第171話「深海部の魔族」
ケリナの街に、半妖精を送り届け、そして学院から魔術師をハノガナの街へ連れて戻って来た。
まずは、アデト魔法学園に魔術師らを送り届けると、自分らは空の馬車を伴ない伯爵の城館へと戻って来た。
アグラム「諸君、ご苦労であった。しばらくは、自由にしていてくれ。」
翌日だけ休みにして、明後日からまた迷宮に向かう事とした。
迷宮の深海部に行くようになり、活動の仕方も変化が生まれた。
今は、深海部に向かうと第二拠点に泊まるので、1回潜ると、2,3日は迷宮の中で過ごす。
そして、街に戻ると、翌日は休養に当てた。
流石に、連続で深海部に向かうには、いろいろと負担が大き過ぎるのだ。
少し活動を制限しないと、身も心も持ちそうにない。
それから、ハノガナの街を数週間、離れていただけで、また迷宮で変化があったようだ。
それは、深海部で、魔族との遭遇が増えたのだそうだ。
ヘルガ「深海部で、魔族の動きが増えているそうよ。それで、魔族討伐の依頼なんかも出されるようになった位なんだから。」
小魔人だけでなく、赤の魔人や黒の魔人なども出没しているらしい。
ただ、今では、ハノガナの街にいる魔導師や神官の多くが、光属性の対魔族魔法を使えるようになっており、深海部に向かうパーティーならば、誰かしらが対応できるようになっている。
だが、心配なのは、魔界から更に強力な魔族が出て来ないのか、その方が気掛かりだ。
自分達も、魔族討伐の依頼を受けて迷宮へと向かう。
途中、迷宮内で、荷を乗せた台車に出会う。
最近は、第二拠点に物資を運ぶなんて依頼もあり、その台車もその依頼で運んでいるようだ。
冒険者だけでなく、元冒険者が冒険者と共に参加している事もある。
拠点の維持も大変である。
第一拠点と違い、深海部近くへ行くには人も選ぶ。
今も、4台の台車を押している者と、護衛が数人付いたパーティーを追い越して深海部を目指した。
第二拠点に到着したが、その先へと向かう。
すると、またあの異変がいろいろと出て来る。
キオウ「まだ、この変なのに慣れないな。」
今も、足音が自分らの10m程後ろの辺りから、しばらく付いて来ている。
まるで、遅れたもう1人の仲間がいるような感覚だ。
その足音は、消えもせず、追い抜く訳でもなく、ただ後ろから付いて来る。
そして、風が吹くと、匂いまで漂って来る。
マレイナ「これって、石鹸の匂いだよね?」
何で、迷宮の奥で石鹸の匂いがするのかは解らない。
もしかして、拠点で誰かが使った匂いなのか、もっと遠い場所から流れて着たのか解らないが。
迷宮で嗅ぐ匂いは、普段以上に濃くも感じるのだ。
だが、それも、いつの間にか止む。
足音も、気付いたら聞こえなくなっていた。
少し開けた場所に出た。
警戒しながら進んで行くと、微かに羽ばたくような音が聞こえた。
あれは、魔族だろう。
種類までは解らないが、戦闘の準備をする。
羽ばたきの音が近付いて来る。
しかも、複数の音が混ざっている。
フォド「団体で来るようですね。」
「ばっさ、ばさ」と、暗い空間をこちらに向かって来る羽の音がする。
奴らには、こちらの位置が解っているようだ。
マレイナが気配のした空間に向かって光の玉を幾つか放った。
黒っぽい影が光の呪文で照らし出された。
影は4つ。
手前に小魔人が3匹で、奥は赤の魔人か?
距離が近付いた所で、奴らを光の円陣で囲む。
そして、イルネとマレイナが、遊光球を放つ。
複数の光の弾が、魔族らに当たって行く。
それだけで、小魔人は倒せたようだ。
後は、赤の魔人だけだ。
武器を構え、魔族へと切り掛かる。
赤の魔人も光の円陣で動きは鈍っている。
戦斧を構えて振るって来るが、その動きは遅い。
振り抜いた戦斧を避けて、こちらから攻撃だ。
まるで、何もしない丸太に切り付けている気分だ。
耐久力はあるが、その体を仲間らと切り刻む。
数十回切り付けると、流石の奴も倒れた。
赤の魔人でも、光の円陣の中では、その力を半分も発揮できない。
まずは、4匹。
休憩して、また奥へと向かう。
周囲に気配は無い。
いや、何かが足元を通り過ぎたが、これはまた例の奴だ。
一瞬、足の間に絡み付いたが、また消えた。
気を取り直して、周囲を警戒しながら進む。
すると、暗い空間で、またぶつぶつ呟く声がする。
だが、そこに実体は無いようだ。
無視して足を進める。
すると、前方から、また風が吹いて来る。
今度は無臭だ。
その風に逆らうように進んで行くと、前で何か動いたように感じた。
フォドが光の玉を撃ち出す。
暗い空間を光が照らすと、何か黒っぽい物が見えた。
(布? いや、あれは、マントか?)
何故か、風の中を黒いマントのような物がひらひらと、飛ぶように浮いている。
ただ、風に舞っているだけではない。
何かがマントを着て、宙に浮いているように見える。
ディーナ「あれも、魔族なの?」
イルネ「そう考えた方が良さそうね。」
光の円陣で、そのマントを囲む。
すると、そのマントが「びくんっ」と動いたように見えた。
マントの中には、体は見えない。
だが、何か透明な体を持つ奴が、その中にいるようにしか思えない。
そいつは、光の呪文に捕らえられて、もがいているようだが。
それだけではない、そいつが何か呟いている。
正体は解らないが、マントの体があると思える場所に向けて光の尖槍の呪文を放つ。
すると、呪文はマントを突き抜けるのではなく、見えない何かに突き刺さった。
キオウ「やっぱり、中身があるぞ!」
仲間らが続けざまに光の尖槍を放つ。
呪文が当たる度に、マントが震え呟きが聞こえる。
(これは、効いてるぞ。)
次々と、見えない相手に光の槍が刺さって行く。
だが、マントはまだ舞ったままだ。
これは、まだ奴が倒せていないという事か?
今も、風にマントがたなびいているが、一向にマントは落ちては来ない。
呪文の効果はあるようだが、まだ止めを刺せていないようだ。
ならば、もっと強力な呪文で仕留めるか?
そう思った時であった。
マントの中の頭の位置に、顔のような物がぼうっと浮かび上がった。
青白い死者を思わせるような顔が。
そして、
「×〇ぎゃっ◇△くがっ××□わがっ×ががっ△△!!!」
叫び声なのか、そいつが口を開けると、大音響が迷宮の空洞に響き渡る。
それが何かの言葉か、呪文なのかは解らない。
その音の大きさに、耳を抑えようと思うが、兜を被っているので上手くできない。
その上、激しい頭痛で頭がくらくらして、何だか魂を揺さぶられるような。
ああ、我慢できない程に苦しい。苦しい?
思わず、膝を付いたようだが、意識が遠のいて行・・・




