第15話「突破」
狗毛鬼の事を考えていた。
連中は人と同じく共同生活をし、魔術師がいたように分業のような事もしている。
連中と戦った場所の先には、集落があるのだろうが、自分達でそこに到達するには技量も戦力も足りない。
迷宮の別の場所から先に進むのもありだが、折角探り始めたあの先も知りたい。
マグルを仲間に入れて、先に進んでみるのも良いかもしれない。
ギルドで、誰か他に探してみても良いのだが、組んだ事の無い連中と仕事をするのは、まだ戸惑いもある。
まずは、ギルドに行ってから考えても良いだろう。
ギルドでは、狗毛鬼絡みの依頼を探してみる。
幾つか討伐依頼が出ているので、その内の1つを受注する事にする。
同じ系統の依頼を独占する事は、ギルドのルール違反でもあるので1つだけにする。
今回は、討伐及び連中の舌を集める事になっていた。
魔獣の素材は、様々な目的にも使われる。
多分、舌を何かの薬剤の素材にするのだろう。詳しい事は解らないが。
それと、他に依頼を一緒に受ける人物がいないか探してみる。
「やあ、マグル、もし良かったら、一緒に迷宮に行かないか?」
マグル「悪い。今日は、他で約束があるんだ。」
「それは残念。まあ、またの機会にお願いするよ。」
マグル「オレは行けないけど、他に当てがあるぜ。」
マグルはそう言うと、彼の従妹を紹介してくれた。
マグル「こいつらは、ナグナとアガラ、オレの従妹で姉妹だよ。頼りにしていいぜ。」
ナグナが格闘士のレベル19、アガラが神官のレベル19だという。
今回は、彼女らを加えて依頼を受ける事になった。
格闘士は、初めて組む職業である。
彼らは、自らの身体を鍛えて接近戦を得意とした職業である。
素手で戦うのではなく、手甲や金属製の爪を腕に装着して戦う。
ナグナも、両腕に武器として3本の爪の付いた籠手を装備している。
6人で迷宮の奥、狗毛鬼を求めて行く。
行程は、何時もと同じである。
大空洞を経由し、通路に出て先を進む。
途中で少数の狗毛鬼にも遭遇したが、これは難無く撃破できた。
そして、あの空間通路に到着する。
今回は、ここで待ち伏せを受ける事は無かった。
前回確認はできなかったが、空間の先は、また幾つかに枝分かれした通路になっている。
枝分かれした通路の1つを選んで進む。
すると、大空洞のような自然の大きな空間につながっていた。
空間は広く、よく観察してみると、集落があり所々から微かに灯りが漏れている。
キオウ「ここが、連中の集落か?」
「初めて見るけど、そうらしいな。」
集落と言っても、石や木材を組み合わせた粗末な物である。
とは言え、迷宮内でそれだけの材料を集めるのも難しいのかもしれない。
集落は通路の終わりから距離があり、その手前には、狗毛鬼が数匹警戒しているようだ。
ついに、目的地に到達したようだ。
通路の出口付近から眺めると、数十匹は暮らしているようだ。
流石に数が多過ぎて、いきなり切り込むような無謀な事はできない。
一度、分岐点に戻って、別のルートを探ってみる。
通路の幾つかは、集落の別々の場所につながっている事が解かった。
集落の警戒の薄い場所から入り込み、様子を探る。
単独で行動する狗毛鬼を見付けては、音を立てずに処分する。
こんな時は、格闘士のナグナが活躍する。
狗毛鬼の口を塞ぎ、確実にその金属製の爪が仕留める。
だが、連中も甘くはない。
こちらが潜り込んだ事を察知し、反撃に向かって来た。
前後を挟まれる自分達。
前に5匹、後ろにも5匹。
幸いな事に、今回は狗毛鬼の魔術師は出て来ていない。
前方の5匹には、自分とキオウ、マレイナの3人で立ち向かう。
ナグナとアガラにはナルルガを守りつつ、後ろの5匹を頼んだ。
「2人は、ナルルガを守りながら、後ろの奴を頼む。」
ナグナ「任せて!」
アガラ「後ろは、気にしないでください。」
2人に守られたナルルガの魔法が、5匹を襲う。
相変わらず、狗毛鬼は手強い相手だ。
だが、何度目かの対戦で、こちらも慣れて来ている。
一撃の大技ではなく、手数で攻めた方が効果的だ。
奴らも攻撃をかわし防御して来るが、それを攻めの数で上回るように続ける。
ただ、戦斧での連続技は難しい。
キオウの戦槍とマレイナの片手剣の方が得意な分野だ。
手数で2人が翻弄しつつ隙を見付けては、自分が戦斧を叩き込む。
やがて1匹、そして2匹目と、止めを刺す。
あとは、同数の相手だけだ。
後ろの方でも上手くやっているようで、数を減らしていた。
楽勝ではないが、数が互角ならば押される事はない。
やがて、全ての狗毛鬼を討伐した。
だが、ここは連中の集落だ、新たな一団が立ち塞がる。
新たに、5匹の狗毛鬼が現れる。
4匹は今までの狗毛鬼だが、1匹だけ見た目の違う奴が混ざっていた。
他の狗毛鬼は灰色や茶色の毛並みなのだが、そいつは黒い毛をしていて装備も他も物とは違う。
何と鎖帷子を着込み、長剣を装備している。
キオウ「何か、毛色の違う奴がいるな。」
「ああ、こいつが、連中のリーダーなのか?」
そいつが、他の狗毛鬼に短く指示の声を出しているようだ。
2匹の狗毛鬼が、切り込んで来る。
それを援護するように迫る、黒狗毛鬼。
更に、そいつを守るように残りの2匹が脇を固める。
黒狗毛鬼の存在が、奴ら全体の動きも変える。
狗毛鬼の隙を突こうとするが、それを悉く黒狗毛鬼が潰して来る。
「こいつ、強いだけじゃない!」
マレイナ「嫌な相手だね。」
数ではこちらの方が多いが、僅かながらに押されている。
ナルルガの魔法も、接戦になっては使えない。
連続の戦いで、こちらも消耗し始めている。
「キオウ、こいつは2人で責めよう。マレイナ頼む。」
キオウ「おう、いいぜ。」
マレイナ「他は、任せて。」
ナグナ「大丈夫、あたしもいるよ。」
流石の黒狗毛鬼も、2人を相手にするのは難しいようだ。
割って他の狗毛鬼も切り掛かって来るが、リーダーを処理する方が先だ。
キオウの槍で動きを止め、自分が斧で責める。
それでも反撃は凄まじく、こちらも何か所に傷を負うが、何とか致命傷は避けている。
長期戦に持ち込まれると、こちらは不利だ。
また、増援が駆け付けて来るかもしれない。
2人の攻撃で押し始めたが、なかなか決定打が決まらない。
黒狗毛鬼も、防御に徹している。
そんな攻防が続いていたが、戦斧で長剣をはたき落とした瞬間、キオウの戦槍が黒狗毛鬼の顔面を捉える。
キオウ「やったぜ。」
「お見事、キオウ。」
黒狗毛鬼を倒すと、残りは崩れるように簡単に止めを刺せた。
黒狗毛鬼らの装備も剥ぎ取り、舌を集め、集落から撤退する事にする。
これ以上、ここに留まるのは無謀だ。
迷宮を急ぎ足で、街へ向かって後退する。
幸いに追手に襲われる事なく、また他の魔獣による妨害も、それ程には無く街へ戻る事に成功した。
だが、今回は無傷で戻れた者はいない。
「ちょっと、無謀だったかな?」
キオウ「ああ、焦ってたのかな? 俺達?」
ナルルガ「今回は、上手く行ったかもしれないけど、次はこんなのダメよ。」
マレイナ「これは、反省ね。」
少々無理をし過ぎた。