第154話「被害の増加」
ハノガナの街に戻り、休養と迷宮での活動をしばらく続けていた。
自分達にイルネが合流したのは、2週間程が過ぎてからだった。
イルネ「アデレード地方の各地を回ってたのよ。見回りと言うか、いろいろとね。」
キオウ「そんなのやってたのか?」
イルネ「ええ、各地で馬を乗り換えてね。ほぼ、一周はして来たわよ。」
フォド「それで、何かありました?」
イルネ「これと言って無かったから良かったわ。魔獣の動きも普段とは変わらないみたい。」
今のところ、アデレード地方内には問題は無いようだ。
噂のあったハルム王国での異変についても、変わった報せは無い。
ロットラム王国で聞いた噂は、ガセであったのだろうか?
ともかく、伯爵の任務から解放されたイルネが再び加わり、迷宮の探索を再開した。
迷宮に向かうのは、もう何十回目であろうか?
いや、百は越えたか?
それでも、まだ先はある。
今まで踏破した地域でも、魔鈴を試していない場所も残っているのだ。
キオウ「魔鈴のせいで、また迷宮内をやり直しだな。」
そうだ、今まで何も無かったり、遺物を取り尽くしたと思った場所の近くに隠し扉があったのだ。
その隠されていた場所でも、遺物が見付かっている。
多くは、余り買い取り額の高く無い遺物やちょっとした金銀財宝が多いが、一部では、魔法の掛かった武具なども見付かっていた。
フォド「久し振りに、何か珍しい物を見付けたいですね。」
そう、魔鈴を見付けてから以降、ヤバめの物は幾つか見付けたが、大きな収入につながるような物は見付けてはいなかった。
そのような物は、他のパーティーの手柄になっていた。
迷宮の深層に入り込んだ辺りで、また面倒な魔獣に遭遇した。
久し振りに出会う、腐食屍鬼だ。
しばらく出会ってない物なら、魔獣ではなく価値あるお宝の方が何倍も嬉しいのだが。
こいつらは、人型をしてはいるが、知性とか理性とかは一切感じられない。
ただ、食欲のみが特化したような魔獣だ。
その食欲は、迷宮に入り込んだ冒険者だけでなく、他の魔獣にも向けられる。
イルネ「でも、新しい呪文を試すには、いい相手ね。」
イルネは、ナルルガに授けられた遊光球を唱えた。
光属性の強力な呪文の球体が、光を嫌う腐食屍鬼に向かって飛んで行く。
フォドも続いて呪文を放つ。
フォド「これは、なかなかに効きますね。」
光の玉が次々と、腐食屍鬼を追い掛けて、その体を破壊して行く。
キオウ「おう、効果覿面だな。こんなにも簡単に奴らを倒せるなんてさ。」
自分らも、光弾を放つ。
苦戦していた獰猛な魔獣を一方的に駆除して行く。
あっという間に、こちらの倍以上もいた腐食屍鬼を掃討し終わる。
ディーナ「少し疲れるけど、強力な呪文ね。」
マレイナ「うん、ナルルガちゃんには、感謝だね。」
「こいつらは、新呪文の練習相手には丁度いいかもな。」
迷宮を回りながら、新しい呪文を使いこなせるように鍛錬も続けた。
そんな迷宮通いの日々が何週間か続いた。
目立った稼ぎは無いが、迷宮の空白地帯を徐々に埋めて行く作業を続けた。
ある日、ギルドに立ち寄った時に、ヘルガに言われた。
ヘルガ「ねえ、最近、魔鈴が冒険者らに売れているのはいいんだけど、被害が増えてるのよ。まだ、そんなに強く無い人達には、サダ君らからも言ってあげて。」
魔鈴は、迷宮の探索方法を一新したと言っても良い。
迷宮内での近道を開ける手段でもある。
だが、安易に危険な深い場所に到達してしまう為、自分らではまだ対応が難しい場所に入り込んでしまう可能性もあるのだ。
流石に、初心者は慎重で、余りそういう事はしない。
だが、迷宮に慣れたと思い始めた中級の者らの中には、己の実力を過信してしまう事もよくある。
それは、自分達にも覚えはあるのだが。
迷宮内でも、互いに協力し合える所にいれば、助けが来る事もある。
だが、迷宮は広大なのだ。
自分達の近くに、常に他のパーティーが存在する訳でもない。
最悪な場合は、全滅する可能性もあるのだ。
もし、死亡したとしたら、それを蘇生させる事などできない。
だから、余裕を持って行動するしかない。
迷宮の奥に行き過ぎても、帰って来れなくもなるのだ。
キオウ「俺らが魔鈴を見付けたから、冒険者に被害が増え始めたなんてなら、ちょっと嫌な話だな。」
ディーナ「冒険者の活動では、何が起きるか想像が付かない時もあるから。私達も、あなた達に助けられた時に、まさか魔族が寄って来て、そいつらが魔獣を呼び出すなんて想定外だったわ。」
フォド「備えていても、予期せぬ物に遭遇する事もありますから。」
事故が増えているなら、気に掛けるようにした。
「それで事故を防げるなら、協力はしよう。」
マレイナ「そうだね。避けられる事故なら、回避できるように。」
ヘルガの告知で、気に留める熟練パーティーも増え始めているようだし、問題のありそうなパーティーも、慎重に行動するようになっているようだ。
だが、事故はそれ程に減らない。
魔鈴の魅力が判断力を低下させているのか?
ヘルガ「最近、罠による被害が増えているのよ。」
安易に、迷宮の奥へ向かうような動きは、避けるパーティーが増えているそうだ。
だが、今度は、罠での被害が増えていると。
罠も、確かに、迷宮でよく出会う物ではあるが、誰かが解除したのであれば再び使える常態にはならないはずだが。
ヘルガ「それが、場所によって二重三重にも仕掛けがあるから、1つ解除してもダメなんですって。」
そんな手の込んだ事を?
たまに、そんな物もあるが、今までは、それ程に多くは無かったはずだが。
だが、そんな罠を自分達も見付ける。
マレイナ「罠があるけど、それを解除しようとすると、それが別の罠を作動させるようになってるよ。」
仕掛け矢の装置の一部が別の仕掛け矢を作動させるように設置されていた。
また、落とし穴と仕掛け矢が組み合わせてあったりもした。
キオウ「随分と、器用な小細工をしてるな。」
「こういうのを考えるって事は、相手の知能が高いな。」
マレイナ「狗毛鬼? それとも、大角鬼か妖戦鬼みたいな?」
ディーナ「見付け次第、破壊しておきましょうよ。ただ解除するだけでなく。」
落とし穴などを埋めるのは難しいが、仕掛け罠などは徹底的に破壊するようにした。
迷宮内であれば、こんな程度の装置でも作るには限界があるはずだ。
矢を外したり、弦を切る程度ではなく、装置そのものを破壊した。
一番確実なのは、火属性の魔法で溶かしてしまうのが良い。
仕掛けて回っている奴には、打撃になるはずだ。
迷宮内で、罠を解除して破壊するという新たな役割ができた。
他のパーティーでも、始めたそうだ。
しばらくすると、明らかに冒険者の被害が減って来た。
これで解決すると良いのだが。




