第152話「異変の噂」
ロットラム王国の傭兵を育てる町、カレイドナの町を発ち数日が過ぎた。
もうそろそろ、国境に達しラッカムラン王国に戻る事となるだろう。
あれから、幾つもの町村を通り過ぎ、1日の終わりにはどこかに泊まる。
どこも、派手さの無い地味な土地に思えた。
そして、どこも城壁や柵の外側には、広大な田が広がっている。
そこで採れる作物も、この国の大切な輸出品だ。
ラッカムラン王国にも、それが入って来る。
キオウ「農民か傭兵、極端な国だよな。俺がこの国生まれなら、傭兵一択だと思うけどな。」
イルネ「冒険者より、気楽ではないわよ。」
キオウ「そうだけど、俺、そんなに規律が厳しい生活は嫌じゃないけどな。」
そんな話をしてると、町が見えて来た。
無理に進むと、次の集落に着く頃には日が暮れるであろう。
今日は、この町に泊まる事にした。
宿に寄り馬を預けると、町に出てみる。
ここも、ロットラム王国の典型的な町のようだ。
数少ない店に宿屋がある程度。
ギルドは一応あるようなので、顔を出してみる。
若い冒険者ばかりで無いのが、まだ良い方なのかもしれない。
依頼も、魔獣の討伐なども普通にある。
キオウ「迷宮とか遺跡とか、そういう魔獣の巣窟になってそうなのが、ここにも無いんだな。」
それが、この国で冒険者を長年続けない理由かもしれない。
魔獣と戦う場所も森や街道沿いなどが多い。
そんな場所も、魔獣が多く出現する場所なのだが、奴らも人が何度も討伐に来れば、別の場所に移動する。
その点、迷宮などには長く居つく事が多い。
ただ、ハノガナの街の迷宮のように、魔獣を呼び出す事ができる所は、そうは多くは無いとは思うが。
ギルドでは、依頼を受けずに、そのまま飯屋に向かった。
夕食には、やや早い時間ではあったが、既に数組は先客がいた。
自分らも卓に付き、注文した物を待っていると、少しづつ席が埋まって行く。
耳を澄まして、周囲の話を聞く。
「おい、聞いたか? ハルムで傭兵を集めているみたいだぞ。」
これは、初耳だな。
「ああ、傭兵の契約期間も延長してるらしいぞ。これは、近々、何かあるんじゃないのか?」
ハルム王国が、傭兵を集めるとなると、何だ? まさか、ダラドラムド王国で動きがあるのか?
「魔獣の群れが、何カ所かに出たらしいぞ。それで、傭兵が集められているらしい。」
魔獣の群れ? それじゃあ、また魔票を使ったのか?
皆で、顔を合わせた。
キオウ「こりゃ、ヤバイかな?」
イルネ「国ではどうなっているか、それが気になるわね。」
急いで、国に戻る事とする。
それから、数日を掛けて、国境を越えてケリナの街まで戻って来た。
ここならば、いろいろと情報も集まっているはずだ。
ユドロ侯爵の別宅に向かうと、ナルルガと、意外な人物らが迎えてくれた。
ナルルガ「あら、お帰り。お使いは、無事に済んだの?」
「ああ、また会えたね。元気してた?」
そこには、フェムネが何匹かいた。
マレイナ「何で、ここにあなた達がいるの?」
「僕ら、学校に魔法、習いに来た。僕らも教える事ある。」
ナルルガ「そうよ。魔法学院に掛け合って、フェムネを留学させる事にしたの。今では、彼らも受講生よ。それに、彼らの独自の呪文があるから、それを学院で記録もしてるの。」
キオウ「そうなのか? でも、何で、ここに?」
ナルルガ「この別宅なら、敷地内に林も庭園もあるわ。それに、彼らは私の助手もしてるから、同じ所にいる方が都合がいいのよ。」
「そうそう、僕たちの家もあるし、鳥小屋もあるよ。」
ディーナ「鳥小屋? あなた達の食べ物?」
「ううん、違う。僕たちの乗り物の鳥だよ。」
マレイナ「小脱兎鳥も飼ってるの?」
「うんうん、呼び出すの大変。だから、ここで飼う事にした。」
フェムネも、ここに来たのはいいとして、国内の情報が知りたい。
道すがら、いろいろと情報を集めていたが、物騒な話題には接しなかったのだ。
ナルルガ「えっ? 魔票? そんな噂は聞いてないわよ。ハルム王国での事? それも知らないわ。そんな事があれば、学院にも報せが届くはずだから。私も、一応、関係者だから教えて貰えるはずだけど?」
「僕らも、退魔魔法習ったよ。僕らでも、呼び出された魔獣退散させられるよ。」
キオウ「本当かよ。凄いな。」
ナルルガ「ええ、フェムネにも教えたし、ユドロ侯爵の配下にも大分ね。今は、ギルドの魔術師と神官にも指導してるわ。」
キオウ「そいつは、凄えな。いろいろな所に教えて行ってんだな。」
ナルルガ「そう、人使いが荒いのよ。幾ら受講生だからって、ここまでさせるとはね。学院も侯爵もギルドも人の事を何だと思ってるのか。」
「先生、大変。だから、僕らが助手になる。」
ナルルガ「そうよ。あんた達だけが、私の味方だから。」
そうか、魔票対策が強化されているんだ。
ナルルガ「そうね。今じゃ国内の各所で、魔票や魔族への対抗策が強化されてるわ。これから、他の地方からも、様々な人材が送られて来る予定なの。特に、あの国と接している地域のね。これからも、大変なのよ。誰か残って手伝ってくれない?」
それはいいいけど、伯爵の許可を取らないとな。
イルネ「一応、伯爵には話をしてみるわ。でも、それは難しいと思うわ。」
ナルルガ「でしょうね。伯爵は、前から対策を強化しろと各地の領主に働き掛けて来たけど、それに応じた所は少なかったから。ここの侯爵も、対応は早い方だけど、私が来るまでは何もしてなかったから。」
ディーナ「緊張感が違うのよ。その点、伯爵の動きは早かったわね。」
キオウ「まあ、手を入れてた無国籍地帯で、死体が動き回ってたからな。あれも、普通の領主なら、圏外の事だから放置が当たり前かもしれないけどな。」
イルネ「今では、あそこで掘り出した魔鉱石を方々に出荷してるからね。」
えっ? そんな事まで、いつの間に?
イルネ「もう、半年以上も前からしてるわ。旧市街の結界を再構築する前からね。」
キオウ「そんな前から? 知らなかったぜ。」
フォド「あの時は、鉱夫さん達を開拓村に運んだだけですからね。採掘現場は、見に行きませんでしたから、気付かないのも当然でしょう。」
そう言えば、前に行った時よりも、更に人が増えているようだった。
ナルルガ「まあ、ハルム王国で、何か起きてるなら、しばらくすれば情報が入るでしょうね。学院にも、早急に調べるように言っておくわよ。」
イルネ「もし、ハルムだけでなく、この国でも、また騒動が起きた時に、迷宮の半妖精も動き出すんじゃないか伯爵は警戒してるわ。もしも、そんな事が起きたら、この国はまた戦乱の世に戻るかもしれない。悪い芽は、早めに摘むのがいいかもね。」
そうなれば、ロットラム王国出身の傭兵だけでなく、自分達も狩り出されるかもしれない。
この国の軍の中核は、国軍や各領主の手兵だ。
それに、傭兵や、国内の冒険者らも戦力として数えられてもいる。
自分らは、アグラム伯爵の騎士なのだ。
当然、そんな時には、真っ先に声が掛かる事であろう。
魔獣を相手にするならばいいが、それが他国の人間と戦うならば、避けたい事だ。
ハルム王国の異変が、虚報である事を願う。




