第195話「サダの復帰」
それは、驚きだった。
ハノガナの迷宮で、魔族に遭遇し、今までに無い攻撃を受けた西方の炎風の面々。
辛うじて魔族を倒したが、何故か、サダだけが昏睡状態に。
彼の体をハノガナの街の神殿に運び込んだ。
そこで、様々な治療を受け、また抜け出た魂を各所で探し回った仲間達。
神官らからは、持って1,2ヵ月と言われたサダは、既に5ヵ月も眠り続けていた。
ある日の夕方、仲間が集まる中で、サダの両目が開いた。
驚愕し、サダに駆け寄る仲間達。
その部屋に、見知らぬ少女と、フェムネが現れた事に、彼等はまだ気付かない。
マレイナ「サダ、サダ。解かる? 私だよ、マレイナだよ。」
キオウ「おい、相棒。俺も解かるか?」
イルネ「聞こえるサダ? 気分は、どう?」
フォド「ああ、サダさん、お帰りなさい。」
ディーナ「あっ、良かった。サダ、みんなが解かる?」
サダは周囲を見回した。
「ああ、みんな、心配掛けたみたいだね。ありがとう。」
直ぐ、治療師らが呼ばれた。
彼等も、サダの回復に驚愕していたが、体調を調べた。
「特に、問題はないようですね。」
サダに白湯を飲ませた。
軽く咳き込んだサダだが、問題はないようだ。
サダを取り巻く集団の外側から、覗いている顔があった。
「そうだ。みんなに紹介する人がいる。ポイに、それから自分の妹のカディンだ。」
仲間らの視線が、後ろに向いた。
ポイ「やあ、初めまして、皆さん。僕は、フェムネの大魔導師のポイだよ。」
カディン「あの、皆さん、初めまして。サダの妹になったばかりのカディンです。」
仲間らは、ざわついた。
サダには、仲間らが自分の為に、いろいろやってくれていただろう事は、想像出来た。
その前に、自分の体験を彼等に話し始めた。
魔族からの攻撃を受けてからの事。
造る者に出会った事。
そして、その造る者が、バロの魔犬に襲われた自分を救ってくれていた事。
それから、魂魄の糸を求めて、虚無の迷宮を探索した事。
そこで、ポイとカディンに会った事。
迷宮の奥底で、半妖精に出会い、それと戦った事。
それで、造る者により、全てが解決した事を。
仲間らは、そんな途方もない話を黙って聞いていた。
いや、彼等の普段の活動も、似たようなものなのだが。
イルネ「じゃあ、もうサダの魂は、大丈夫なのね?」
フォド「半神ですか。そんな存在が、神殿の方々にも聞いてみましょう。」
キオウ「また、すげえ体験して来たな。その伝説級の武器って、どんなんだ?」
ディーナ「そんな旅をしてたのね。そりゃあ、なかなか目を覚まさない訳だわ。」
マレイナ「良かった。全て終わったんだね。」
「ああ、みんな、心配掛けたようだね。ありがとう。こうして、無事に戻れたよ。」
話終えて、ふと、サダは思い出した。
造る者に貰った、背嚢などは、どうなったのか?
部屋の中を見回すと、それは隅に置いてあった。
それをカディンが、サダに手渡す。
中を開けてみると。
革袋に詰めた金貨に宝石類。
それに、迷宮で最後に身に付けていた装備が出て来た。
「ほら、これが、迷宮のお土産だよ。」
キオウ「何だ、ちゃっかり持って帰ってたのかよ。」
これだけあれば、迷惑を掛けた分、補えるであろう。
今度は、仲間らが、サダにこれまでの事を語り始めた。
「そうか、そうだったのか。みんな、苦労を掛けたな。改めて、ありがとう。」
神殿での治療費も少なからず掛ってはいるのだが、それはアグラム伯爵が負担してくれていると言う。
それでも、数日後に、治療院を去る時に、サダは神殿に20ゴールド程、寄付をした。
向かうは、今の実家、皆で借りている家である。
久し振りの我が家である。
その日は、マレイナの食事を食べると、久し振りに自室で眠った。
迷宮にあった城の寝台も豪華で素晴らしい物であったが、この寝台が一番、サダには合うような気がした。
ポイとカディンは、イルネに連れられて伯爵の城館に向かった。
宿屋に泊まるという選択もあったのだが、ポイを宿屋が受け入れてくれるかは解らない。
翌日、サダはアグラム伯爵の城館に向かった。
これまでの事を伯爵に説明し、援助に感謝を伝える為である。
サダの話を伯爵は興味深く聞いていた。
アグラム「そうか、半神に虚無の迷宮か。そんな物があるのだな。」
「ええ、でも、それがこの世のどこにあるのか、説明は受けませんでした。」
アグラム「だろうな。そこは、行こうとしても、普通では辿り着けはしない場所であろう。貴重な体験だったようだな。」
それからの数日、サダは伯爵の城館で体を鍛える事となった。
5ヵ月も、寝ていたのである。
体力も筋力も低下していた。
城館の練兵場で、他の騎士や兵士らと共に、しばらく鍛錬する事になったのだ。
その間、仲間に連れられて、ポイとカディンは迷宮に入り、探索を続けた。
2人共、冒険者となったのだ。
サダだけ別行動が増えた。
そのサダも鍛錬を夕方頃に終えるとギルドに向かい、迷宮から戻って来た仲間らと合流した。
ギルドには懐かしい顔を見られるし、仲間らの帰りを待ち、そのまま街の飯屋に寄って行く。
そして、その日の仲間らの活躍をサダは聞くのだ。
サダの復帰までは、もうしばらくは掛かりそうだ。
そんな事が、数週間続いた。
ある朝、サダは自宅で目覚めると、日課の菜園に向かった。
彼が寝ていた間は、マレイナらが世話をしていてくれたようで、畑は荒れてはいない。
復帰してからは、サダの仕事に戻っていた。
朝食の支度をするマレイナ姉妹の所に行く。
マレイナ「もう、体はいいの?」
「ああ、心配掛けたね。今日から復帰するよ。」
この日から、サダは伯爵の城館には行かずに、ギルドに向かう。
そう、冒険者に復帰し、迷宮へとまた挑むのだ。
ギルドに行くと、イルネやポイ、カディンも合流した。
ポイらも、既に十数回は、迷宮に向かっていた。
ポイは、ハノガナの街で、最初のフェムネの冒険者になっていたのだ。
キオウ「最初は、余り深く潜らないようにしようぜ。」
「ああ、その方が助かる。」
それでも、第一拠点よりは深い地域へと向かう。
流石に、第二拠点の近くまで行くのは、もう少し後にして貰いたい。
カディン「まだ、無理はしないでね、お兄ちゃん。」
「まだ、そう呼ばれるのは慣れないな。元から兄弟もいなかったし。」
カディン「私も、妹と弟はいたんだけど、兄さんはいなかったからね。」
「下に妹と弟がいたのか?」
カディン「ええ、でも、造る者の話ではもうね。」
後で、カディンの話を聞いて調べると、彼女は今から180年程前の人間だったようだ。
彼女の生まれた国も、ラッカムラン王国ではなく、遥か西方にある王国のようだ。
これでは、もう、彼女を知る人はいないであろう。
彼女がどうして死んだのかは解らない。
だが、その年代は、現代では災厄の時代と言われている。
世界中で、災害や戦争が多発していた時代なのだ。
彼女も、そんな災禍に巻き込まれたのかもしれない。
ポイの事は、もっと後に知る事になるのだが。
迷宮の探索に戻ろう。
このハノガナの迷宮と虚無の迷宮のどちらが厳しい場所であったかと言えば、こちらの方が手強いであろう。
虚無の迷宮は、何者かが手心を加えていたように思えるのだ。
適度な場所に、休憩に向いた場所があり、様々な道具も置いてあった。
まるで、あそこに入って来た者らに活用してと言わんばかりに。
もしかしたら、来る者に合わせた難易度に変化する場所だったのかもしれない。
自分達には、それ程に難しい場所ではなかった。
しかも、幸運な事に、ポイとカディンにも出会えたのだ。
それらが、単なる偶然とは思えない。
それを誰がお膳立てしたのかも解らないのだ。
半神らの共同で、造る者もそれに加わっていたのか?
それとも、半神以上の存在によるのか。
それが誰であれ、随分と優しい存在だなと思うのだが。
マレイナの警戒に、何かが引っ掛かった。
身構えると、大角鬼が8匹現れた。
久し振りに、生身の体での戦闘である。
仲間らと共に、難無く倒した。
カディンも、ケルンを呼び出して攻撃させている。
彼女の召喚術も、再び使えるようになっている。
虚無の迷宮で契約した魔獣らも、元気に働いている。
自分は、ここに戻って来た。
更には、新しい仲間と家族が増えたのだ。
(父さん、母さん、それにモリタにアキヤマ。サダは元気にやってるよ。それは、みんなにも解かっているのかな?)