冒険者稼業 ～金を稼がにゃ喰えはせず、武器１つ体１つの冒険放浪人物語～

第５章・騎士苦闘編

第１４０話「廃品置き場」

　迷宮の中、地図を頼りに進んでいたが、表記の無い隠し扉を見付けた。

その石壁の中を順番に、仲間らがすり抜けて行く。

最後に、自分が潜った。

洞窟の壁も石壁も、鈴を鳴らし、それに共鳴し光っている間だけ通り抜けができる。

目には、壁があるように見えるが、光っている時だけその存在が無くなり通る事ができる。

その瞬間は、何とも言えない気分だ。

心の中では、違和感を覚えながら通り過ぎる。

それを何度繰り返しても、慣れはしない。

その感覚も、個人差はあるようだが。

マレイナやイルネ、それにフォドは、余り抵抗を感じていないようだが、自分ら残りの３人は変な気がする。

壁を抜けた先は、明るくなっていた。

そこは、白い光で溢れているのだ。

ここも部屋のようになっているが、前の２ヶ所に比べると大きい。

３０ｍ四方はありそうだ。

そして、光は五角形の魔法陣の柱となり、そいつを閉じ込めていた。

身長は３ｍ程で、やや大型だ。

翼や角など、魔族の特徴を持つが、今まで戦った魔族とは別の奴だ。

その頭は、山羊を思わせる。

そして、何故か、その体の何カ所かが切り取られている。

片方の翼も半分程で無くなっており、手足も片方が欠損している。

そんな魔族が、魔法陣の光の中に浮いている。

フォド「何でしょうね、この魔族は？」

キオウ「半妖精らが倒した奴をここに入れてるのか？」

ディーナ「そんなの何の為に？」

イルネ「魔族の体から、何かを作り出しているのかしら？　でも、この魔族は最近の物なのかどうか。」

「あの魔獣を呼び出した時の首みたいに、何かに使っているのか？」

フォド「魔族も、そのまま以外にも使い道があるようですね。他にも利用方法があるのでしょうか？」

ここの部屋には、魔族を閉じ込めた魔法陣しかないようだ。

最後に残った分かれ道の先へと向かう。

そこも、扉で仕切られた小部屋だ。

ここでも、魔鈴を鳴らすと、奥の壁が反応する。

その壁を通り抜けた先には、また魔法陣があった。

そこに、閉じ込められていたのは、見覚えのある奴だった。

体の特徴からすると、黒の魔人のようである。

大きさ、体の色なども、何度か遭遇した相手だ。

ディーナ「こいつには、ラドガ渓谷でお世話になったから、よく覚えてるわ。」

よく知った魔族、だが、ここに封印されている奴の頭が無くなっていた。

何かで切り取られたのであろうか？

キオウ「こいつの頭が、イナール大森林で退魔師が魔獣を呼び出すのに使っていた奴か？」

フォド「その可能性があるでしょうね。先程の切り刻まれた魔族もそうでしたが、何かしらの儀式に魔族の体は使われているようですね。」

ディーナ「そんな魔族の体を元にした魔道具は、幾つもあるって事？」

フォド「先程の魔族の切り取られた体からすると、３つや４つは最低でもあるのかもしれません。私達が見た以上に、沢山の魔族が既に利用されているのかもしれませんが。」

「どうする？　こいつらが生きているのかは解らないが、さっきのも含めて確実に仕留めておいた方がいいのか？」

イルネ「そうね。これ以上に、悪用されないように、処分しましょう。」

フォドとイルネで魔法陣を調べた。

フォド「解除だけなら、我々でもできそうです。ですが、再度、封印しろと言われたら、ナルルガさんでないと無理でしょうね。」

フォドが、陣を解除する作業を始めた。

それを見守りつつ、戦闘準備を整える。

魔族に同情するつもりはないが、利用されるくらいなら引導を渡してやろう。

フォドが魔法陣を構成する魔石の１つを外した。

その石が光を失うと、魔法陣の光の壁は消えた。

残った４つの石はまだ光ったままだが、前よりも明るさを失っていた。

頭を失っている黒の魔人の体が、ゆっくりと部屋の床に降りて行く。

そして、そいつは床の上に直立した。

頭は失っているが、こいつはまだ、こんな姿になりながらも生きていたのだ。

けれど、こいつは頭を失い、もう魔族も魔獣も呼び出せはしないようだ。

ほぼ抵抗も無く、そいつは自分らに切られた。

僅かに体の動きを見せたが、武器による攻撃を避ける事も防ぐ事もできないようだ。

なすがままに切られた魔族、初めてこいつらに同情をした。

切られ、力なく床に倒れ込んだ奴は、二度と動く事も無かった。

後味の良くない戦いであった。

魔族の体を呪文で燃やし尽くす。

だが、もう１匹、処分が必要な魔族がいる。

先程の魔法陣のある部屋へと引き返した。

　そいつも、まだ、魔方陣の中、身じろぎもせずに光の中に浮いている。

初めて見た魔族、こいつは、どんな力があるのだろうか？

こいつは、あの紫の魔人のように会話ができるのか？

また、フォドに魔方陣の解除を頼んだ。

フォドが作業を始め、その横で自分らは戦闘に備えた。

魔法陣の一角を崩すと、陣はその役目を終える。

今度の魔族は、床に降り立つと、片方の足が膝から先がないので片膝を付くよう姿勢になった。

そこへ武器で切り付けようとした時、奴が話し始めた。

低く、部屋に響くような声が、山羊のような口から出ている。

「お前たちは、人か？」

思わず、仲間らの動きが止まった。

キオウ「ああ、そうだよ。」

「そうか、ここも、また人が来るようになったのか。」

イルネ「あなたを閉じ込めたのは、半妖精なの？」

「半妖精？　そうだな、人と妖精の交雑種だな。」

フォド「あいつらを妖精と呼ぶのには、少々抵抗がありますね。でも、彼らも、確かに元は妖精だったようですから。」

イルネ「なら、何故、ここにあいつらはあなたを？」

「我らの体は、魔力を秘めておる。それを奴らは道具に作り変えるのだ。我も、それで体の一部を失った。」

フォド「あなた方は、体を再生できるのでは？」

「時間と魔力を使えば、可能だ。だが、こうして眠らされてしまうと、それができぬ。」

魔法陣の中で、魔族は眠っているのか。

なら、やはり、迷宮の深層にいた魔族らは、全て眠っているのだろうな。

それをもし、半妖精が使えるなら、それはとても脅威になるだろう。

けれど、それを使った形跡は、あそこには無かった。

今の半妖精では、あそこまで辿り着けないのかもしれない。

でも、もしガノ山から降りるルートを見付けられたら。

イルネ「あなた方の体から、どんな道具を作っているの？」

「どうであろう？　知識さえあれば、武器でも防具でも、或いは道具でも、様々にできよう。」

フォド「魔獣を呼び出す道具にでも、ですか？」

「そうだな。それも可能であろう。我らには、元からある力故。」

イルネ「どんな魔獣、それと魔族が呼び出せるの？　その道具を使えば？」

「それは、元にした魔の力による。より強力な物は、より強きモノを呼ぶ事ができる。」

「あんたなら、どんな魔獣が呼び出せるんだい？」

「そうだな、そなたらが牛頭巨人と呼ぶ、我らの家畜程度ならば造作もない。」

家畜？　あの牛頭巨人がか？

となると、あれを何体も呼び出せるのか？

こいつは、予想以上に危険な奴なんじゃないのか？

「どうやら、あんたを見逃すと、面倒な事になりそうだな。」

「それは仕方ない。我らとこの世界のモノらは、戦うが運命。」

キオウ「万全ではないのが、残念だけどな。」

「仕方なし、それも我が運命。」

奴も翼で飛び上がろうとしたが、片方の翼が半分しかなく上手くはできないそうだ。

傷を負った相手ではあるが、完全な状態では勝てないかもしれない。

それでも、残った片腕で、こちらの攻撃を何度も弾き返し、逆にその爪を繰り出して来る。

だが、奴の動く範囲は限られている。

「こうも体を切り刻まれては、身動きもままならぬ。口惜しき事よ。だが、お前らを恨みはせんぞ。この恨み、我をここに眠らせた輩に向けてやるわ。」

抵抗虚しく、魔族はイルネに胸を貫かれた。

「ふむ、長き眠りの果てに、我も無に帰すか。礼を言うぞ、お前たち。」

魔族は崩れるようにして倒れた。

キオウ「くそっ、半妖精に関わると、胸糞悪い事ばかりだな。魔族が哀れだって初めて思ったよ。」

フォド「この迷宮で生き残る為には、何でも利用して来たのでしょうね。この魔族達も、己自身さえも。」

イルネ「ワイエン王国との決着も、いつか付けるべきかもしれないわ。」

マレイナ「そうだね。あいつらが地上を諦めない限りは。」

魔族の遺骸は、再利用されないように処分した。

これで、地図に書かれていた場所の全てを見て回った事になる。

まだ、この奥に隠し扉もあるであろう。

だが、それは、自力で調べて行くしかない。

今日は、これで街へ戻る事とする。

半妖精に追い掛けられないように用心しながら。