第161話「旧市街の乱戦」
迷宮内に潜んでいたフードの集団。
今、その連中を包囲した。
双方、武器を構え睨み合っているのだが、どうなる?
相手は、6人。
5人が1人の周囲を囲むような体制を取り長剣を構える。
中心で守られている人物も護身用の小険を抜き放つ。
あの中心の奴が雇い主で、退魔師の可能性が高そうだ。
手には、大きな荷物は持っていないが、魔道具は手に入れられなかったのだろうか?
こちらは、伯爵の手兵も入れると倍の人数がいるが、奴らはどう出るのか?
護衛役の2人が、自分らの方に飛び掛かって来ると、別の2人が伯爵の手兵の方へと向かう。
そして、退魔師と思しき人物を1人が守りながら、こちらの包囲を強行して破ろうとしたが、イルネが素早く動くと、2人を一瞬で切り倒した。
そして、残った2人を伯爵の手兵が切り刻む。
さほどに、距離を稼げなかった残るの護衛もあっさりと倒すと、残るは退魔師だけだ。
切り倒した護衛らを伯爵の手兵に任せると、退魔師を追う。
そいつは、馬の隠し場所へと向かうつもりのようだが、自分らに追い付かれた。
イルネ「馬をお探しかしら? 馬も見張りも、既に抑えさせて貰っているわ。どう、まだ抵抗する気なのかしら?」
諦めた退魔師は、小剣を地面に捨てると、両手を上げて見せた。
倒した護衛役も、命に別状は無かった。
そいつらも縛り上げると、フォドに回復させた。
守られた人物のフードを外すと、やはり、黒い石を嵌めた冠を被っていた。
退魔師も縛ると、全員、ハノガナの街へと連れて行く。
イルネ「念の為、迷宮の出口は、もうしばらく見張ってちょうだい。」
イルネは手兵らに命じた。
街の城門に近付くと、通用門を開けてくれた。
更に、兵士ら2人を捕虜の護送の手伝いに付けてくれた。
伯爵の城館に入ると、捕虜は館の兵士らに任せた。
イルネ「今夜は、これで解散ね。また明日、こっちに来てね。」
翌朝、少し遅めに起きると、家で朝食を食べると、再び城館へと向かう。
イルネ「あら、早かったわね。もう少し遅くても良かったんだけど。」
「まあ、取り合えず、起きたんで来たよ。それで、どうだい?」
イルネ「新たな魔道具は持ってはいなかったわ。旧市街の見張りも交代したけど、あれから誰も出て来てないわ。まあ、馬の数も、丁度捕まえた人数と合っているから、取りこぼしは無いとは思うけどね。」
フォド「新たな魔道具の入手は出来なかったのでしょうか?」
イルネ「もしかしたら、私達が捕まってた魔族を処分したから、予備が無いのかもね。」
キオウ「そうか、知らずに、あいつらの計画を邪魔してた訳か。そいつは、愉快だな。」
ディーナ「他で、魔族の補充ができないといいけど。」
マレイナ「退魔師達、次は、魔族狩りを始めるんじゃないの?」
昨夜捕らえた連中の調べは、まだ始まったばかりで、何も解ってはいない。
ただ、その所持品は調べられた。
魔票を30個程持っていたが、これは半妖精から入手した物なのだろうか?
口の硬い退魔師が、何か喋るのかは解らないのだが。
自分達で、これまで3人の退魔師を捕らえた。
そのどれもが、なかなかに口を割らない。
彼らが重要な事を知っているのは、間違い無いはずだが、それを聞き出せていない。
他の地方でも、幾人か捕らえられているようだが。
数日が過ぎたが捕虜にした奴らから何か話を聞き出したとは聞かない。
イルネ「結局、護衛役がロットラム王国の出身だってのが解っただけよ。他はダメ。特に、いつもの事だけど、退魔師は何も喋らないわ。あいつら、宗教関係らしいから、その辺りは硬いわよね。」
そうなのか? 今の囚われの状態も、彼らにとっては別の意味があるのだろうか?
そんな情報を喋らない捕虜の事は、ほとんど忘れて迷宮に向かう日々が続いていた。
ある日、迷宮の帰りにギルドに戻ると、いつ振りであったかマディオンに出会った。
「よぉ、久し振りだな。元気にしてたか?」
それは、こっちのセリフだよ。
「何か、情報はあるのか?」
「そうだな。最近、ダラドラム王国が、黒凰石を買い漁ってるらしいぜ。それで、一儲けしようとしてる奴が多いんだが、」
キオウ「集め過ぎると、魔族を呼び寄せる。だろ?」
「何だ、知ってたか。流石だな。」
ディーナ「まあ、それで痛い目に遭った事があったから。」
「おや? 知らない顔も混ざってるけど、似てるな2人は?」
マレイナ「ええ、私達、姉妹だから。」
「そうか、どうりで。で、これからは有料なんだが、どうする?」
「内容にもよるけどな。どんな奴だい?」
「お前ら、ここの伯爵の騎士になったんだろ? なら、ダラドラムの動きは知りたくないのか?」
イルネ「そっち関係なの? で、幾らでその情報を売る気なの?」
「そうだな、こっちも国家の一大事に関わる内容だから、そう高くはできないな。どうだ、今夜の酒とつまみを奢るってので?」
キオウ「じゃあ、それで頼んだぜ。」
今夜は、マディオン行き付けの汚い店ではなく、普段、自分らがよく使う店に向かった。
到着早々、マディオンは、麦酒とつまみの煎り豆だけ頼んだ。
「他は、いいのか?」
「ああ、あんたらは、適当に食べてくれ。今日も働いて疲れただろう。」
キオウ「あんたは、迷宮には入らないのか?」
「前は、何度も行ったさ。でも、今はどこにも属してもいない。そんなのがあそこには行けないさ。それに、俺がいない間に、いろいろ変わったそうじゃないか。」
フォド「ええ、魔鈴が大きく変えましたね。」
「そうだろ。そのネタを聞いた時は、俺も驚いたさ。それも、あんたらが見付けたんだってな。大したもんさ。」
イルネ「それで、ダラドラムの事はどうなの?」
「まあ、焦りなさんな。話すけど、もう一杯頂いてからな。」
2杯目の麦酒をマディオンは頼んだ。
3杯目を飲み始めると、マディオンが話を始めた。
「俺は、ちょっと前まで、北の方にいたんだよ。で、その噂を聞いた訳だ。」
キオウ「どんな噂なんだ?」
「何でも、ダラドラムが集めた黒凰石で、魔族狩りをしたらしい。」
イルネ「魔族狩り? で、実際に成功したの?」
「ああ、20匹位、捕まえたらしいぜ。それをするのに、軍隊を動かしたって話だ。」
イルネ「そんな話、初めて聞いたわ。」
「そうだな。随分と、連中もそれに神経を使ってたらしい。多分、この国で知ってるのは、まだ数人しかいないぜ。」
マレイナ「そんな話、よく聞けたね。」
「まあ、向こうの国の商人とかとも付き合いはあるんでな。そいつらから仕入れた話さ。」
イルネ「それは、いつの話なの?」
「そうだな。多分、2,3週間前くらいじゃないのか?」
「向こうでは、魔族を随分と集めてるようだな。」
イルネ「そうね。そして、魔族を必要としてるのが、一部ではなく国家ぐるみであるって事が解ったわ。」
ダラドラム王国は、魔族を欲している。
自分達でも集めて、また別に半妖精からも手に入れようとしていた。
そんなに、魔族が必要なのだろうか?
ディーナ「それで、魔族狩りは、その1回だけなの? その後にもやってないの?」
「それは、難しいんだろうな。相当な被害が出たらしい。倒すんじゃなくて、捕まえるんだからな。それは、大変だろう。だから、あそこに閉じ込められた魔族をどこのどいつがどうやって捕まえたんだろうな? 本当に、あれは不思議だよな。」
迷宮の奥の封印された魔族の事だろう。
あそこにいるのは、自分達が戦った事のある魔族よりも大きく、おそらくは強い。
あんなバケモノを誰が封印したのだろうか?




