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第145話「結界、再構築」

 ハノガナの街の旧市街。

そこが、放置されてから、既に150年近くが過ぎている。

建物などは傷んではいるが、そのほとんどが石造りなので、手入れすればまた使えるようになる。

それよりも、崩壊した結界で、その居住地区を保護する必要がある。

その魔法陣を敷く為に、専門家をアグラム伯爵は呼び寄せていた。

その人物が、今、街に到着したようだ。


自分達も、伯爵の城館に集まり、その人が来るのを待っていた。

すると、誰か、馬に跨った人物がやって来た。

見た目は、魔導師の三角帽にマントを羽織っている。

その騎乗の人物が、敷地内に入って来ると、城館の玄関前で待ち構える自分らの目の前で止まった。

いや、この人が乗る馬は、少し小さいな。

これは、馬ではなく、雄馬と雌ロバを掛け合わせたケッティのようだ。


「何? みんなで揃ってお出迎えなの? ありがたいわね。」

キオウ「ああ、そうさ。そうしないと、お前、また怒るだろう? ナルルガ。」

「そうね。怪我もしていないみたいで、安心したわ。元気なようね、キオウ。」

ケッティに乗っていたのは、ナルルガだった。

ナルルガ「みんな、ただいま。」

キオウ「おい、そのケッティは何だよ? 馬じゃないのか?

ナルルガ「いいでしょ。大人しくて、頭もいいのよ。キオウって名前を付けたんだけど、誰かさんの数倍も優秀ね。」

キオウ「何で、そんなちっこい馬に、俺の名前を付けたんだよ。」

ナルルガ「嘘よ。この子は、オルタナって名前なのよ。」

マレイナ「名前まで付けてるって事は、その子はナルルガが買ったの?」

ナルルガ「そうよ。とってもいい子だったから、ついね。」

キオウ「でも、そんなの買っても、お前、使い道ないだろ?」

ナルルガ「いいの。街の郊外とかに行く時に乗せて貰ったりしてるから。」


結界を再構築する為に、伯爵が呼び寄せたのはナルルガだった。

丁度、ケリナ魔法学院での上位講座が終了していたのだ。

彼女は、更に上の特級講座も受ける予定なのだが、その講座が始まるにはしばらく時間があるので、都合が良かった。

ナルルガとは、文を交わしていたから、この事は、数週間前には知っていた事ではあったが。

ナルルガは、アグラム伯爵に挨拶と、学院で受講できた事、更に上の講義を受けられる事などの礼を言っていた。

アグラム「いや、今度は、旧市街の魔法陣の事も任せているのだ。当然の事だよ。」

ナルルガ「お期待に沿えるよう、働きます。」

今回、ナルルガの滞在先も、伯爵の城館になる。

キオウ「何だよ、家に来ないのかよ。」

ナルルガ「だって、元に使ってた部屋は、今はディーナが使ってるでしょ。」

キオウ「なら、俺の部屋に来いよ。」

ナルルガ「何言ってんだか。あんたが納屋に行くならそれでもいいけどね。」


そして、ナルルガとフェムネを引き合わせた。

ナルルガ「あなた達がフェムネね。よろしく。」

「おう、おう、よろしく。僕らも魔術師だから、同じだね。」

ナルルガ「フェムネは、どの位の呪文が使えるの?」

イルネ「中級は普通に使えて、上級も一部はいけるわよ。」

ナルルガ「思ったより、凄いわね。なら、新しい呪文を教えてあげようか。」

「教えて、教えて。呪文、知りたい。」

ナルルガ「そこまで、魔法が得意なら、魔法陣の手伝いもできそうね。」

魔法陣の再構築に、フェムネらも参加する事になった。

「僕らもやるよ。結界も得意ね。」


 数日後、旧市街への魔法陣再構築が始まった。

ナルルガが責任者となり、アデト魔法学園から派遣された者や冒険者らと、フェムネがそれをサポートする。

以前の迷宮内の作業よりも短時間で済み、負担も少ないはずだ。

初日は地上部分、2日目は地下部分、3日目に仕上げとなるが、昼間の間だけの作業で終わるので、夜通しでするような大掛かりな物ではない。

それを自分らや、冒険者が警備する。

旧市街であれば、さほどに強力な魔獣は出現しないだろうが、警戒も必要なのだ。

加工済みの魔鉱石を配置すると、呪文の詠唱が始まった。

呪文が蓄積して行くと、魔鉱石の輝きが増して行く。


これと同じ魔法陣による結界が、各都市には施されており、街に魔獣が侵入しないように防御しているのだ。

当然、その結界は、大きな都市ほど厳重に構築されている。

旧市街では、中規模の町程度の結界が張られるようである。

ナルルガや他の魔術師に混ざって、フェムネも詠唱している。

あの舌足らずなフェムネも、呪文は淀みなく発声しているのだ。

今は、廃墟と化した旧市街に呪文が響いて行く。

再び、ここに人々の活気を呼び戻す為に。


朝から始まった構築作業は、夕方には終わった。

魔術師らは疲れを見せていたが、ナルルガやフェムネには、まだ余裕があるようだ。

ナルルガ「本当、フェムネ達の魔力量は凄いわね。体の大きさなんて関係ないわ。」

「そう、僕ら、魔法得意。だから、この位じゃ疲れない。」

「羨ましいわ。フェムネが。」

魔術師らから、溜息が漏れた。

初日は、魔獣の出現も無く、作業は終了した。


 翌日は、地下での作業である。

地下は、下水道などではあるが、そこから街中へ魔獣が湧き出て来ないように、ここにも結界を設置する必要があるのだ。

そうしないと、突然、足元から魔獣がなんて事になりかねない。

地下の要所要所に魔術師らを数人立て、そこで詠唱させる。

昨日の地上の作業よりも、魔獣が出て来る可能性が高いはずだ。

その為、護衛の冒険者の数も増やしてあり、更には、伯爵も手兵を派遣している。

今日の作業が、今回の山場と言えるであろう。

参加者の顔も緊張している。

フェムネ以外は。

「みんな、頑張る。僕らも頑張る。」

陽気なフェムネがいると、その場が和む。


地下での作業は、地上よりも難易度が高い。

結界を張る為の魔鉱石の配置場所も、全体的に見渡せる訳ではない。

十数か所に分かれた魔術師らが、呪文を唱える。

それを各護衛が直接に守り、また地下の交差路にも予め警戒部隊を配置し、魔獣の流入を阻止する事になっている。

さて、作業は上手く行くのだろうか?

自分らは、ナルルガの護衛に付いている。

ナルルガの詠唱が目の前で続き、離れた場所から、魔導師やフェムネの呪文が小さく聞こえて来る。

遠くの詠唱は、地下道に反響して、様々な方向から聞こえて来るように思える。

そして、交差路に魔獣が現れたのか、戦闘の音もたまに聞こえて来た。


交差路に配置されている冒険者らが全て防いでくれたのか、自分らの持ち場に魔獣が現れる事は無かった。

やがて、朝から始まった地下での作業も終わりを迎えた。

ナルルガ「ご苦労様。でも、今回は出番無しで残念だったわね。」

キオウ「物足りないなんてのは、失礼だけど、無事に終わって良かったよ。」

マレイナ「フェムネも、大丈夫だったかな?」

イルネ「彼らなら、大丈夫でしょう。下手な冒険者よりもしっかりしてるから。」

後は、明日の仕上げの作業だけである。


 次の日、結界を張った場所へまた向かう。

今日は、張った結界に不具合が無いのか調べ、また結界の場所を建物や地下の下水などを修復する職人らに教えて行く。

ナルルガ「この結界の魔鉱石に何かあると、効果を失うから注意してね。」

結界は、何重かにしてあるので、そう簡単に破れる事は無いが、念の為、建築に携わる者らにも認識させているのだ。

この確認は数時間で終わり、昼過ぎには全ての作業が終わった。

自分らが関わるのは、ここまでである。

これからは、建築関係の者らの作業である。

結界内で作業するから、魔獣からの妨害も心配ない。


ナルルガ「それじゃあ、呪文を教えましょうか?」

「やったー。よろしく、よろしく。」

ナルルガ「じゃあ、苦手そうな上級の攻撃呪文から教えるわよ。」

「うんうん、それいい。僕ら、そんな魔法、よく知らない。」

ナルルガが、フェムネに呪文を教えるようだ。

自分らも、その様子を眺めていた。

いや見るだけでなく、修得できる物なら、覚えておこう。

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