第151話「練兵場のある町」
王都ケレルドンを発ち、2日。
次の目的地が見えて来た。
イルネ「あれが、カレイドナの町のようね。」
町にしては、規模が大きく、城壁も高いように思えるが。
しかも、手前の丘には砦も築かれている。
キオウ「何だか、物々しい場所みたいだな?」
砦と町の間が、練兵場になっていて、そこで、多くの兵士らが訓練をしている。
フォド「ここは、国境に近くも無いのに、随分と、兵士らがいますね。」
イルネ「あれは、ここの国軍ではないのよ。全て傭兵よ。ここの町は、傭兵の訓練をしている場所なのよ。」
ディーナ「傭兵の訓練所?」
イルネ「ええ、この国が外貨を稼ぐ、1つの柱である傭兵を育ててるのよ。」
城門を潜り、町の中に入る。
町の中も広いが、どこか華やかさが無い。
道行く人々も、革鎧などを装備している者が多く、普通の町とは違う顔を見せている。
並ぶ店も、服屋など日用品を扱う店よりも、飯屋などが目立つ。
町の規模にしては、宿屋も少ない。
そして、武器屋や防具屋が、珍しく数軒あった。
キオウ「傭兵たちは、宿を取らないのかい?」
イルネ「多分、宿を自分達で確保するのではなく、兵舎で寝泊まりしているんでしょうね。」
それと思しき一角が、城壁の脇にある。
そこは柵で仕切られ、門には見張りも置かれている。
フォド「何かピリ付いた空気のする所ですね。」
キオウ「迷宮ほどじゃないけどな。」
馬を宿屋の前で降り、中に入る。
「おや、こんな町に旅行かね?」
イルネ「ええ、ちょっと旅して回ってたら、ここに着いたの。」
「まあ、余りおもてなしはできないけど、ゆっくりしてお行き。」
ディーナ「ええ、お世話になります。」
馬と荷を宿に預けると、町へ出た。
擦れ違う人の半数が傭兵に思える。
冒険者と傭兵、似ているようで、随分と違う。
共に、報酬目当てに働いているのは同じである。
だが、行動の自由が大きい冒険者と、雇い主の指示で動く傭兵では、その性質も違うと言われている。
冒険者は、どこか陽気で大らかな者も多い。
少し、生活にだらしない者も一部ではいるが。
傭兵らは、荒い気質の者が多いように思える。
彼らの、その仕事の主体は戦闘である。
時として、魔獣らと戦う事もあるのだが、多くの場合は、相手は雇う先の敵である人間族らが多いのだ。
この数年、ラッカムラン王国の周囲では、大きな戦争は無い。
けれど、常に、国境付近は緊張がある。
友好国同士では、それ程ではないが、例えば、ラッカムラン王国では、ダラドラムド王国との国境沿いでは、百人単位の傭兵がいるはずだ。
これが、戦時ともなれば、千人単位で集められるのだが。
町の飯屋に入ると、ちらちら周囲の話が聞こえて来る。
店員に話を聞いたりもする。
ここロットラム王国では、15歳位で冒険者になる者が多い。
そんな彼らが、2,3年程、冒険者として腕も磨き、その後に傭兵になる者も多いそうだ。
「中には、16,17の少年兵なんてのもいるのですがね。そういう子の死亡率も高いんですよ。」
そうか、冒険者は、この国では、傭兵になる為の入口でもあるのか。
国が変われば、事情も変わるのである。
そんな話を聞いていると、隣の卓にいた男の1人が話し掛けて来た。
「あんたら、傭兵に興味があるのかい?」
その男も、鎖帷子を着込んだ、30代半ば位である。
「俺は、新兵の教育を行っている者だが、傭兵に出身は問わないぜ。あんたら、冒険者は何年も経験してるみたいだから、傭兵に転向すれば、今以上に稼げるぜ。」
それは、間違い無い。
冒険者は依頼を達成できなければ、報酬を得られない。
その点、傭兵ならば、雇用されるだけで給金が出る。
しかも、基本的には、傭兵の方が報酬は多い。
それに、自分らは、馬も扱えるから、歩兵ではなく騎兵として雇ってくれるであろうし、その方が更に給金も高いはずだ。
イルネ「そうね。でも、私達は、まだ自由に活動を続けたいわ。魅力的な話だけど、お断りするわ。それに、女性の傭兵の扱いの厳しさも、聞いているから。」
「そうか、なら、そっちの兄さん達はどうだ? 雇用される堅苦しさはあるが、案外、自由もあるもんだぞ。そこは雇い主にもよるがな。そういう事も、雇われる前に確認する事だがな。規律が緩すぎるのも、いけねぇがね。」
「ああ、自分達も、どうも雇われるのはね。魔獣を追い回していた方が、気が楽さ。」
「そうか、でも、気が変わったら、傭兵の受付も、この町にはある。ここの冒険者ギルドよりも、大きな建物だから、すぐに解かるはずだ。よろしくな。」
男は、自分の卓に戻って行った。
皆で顔を合わせたが、これ以上は、傭兵の話は避けよう。
ただ、聞き耳を立てるだけだ。
傭兵は、儲かる。
だが、ここしばらくは、近隣諸国では、その需要が余り無い。
聞こえて来るのは、遥か遠い国々での紛争の話ばかりだ。
ここの傭兵も、ダラドラムド王国が動き出すような事が無ければ、故郷近くで大きな仕事が無いのだろう。
それでも、揉めている地域に、この国の傭兵らも参加しているらしい。
その数は、千数人にも達するらしい。
腹も満ちたので、宿へと戻る事とする。
辺りは、すっかりと暗くなっていた。
宿への道を歩いていると、町角に若い女性が1人2人と立っているのが目に入る。
ここの国にしては、やや派手な服装で、どれも体の線を強調した服の女性ばかりだ。
その女性らが、道行く酔った傭兵らに声を掛けている。
傭兵らは、通り過ぎる者もいれば、立ち止まって話をしている者もいる。
そして、交渉が成立したのか、腕を組みながら消えて行く。
あれは、もしかして。
イルネ「サダにキオウ、興味があったら行って来てもいいわよ。ここには、そういうお店も沢山あるみたいだから。別に、気にしないから、好きにしてね。」
「えっ? それって? もしかして?」
ディーナ「男の人だからね。それは仕方ないよね。」
キオウ「何だよ。そんなの俺は行かないからな。」
マレイナ「大丈夫。ナルルガには言わないから。」
日が暮れて、沢山の男達に向けた商売もあるそうだ。
そう言えば、明るい内は何も無かった場所に、灯りが灯されてもいる。
変な誘惑に負けないように、足早に宿へと向かった。
それでも、町角に立っていた彼女らの薄着が頭に残っていた。
興味が無いと言えば嘘になるが、そういう方面は苦手だ。
それは、キオウも同じだと思うが。
翌日、この町を出発すると、練兵所を眺めた。
今日も、百数人もの訓練を受けている者らがいる。
走り込みの後は、木剣や木杖などで、武技の腕を磨いているようだ。
その大半が、若者で、自分らよりも年下が多い。
キオウ「あいつらも、ここを出たら戦場に向かうのかな?」
フォド「そういう人もいるのでしょうね。妖精族でも傭兵になる者もいるのですが、その数は少ないです。」
イルネ「彼らが国境警備くらいで、戦場に行かされなければいいけどね。」
そんな訓練風景をしばらく見ていたが、馬を南の方角に向けた。
さて、そろそろ国に帰るか。
訓練する傭兵の卵達の気合いの声が聞こえた。




