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第181話「カディンの腕試し」

 カディンが、自分の魔法を確かめてみたいと言うので、それを試せる場所を迷宮の中の森林で探している。

木々がまばらな場所を見付けた。

「本当に、ここが迷宮の中って、信じられないわね。ここも、どの位、広いのかしら?」

「ここも、数百m四方はあるな。でも、こういう地下の広大な場所は慣れてるから。」

「サダは、他にも知ってるの?」

「ああ、普段、活動しているハノガナの街の横には、巨大な迷宮があるのさ。そこには、龍まで棲み付いているし、魔界につながっているみたいなんだ。」

「魔界につながる? そんな所があるの?」

「見た訳じゃないけどね。けど、そういう話なんだ。」

「魔界に? そこは、どんな所なのかな?」


「魔界がどんな場所か。興味はあるけど、行きたくはないな。」

「そりゃ、そうだね。僕も、魔界には行きたくないな。どうせ行くなら、楽しい所がいい。」

「それに、賛成ね。この迷宮も、不安だけどね。」

「この迷宮も、他とは違う何かが、まだまだある気がするよ。それがどんな物なのかは解らないけど。」

「ここに、あらゆる物が集まって来るって言ってたわね。なら、魔法の様々な品もあるの?」

「そう、それを僕は、探しに来たんだよ。僕は、強力な魔法の道具が欲しい。」

「それ、私も、欲しいな。折角、ここに来たら、1つ位は持って帰りたい。」

「けれど、造る者には、欲張り過ぎるなとも言われた。ここには、望めば、財も地位も名誉も、求める物の全てがあるらしい。」

「それって、魅力的だけど、欲に溺れるなって忠告よね。ほどほどにしておけって。」

「多分、そうなんだろうな。もしかして、欲に憑り付かれて、ここから出られなくなってる奴もいるのかも。」

「私達も気を付けましょう。もし、この3人が誰かがそうなりそうになったら、他の2人が止める事にしておきましょう。みんな、忘れないでね。」

「ああ、3人が同時に憑り付かれなければいいけど。」

「過ぎた欲は身を滅ぼすって言うじゃない? あれよね。」

さて、そろそろ魔法を試してみるか?


「カディンは、どんな属性の魔法が得意なんだ?」

「そうね、火、風、地、水に、光ね。私、魔法学校で、上級までは学んだのよ。」

「それは、凄いな。」

「僕も、上級まで講座を受け終わってるよ。」

「私は、上級まで受けて、召喚術の精度を上げてた所なの。」

「召喚術では、どんな魔獣を従えてたんだい?」

「最終的には、大狼に、灰羽フクロウ、火炎トカゲと、毛長野牛ね。」

「毛長野牛まで?」

「ええ、荷物を運んで貰ったり、背に乗せて貰ったりして、便利だから。」

「召喚するのは、用途も様々なんだな。」

「そうね。じゃあ、普通の魔法から試してみるわ。」


カディンは、各種の呪文を試してみた。

中級から、上級の呪文まで、覚えていた呪文は全て使えるらしい。

「魔法は、これで充分ね。良かった。何の影響も残ってないわ。」

だが、召喚術の方は、そうはいかないようだ。

「あれ? どうしたのかな? 何も呼び出せない。」

何度も、試しているようだが、何も出現はしない。

「ダメなのか?」

「うん、そうね。もしかして。」

「何か思い当たる事があるのか?」


カディンが、何かに集中しているようだ。

「誰も、反応が無いわ。そうね、多分、もうあの子達には会えないのね。」

「どういう事なんだ? 何か不具合が?」

「そうね。多分、私が封印されていたのが原因だと思うの。」

「封印が?」

「あのね、召喚術って、術者と契約した相手との関係で成り立っているのよ。」

「契約した相手との関係?」

「そうなの。術者が得た経験とかが契約した物にも影響するし、その逆もあるの。どちらかが経験した事が互いの経験になる。でも、例えば、食事とか体力の回復もそう。どちらかが、行う事で命を保ったり、体力を維持したりね。おそらくだけど、私は、1年以上は、封印されていたと思う。それで、あの子達は食べ物も得られなくて、亡くなったのよ。可哀想な事をしたわ。」

「そうか、カディンの封印が長かったから、契約したのは。」

「それは、悲しいね。カディンは、そんなに長く封印されてたんだ。」

「うん。封じられていた時の流れが解らないから、全く実感が無いけど。契約してた魔獣がもういないなら、その可能性が高いなって。」

「自分も、一度、死んだんだ。両親と共に。だけど、それを造る者が体を直してくれて、そこに魂を入れた。その間に、2年が過ぎてたよ。」

「サダは、そうなんだ。私も同じなのかな? もしかして、その造る者に封印されてたのかも。」

「どうかな? 造る者が、誰かを封印している所は見てないから。」

「でも、他の神様がやったのかもよ。」

「それもありえそうね。さて、また新しい魔獣との契約をしないと。」

「魔法を試して、疲れは出てないかい? 体調を戻したら、ここから先に進んでみよう。」

「そうね。でも、その前に、サダから光の呪文を教えて貰ってもいいかな? この先、魔族にまた会うかもしれないから。」

「ああ、いいさ。ポイにも、また教えよう。」

「やったね。ありがと、サダ。」


ポイに遊光球の呪文を教え、カディンには光の円陣、光の尖槍、光の御符、遊光球を教える。

カディンには4つの呪文を教えたので、時間がかなり掛った。

「どれも、凄い光の呪文ね。」

「これだけの呪文があれば、魔族にある程度は対抗できる。それに、魔族が呼び出した魔獣らにも有効さ。」

「魔族って、そんな事もするの?」

「ああそうさ。上位の魔族は低位の魔族も呼び出すけど、魔獣も呼び寄せる事ができるんだ。その力を利用した魔道具で、魔獣を呼び出す事もね。」

「でも、人間が魔獣を呼び出しても、それを操る事はできないんじゃないの?」

「それが、また別の技術を使えばできるんだ。魔票という魔道具を使えばね。魔獣も石像も遺体も操れる。」

「うわっ、そんな応用もあるんだ。」

「自分の国は、多分、敵対している王国に、その技術を使って脅かされている。仕掛けて来たのは撃退したけど、大元がまだ健在しているんだと思う。」

「じゃあ、まだ、その苦難は続くのね?」

「だと思う。その予想が外れて欲しいけど。」

「サダは、それを阻止したいの?」

「出来ればね。どこまで、自分がそれに関われるかは解らないけど。」


光の呪文の伝授は終わった。

また、樹上で休憩を数時間摂ると、ついに、この林とのお別れの時が来た。

「奥にも、ここと同じような所があるといいね。僕、ここなら好きだな。」

「そうだな。ちょっと、ここでは刺激が少ないから退屈だけどね。」

「そうね。それに、明るいままなのは、これはこれで心が病みそうよ。」

3人で、本道の奥へと向かう。


先頭は、自分が進み、後ろからポイとカディンが並んで付いて来る。

照明代わりに、またポイが光の玉を10m程先行させている。

洞窟は、今は真っすぐに続いている。

「ねえ、みんな。魔獣に遭遇しても、止め刺さないでね。契約するのは、対象を弱らせなければ出来ないんだけど、殺してしまったら無理だから。」

「戦いの前に、どんな奴と契約したいか言ってくれよ。どんな魔獣でもいいって訳じゃないだろ?」

「そうね。契約したい相手に遭遇したら、声を掛けるわ。ポイもいいわね?」

「了解。でも、どんなのと契約したいの?」

「そうね、最初は、攻撃力があるのがいいかな? 他に、偵察とかできる奴とか、盾になってくれそうな体力のある奴とか。」

「いろいろな役割ができそうな奴を、バランス良く集めたいって感じかな?」

「そう、それ。サダ、解ってるじゃない。」

「冒険者のパーティーに組み方に近いのかなって。攻撃役に盾役、魔法や回復が得意な役とか。」

「そうね。それが近いかも。流石は、現役冒険者。」

「カディンやポイは、冒険者をやった事はないのかい?」

「うん、興味はあるけど、魔法と召喚の修得が忙しかったからね。」

「僕は、なかなか、仲間になってくれる相手がいなかったから。」

「今が、正に、パーティーって感じだよ。」

「そうか、僕ら、パーティーを組んでいるんだ。」

「そうよね。改めて、よろしくね、2人共。」


 そんな話をしていると、通路の前方で何か蠢く物がいた。

「あれは、何かな?」

「大ネズミの仲間か? あいつらは、どこにでもいるから。」

「そうね。そうみたいね。」

「あれと、契約してみるかい?」

「久し振りだから、あいつで試してみるわ。あれなら、余裕で倒せるから、私と戦う奴は攻撃しないでね。」

魔法で先制攻撃をすると逃げられてしまうかもしれないので、武器で戦う事とした。

奴らとの距離が近くなる。

距離は、5m程まで近付いた。


不意に、奴らが、砂を吹き掛けて来る。

こいつ、砂大ネズミらしい。

この砂に絡み付かれると、固まって身動きができなくなる。

「砂の攻撃に捕まるなよ。」

近距離から、呪文を放ち、数を減らす。

そして、残った奴に切り掛かる。

カディンも木の杖で、砂大ネズミを叩く。

木の杖であっても、それで叩けば相応のダメージがある。

更に、それにカディンが魔力を込めれば、威力も倍増する。

やがて、砂大ネズミを退治し、カディンの戦う奴は虫の息だ。

砂大ネズミの動きは、ほとんど無くなると、カディンが呪文を唱えて木の杖でそいつの周囲に円を描くように動かした。


その砂大ネズミが、後ろ脚で立ち上がる。

そして、その全身が一瞬、黄色い光を放った。

「よし、これで契約終了よ。」

「これで、終わったのか?」

「そうよ。じゃあ、あなた、一回転してみて。」

砂大ネズミが、その場でくるっと体を回転させた。

「凄いね。言う事をちゃんと聞くんだ。」

「そうよ。契約を解除しなければ、これで指示に従ってくれる。名前も付けておこうか? 君はこれからサンタね。」

サンタが、「きぃきぃ」と鳴いた。

了承したという意味だろうか?

「じゃあ、サンタ、少し前に進んで、前を見張ってね。何か居たら、引き返して来て、教えてね。」

「大丈夫なのか? 砂大ネズミなんて、直ぐに倒されないか?」

「経験を積んで行けば、強くなれるから。それに、彼の目を通して、私にも彼が見えている物が解かるから、ヘマはさせないわ。」

召喚術も、いろいろと便利だな。


3人に、サンタが加わった。

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