第190話「宝物庫の独占者」
虚無の迷宮の奥、城の地下の財宝が数多く集められた回廊。
その奥に、玉座のような物がしつらえてあった。
それに座していたのは。
「何故、そなたらは、我が財の一部を手にしておる。それも、全て我の物である。置いて去るが良いのである。」
間違いない、あの口調、傲慢そうな顔、あの半妖精だ。
「おい、半妖精、お前は、生きていたのか?」
「半妖精、はて、我を知っておるとは何者である。少年よ、どこぞで会った事があったのであるか?」
「ああ、何度もハノガナの迷宮でな。」
「そうか、そんな事もあったのであるか。まあ、良い。手にした物を置いて、ここを去るが良いである。」
「何? あんなの知り合いなの?」
「知り合いって程じゃないが、何度か会った事はあるさ。」
「知ってても、仲が良い訳じゃないみたいだね。」
「でも、頼んでみたら? 必要な物があるんだから?」
「帰るのはいいが、ここには探し物をしに来たんだ。それを分けて貰えないか?」
「断るのである。ここにある物は、金貨1枚たりとも渡す訳にはいかないのである。これは、全て我の物である。さあ、早く立ち去るのである。その前に、我の物を置いて行くのも忘れるでないのである。」
「どうしても、分けては貰えないのか?」
「くどい。何度も言わせるでないのである。こうして、口で言っている間に去るのである。」
「これだけいろいろあるんだから、少しは分けてくれよ。それに、ここにある宝の全ては、あんたの物じゃないだろう? それに、宝に囲まれたまま、いつまでここにいるつもりなんだ。」
「ここにある物の全てが我の物である! 何人にも、これは分けてはやらぬぞ! その剣も兜も、我の物である! 早く返すのである! 返さぬ時は、」
「返さない時は、どうするって?」
「力で排除するだけである!」
半妖精は、玉座から立ち上がった。
その身には、ここに溜め込まれた、数々の武具を装備しているようだ。
奴が、腰の長剣を抜くと、稲妻が周囲に走った。
「避けろ、みんな。」
そのまま、全員で、戦闘態勢を取る。
「さて、王の怒りを愚民共に見せてやるのである。」
奴は、剣を抜いたが、その攻撃は魔法のようである。
奴の構えた剣が、次々と稲妻を発する。
それも、あの剣に込められた魔力によるものであろうか?
あんな剣があるとはな。
自分が拾った剣も、魔力を宿してはいるが、あの剣に比べたらおもちゃのような物らしい。
それに、奴が着込んだ、甲冑や兜も、相応の魔力を込めてあるに違いない。
武器の選択を間違ったか?
奴の稲妻攻撃は、ポイの防御呪文で防げてはいるが。
「これじゃあ、いつまでも持たないよ。」
珍しく、ポイが悲鳴を上げている。
半妖精の攻撃は絶え間なく続く。
「あんな呪文を使い続けて、魔力切れにならないのか?」
「うううん、あれは呪文じゃないよ。あの剣の固有の攻撃だよ。だから、魔力とは関係無く使えるんだ。でも、普通は、そんなに何回も使える訳じゃないよ。」
剣の固有の攻撃? そんな魔剣があるのか?
「それに、他の防具にも、何かしらの魔法が込められているから、それで攻撃が続くのかもよ。」
要は、そんな面倒くさい伝説級の装備を、揃えに揃えて身に付けているようだ。
ここには、そんな装備が幾らでもあるのだろう。
贅沢過ぎる宝物庫だな。
ポイらも呪文で攻撃するが、奴の持つ盾が全て弾き返している。
「あの盾も、伝説級の装備らしいな。」
「説明するまでもないよ。そういう厄介な盾だよ。」
「て事は、あの鎧も兜もそうなのね。それじゃあ、どうやってあいつを倒せばいいのよ。」
「ならば、こっちも拾い集めるだけだ。」
今まで手にしていた盾を捨てると、目の前にある盾を拾う。
その盾をかざすと、奴の稲妻が避けて行く。
「よし、盾だけは、互角になったようだ。」
そのまま、盾に身を隠しながら、奴へと踏み込んで行く。
そして、奴に切り付ける。
「がぃいぃぃぃんっ!」
魔剣同士がぶつかり合った。
だが、こちらの長剣の方が押されている。
剣の力は、半妖精が持つ物の方が上のようである。
2,3回切り合ったが、奴に押される。
(くっ、あいつの剣がこんなに重く感じるとはな。)
まるで、巨大な金属の棍棒で弾かれている気がする。
このままでは、こちらの剣が耐えきれないであろう。
自分が切り合う隙に、ポイとカディンが装備を交換している。
防具に杖を交換すると、声を掛けて来た。
「サダ、下がって、こっちは準備できたから。」
「これから、反撃だよ。」
2人の呪文が半妖精に襲い掛かる。
奴の鎧や兜が光り輝き、その呪文を跳ね返してはいるが、奴の動きも封じている。
その隙に、自分の装備を手早く周囲に転がる物と交換する。
どれを選ぶのが正解かは解らない。
だが、兜と籠手、胸甲だけ素早く取り換え、目の前にあった戦斧に長剣を交換した。
全て装備を身に付けた時に、何か体に馴染む感覚がある。
(どうやら、正解のようだ。)
そのまま、奴へと向かい、戦斧を叩き込む。
奴が、それを長剣で受け止めた。
だが、まだ奴の持つ長剣の方が魔力は高いらしい。
おそらく、奴は最強の剣を選んでいるのであろう。
だが、今持つ、この戦斧もなかなかの魔力を秘めているようだ。
奴の長剣に弾かれる事は無い。
その重みが、奴にずしりと圧し掛かったようだ。
奴が下がった。
「ふふ、なかなかに、良い装備を見付けたようであるな。だが、それも我の物、置け、そこに置くのである。」
「嫌だね。返すのは、あんたを倒してからにするよ。」
「ははは、我に勝つつもりでいるのか? 笑わせるのである。我こそは、ここの主である。それに勝てる者などおらぬのである。」
「こんな穴倉の主か? 財宝の山のネズミの間違いじゃないのか?」
「黙れ、下郎がっ! 我を侮辱する事は許されないのである。」
装備を交換し、互角に近い状態を保てている。
だが、奴の守りをまだ崩せない。
今、自分が互角に戦えているのは、ポイとカディンの魔法の援護があるからだ。
2人が、自分の防御力や攻撃力を上げ、更には行動速度なども上げて、攻撃魔法で奴を狙っている。
だが、2人の魔力にも、限界があるはずだ。
いつまでも、戦いを長引かせる訳にはいかない。
奴の攻撃も雷撃と斬撃、その他にも様々な呪文を駆使してくる。
火炎球や暗黒球、奴も呪文は豊富だ。
それを自分に、時に仲間らに向けて来る。
外れた呪文や攻撃が、周囲の財宝を打ち砕く事もあるが、それに構ってもいられない。
一体、幾らの価値がある物を破壊したのか?
そんな勘定などしてはいられない。
ただ、奴の斬撃に耐え、隙を見付けては斧を叩き込む。
この迷宮に来るまで、しばらく握っていなかった斧が意外に手に馴染む。
そう言えば、冒険者になって初めて手にしたのは手斧だったな。
その初めての武器種で、こんな強敵と戦うとは。
装備も一流なので、ハノガナの迷宮で戦った時以上に、半妖精は手強い相手になっている。
しばらく見ぬ内に、こいつも剣が上達したのか?
そもそも、こいつは、他の半妖精らと共に倒したはずなのだが。
まさか、こいつの魂も彷徨って、ここまで辿り着いたのだろうか?
「なあ、何で、あんたは、ここに来たんだ? ハノガナの迷宮から、ここに来たのか?」
「どうやって、ここに我が来たのかは知らぬのである。だが、我こそは、選ばれし者。故に、ここに来たのである。だから、ここの物は全て、我の物なのである。」
どうせ、何かの理由で、ここに流れ着いただけだろう。
ここの主など、お前がなれるはずもない。
「そうかな? あんたは偶然に、ここに流れて来ただけだろう? あんたも、何か探しに来てたんじゃないのか? その探し物を忘れてしまったのか?」
「黙れ、黙れ。我は、選ばれて、ここに至ったのだ。偶然などではないのである。当然、ここの物は、全て我の物なのである。」
「欲が深過ぎると、身を亡ぼすだけだぞ。」
半妖精との戦いが、続く。




