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第197話「迷宮の奥の洗礼」

 サダが、ハノガナの迷宮に再び潜るようになり、既に数週間が過ぎていた。

サダ自身にも仲間らの目からも、その体力が元に戻ったように見えた。

キオウ「そろそろ、第二拠点の先まで行ってみるか?」

「う~ん、そうだな。」

マレイナ「疲れたら、早めに拠点に戻って休もうね。」

カディン「ああ、そうか。あの女の人が言ってたのは、この事だったんだ、お兄ちゃん。」

マレイナ「何? 何かあったの?」

「い、いや、何でもないさ。」

カディン「そうかな~。ちゃんと言わないといけないんじゃないの? その他にも、キオウにも言う事あったでしょ?」

キオウ「何だ? 何かあるのか?」

「いや、また今度な。」


 サダが迷宮に復帰してからは、装備は前から使用している物を使っている。

ただ少し変えたのは、背嚢とベルトに付ける小物入れだ。

これは、造る者から貰った物なのだが、魔法の背嚢と小物入れであった。

背嚢の中には100個まで、小物入れには30個までの道具や武器を収納しても、重さの変わらない魔法が掛けてあった。

これで、運搬能力が飛躍的に上がった。

更には、普段は使っていないが、虚無の迷宮から持ち出した戦斧と円形盾も背嚢に入れてある。

この斧と盾は、それなりの魔法の掛った武具なのだ。

予備の武器として、仕舞ってある。

造る者から貰った短剣は、カディンの予備の武器にと渡している。


魔法の収納を持つのは、サダだけでは無かった。

カディンとポイが宝物庫から去り際に何気なく手にした肩掛け鞄と風呂敷も、同じく魔法の掛った収納数が増えた上に重量が掛らない物であった。

肩掛け鞄は100個、風呂敷は何と150個もの道具等を仕舞う事が出来た。

カディン「何か、入れ物が欲しくて持って来ただけなんだけど、ここまで優秀だとは思わなかったわ。」

ポイ「あれだけの宝の山の中にあった物ですから。ただの鞄や風呂敷が置いてある訳はありませんでしたね?」


収納の数が増えた事は、様々な利点がある。

例えば、採掘で持ち帰る物が増える。

現場に持ち込む道具類が増やせるので、テントや寝袋、食料なども沢山運べる。

更には、予備の武具や、矢なども持って行ける。

普段、イルネとマレイナは、20本入りの矢筒を1つ持っているが、彼女らの予備の矢筒を幾つか入れてある。

その他、回復薬なども持つ量が増えるので、それだけでも探索時間を伸ばす事も可能になる。

魔法の収納具は不思議な物で、その収納口から入れられる物ならば、何でも入った。

入らないような大きな物は無理ではあるが、人が中に入る事も出来た。


また、大きさに関係なく1つとカウントするので、そんな物でも収納数の限界まで入れる事も出来る。

例えば回復薬をそのまま入れれば、1つで1個と数えられる。

だが、革袋に、10個の回復薬を入れて収納すれば、それでも1つと数えられる。

カディン「何か、魔法って、変な融通が効く時あるよね?」

収納の工夫次第では、より多くの物が運べる。

しかも、ポイの風呂敷は、その布の上に乗せられれば収納が出来るので、かなり大きな物も入れられた。


ただ、ポイは探索中でも、やたらと風呂敷に手を入れては、口をもぐもぐさせていた。

カディン「ポイ、あんた、最近、太った?」

ポイ「失礼な。前と変わらないですよ、僕は。」

マレイナ「そうなのかな? 絶対に、前より体が大きくなってると思うよ。それも横に。」

収納が増えたので、拠点を利用しても、そこでの買い物も減らせた。

物価の安い地上で揃えておけば、出費も抑える事が出来る。

思わぬ節約にも使えた。


 話を迷宮の探索へ戻そう。

再び、第二拠点の付近まで進む事になった。

そこまでは、それ程に問題無い。

第二拠点の規模や設備に、カディンやポイは驚いていた。

カディン「第一よりも、大きいし、設備も整ってるのね?」

ポイ「それに、ここにも光る天井があるんだ。」

カディン「ここに、あの虚無の迷宮にいた半妖精らが住んでたのね。」

フォド「そうですね。ここを占領するのも、大変でしたよ。」

キオウ「じゃあ、後でここに泊まるとして、今日から奥に進むぜ。楽しみにしてな。」

第二拠点を出て、迷宮の奥へと進み始める。

すると、早くも迷宮の異変が現れ始めた。


カディン「これが、言ってたあれなの? 空気の重さも今まで以上だけど。」

今も、後ろから、足音だけが付いて来る。

召喚獣は、怖がるので、今、カディンは呼び出していない。

ポイ「不思議だね。音だけしかしないね。」

カディン「あんた、平気なのポイ?」

ポイ「うん、別に。だって、音だけだもん。」

イルネ「本当に、フェムネは順応性が高いわね。見習いたいわ。」

ポイ「ええ、いつでも真似てください。」

今度は、カディンの耳元で、何かが囁いたようだ。

カディン「うわっ、野菜を買ってる人の声が聞こえた。ここまでとは、思わなかったわ。もう、はっきりと何を言ってるかも解かったわ。」

ポイ「凄いね。面白いね。」

ディーナ「面白いと思うのは、多分、ポイだけね。」

キオウ「反応が違うから、面白いな。」

「何度出会っても、慣れる気がしないけどな。」


やがて、一行は、魔族が出没する辺りに来た。

「この辺は、魔族がよく出る所だな。」

キオウ「ああ、例のマントの奴もいるかもしれないが、大丈夫か?」

「多分、魂魄の糸の力で何とかなると思う。カディンも大丈夫だろう。」

マレイナ「でも、用心はしないとね。」

そう言っていると、羽ばたく音が聞こえて来た。


小魔人が、何匹も続いて襲い掛かって来る。

それを光の呪文で迎撃する。

ポイも、カディンも慣れたものだ。

数は多いが、こちらも人数が多い。

あっという間に、奴らを片付けた。

キオウ「2人も、対魔族も余裕だな。」

カディン「ええ、お兄さんに、虚無の迷宮で鍛えられたからね。」

フォド「お2人共、頼もしいです。」

ディーナ「これで、ナルルガの抜けた穴が何とかなったかしら?」


カディン「そう言えば、ナルルガさんって、どんな方なの、キオウ?」

キオウ「な、何で、俺にあいつの事を聞くんだよ。」

カディン「えっと、だって長い付き合いなんですよね?」

キオウ「それは、お前の兄貴も同じだよ。」

カディン「ええっ? ナルルガさんの事は、キオウに聞いた方が良さそうだから。」

キオウ「ま、まあ、魔法は凄い奴さ。今もケリナの魔法学院に通ってるからな。ただ、性格は問題だよな。俺らも苦労したぜ、最初はさ。なっ、相棒。」

「そうだな。話す時も、絶対に目を合わせて来なかったしな。」

カディン「でも、可愛い人なんですよね?」

キオウ「そっ、それは人並にはな。そこそこ。」

カディン「人並、程度なんですかね~。」


などと雑談を珍しく長々としていると、新たな気配が近付いて来る。

マレイナの警告で、皆が戦闘に備える。

翼の音がまたして来た。

暗闇の中でよくは見えないが、空間から呪文が飛んで来る。

それも、黒い何かだ。

キオウ「くそっ、暗闇で、闇属性の呪文を使うなよ。」

フォドらの光の玉の明かりが、黒い姿を浮彫りにする。

黒の魔人の登場だ。

全員で、光属性の魔法で対抗する。


 幾度かの魔族の戦いを経て、また拠点に宿泊し2日目に街に戻って来た。

サダも、もう体は万全で、ポイとカディンも迷宮の奥の感覚を掴んだようだ。

ギルドから、街の飯屋に全員で向かい、解散となる。

数日、そんな生活が続いていた。


ある朝、サダらが朝食を終えて準備をしていると、アグラム伯爵からの呼び出しがあった。

そのまま、ギルドには向かわずに、伯爵の城館に向かうサダ達。

そして、伯爵の執務室に通された。

そこには、イルネ、ポイ、カディンも揃っていた。

今回は、何事であろうか?

皆が揃うと、伯爵がやって来た。


アグラム「諸君、朝早くからすまないな。実は、また頼み事があってな。」

何でも、ラッカムラン王国の北方にあるクライツ地方の西側にある荒野で、探索をして来て欲しいという事であった。

クライツ地方の西方に広がる荒野は、余りにも荒廃が激しいので、今はどこの領土でも無い。

その一帯は、「黄昏の荒れ野」と呼ばれているそうだ。

アグラム「その荒れ野も、昔は、肥沃な大地だったそうだ。だが、それが災厄の時代に、今のような状態になってしまったそうだ。」

災厄の時代、それはカディンが亡くなった今から180年程前の事である。

世界中で大災害が起きたのだが、黄昏の荒れ野でも何かが起きたのだろうか?

アグラム「どうも、あの荒れ野から、魔族が出現しているという噂がある。どこかに、魔界との繋がりがあるのかもしれないのだ。その調査を君達にお願いしたい。」


皆は黙っていた。

イルネ「では、今回は、魔族との戦闘が予測されると?」

アグラム「多分、そうであろう。今回も、入念に準備をしてから向かってくれ。必要な支援は、こちらで行う。まずは、装備を強化する事から始めようか?」

遠征の打ち合わせ、及び準備の手順が話し合われる。

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― 新着の感想 ―
[一言] ここの伯爵って他領に人を派遣するの好きだよね。
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