは逆なのか?」

フォド「もしかしたら、ハノガナの迷宮とは事情が違うのかもしれません。でも、色が違う相手がいたら、気を付けましょう。」


様々な準備が行われ、その全てが完了した。

その翌日、出発する事となる。

過去、何度か遠征に出る事もあった。

今回は、参加する人数も多い。

けれど、目的は、今まで以上の困難も予想される。

軽く酒宴開くと、明日に備えて早めに眠る事となった。

サダも自宅で寝台に横になった。

だが、まだ眠れそうにない。

(こういう、何かをする前日は、いつも眠れない。それは、子供の頃からもそうだったな。)

皆で、無事に戻って来たい。

サダもいつの間にか意識が薄れて行った。

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