第16話「方針転換」
前回の狗毛鬼の集落への攻撃は、少々無理が過ぎた。
目的を履き違えたと、言っても良いだろう。
「ちょっと、迷宮への入り方、変えてみようか?」
キオウ「ああ、この前は、少しきつかったもんな。まあ、あれもいい経験だと思うが。」
ナルルガ「大怪我しなくて良かったわよ。まだ、数多くを相手にするのは負担が大きいわ。」
マレイナ「もっと、簡単な依頼で、経験積もうよ。無理は良くないよ。」
いつの間にか、闇雲に地下迷宮の奥へと進む事が目的になり、それに拘っていた。
狗毛鬼のような魔獣と同数ならば渡り合えるが、奴らの集落近くで戦えば、数的な不利に陥るのも当たり前だ。
迷宮に向かう目的を見直す必要を感じた。
「遺物」、それは地下迷宮に残された、過去の遺産物であり、様々な時代の置き土産である。
ある物は装飾品、ある物は名品と呼ばれる武具、その他にも魔法の道具や品など様々な種類がある。
それが、今も迷宮から見付かると言う。
貴重な物も多く、相応の値段での買い取りがなされる。
多くの冒険者達が求めているので、そう簡単には見付からないだろうが、これを探す意義は大きい。
迷宮内で、遺物と呼ばれるお宝探しに、方針を変える事にした。
その上で、遭遇した魔獣との戦いも勿論する。
ただ、遺物を求めるには、中層から深層へと奥深く迷宮に潜らなければ見付からない。
今まで、自分達が辿り着いた場所は、中層の入口程度と言っても良いだろう。
それだけ深く進むからには、地下で何日か彷徨う可能性も出て来る。
危険度は決して低くはないが、無暗に魔獣の巣窟へ突っ込むよりはマシだ。
中層探索の前に、装備と資金を揃える事にした。
黒狗毛鬼の装備は手入れして再利用する事にし、鎖帷子はキオウが、長剣は自分が使う事になった。
「長剣なら、キオウの方が使い易いんじゃないか?」
キオウ「いや、俺は、この前、怪我をした事もあるから、鎖帷子ができれば欲しい。」
「そう言われるとな。マレイナ達も、自分が長剣を貰ってもいいのかい?」
マレイナ「いいよ。長剣は、弓も持っていると、まだ、私には重いから。」
ナルルガ「まさか、私に持てなんて言わないわよね?」
「それは、無いよ。じゃあ、この剣は貰うね。」
資金稼ぎのついでに、長剣を使って感覚を掴かむ事にした。
上層で済む依頼を幾つも達成し、長剣を振るって魔獣を倒す。
斧ばかり使って来たが、長剣もなかなかに使い勝手は良い。
ただ、慣れるのには、もう少し時間も掛かるかと。
中層の魔獣相手では、まだ使えるレベルではないだろう。
余裕のある時に、長剣の鍛錬を続けるしかない。
数日後、いよいよ遺物探しの探索を開始する。
中層へ向かう経路も幾つもある。
その1つを辿り、奥へと向かう。
入り組んだ洞窟を下へと進む。
途中、稼ぎの足しに鉱石を採掘したり、出会った魔獣を倒しながら進む。
今回、依頼は遺物の種類を問わずに、獲得するのが目的だ。
暗く湿った洞窟を進み続けた。
天然の洞窟なのか、所々で狭くなりまた広くなる。
広がった場所で魔獣に遭遇する事が多い。
上層では一角鬼、中層に入ってからは大食い鬼に出会う事が多いようだ。
下っていた洞窟も、いつしか水平が続くようになっていた。
洞窟の分岐した場所を探り、人工的な通路につながる場所を探る。
人の手の入った場所に、遺物が残されている可能性が高いと見込んだからだ。
ついに、通路につながった場所を見付け、その先を進んで行く。
通路も、所々で枝分かれしている。
別れ道に出ると、進む方向の壁に印を付けておく。
そうしておけば、入り組んだ場所でも迷う事は無い。
やがて、小部屋状になった場所を数カ所見付けたので、中を探るが何も残されてはいない。
中層であっても、こんな浅い所に遺物が残されている事は無いだろう。
見付からない遺物よりも、時たま遭遇する魔獣を退治する方が稼ぎになっている。
遺物を求め続ける事、数時間。
とある小部屋の瓦礫の中から、小さな四角い物を何個か見付けた。
「何だろう? 石じゃないな。金属の破片かな?」
ナルルガ「ちょっと、貸してみて。 ・・・、少しだけ、魔力を感じるわ。反応は、弱いけど。」
キオウ「それも、遺物なのか?」
ナルルガ「解らないわ。でも、魔力を調節すれば、何かに使えるようになるかも。」
マレイナ「凄いね。ナルルガ、私、何も感じないよ。」
2cm程の大きさの、黒く四角い物だが、何に使うのかも想像できない。
キオウ「ゴミじゃないよな。」
「よく解らないけど、持ち帰ろう。」
それが、鉱石なのか金属なのかも、自分らには判断できない。
とりあえず、遺物の一種だと思い、持ち帰る。
その後も探索を続けるが、遺物らしき物は他には見付からなかった。
今回は、これで街に戻る事にする。
報酬は、魔獣の討伐で15ゴールド、遺物らしき物は1つで5ゴールドになるので、5つギルドに納品した。
黒い四角い物は、鑑定して貰うと、魔力を増幅する道具と判明したので、1つをナルルガに渡した。
キオウ「すげぇな、ゴミかと思ったのに、こんな値段が付くなんて。
ナルルガ「ゴミじゃないわよ。魔力を感じるって言ったでしょ。」
ただ、そのままで使うには効果が弱まっているようで、魔法道具屋で調整して貰う。
遺物探しの初回にしては、まあまあな成果かと。
その後も、迷宮で遺物探しを続けた。
遺物は、装飾品や家財など様々な物があった。
家財などは、古物品として需要もあるようだ。
例えば、燭台50ゴールド、ランタン40ゴールド、宝石箱20ゴールドなどの値が付いた。
貴金属が使われている事もあるが、古いだけでも価値が出る事もあるらしい。
見付かれば、相応の収入となった。
何か魔法の武具でも見付かればありがたいが、そうは簡単に見付けられない。
暗い地下に潜っては、金になりそうな物を求めて彷徨う日々が続いた。
それでも、中層の全てを回りきった訳ではない。
また、時として迷宮内で、冒険者の慣れの果てに遭遇する事もあった。
下手をすれば自分達も、同じような事になるかもしれない。
回収されていない冒険者タグを見付け、ギルドに届ける事もたまにある。
ある時、小部屋の奥に、隠し部屋を発見した。
マレイナ「ここの壁、何かの仕掛けがあるよ。」
「よし、開けてみよう。」
キオウ「罠は、無いな。」
マレイナ「あれ? ここは、隠し部屋?」
キオウ「きっと、何かあるぜ。」
期待に中を覗くと、大量の武器が幾つかの長櫃に保管されていた。
大剣に長剣、斧槍に戦斧、各種様々な武器、そして防具が幾つも手付かずのままに残されていた。
これに魔法の掛かった武具があれば良いのだが、どれも普通の物ばかりだった。
金属が腐食していないのが救いだ。
これを武器屋、防具屋に持ち込むと、150ゴールド(15000シルバー)の価格が付いた。
キオウ「やったな。」
「ああ、使えそうな奴は、自分達でも使おう。」
一部の装備は、仲間内で使う事にして、自分は鎖帷子と鉄兜を頂いた。
大量の武具を見付けた事で、ギルド内での自分達の存在が認識され始めたようだった。
遺物は見付からなかったが、なかなかの稼ぎとなったのは嬉しい限りだ。