第162話「尋問」
旧市街で張り込み、半妖精に接触して来たと思われる退魔師を再び捕らえた。
だが、口の硬い退魔師からは、有益な情報を未だに引き出せてはいないようだ。
護衛の連中は、またロットラム王国の傭兵らしい。
だが、彼らからも、出身地以外には、特に聞き出せてはいないようだ。
元から、護衛の傭兵らには、何も知らされてはいないのかもしれないが。
それでも、傭兵らからは、幾つかの情報を引き出す事は、徐々にできていた。
彼らが雇われたのは、ラッカムラン王国内らしい。
地方の領主らが、大掛かりな狩りや魔獣の討伐などを行う時に、彼らも雇われる。
そんな短期の仕事をしながら各地を回っているそうだ。
そして、どこかの町の飲み屋でスカウトされたらしい。
傭兵らは同郷だが、特に親しい訳ではないそうだ。
適当に人数合わせの為に雇われたようで、以前から面識があったのではないと言う。
雇われたのも2週間程前で、それからラッカムラン王国内をいろいろと回り、最終的にハノガナの街に来たそうだ。
彼らの内、迷宮に入った事のある者は、誰もいないそうだ。
そんな彼らを退魔師が導いていたらしい。
魔鈴の事を聞くと、退魔師が使っていたと話した。
半妖精に会ったかどうか聞くと、彼らは半妖精が何であるかは知らなかったが、何か人間だか妖精にも思える奴に出会ったそうだ。
半妖精の事を訪ねると、連中の居住地内の事などを話し始めた。
そこは、地下の都市で、何十という家屋が何カ所かの地区にあるそうだ。
その内の1つは、空間の天井が何故か曇り空のような明るさだったと言う。
あの地下神殿のような場所に、半妖精の一部は住んでいるらしい。
ただ、傭兵らは、そこの大きな建物の中に閉じ込められていたので、それ以上の事は解らないそうだ。
半妖精も、食事なども持って来てくれたが、傭兵たちとはこれと言った交流はしなかったようだ。
「まあ、俺らも辺りが不気味なんで、出歩こうとも思わなかったけどよ。じっと建物の中にいるのは退屈だったぜ。」
ただ、退魔師だけが単独行動で、どこかに行っていたそうだ。
退魔師が何をしに半妖精に会ったのかも解らないそうだ。
ただ、戻って来た退魔師は、何か悪態をついていたらしい。
それで、交渉が失敗したらしい事を悟ったそうだ。
雇われた時から、退魔師とは最低限の会話しかしてなかったので、何も聞いていないので何が目的なのかも解らないそうだ。
「あいつは、宿も自分だけいい部屋を取るんだぜ。しかも、飯も少ない。こっちには、力仕事をさせようってつもりなんだから、飯や酒くらいは、好きにさせればいいのにな。」
退魔師は、余り歓迎されていない主らしい。
だが、特に新しい情報も聞けないので、しばらく捕虜の事など忘れて迷宮に挑んでいた。
ある日、ギルドで顔を合わせたイルネの顔が珍しく暗かった。
「何かあったのか?」
イルネ「ええ、あまり良い報せではないかもしれないけど。」
キオウ「何だ、何かヤバイ事があったのか?」
イルネ「まあ、私達に直接には、関係無い事なんだけどね。だから、何か、問題が起きたとかではないから。」
マレイナ「直接には、関係ないのに、そんな深刻な顔をする?」
イルネ「あのね、王都から人が来たのよ。」
ディーナ「えっ? 王都から? 誰が?」
イルネ「ああ、あなた達に関わる事でも無いのよ。王都から来たのは、審問官と呼ばれる人達なのよ。」
フォド「その審問官が、何か? 余り聞いた事が無い役職ですが。」
イルネ「審問というよりも、尋問と言った方が良いかしら? 彼らは、犯罪者や反逆者らを取り調べる専門の機関なのよ。普通は、表立って行動する事は珍しいんだけど。」
キオウ「そんな奴らが、何で伯爵の所に?」
イルネ「退魔師を本格的に調べる為なのよ。」
審問官、そんな仕事があるとは知りもしなかった。
イルネ「知ってる人の方が少ないわ。知っているのは、一部の階級と、その関係者程度でしょうね。私も、よくは知らないわ。でも、あの顔を見たら、一生忘れないでしょうね。」
イルネは、その人物に会ったようだ。
アグラム「ようこそ、お越しになられた。ティグワン殿、遠路はるばる、ご苦労ですな。」
ティグワン「いえいえ、こちらは職業柄、歓迎はされませんから、お気遣いは無用です。」伯爵の執務室で、1人の男が応接用の椅子に腰掛けている。
全身が黒ずくめで、手にも黒い皮手袋を今も嵌めていた。
どことなく、神経質そうな痩身で、目がきょろきょろと動いている。
そして、その目がじっと相手の目を見詰める時がある。
アグラムも、その目と合うと、どこか落ち着きを失う気がするが、耐えて見つめ返した。
ティグワン「それで、例の神官職は、2人でしたね?」
アグラム「ああ、2人だ。他に、護衛役の傭兵らを捕まえてはいるが、そちらからは情報は引き出せないであろう。」
ティグワン「そうですな。神官職の取り調べを中心に行いますが、その傭兵らにも、一応話を聞いておきましょう。何か、参考になるような事をまだ話してはいないかもしれませんから。」
アグラム「ああ、好きなようにしてくれ。それと、必要な物があれば用意するので、遠慮無く申し付けてくれ。」
ティグワン「ええ、少し、お部屋をお借りします。それと、気の弱い方には、取り調べを行う地下室には、余り近付かないように言っておいてください。では、早速、始めます。部下らも、今回の仕事を張り切っておりますから。」
アグラム「そ、そうか。よろしく頼む。」
ティグワンが執務室を出て行くと、伯爵は溜息を吐いた。
アグラム(あんな奴らを寄越して来るとは。王都でも、必死なようだな。散々、警告を出して来たのに、今更だがな。)
それから数日の間、ティグワンとその部下らの取り調べが行われたらしい。
詳細は、自分らには伝えられる事は無かった。
ただ、退魔師と半妖精の関係は、随分と判明したらしい。
更には、あの魔族の魔道具の使い方も聞き出せたようで、それをアデト魔法学園の魔術師らが記録したようだ。
取り調べに立ち会った、魔術師は、しばらくショックで寝込んだそうだが。
魔道具関連の様々な事が解り、それはケリナ魔法学院へも知らされた。
ケリナ行きは、急ぎでもあったので、イルネと幾人かの騎士が向こうに出向いた。
イルネ「ナルルガも、元気だったから、安心してちょうだいね。フェムネも上手くやってたわ。」
落ち着いた頃、伯爵から呼び出されると、魔道具の事や退魔師と半妖精の事など説明がされた。
アグラム「魔獣を呼び出す魔道具の使い方も解明したよ。ケリナでは、その実験も始めているそうだ。魔票の謎もほぼ解明だ。」
全て、審問官が聞き出したそうだ。
今まで、碌に核心は明かさなかった退魔師らから。
何が地下室で行われたのかは、聞かない事にした。
アグラム「それと、半妖精の事だが、やはり、退魔師らに力を借りて地上に戻ろうとしているらしい。だが、それを企んでいるのは、半妖精でも一部だけらしいがね。」
半妖精、やっぱりか。
奴らは、地上を諦めてはいない。
それも実行は、間近に迫っているようだ。
アグラム「奴らが、地上に出て来ようとする前に、ケリを付けようと思う。それには、君達にも働いて貰いたい。迷宮の事で、君達以上に詳しい人材もいないからな。指示は追って出す。それまで、体も休めておいてくれ。」
それから、伯爵とギルド、魔法学園等々が、対半妖精へ向けての協議に入ったようだ。
結果が出るまでは、迷宮通いを続けていたが、日によっては、イルネは不参加な時もあった。
そして、伯爵の話を聞いてから、2週間程が過ぎた頃に、また城館へと呼び出された。




