第179話「封印されし少女」
虚無の迷宮の中、魔族の出現する大空洞で、光の中に封印された少女を見付けた。
見た目は人間に見えるのだが、そうなのだろうか?
魔族の出没するような場所に、人間を態々封じ込めるのか?
これは、見た目は人間だが、もしかして魔族やその類ではないのか?
「どうするの? サダ? この子、助けないの?」
「いや、人間なら、助けたいけど、もしも違ったら、どうしようかなって。」
「人間じゃないの?」
「そう見えるけど、人間をここに封印する意味が解らない。これも、魔族の一種か、何か特別な存在なのかも。」
「確かに、そうだね。でも、多分、人間じゃないかな?」
「ポイは、人間だって思うのかい?」
「うん、思うよ。半分だけ。」
(5割の確率かよ。でも、自分でも迷う。これはどっちかな?)
「そうだ、周りを見てみよう。」
周囲に、何かヒントが無いのか確かめる。
台座の上に魔族の封印に似た、5つの光る石に囲まれた少女。
その中で、少女はまるで眠っているように仰向けで横たわっている。
着ているのは、白い長衣のような物だけだ。
足にも、何も履いてはいない。
周りに、何も置かれてはいないし、文字も書かれてはいない。
ただ、この場に1人、少女が眠るようにして居るだけだ。
彼女が人間ならば、助け出すべきであろう。
だが、人間以外であるならば、どうだ?
見た目は優しそうな少女ではある。
肩まである栗色の髪の毛。
見たところの年齢は15~17歳位か?
彼女は、いつからここにいるのだろうか?
「なあ、ポイ。この子を鑑定出来ないのか?」
「そうですね。やってみます。」
ポイが短く呪文を唱えた。
「ダメです。見えません。もしかしたら、この封印が邪魔をしているのかもしれません。」それは、厄介だな。
正体が解らないのに、解放するのもどうかと。
もう一度、彼女を観察してみた。
封印されている場所自体、5m四方の石の台座のような場所の上である。
しかも、少女は、何かの木の台か寝台のような物の上に寝かされている。
(あれ? これは?)
「彼女が乗せられているのは、棺桶じゃあないよな?」
「棺桶ですか? それって?」
「ああ、死んだ人を入れて地中に埋めたりする箱の事だよ。彼女が乗ってるのは、丁度、そんな大きさだから。」
「死体を入れるんですね。その箱の上に?」
「棺桶と決まった訳じゃないけど。もしかしたら、彼女だけでなく、あの中にも封印されている奴がいないとも限らない。」
「それじゃあ、この中に2人が封じ込められていると?」
「箱の中身は、外からは解らない。ただ、可能性としての話だ。もしかしたら、中身は空かもしれないし、別の物が入れられているかもしれない。」
「そんな手の込んだ事を? 態々?」
「他の木箱もそうだが、誰かが用意しているのか、それとも偶然なのか、解らない事が多過ぎる。」
「なら、彼女をこのままにするんですか? もし、閉じ込められてるなら、助けてあげないと。」
そこは、判断の難しい所だな。
「ポイ、簡単な光呪文をここで教えよう。」
「ええっ、本当ですか?」
ここで、悠長に魔法を教えるのは危険を伴なうかもしれない。
だが、もしも、この封印を解いて、彼女自身やあの箱の中に魔族が潜んでいたとしたら。少しでも、魔族への対抗手段を増やしておくのは悪くはない。
多分、ポイならば、呪文を使いこなせるだろう。
全ての光属性の魔法を教えるのには、時間が無いが、まずは基本の3つ、光の円陣、光の御符、光の尖槍を教える事とした。
呪文を教え、それを実践して見せる。
それから、何度か、ポイが呪文を覚えているのか確認する。
ポイも、魔法文字の意味も理解しているので、覚えは早い。
1時間もしない内に、3つの呪文を覚えた。
「僕は、昔、魔法学校で習った事もあるんだよ。」
「フェムネにも、そんなのがいたなんて。今、ケリナの魔法学院では、フェムネの受講生もいるけどな。」
「そのケリナって所の事は知らないけど、僕は、オーレリアの魔法学校で習ったんだ。他にフェムネはいなかったけどね。」
逆に、自分は、オーレリアという学校を知らない。
準備ができたので、封印を解く事とした。
「いいか、準備は?」
「いいですよ、僕は。」
封印の石を1つ、短剣で掘り返した。
封印の白い光が消失した。
辺りは暗くなるが、ポイの光の玉が周囲を照らしているので、問題はない。
封印を解く前には、周囲も警戒したので、近くに魔族はいないはずだ。
この彼女が、魔族でなければの話だが。
解除したが、彼女が目覚める様子はない。
直ぐに、ポイが彼女及び、その下の箱を鑑定する。
「ああ、良かった。彼女は人間でした。ただ、体力がほとんど失われていますので、回復薬を飲ませましょう。それと、箱の中には、何もいないようです。ただ、道具のような物が幾つか入っているようです。」
彼女に触れてみた。
やや、体温は低いが、息はしている。
回復薬を取り出し、それを彼女の口へ少量づつ流し込む。
ゆっくりと、少しづつ流してやると、弱々しく彼女が飲み込んだ。
「ごくり・・・ごくり・・・ごくり・・・」
1本の回復薬を何度にも分けて、彼女は飲み込んでいる。
それが零れ出ないように、調節しながら飲ませる。
やがて、回復薬を彼女は飲み終えた。
深く深呼吸をしたかと思えば、むせ返る彼女。
「大丈夫か? どこか具合の悪い所はないか?」
「うっ、ここは?」
少しづつ、意識も回復し始めたようだ。
彼女が目を開き、自分と目が合った。
「ここはどこ? あなたは、誰?」
言葉は通じるようだ。
「ここは、虚無の迷宮の中さ。自分はサダだ。こっちはポイだ。」
「わあっ、目が覚めたね。僕は、ポイだよ。」
彼女は、目線をポイに移した。
「動物が喋ってるの?」
「動物じゃないさ。僕は、フェムネだよ。」
「フェムネって言うの? 初めて見た。」
「君は、自分の名前は、覚えているかい?」
「名前。ええっと、私の名前は、カディンよ。」
「なあ、カディン。君は、何故、ここに封印されていたんだ?」
「封印? 私が、ここに? 解らない。それに、ここが迷宮って言ってたわよね。何で、私がそんな所に?」
「記憶が無いのかい?」
「ええ、虚無の迷宮って聞いた事も無いし、ましてや封印なんて。」
「何か、覚えている事はないか? どこの国から来たとか、住んでいた街とか。」
「私は、クーリン王国のカダナの街に住んでいたの。そこで、魔法を習っていたわ。でも、何でここにいるのか、全く解らないわ。」
「クーリン王国? 聞いた事ない名前だな。自分は、ラッカムラン王国のハノガナの街で冒険者をやっているんだ。この迷宮には、ある道具を探しに来たんだ。」
「僕は、ジャケリ王国のオーレリアの街の魔法学校で、魔法を習ってたよ。その後は、各地を放浪して魔法の腕を磨いてたけどね。ここには、貴重な魔法の品があるって聞いたから来たんだよ。」
カディンもポイも来た事の無い国にいたんだな。
ここに辿り着く者は、様々な世界から呼び寄せて来られるのだろうか?
「そうだ。カディン、その箱から降りてくれないか?」
カディンを箱から降ろすと、その乗っていた箱の中身を確認してみた。
罠などを調べたが、そのような仕掛けは無かった。
中身はというと、
「装備だな。」
まるで、カディンに合わせたように、短衣の上下に、胸当て、革手袋、革の長靴などが入っていた。
その他、背嚢や水筒など、活動に必要な一式に、木の長い杖も入っていた。
「もしかして、君の装備なのかい?」
「いいえ、どれも見覚えは無いけど、丁度良さそうな物ばかりね。」
彼女が身支度するまで、少し離れた所にいた。
「サダ、準備ができたわよ。」
そこには、箱の装備一式を身に付けたカディンがいた。
これらなら、迷宮の中を歩いても支障は無いだろう。
ただ、水筒の水だけは空だったので、水魔法で水を湧き上がらせ補充した。
それと、前に別の木箱に入っていた小剣も彼女の護身用にあげた。
「カディン、これからどうする?」
「そうね、私も、何故ここにいるのかも解らないわ。なら、ここを出るしかないと思う。良かったら、サダ達に付いて行ってもいいかしら?」
「ああ、構わないよ。行動している内に、記憶が蘇るかもしれないから。記憶が混乱するのは、自分でも経験があるから、何となく解かるよ。」
「そう、そうだったのね。」
迷宮の中、3人目の仲間が見付かった。




