第142話「半妖精、調査」
迷宮に長年住み着いている半妖精。
彼らは、かつて、ラッカムラン王国のある場所にあったワイエン王国の末裔である。
その末裔が、妖戦鬼と混血し、今の彼らに至る。
ワイエン王国は、ラッカムラン王国の今のやや西寄りから中央部に掛けてあった国だ。
その国が、滅びたのは約250年前。
半妖精らが誕生したのは、約200年前なので、彼らの第一世代がまだ生きている可能性もある。
半妖精も、300年以上は寿命があるのだ。
ちなみに、ケルアンが無面石に、その意識を移したのは、約300年程前の事らしい。
ケルアンは、ワイエン王国の滅亡までは知らなかったが、その末期を生きた人物である。
意識を移した時のケルアンは、100歳くらいだったようだ。
アグラム伯爵は、半妖精の事を探るように各方面に命じていた。
自身の配下、冒険者ギルドにアデト魔法学園など。
サダら西方の炎風らも動員し、更には、彼らに騎士としての資質を成長させようとしていた。
アグラム「今、直ぐに、迷宮に潜む奴らをどうこうするつもりは無い。だが、彼らの事は、不明な点がまだ多過ぎる。少なくとも、その生息範囲、奴らの総数や戦力は知っておきたい。」
半妖精の正体も、西方の炎風が偶然に接触しなければ、解らなかったかもしれない。
それまでは、少しばかり毛色が違う魔獣程度の認識しかなかったのだから。
ただ、冒険者らの間では、奴らの出没する地域では、行方不明になる仲間がたまに出ると噂がされていた。
直接、奴らが関わっているのかまでは、まだ確定はしてはいない。
けれど、何かしらの関係があると見て、よいのであろう。
アグラム「今にして思えば、西方の炎風が発見した王家の盾の紛失に、奴らが関わっていたのかもしれん。あれを奴らが、回収していなかったのは幸いだったが。」
その他、たまに起きる迷宮内での不可解な事に、奴らが関係しているのかもしれない。
時たまある、魔獣の大発生も、奴らが魔族を封印した魔法陣を操作しての事なのではないのか?
アグラム「最悪の事態は、奴らが地下で蜂起し、それに連動してダラドラムド王国が何かを仕掛けて来る事だ。その予兆が見えるなら、地下の連中へ本格的に介入しなければならないだろう。」
一地方の問題どころではなくなる可能性があるので、その前に奴らが敵対するならば、徹底的に叩き潰すだけだ。
伯爵に命じられた半妖精の事を様々、迷宮で調べる日々が続いた。
奴らに接触しないように、それを探るのはなかなかに骨が折れる。
奴らと思しき相手を、マレイナが感知したら引き返すを何十と繰り返した。
繰り返している内に、おおよその奴らの活動圏が見えて来る。
けれど、それを完全に把握して奴らを攻撃したとしても、いざとなると、迷宮の深層の更に奥に逃げ込むかもしれない。
そこは、あいつらにとっても、危険な場所ではあろうが、避難場所の1つは作っている事だろう。
それを作る時間は、充分にあったはずなのだから。
マレイナ「ダメ。また、この先にもあいつららしい反応があるよ。」
「そうか、じゃあ、さっきの横の洞窟まで引き返そう。そしたら、あそこの周辺で、また鈴を鳴らしてみよう。」
今も、半妖精らしき反応を前方に感知したので、手前にあった枝道まで引き返す事にする。
奴らの反応は、他の魔獣とは違う。
マレイナも、感知した魔獣の種類までは判断はできない。
だが、多くの魔獣の反応は、こちらに気付かないか、気付いて一気に距離を縮めて来るかのどちらかなのだ。
しかし、それが半妖精ともなると、付かず離れずに一定の距離を取りながら、こちらの観察をしてから、対応を決めている。
また、奴らも、その生誕に関わっているからか、妖戦鬼とは仲が悪いので、生活圏が重なったり隣接する事は無い。
半妖精は、魔獣ではないし、敵も多いのだ。
道を引き返し、また、別のルートの先を探る。
どうやらここは、先程、引き返した場所とは、別の方角につながっているようだ。
そして、途中で魔鈴を使うと、隠し扉を見付けた。
その後も、何度か隠し扉を通り抜けた。
キオウ「この辺も、どこかへの近道につながってるみたいだな。」
フォド「そうですね。どこに向かっているかは、今の段階ではさっぱり解りませんが。」
キオウ「どうせなら、金目の物がある場所につながっていてくれよ。」
ディーナ「そうね。今日は、まだ何匹か魔獣を倒した程度だから、何か稼ぐ物でも見付けないと。」
マレイナ「待って、何か先にいるよ。」
マレイナの警告を聞くまでもない。
何かが戦っているようで、武器が激しくぶつかる音が聞こえて来た。
他の冒険者が、魔獣と戦っているのだろうか?
だとしたら、余り近付くのは、マナー違反ではあるが。
でも、念の為に、少しばかり近付いて、様子を見る。
先の方から、戦いの音だけでなく、悪態のような物も聞こえて来る。
これは、おや? 共通語に近いが独特の訛りがある。
どうやら、半妖精が、何かと戦っているに違いない。
相手は、何だ? んっ? これも意味が解かる言葉が聞こえた。
相手は、妖戦鬼のようだ。
半妖精らにとって、形の上では妖戦鬼は親ではあるが、奴らは妖戦鬼の女性を攫って数を増やした存在だ。
そのいがみ合いは、今も続いているようだ。
キオウ「どうする?」
イルネ「そうね。戦いが終わったら、確認してみましょうか?」
双方の数は、多くはないようだ。
10分程すると、戦闘の音は止んだ。
それから、しばらく、マレイナが何も感知しなくなるまで、待つ。
戦闘後10分、ようやく前方の気配が消えた。
では、確かめてみるか。
戦闘のあった場所を調べてみた。
そこには、半妖精が4人、切り殺されていた。
複数の方向から切られた痕があったので、妖戦鬼の方が数が多かったようだ。
それでも、妖戦鬼側も痛手を負ったようで、血液の流れた跡も残っていた。
半妖精の遺体を調べてみる。
武器は、妖戦鬼が持って行ったのか残されてはいない。
持ち物はと見ると、魔鈴を持っていたので頂いて行く事とする。
そう言えば、半妖精が魔鈴を使っているのが確認されたのは、これが初めてだ。
今までの形跡から、使っていると予想はしていたが、今回、こいつらが持っていたので、それを確かめられたのだ。
マレイナ「こっちも、持ってるのを気付かれないようにしなきゃ。」
ディーナ「でも、今では、それなりの冒険者が持って使ってるから、あいつらも、もう知ってるんじゃないの?」
もし、そうなら、鈴を調整して、前の鈴が使えなくする事もできるのか?
イルネ「それは無いと思うわ。だって、自由に音色を変えられるなら、魔獣も使い続けてる事は無いわよ。魔獣が使い始めたら、変えるでしょうけど、そのままにしてるから。」
それも、そうか。
魔獣まで使っているのに、いつまでも合鍵を持たせたままにしないか。
マレイナ「ねえ、妖戦鬼が半妖精を敵視してるなら、ネアンにも半妖精の事を聞いてみない? もしかしたら、何か知ってるかもよ。」
イルネ「それはあるわね。妖戦鬼なら、半妖精に義理も無いでしょうから、知っている事があれば教えてくれるでしょうね。」
そうだな、彼女らならば、半妖精に何の遠慮も無いだろう。
久し振りに、彼女に会いに行くか。
不気味に明るい天井のある神殿に久し振りに向かった。
合図の石を、妖戦鬼のテリトリーの入口に置いておく。
それから、数時間、迷宮の奥へと入り、また神殿の所に引き返す。
すると、懐かしい彼女の姿があった。
ネアン「皆さん、お久しぶりです。」




