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第166話「地上と迷宮の変化」

 半妖精が地上に来てから、幾つかの事が解った。

それでまず、伯爵に自分らが命じられたのは、アデト魔法学園の魔導師を伴ない、ハノガナの街の地下にあるという結界の確認であった。

イルネ「それが迷宮の奥から魔族が出て来るのを防いでいるらしいんだけど、その範囲をしっかりと調べないとね。」

それは、旧市街の地下道にあった。

迷宮とは別の場所、地下排水溝とも別の構造がその下には作られていた。

イルネ「迷宮とは、全く別の場所だし、何も無いって言われてたから、ほとんど入り込む人はいない場所ね。」

そこには、土埃や普通サイズのネズミらの世界であった。

迷宮の入口近くに、こんな地下があったとは。

旧市街の再建で、結界を組み直した時にも地下へは降りたが、この辺りまでは入った事は無い。


その地下を探って行くと、旧市街の地下のほとんどがその結界に覆われていた。

地上の結界は不安定であり、魔獣も入り込む事もあるが、地下ではその心配が無いようだ。

ただ、同行した魔術師らも知らない術式が使われた結界らしい。

「これは、我々の手には負えません。ケリナの学院から専門家を招いた方が良いでしょう。」

術式は解らないが、今もその効果には問題が無いようだ。

確認が済んだので街へと戻った。


アグラム「そうか、また仕様の解らん結界か。それは、今の技術よりも優れた物なのか?」

「はい、魔獣だけでなく、魔族も寄せ付けないでしょう。それだけの力を秘めております。」

アグラム「そうか。なら、それを新市街にも施したいな。ケリナから人を呼べば、解明して再現は可能だろうか?」

「時間は係るとは思いますが、可能ではないかと。」

アグラム「ならば、呼び寄せて調べさせよう。学園にも、協力して貰うであろうから、その時にはよろしく頼むぞ。」

結界の事は、ケリナから人を呼んでからの調査次第だ。


 半妖精の中で、幾人かハノガナの街への登用が行われていた。

伯爵に直接に仕える者もいれば、魔法学園や冒険者ギルドに採用された者らもいる。

また、近々、旧市街の地上部分の全体の結界の張り直しも行われるであろうが、その時にも彼らの協力が期待できた。

半妖精の魔法の知識、技術は、地上では忘れられていた物も多い。

今では、魔票や魔族から力を引き出す方法などが、魔法学園で記録され、また再現されていた。

彼らは、優秀な隣人になる素質を備えているのだ。

地上に来た彼らの多くは、新しい生活に少しづつ慣れ始めているようだ。

旧市街の地上の人々とも協調しており、新市街で様々な仕事を始める者らも増えていった。


けれど、良い事ばかりではない。

地下に駐留する兵士らが、半妖精を見たと報告を幾つも送って来たのだ。

どうやら、迷宮に逃げた奴らが、自分らの居住地であった場所を伺っているようだ。

覗きに来るだけならば良いのだが、そう甘くも無いだろう。

兵らを留めていなければ、間違い無く、あの場所に戻って来る。

特に、あの光る天井のある場所は、彼らにとって魅力的な場所であろう。

あそこは、迷宮内で数少ない、地上のまがい物なのだから。


しかし、いつまでも、地下に兵士を配している事はできない。

いつかは、引き揚げさせる必要がある。

少なくとも、あの居住地を半妖精には使わせたくはない。

魔獣に占領されるのは、仕方ない。

そんな時、マレイナがある事を言い出した。

マレイナ「半妖精が住んでた場所にも、結界があるのかな? だって、迷宮の中で、いつも魔獣や魔族と戦う訳にはいかないよね。て事は、あそこも結界で守られていたんじゃないの? それを壊してしまえば、もう、住めなくなると思うよ。」

なるほど、奴らも居住区を守る仕掛けがあったはずだ。

だが、それは、地上の敵向けでは無く、魔族や魔獣に対抗しての物だったはずである。

伯爵に、その話を持って行った。

アグラム「そうか、それは、盲点だったな。確かに、あの場所にも結界があると考えるのが自然だろう。君達には、確認して来て貰おう。そして、その素材を地上に運び出せば、旧市街の結界に再利用もできるかもしれない。調査隊を編成しよう。」


 その役目は、自分達に命じられた。

再び学園の魔導師を伴ない、迷宮の旧半妖精居住地へと向かう。

そして、その結果は?

「やはり、結界が施されていますね。居住地のほぼ全体にです。一部だけでも魔鉱石を外してしまえば無効化できます。全ての魔鉱石を運び出すのは難しいので、主要な部分の物を抜き取り持って行くのが良いかと。」

結界を解除するのは、駐留を終えてからだ。

今回は、どの魔鉱石を外して、どの程度持ち出すのかも調べた。

結果、50程の魔鉱石を将来的に運び出す事に決められた。

運ぶ人員も百人はいれば良いだろう。

それを幾つかの班に分けて運び出す。

まあ、細かい計画は、実行する時だが。


その前に、作業を邪魔されないようにも、地下に潜む半妖精らを片付けられると良いのだが。

それから、しばらく、半妖精探しを迷宮で行ったが、奴らはこちらが追うと、巧みに身を隠しているようで、一向に見付からない。

迷宮の中では、あいつらの方が自由に動けるのであろう。

ならば、奴らの拠点になりそうな場所を見付けて潰して行くしかない。

そんな場所が、迷宮には幾つかあるであろう。

でなければ、あいつらも、迷宮の中で魔獣らとの競争には勝てないはずだ。


けれど、悲惨な光景を目にする事が増えた。

迷宮内で、半妖精の遺骸を見付ける事が増えた。

生きた奴らには、出会えないのだが、たまに、亡骸になった連中を目にした。

奴らは、魔獣、それも特に妖戦鬼に狙われていた。

結界に守られた居住地から追われた為に、奴らの安全な場所も少なくなってしまったようである。

そして、居住地の様子を伺いに来る奴も、ほぼいなくなっていた。


半妖精は、ほぼ迷宮から消えたと判断し、アグラム伯爵は、兵士らの撤退を決め、引き上げ時に結界の破却も行われる事となった。

魔導師らが結界を無効化し、その魔鉱石を引き上げる兵士らが運んで行く。

いや、全ての結界を破却したのではなく、一部だけはそのままにした。

居住区は、通路で仕切られた1つ1つの地区が、個別に結界に囲まれている。

その1ヶ所、あの光る天井のある区画だけ残した。

そこは、冒険者ギルドの第二の拠点として残す事にしたのである。


こうして、長年に渡る、ワイエン王国との因縁が解決したのであろうか?

半妖精という歴史が生み出した者らは、彼らが望んだ形ではないにしても、地上に戻る事ができた。

彼らとの関係が、このまま上手く行く程に簡単な問題では無いだろう。

だが、その関係が一歩前進したと思いたい。

そして、迷宮の中に、もう1つの拠点が生まれた。

そこに達する事のできる冒険者は、限られてはいる。

けれど、深層の中に、拠点を持つ事ができたのだ。

その意味は、とても大きい。

それが、半妖精の掃討と引き換えに手に入ったのである。

迷宮の探索に、また大きな変化が訪れた。

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