第153話「ナルルガの贈り物」
ロットラム王国への使いの途中で立ち寄ったケリナの街、ナルルガやフェムネと共にケリナ魔法学院に向かう。
自分らが学院に来るのも久し振りだ。
ナルルガに導かれて、屋外の練習場に来た。
ナルルガ「新しい退魔用の光属性呪文があるの。これをフォドやイルネだけでも、修得して欲しいのよ。」
ナルルガが、全員に呪文を伝授してくれると言う。
呪文に魔法の意味など、いつものようにナルルガは解り易く説明してくれた。
こんな事を最近は、冒険者らにやっているのであろう。
ナルルガ「じゃあ、説明はこれまで。今から実践してみるわね。」
練習場には、幾つも的になる丸太が立てられている。
その方向に向けて、ナルルガが杖を構えると、呪文の詠唱を始める。
すると、杖の周囲に幾つも光球が纏わり付いて行く。
そして、その光球が、複数の的に向かって放たれた。
閃光と爆音。
的の丸太が複数、ぼろぼろになっていた。
ナルルガ「これが、遊光球の呪文ね。術者の魔力によって、光球の数は変わるわ。私の場合は、今は10個が限界。光球を放つと、自動的に相手を追い掛けるように飛ばす事も可能よ。今は、意識して的に当てたけどね。」
「僕らも、10個は出せるんだよ。」
ナルルガ「そうよ。悔しいけど、助手達の魔力は私と同じ位なのよ。」
「僕ら、魔法得意。魔力沢山ある。」
ナルルガ「助手に負けないように、私も頑張らないとね。」
自分らも呪文の練習を始めた。
数時間後、フォドとイルネは、光球を4つ生み出す事ができたが、自分を含めて他の仲間にはできなかった。
ナルルガ「いきなり初日からはできないわ。できなくても、ハノガナに戻っても練習してね。この呪文は、光の尖槍よりも強力だから、魔族にも効くはずよ。少しでも、この呪文があなた達に役立ってくれるといいけど。それと、闇属性の御符も新しく作っておいたから、後でみんなに渡すわね。」
それから、2日の訓練で、何とか遊光球の呪文を体得したのだが、2つの光球を生み出すのが限界だ。
ナルルガ「うん、上出来よ。この呪文は光属性でも高位の物だから。今まで、様々な光の呪文を使って来たから、こんな短期で修得できたんだから、そこは胸を張りなさい。フォドらは、元から光属性が得意だったから、できるのは当たり前だけどね。」
離れた所にいても、ナルルガなりの思いやりを感じた。
そして、再び、ナルルガとの別れの時が来た。
ナルルガ「もう、特級の講座は始まっちゃったから、しばらくはケリナから動けないわ。みんな、気を付けてね。」
キオウ「ああ、お前も頑張れ。呪文とか御符とかありがとうよ。」
ナルルガから貰った御符は、各自で首から冒険者タグと共にぶら下げている。
「皆さん、またね。僕らも魔法覚えるの頑張るよ。」
マレイナ「あなた達も、元気でね。後、買い食いし過ぎないようにね。」
「うひぃ、ここの町も、美味しい物沢山。だから、たまにギルドで仕事貰って食べる。」
イルネ「買い食いの為だけの依頼じゃないわよ。」
自分は、空いた時間でマガセへの挨拶も済ませていた。
さて、ハノガナの街へ、今度こそ帰ろう。
街の外まで、オルタナの背に乗ったナルルガと、小脱兎鳥に跨ったフェムネらに見送られた。
その奇妙な魔術師の一団と、ケリナの街がどんどん小さくなって行った。
数日後、ハノガナの街へ戻って来た。
真っ先に、アグラム伯爵の城館へと向かう。
馬を返すと、在宅中の伯爵に直ぐに執務室に通された。
アグラム「此度もご苦労であった。」
イルネが、タイゲン伯爵の返書を差し出す。
その場で伯爵は、その返書の封を空けた。
伯爵の目が、その書面の上を移動して行く。
アグラム「うむ。まあ、そうだな。」
伯爵は、顔を上げた。
アグラム「タイゲンの奴、どうであったか? 息災であったか?」
イルネ「はい、多少、体重が増したのかと思いましたが。」
アグラム「そうか。奴も、昔、この国の王都マダリオンにいた時は、それなりにモテたのだがな。あやつの方が、確か3つ程年上だったが、よくバカな事をやったものよ。」
イルネ「そうでしたか。」
アグラム「そうだな。貴族の息子らも、そんな所は変わらん。ナグトアンは、そんな私達を後ろから子犬のように追い掛けて来ていたな。」
イルネ「あの子爵が?」
アグラム「今も、臆病な所は変わらんが、奴は、逸早く魔票対策もした。臆病な事が悪い事とは限らん。」
アグラム「さて、ロットラム王国だが、特別にダラドラム王国に肩入れはしてはいないようだ。表向きかもしれないがな。」
イルネ「そのような事、私どもに明かして良いのですか?」
アグラム「別に構わんよ。もしも、あの国がダラドラムに協力するならば、こちらはハルム王国と組んで対抗するだけだ。そうすれば、何とかなるであろう。」
イルネ「そう言えば、帰りにハルムが傭兵を集めているとか噂を聞きましたが。魔獣の群れが、各地に出たとも。」
アグラム「今のところ、そんな噂は聞いてはいないがな。」
イルネ「ケリナでも同じでした。」
アグラム「単なる噂かもしれんが、注意はしておこう。我が領内でもな。しばらくは、皆の者には休んで貰おうと思うが、また呼び出す事があるかもしれん。」
数日は、自宅で休養を取る事にした。
イルネは何も言わないが、伯爵に呼び出されては、あれこれやっているようだが、自分らはしばらくは、解放されていたので、ゆっくり自宅を片付けていた。
そろそろ、活動を再開しようと思い城館に向かったが、イルネとはしばらく別行動となった。
仕方なく、自分達だけでギルドで依頼を受けると、迷宮へと向かう。
新市街から旧市街へと向かう橋を渡ると、結界を張り直した区画が見える。
そこで、人々が活動しているのが目に入った。
建物の手直しではなく、既に人の生活がそこにはあった。
道具屋や鍛冶屋なども移って来ており、少数ながら、住み着いている人もいる。
これからも、旧市街は発展して行くのだろう。
約150年振りに、そこに人の生活が始まろうとしている。
結界で区切られた地域には、魔獣も侵入はしない。
だが、旧市街の全てに結界を張り直した訳ではないので、そこから出ると、今も魔獣がうろついている。
その辺りに出没する魔獣の大半は、それ程に恐ろしい奴らは出ないはずだ。
そんな魔獣を討伐する依頼を初心者冒険者らが、主に受注していると言う。
人の住むようになった区画から少し離れた場所に、迷宮へと入り込む場所がある。
元は、地下の施設や下水道へ向かう道であった場所だ。
そんな入口が主だった場所だけでも、幾つかある。
今日も、そんな所を降りて行く。
市街から階段を降りると、そこは真っ暗な地下道だ。
それが、各所で枝分かれし、また行き止まりになっている。
ランタンを点けると、それを頼りに進んで行く。
マレイナが戦闘で気配を探り、僅かな変化を探る。
そして、気配を見付けると、他の冒険者か魔獣なのか確認する。
魔獣ならば、戦闘開始だ。
冒険者であれば、挨拶をしてその場から遠ざかる。
冒険者同士、助け合いもあるが、基本は互いの活動を邪魔したり、獲物の横取りなどは禁止だ。
迷宮に入ったばかりの上層には、美味しい遺物も割りの良い魔獣もいない。
深く深く、冒険者各自の技量に見合った場所を目指して潜り続ける。
そして、まだ自分らが踏み入れてはいない場所に降りて行く。
そこに着いたら、改めて探索を始める。
それが、ここの冒険者の日常であり、自分らの活動なのである。




