第193話「宝物庫での探し物」
虚無の迷宮の奥で続いていた、半妖精らとの戦いが終わったようだ。
勝利したのは、サダらである。
宝物庫の床に倒れ込んだ半妖精を、3人が見下ろしていた。
「まさか、この我が負けるとはな。仕方なし、ここの新たな主人は、そなたら3人である。好きにするが良いのである。」
「いや、魅力的な物ばかりだが、ここに居座るつもりなど、自分らには無いね。」
「何と! ここの価値が解りもしないような輩に、我は負けたのであるか?」
「うううん、価値は解ってるよ。でも、ここの物に憑り付かれはしないよ。」
「そう、私達は、必要な物を少しだけ分けて貰うだけ。あんたみたいに、欲に溺れて自分を見失いはしないわ。」
「あんたは、ハノガナの迷宮から、地上に戻れる力を探しに、ここに辿り着いたのか?」
「何故、お前は、その事を知っているのであるのか?」
「ああ、あんたが解らないのも当然だろうな。今の自分は、あの時とは体が違うからな。少し、若くなっているだろう?」
「若くなっている? そう言えば、見覚えがあるようであるな。」
「そうさ、あんたには、ハノガナの迷宮で何度も会ったさ。魔法のランプを届けてやったりな。」
「まさか、あの時の冒険者なのか?」
「そうだ、あんたを倒すのは、これで二回目になるな。」
「そうか、あの冒険者が、お主だったか。さてさて、それは手強い相手であるな。また、我は負けたか。」
話をする半妖精が、息も絶え絶えのようだ。
それに、兜の面貌を下げた顔が透け始めている。
「これだけの戦いに負けるとは、仕方ないのである。もう、我も力は残ってはいないようである。そうだな、我もここで必要な物だけを手にして、故郷に戻れば良かったのかもしれないのである。」
「気休めかもしれないが、あんたの生き残った仲間らは、ハノガナの旧市街で生活してるよ。彼等には、随分と助けて貰っている。」
「そうなのか? 我の一族は、地上に帰れたのか? あの場所に?」
「そうさ、何も今更、争う事など無いのさ。」
「ああ、それを聞いて安心したのである。どうやら、我も限界のようである。さらばである。」
半妖精の体が、少しづつ薄れて行くと、その体が消えた。
そして、中身が無くなった防具だけが、床に転がっていた。
半妖精は、消えるようにいなくなった。
「ねえ、こいつと私の体、同じじゃないよね? 私も、随分と魔法を使ったから、こんなになるの?」
カディンが慌てている。
「まだ、カディンはしっかり見えるよ。でも、何か使える物を探さないと。」
3人で、半妖精の座っていた台座の周囲を調べてみる。
すると、台座の後ろの空間が開いた。
「何? ここは?」
「ここが、この迷宮の真の奥みたいだね。あいつが隠していたのかもしれない。」
その奥に踏み込むと、今までとは違う品々が並んでいた。
武器に、防具、装飾品に書物やその他の物。
明らかに、これの手前にあった品々と質が違うようだ。
半妖精が隠していた、ポイが言う超一流品ばかりが置かれている。
その宝の山の中で、カディンに使えそうな物を3人で探し回る。
「どれよ、私に、今、必要な物は? 沢山あり過ぎでしょ。」
「あった、これじゃないかな?」
ポイが薬瓶を1つ見付け出した。
「これ、鎮魂回復薬だと思うよ。これを飲んでみてよ。」
「これでいいの? ねえ、腐っていたりしない?」
「大丈夫だと思うよ。」
瓶には、明るい緑色の液体が満たされている。
恐る恐る瓶を開けた、カディンがその匂いを嗅いでいる。
「変な臭いは無いわね。」
「早く飲まないと、薬効が弱まるかもよ。」
「解かったわよ。飲めばいいんでしょ? それで、死んだりしたら、恨むからね。」
意を決して、カディンが目を瞑ると、薬剤を一気に飲み干した。
「あら、案外美味しいのね?」
「美味しい? どんな味だった?」
「甘みは少ないけど、何だか果実を絞ったような爽やかな味だったわ。」
「それは、美味しそうだね。いいな。」
だが、回復薬を飲んだカディンの体に変化は無い。
まだ、透けたままだ。
「ねえ、本当にあの薬で良かったの? 効いてないんじゃないの?」
「薬が効くのに、時間は掛るさ。もう少し、様子を見ないと。」
「体の方は、何ともないのか?」
「ええ、何とも。戦って疲れが残ってるけどね。」
「そうか。なら、自分らが必要な物を探そう。」
サダは宝の山の中で、捜索を始めた。
(さて、魂魄の糸は、どれなんだ?)
ここにも、様々な品々がうず高く積まれている。
金貨などは無いが、大きな宝石など無造作に置かれている。
その数、数千はあるであろう。
この中から、必要な物を探し出すなど出来るのだろうか?
ポイやカディンも探し始めている。
目の前にある長剣は、半妖精が使っていたような伝説の業物であるようだ。
その横には、兜が転がるが、これもそんな一品なのであろう。
冒険者ならば、それらの武具に興味が無い訳ではない。
試しに、長剣を1本手にしてみた。
大袈裟に言えば、その剣から無限の力を感じた。
こいつがあれば、あの地龍にも勝てる。
それに、あのハノガナの迷宮の奥で見た、巨大な魔族さえにも。
そんなイメージが頭に広がる。
(いや、自分が探しているのは、これでは無い。)
サダは、その剣から手を離した。
だが、未練が無い訳ではない。
もう一度、その剣を見た。
(いやダメだ。これをまた手にしたら、半妖精と同じになってしまう。)
敢えて、剣から離れた場所に目線を送った。
その先の宝の山の中に、何かが見えた。
(あれは、箱だな。)
近付いて手にしてみたのは、掌に収まる程度の小箱である。
それを開けて見ると、糸巻に巻き付けられた糸が入っていた。
その糸が、七色に光って見えた。
(これだ。これが、魂魄の糸だ。)
何故だか解らないが、それを見た途端、目的の物だと解かった。
(そうか、ポイが必要な物は解かると言っていたのは、この事だったのか。)
3人の探索は終わったようである。
サダは、魂魄の糸を手に入れた。
ポイは、1冊の本を手にしていた。
「これは、失われた魔導書だよ。僕は、これを探しにここに来たんだ。」
カディンは、何も持ってはいない。
「どれも、魅力は充分だけど、身に重いわね。ここのある1つでも持ち帰ったら、世界がひっくり返るような気がするから。今回は、諦めるわ。」
「そうだな。今、身に付けてる装備も、もっと入口近くにある奴と交換するよ。」
「それがいいですね。じゃあ、帰りましょうか?」
名残惜しくはある。
だが、ここにこれ以上も留まれば、ここの魅力に抗えなくなる。
サダら3人は、城に向けて戻り始めた。
「なあ、カディン、何で半妖精との戦いで召喚獣を呼ばなかったんだ?」
「それが、何度も呼び出そうとしたけど、呼べなかったのよ。今、試してみるね。」
カディンが集中しているが、呼び出しはできないようだ。
「どうしたんだろう? あの子たちは、何ともないのに。」
「もしかしたら、体が透けてしまっている影響かもよ。」
「そうなのかな? 体、戻るのかな?」
今も、カディンの体に変化は無い。
それから、宝物庫の中で、少しづつ身に付けた装備を交換した。
最後には、冒険者でもちょっと装備が整った程度の物を持って行く事にした。
それから、サダは、見付けた革袋の中に金貨を詰め込むと、2人にも渡した。
「1人、300ゴールドづつ持って行こう。これ位ならば、いいだろう。」
「随分、遠慮したのね。まあ、これ位あれば、数ヵ月は楽が出来るわね。」
「1年は、持つさ。でも、この位で丁度いい。」
それ以外にも、少しばかり宝石を持ち帰る事にした。
「持って行くの?」
「ああ、多分、必要になると思うから。」
「そうね、それ程の邪魔にはならないわね。」
手荷物が多くなったので、カディンは何か入れ物が無いのか周囲を探してみた。
(あれが、いいかしら?)
宝の山の中に肩掛け鞄を1つ見付けた。
ベルトで斜めに肩に掛ければ、背中に回せる。
(これならば、両手も使えていいわ。)
サダから渡された革袋や宝石などを仕舞いこんだ。
「カディン、いいの見付けたね。僕も何か欲しいな。」
辺りを見回すと、風呂敷があった。
「まあ、これでいいか。」
ポイは風呂敷を広げると、戦利品を中に収めて結ぶと背中に背負いこんだ。
「うん、いいね。これ。」
「似合ってるわよ、ポイ。」
3人は、城に戻ると、休憩を取る。
そして、迷宮の入口を目指し始めた。
帰りも、経路は同じである。
ただ、枝道には、休憩以外では立ち寄る事はせず、ひたすらに入口を目指した。
「カディンは、ここにどうやって来たのか思い出せないのか?」
「そうね。まだ記憶は戻らないわ。」
「なら、元居た場所へは、どうやって戻るんだ?」
「どうしたらいいんだろう? サダをここに来させた、その何とかって言う半神様に頼めないのかしら?」
「僕も、入口から入って来たけど、多分、戻れそうもないな。サダと一緒に行ってもいいかな?」
「多分、みんな、元いた場所に戻して貰えると思うけどな。」
迷宮を進み、時として魔族や魔獣を撃退して入口へと向かう。
手にした武具も、思った以上の力を秘めていた。
やがて、迷宮の入口から3人は出て来た。
表は、昼間のように明るい。
サダは、造る者に飛ばされて来た場所を探し、そこに移動した。
「確か、ここだったと思う。念の為、3人で手をつなごう。」
互いに、輪になって両手で仲間の手を握り合った。
すると、視界が変化し、薄暗い場所に移動した。
そこは、造る者の作業場であった。