第191話「魔道武具の戦い」
虚無の迷宮の奥、城の地下の宝物庫での半妖精との戦いが続く。
奴は、集まった財宝の中から、伝説級の装備を掻き集めて身に付けているようだ。
その攻撃力、防御力、共に脅威である。
だが、サダらも、その周辺に散らばる装備を拾い集め、何とか奴に抵抗していた。
しかし、追い詰めたと思った半妖精に、逆にサダら3人は押し返され始めていた。
「奴の魔力は尽きないのか?」
「そうじゃないと思う。きっと、装備の差だよ。あいつ、多分、身に付けている以外の強い装備は、どこかに隠しているんだよ。」
「じゃあ、この辺りにあるのは、二流品って事?」
「いいや、ここにあるのも一流品である事は間違いないよ。でも、あいつが使っているのは超一流品なんだよ、きっと。」
なる程、とっておきは、自分が使って、他は隠してあるのか。
だから、こちらが拾い集めても、お構いなしだったようだな。
という事は、魂魄の糸も奴が隠しているのかもしれない。
それは、ポイやカディンも必要としている物も同じ可能性も。
「なあ、あんた。いい剣を使っているな。」
「ふふふ、解かるのであるか? これは、古の王が神から授けられた宝剣よ。そなたらのような者が一生触れる事も出来ない一品である。」
「そうかい。あんたにも似合ってないと思うがね。」
「黙るが良い。」
奴の攻撃が激しくなった。
「もう、変に挑発しないでよ。直ぐに、あいつは頭に来るような安っぽい奴なんだから。」
「そこの小娘も黙るが良い。」
「カディン、お前も言い過ぎだぞ。」
サダらを狙って稲妻が走る。
「何とか避けてるけど、いつまでも無理だよ。」
「ポイ、何か無いのか?」
「今、考え中。」
「まず、あの盾を何とかしよう。」
こちらの攻撃の大半は、奴の持つ盾に弾かれている。
「そうだな。なら、あの盾に集中するか。」
ポイらが盾を呪文で集中的に狙い始めたので、サダも戦斧で狙う。
だが、何十と呪文を受けても、斧で切り付けても盾は壊れはしない。
「何度攻撃しても、何とも無いわよ。あれ。」
「そんな事はないよ。盾は壊せないかもしれないけど、攻撃をいつまでも受け流せる訳じゃないよ。限界はあるはずさ。」
「その限界が、いつなのよ。」
「解らないけど、いつまでも魔法や攻撃を避けられるはずないよ。」
「こっちの体力が尽きる前に、その限界が来る事を望むよ。」
一体、その限界がいつ来るのか?
もう、呪文を数十回、斬撃も同じ位受けてはいるが、あの盾の防御は崩せない。
それに、剣からの稲妻も放たれ続けられている。
あれらの武具は、身に付けた本人の魔力や体力を一切消費しないのだろうか?
もしそうならば、奴はほぼ消耗していないのかもしれない。
「何をしても、無駄である。盗んだ物を置いて行くならば、逃がしてやるのである。」
奴は、まだまだ余裕のようだ。
こちらは、そうではないのだが。
何度、試しても、見付からなかった。
このニナサの村付近の森で、サダの両親の魂を探しているが、まだそれが見付からない。
フォド「ダメですね。今回も見付かりません。何度も試しましたが。」
キオウ「また、ダメなのか。やっぱり、ここじゃないのか? 村の家にも畑にもいなかった。村の周囲にはいないのか?」
イルネ「そうね。ご両親もサダ自身の魂も無い。他の2人もね。」
ディーナ「ねえ、他には手掛かりは無いの? サダ達が、この村以外で思い入れのある場所は?」
マレイナ「解らない。サダは、子供の頃から、余り村から出歩かなかったって言ってたけど、もしかしたら、まだ聞いてない場所があるのかも。」
フォド「村長や村の人も知らないみたいですね。もしかして、サダさんが記憶に無いと言っていた2年の間に手掛かりがあるとか。」
イルネ「でも、本人が覚えていない事なんて、調べようもないわ。」
キオウ「そうだな。俺らと行動を共にしてから、サダの事を知ってる奴に出会った事も無い。」
マレイナ「どうしよう。もう、サダがあんなになってから、もう4ヵ月だよ。」
ディーナ「限界って言われてからも、まだ彼は戦っているのよ。」
フォド「ええ、彼はまだ諦めていません。私達も、彼を見習いましょう。」
だが、どこをどう探せば良いのだろうか?
その答えは出ない。
ただ、皆は諦めたくはなかった。
何度目かの盾への攻撃であった。
まだ、半妖精の盾は、呪文も武器での攻撃も弾き続けていた。
こちらの打撃さえ、奴の腕にまで響いているのかも解らない。
こちらは、体力も魔力も消耗していたが、奴は軽く受け流す。
「頑張っているようだが、もう少し骨がある攻撃が出来るならば楽しみもあるのだがな。まるで、攻撃は効いていないのである。これでは、退屈しのぎにもならないのである。」
(このままではダメなのか?)
試しに、戦斧をその辺りに落ちていた長剣と交換してみた。
その長剣を奴の盾に叩き込む。
新しい剣自体は、悪くはない。
これも、相応に魔力の込められた強力な武器のようだ。
だが、それでも、奴の盾は砕けない。
いや、砕くまで行かないでも、その効力を失わせるだけでいいのだ。
ポイやカディンも杖を変えてもいるが、それでも相手の守りは崩せないようだ。
だが、今更、攻撃の手を緩めるつもりはない。
盾の限界があると信じて、攻撃を続けるしかない。
サダも手にした長剣を捨てると、新たに鎚鉾を手にして、また半妖精の盾に殴り付ける。
この鎚鉾も、盾に相当な衝撃を与えているはずだが、それが周囲に散らされている感覚がある。
奴の腕を僅かに振動もさせてはいない。
(全く、羨ましい盾だよ。)
伝説と呼ばれる防具の防御力が、恐ろしくも感じる。
(このまま責め続けても、効果は無いんじゃないか?)
不安が心の中を過ぎる。
だが、ポイらも呪文を放つのを止めはしない。
たまに、息切れしそうになり、魔力回復薬を飲んで、再び呪文を使い始める。
既に、30分以上、全力で戦い続けているか。
何度、武器を持ち替えただろうか?
盾も数回交換した。
そして、再び奴の盾への攻撃を続けていた。
しかし、その守りはまだまだ崩せない。
いや、もしも、盾を使用不能にさせても、それから奴を打倒せるのかも解らないのだ。
いや、奴の盾が、呪文を弾いたが、その呪文が盾の表面に僅かに残っている。
そんな事が幾度か続くと、奴の腕が攻撃の衝撃で曲がった。
確かめる為に、今、握っている長剣で、盾へ殴り付けるように一撃を喰らわせた。
盾を破壊する事はできないが、奴の体がぐらついた。
(盾の効力が消失したのか?)
ポイらの呪文が盾を避けて、奴の体にぶち当たる。
それでも、鎧や兜がその攻撃を防いでいる。
「まさか、盾の限界を越えるとは。思った以上にやるのである。」
奴は、今まで身を守って来た左手の盾を捨てた。
そして、また別の盾を手にするかと思えば、左手に別の長剣を構えた。
(二刀流だと?)
すると、右手の剣からは稲妻が、左手の剣からは火炎が吹き出す。
雷撃と火炎の魔法剣二刀流である。
(くそっ、そんなの反則だろ。)
二振り目の長剣も強力な魔剣のようである。
雷撃に加え、火炎の攻撃がサダらに迫る。
「おいおい、これじゃあ、盾を持たせておいた方が良かったんじゃないのか?」
「いいえ。魔剣も、いつまでも使い続ける訳には、いかないはずです。」
「何だよ、さっきは本人の魔力に関係なく使えるって言ってたよな。」
「それは、盾と同じです。武器にも限界があるはずです。」
「なら、あいつが武器を交換したら、初めからやり直しになるんじゃないの?」
「いえ、魔力は消費しませんが、気力には限界もあるはずです。あんな武具を沢山身に付けて、体に負担が無い訳じゃないはずです。」
「それなら、こっちも条件は同じだろ。さっきから、何度も持ち替えている。」
「いいえ、あいつは、伝説級の超一流の武具を使ってます。それも、本来は、自分の物ではないのをです。それで負担が小さい訳はありません。」
「なら、あいつの体力切れを待つって事か?」
「そうですね。それを待ちましょう。」
「その前に、私達が倒れてしまいそうよ。」
雷撃攻撃に火炎攻撃が加わったので、こちらの防具の耐久性が不足する。
素早く変えられるのは、盾が限界だ。
ポイらは、帽子を何度も変えていたが、この宝物庫にも、それらが無限にある訳でも無い。
何時しか、未使用の武器なども見当たら無くなり始めて来た。
このままでは、こちらの手札が先に尽きそうだ。
入口に後退すれば、まだ幾らでもあるが、あいつの武具に対抗できる性能は無いはずだ。
それでも、冒険者の身に余るような素晴らしい一品の数々のはずだが。
まあ、今みたいな贅沢な戦いが、今後もあるとは思えない。
今の装備も、分不相応な物ばかりであろう。
これを持ち帰りたい誘惑は、当然にあるのだが。
奴の攻撃が続く。
いや、奴も雷撃と火炎ばかりではない。
奴も剣を使い、攻撃を始めた。
(奴も限界が近いのか?)
だが、その二重の剣戟が凄まじい。
思わず、後退る程の剣圧だ。
どんな魔獣よりも、強力に感じる。
奴が手にするような魔剣を使う相手とは、戦った事など無いけどね。
奴の戦闘方法が変化して来たが、それは奴が息切れを始めたからなのか?
そうだとしても、奴の攻撃力が弱まったのではない。
まともに喰らえば、こちらは一撃で倒される事であろう。
こちらも、奴以上に疲労もしている。
始まってから、こちらが有利であった場面など、一瞬たりともありはしない。
だが、今まで余裕のあった奴も、無駄口が減りつつある。
これは、もしや、倒せるのか?




