第143話「新事業、開始」
半妖精の事を聞き出す為に、あの光る天井のある神殿にネアンに来て貰った。
ネアン「皆さん、お元気でしたか? あら? ナルルガさんは、今日はいないのですね。そして、初めてお目に掛かる方が。」
ディーナ「初めまして。私は、ディーナ。マレイナの姉です。」
互いに、近況などを説明した。
ネアン以外にも、4人の妖戦鬼も後ろにいるが、彼らにも敵対する気配は無く、武器に手を伸ばしているような事は無い。
ネアン「そうでしたか、ナルルガさんは魔法を習いに別の街に。それで、半妖精の事でしたね?」
ネアンは、仲間の妖戦鬼を振り替えると、話し始めた。
ネアン「彼ラ、半妖精、知リタイ、話アルカ?」
「半妖精、我ラ、敵、話アル。彼ラニ、ソレ教エル。」
ネアン「仲間らも、別に話しても良いそうです。彼らの何が知りたいので?」
イルネ「そうね。まず、あいつらは、私達と対立する国とつながっているのよ。それで、魔族や魔獣を呼び出す知識をその国に伝えてしまった。もしも、あいつらが、その国と同時に襲って来るとしたら、地上は大変な事になるわ。だから、少しでも、半妖精の事が知りたいの。」
ネアン「そうでしたか。半妖精は、元は地上から逃げ込んで来た者の末裔。彼らの出自もご存知なのですね?」
マレイナ「うん、いろいろと解かって来たよ。」
ネアン「ええ、彼らとは、昔はそれ程に仲が悪い訳でもありませんでした。魔獣と呼ばれる物は、昔から地上の方にとっては脅威だったでしょう。私達も、全ての魔獣と友好的な関係がある訳ではありません。ですから、関係は、地上の方々とそれ程に変わらない所も多いです。ですから、彼らが地下に来始めた頃は、それなりの交流もあったのですが。」
ネアン「最初は、緩やかな交わりでした。互いに、地下で生きる者として、友好的に関わっていました。すると、自然と互いを伴侶とする者も現れたのです。ですが、その間に生まれた子らが、強力な魔力を持っていると彼らが知ると、積極的に同胞を求めるようになったのです。」
マレイナ「最初は、上手く行ってたんだね。」
ネアン「ええ、それは普通に。ですが、彼らの指導者らの考え方は、友好関係を築くのが目的では無かったのです。彼らが、同胞の若い女性を攫い始めるのに、さほどの時間は掛かりませんでした。でも、平民の方々は、変わらず友好的だったのですよ。でも、上の者らの考えは違ったのです。」
詳細は、聞かない。
だが、過去から現在に至るまで、迷宮の一角で何が起きたかは、ある程度の想像はできる。
その結果、半妖精という種族が誕生し、今も連中は存続している。
イルネ「それで、あの連中は、どの位の数がいると思う? そんなに数は多くはないと思うけど。」
ネアン「半妖精、ドノクライ、イル?」
「半妖精、400ハ、イル。」
ネアン「400人はいるようですね。」
イルネ「なら、戦いに参加できるのは、半数以下かしら?」
ネアン「戦士、何人、イルカ?」
「戦士、100人ハ、イル。多クテ、150人。」
イルネ「最大で150人くらいはいるのね。」
こちらが予想した通りらしい。
ネアン「あの、もしも、彼らと戦う事があるならば、私達の仲間は解放してくれませんか? 捕らえられているのは、全て女なので。」
イルネ「約束はできないけど、努力してみるわ。でも、もしも、私達があいつらと戦うとしたら、それは最悪の時だから。」
ネアン「その時には、よろしくお願いします。」
イルネ「それと、あいつらは、どんな魔法を使うか解かる?」
ネアン「そうですね。皆さんが使う、攻撃呪文、防御呪文、支援呪文、回復呪文などは普通に使えます。あなた方の魔術師並には使えるはずです。」
イルネ「そうなのね。今の段階で、冒険者があいつらと戦った記録は無いのよ。少なくとも、生還した者達とはね。」
ネアン「でしたら、呪文の不意打ちや岩を崩すなど、彼らがよく使う手なので、注意してください。」
マレイナ「そうなんだ。気を付けるよ。」
ネアンには、いろいろと半妖精の事を聞いた。
戦いの事などは、彼女は詳しくはないので、仲間の人が教えてくれた。
あちらの戦力は、実際に戦闘に参加できるのは150程らしい。
それだけなら、伯爵の手兵に冒険者らを加えれば、何とか対処できるだろう。
けれど、奴らは、魔法が得意だ。
こちらの中級以上の魔術師と同程度と考えて良いのだろう。
その辺りの対策を、充分に行わなければならなくなるであろう。
今すぐにではないのだが。
ネアンの話は、そのままアグラム伯爵に伝えた。
アグラム「そうか、奴らの戦力は、予想した通りか。その程度なら、何とかなりそうだな。諸君にも、あいつらとの戦いに参加して貰うかもしれない。その時は、よろしく頼むぞ。それと、1つ、また頼みがあるのだが。」
伯爵から、新たな指示が出された。
それは、旧市街の再開発についてだった。
アグラム「あの辺りを放置したままというのは、惜しい話だ。将来的には、旧市街の全てをまた居住区として使いたい。だが、その前段階として、一部だけでも近い内に使えるようにしたいのだ。」
伯爵の要望では、旧市街の中に、最低でも500人程度は暮らせる区画を作りたいそうだ。
規模的には、小さめの町程度の物だ。
その候補地を数週間の以内に、見付けるようにという事だ。
アグラム「君達の目で、魔獣から守り易く、また水害からも強く、新市街との連絡が良い場所を選んでくれ。魔獣避けは、場所が決まり次第、また結界で守る事になるだろう。よろしく頼む。」
翌日から、旧市街に向かう日々が続いた。
旧市街の各所には、迷宮への入口もある。
できれば、そんな場所は避けたいのだが、人が住むからには、下水道なども使えなければならないだろう。
かつての下水道もまだ残っているのだが、そこは迷宮の一部にもなっている。
地上部分だけでなく、地下にも結界が必要になるのかもしれない。
数日後、再開発に向きそうな区画を決めた。
そこならば、新旧市街をつなぐ橋も近く、問題も無いであろう。
アグラム「そうか、見付かったか。では、今度は、結界の為に開拓村近くの鉱山で、魔鉱石を掘って来て貰おう。何、今回は、迷宮内の拠点程に鉱石の数は必要は無い。」
数日後、鉱夫らを率いて、無国籍地域へと向かう。
キオウ「何か、伯爵も急かして来るな。こんなに次々と、指示を出して来るなんて。」
「そうだな。旧市街の再開発なんて、突然過ぎるしな。」
イルネ「まあ、長年放置してたけど、再利用する気になったんでしょうね。今回ばかりは、何で急に思い付いたのかも知らないけど。」
マレイナ「イルネも聞いてなかったの?」
イルネ「ええ、いつもならば、前々から何かしら匂わせて来るんだけど、今回は何も無かったのよ。」
約1週間、採掘には時間が掛かる。
だが、鉱夫には、採掘という仕事があるが、自分らには、ここまで彼らを連れて来ると、他にやる事も無い。
なので、周囲の警戒ついでに、森の中で狩りをして時間を潰す。
何か獲れれば、食材も増やせる。
成果はなかなかの物で、鉱夫や開拓民らにも分けられる程に獲れた。
マレイナ「ねえ、ここの辺も、森は深いよね。」
「まあ、そうだな。でも、何でそんな事を?」
マレイナ「ここで、これ、使ってみない?」
マレイナが手にしているのは、あのフェムネに貰った笛だった。
マレイナ「試しに、吹いてみるね。」
笛を何度か吹いて、反応を待つ。
しばらくすると、森の下生えががさがさとすると、そこにお馴染の姿があった。
「何? 誰? あんた達? 呼んだ? 間違い無い?」
そこには、あのフェムネが2匹、姿を現わしていた。




