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第14話「深みを目指す」

 久し振りにハノガナの街で依頼を受ける事にした。

キオウ「どうせなら、もっと奥に進もうぜ。」

「そうだな、もっと活動範囲を広げてみても、いいかもしれない。」

ナルルガ「誰かさんが無理して、怪我をしなけりゃいいけど。」

キオウ「それを言うなよ。」

ナルルガ「また、温泉で傷を治すような事はならないでよね。」

今までで、もっとも深く潜ったのは、毒吐きマダラヘビのいた空洞だろう。

今回は、空洞を探り、更なる地下を目指そうという事になった。

依頼の難易度が上がる事を想定し、防具の強化を行った。

金属製の胸甲、籠手、脛当てなどを新調して挑む事にした。

新調で15ゴールド、つまり1500シルバーの出費となった。

また、依頼を頑張らねば。


まずは、あの大空洞を目指す。

「この先で、枝分かれした通路が幾つかあるらしい。」

キオウ「マグルも、そう言ってたな。その先に、まずは行くか。」

毒吐きマダラヘビが通路に使う広い物もあるので、比較的狭い人が通れる程度の分かれ道を探る事にする。

空洞に到達し探りながら進むが、運が良いのかマダラヘビには遭遇せずに、分かれ道まで辿り着けた。

分かれ道を幾つか見付けたが、その中でも狭い通路を選びそこを進む。

通路は、やがて緩やかな下り道となった。

そこを自分が先頭で、マレイナ、ナルルガ、キオウの順に一列になって進む。

数百mは進んだだろうか、古びた石の回廊に出た。


回廊が左右に伸びて行く。

気配を探るが、どちらにも何も感じられない。

勘で右側の通路を進む。

通路は幅3m程で、何時の時代にか人の手により作られたようだ。

多少痛んだ所もあるが、今も問題無く使える。

床には薄っすらと土埃が溜まっているが、何かが移動している痕跡もある。

人間かそれに近い足跡、何かの獣や虫などが這ったような跡も残っている。

今も現役の道と言えるだろう。


進んで行くと、右に通路は曲がった。

その先を選んで進んでみる。

しばらく進むと、小部屋のような広がりに出る。

だが、中には何も無い。

冒険者が休憩場所に使ったのか、焚火や食べ残しのような物が散らばってはいたが、特に目を惹く物は無い。

壁や床も調べてみたが、何も隠された仕組みなども無い。

自分達もここで軽く休憩した後に、枝分かれした所まで戻る事にした。


枝分かれした場所に来て、今度は反対側の左側の通路の先を進む。

そのまま警戒しながら通路を進むと、左右に先程の小部屋のような物が幾つか並んでいる。

その1つ1つを探りながら進む。

部屋の全てではないが、様々な物が置かれている。

何かの調理道具であったり、食べかけの素材、木材やら石材。

何かが生活している痕跡であろうか?

ただ、こんな所に人間が住んでいる事はないだろう。

通路の向かい側から何かが近付いて来る気配があるので、小部屋の1つに身を隠す。

何か人型の物が数匹、向かって来るようだ。

観察してみると、二足で立ち上がったそれは、毛深く犬のような口と鼻先の尖った顔立ちで革鎧を着込み武器も携帯している。

狗頭くとうのそれは狗毛鬼こうもうおにと呼ばれる魔獣の仲間である。

大きさは差ほどに人とは変わらず、知性も並の魔獣よりもある。

毛深く短い尾もあるが、人間とほぼ変わらない生き物であるが、人間らとは仲が良い訳ではない。

集団生活をしていて、人里には滅多に現れないが迷宮や岩山等に小規模な集落を形成している事が多い。

地下迷宮の比較的浅いこの場所にいるのは、近くに集落があるのではなく、何か群れから離れて行動しているのだろう。

もしかしたら、この辺りは彼らが警戒線を張っている場所なのかもしれない。

〇〇鬼という名称の魔獣が多いが、これは人型の害をなす魔獣の事を「鬼」と呼ぶようになっているからだ。


狗毛鬼の小集団が、自分達が隠れている小部屋の少し手前の通路で止まる。

臭いを嗅いだりして、周囲を警戒しているようだ。

面倒になる前に、先制攻撃を加える事にする。

ナルルガの風の刃と、マレイナの短弓が唸る。

自分も石塊を放ち、キオウも風の刃を放つ。

中央に立つ狗毛鬼に命中するが、咄嗟に連中も小部屋へと隠れる。

キオウ「くそっ、逃げ込んだぞ。」

手傷は負ったようだが、仕留めそこなった。

小部屋に逃げ込んだ狗毛鬼は、4匹程いたようだ。

彼らは、飛び道具や魔法は使えないようで、小部屋に隠れたまま出て来る様子はない。

そこへ、ナルルガが火炎弾を叩き込むと、堪らずに部屋から通路に飛び出て来る。

そこを自分とキオウが切り掛かる。

魔法でダメージを喰らわしておいたからか、2匹をたちまちに切り捨てる。

逃げ腰になった残りの狗毛鬼は、通路を走って戻り始めるが、そこをナルルガの魔法とマレイナの短弓が襲い掛かる。

傷を負った狗毛鬼の止めを刺し、討伐の証にその片耳を切り取った。

彼らが付けていた装備も、売れるかもしれないので奪い取る。

その他にも、幾つかの宝石も所持していたのでそれも頂く。

死体は通路に放置せず、物置になっている小部屋に隠しておいた。

通路の先を進んでみたが、所々で枝分かれしていて、その先は永遠に続くように思えた。

疲労が溜まらない程度の所で、引き返す事にする。

通路の途中では何者にも遭遇しなかったが、大空洞まで戻るとまた毒吐きマダラヘビに遭遇し、これと戦い無事に仕留める事ができた。

地下迷宮を出ると、日が傾き始めていたので急いで街へ戻る。

この日の報酬は1人250シルバーであった。


 翌日も大空洞の先の通路を目指す。

今回は、狗毛鬼の討伐依頼も受けて来た。

前日の狗毛鬼の死体を隠した小部屋を覗いてみたが、何者かが持ち去ったのか死体は消えていた。

キオウ「ちょっと、待て。動くなよ。罠がある。」

マレイナ「解除するから、ちょっと待ってね。」

多分、狗毛鬼の仲間が死体を持ち帰り、罠を仕掛けて行ったのだろう。

簡単な仕掛け矢ではあったが、見過ごせば相応の被害は出たであろう。

その矢には、毒液が塗られているから厄介だ。

「狗毛鬼がやったのか?」

キオウ「多分な。連中、他の魔獣より頭はいいみたいだ。」

しばらく進むが、狗毛鬼にも他の魔獣にも遭遇しない。

先日の被害を警戒しているのだろうか?

これでは、依頼も達成できない。


 大空洞まで戻り、前日とは別の通路を選び進んでいると、広がりのある場所に出た。

大空洞のような洞窟のような場ではなく、通路が広げられ何か大きな部屋のようになっている。

幅10m位の広さの空間が奥に長く続いているのだ。

これは狗毛鬼の集落に、近付いたのかもしれない。

空間の先に、何かがある。

どうやら、ガラクタを積み上げて簡単な防壁が築かれているようだ。

こんな所に防壁などを作るのは、人ではなくそれなりに頭の良い魔獣だろう。

そうなると、思い当たるのは、狗毛鬼しかいない。

様子を伺うと、防壁の後ろに隠れているようだ。

「ビュン!」

何かが空を切るような音を立て、こちらに飛んで来る。

キオウ「矢を撃って来やがった。」

防壁の内側から小型な弩を撃って来る。

連射性は余り無いが、このまま向かって行くのは脅威である。

弩の届かない所まで退避して、作戦を立て直す。

キオウ「どうする?」

「矢はそんなに飛んで来ないから、数は少ないみたいだな。」

ナルルガ「なら、みんなで魔法の防壁を作って近付けばいいわ。」

キオウとナルルガで魔法で風の守りを作り接近し、自分が土の壁を魔法で防壁を作り、そこから魔法で敵を攻撃する事にする。


こちらの風の守りの周囲に矢が飛んで数本飛んで来るが全て守りに遮られる。

敵の防壁から20m程手前でまた土の壁を作る。

念の為に壁を厚く作った。

そこから、ナルルガの火炎弾を撃ち込む。

魔法の火炎が炸裂し、燃え上がる防壁、裏側では狗毛鬼が何か喚いている。

声のする辺りを狙い、マレイナが光弾を自分も石塊を撃つ。

更に、湧き上がる悲鳴にも似た声。

頃合いを見て、防壁に突入する。

傷を負った狗毛鬼が3匹いたが、キオウと自分で仕留める。

何とか防壁を突破する事ができた。


このまま進むと、連中の集落に入ってしまうかもしれない。

今の戦闘の気配も、そこに届いた可能性もある。

流石に、集落全体を敵に回すには力不足だろう。

だが、今回の依頼は狗毛鬼を6匹討伐する事であり、まだ数は足りない。

ここは進むべきか、引くべきか?

休憩がてら防壁のあった場所で、様子見をする事にする。


30分程様子を伺っていたが、奥から何かが近付く気配はない。

意を決して、先に進む事にする。

防壁跡を通り過ぎると、先は狭まりまた通路となった。

その先を進むと、左右に分岐する。

右側を選び進む。

通路の先には、何も気配は無い。

その先は、自然にできた洞窟のような所であった。

その洞窟を進んでみる。

洞窟はやや上の方へ向かっているようだ。

洞窟は右左とくねるように続き、やがて更に大きな洞窟、いや空洞へと出た。

空洞は、なかなかに広い。

空洞内を探っていると、来る時に通過したマダラヘビに遭遇した大空洞である事が解かった。

通路や洞窟を進む内に枝分かれした大空洞の枝道を辿って戻って来てしまったようだ。

さてどうしたものか。

また通路の先に戻って枝分かれした別の道を進むか、それとも街に引き返すのか?

先を進むと、今度は戻るのに時間が掛かり過ぎる。

それなりに疲労も溜り始めているので、今日は街に引き返す事にする。

ただ、今日は稼ぎが少ないので、道中でできるだけ多くの魔獣を討伐しながら戻る事にする。

だが、こんな時に限って獲物に遭遇しない。

何とか大食い鬼と一角鬼を数匹倒したが、この日の稼ぎは1人150シルバーと少なかった。


 冒険者となって、初めての躓きなのかもしれない。

今までが、順調過ぎたと言った方が良いのか?

依頼を受けてそれを達成し、余剰もついでに稼いで収入の足しにする。

それで、今までは生活が成り立っていた。

ただ、それには運要素があったのであろうが、上手く行き過ぎて見落として来たのだ。

当然ながら、全ての冒険者が、常に稼ぎ続きである訳がない。

そんな事ならば、冒険者になる者でこの世は溢れかえっているはずだ。

だが、冒険者になるのは一部の者でしかない。

冒険者家業は怪我と危険を伴ない、依頼を達成できない時もある。

今の実力で、強敵を相手にするのも限界があり、仲間を増やせば対処はできるだろうが分け前はその分少なくなる。

だが、今の状況では稼ぎ目的の依頼と最低限の稼ぎを確保しながら進むのが妥当な所であろう。

翌日、再び狗毛鬼を求めて、迷宮の通路の先を進む事にする。

今回は、合せて鉱石の採掘依頼も受け、万が一、魔獣に出会わない時の為に備える。

昨日の防壁があった場所に到達する。

その先の枝分かれした通路の左側を今回は進む。


通路が、長々と続く。

一本道だが、時に左に、時に右にと曲がり続いて行く。

狗毛鬼の集落に近付いていると思うと、緊張もする。

通路はまだ続く、余りの長さに狗毛鬼の集落に近付いているのかも疑問に思えて来る。

そんな時、また広場に出た。

今度こそ集落、或いは何かしらの拠点かと思われたが何か違う。

この広場も、自然にできた物ではなく、何かしら人為的な空間だろう。

広めの通路が、部屋になっているような感じである。

またここにも防壁やら何かしらの備えがあるかと思ったが、今の段階ではそれらしき物は無い。

幅20m程の広がりが奥に続いている。

皆、空間通路を慎重に先を進む。


奥の方に何かの気配がし、複数の物が蠢いているようだ。

ついに、狗毛鬼と遭遇したのか?

奥から、何やら低く唱えるような声?がする。

すると、何かが高速で飛び向かって来る。

ナルルガ「危ない!」

咄嗟に、風の守りを展開するナルルガ。

風の壁に、何かが絡み付くようにして消えた。

何か魔法のような物が撃ち出されたようだ。

魔法?

そう、前方の集団から魔法が放たれたのだ。

マレイナが短弓を集団目がけて放つと、あちらも同じように何か見えない障壁を繰り出して無効化して来る。

マレイナ「向こうも、同じような魔法を使ってるよ。」

キオウ「狗毛鬼なのか?」

互いに近付くと、相手の様子が見えて来る。

狗毛鬼の6匹の集団だ。

ただ、今まで見て来た狗毛鬼と違うのは、1匹だけ身なりの違う奴が混ざっている。

そいつは、木の杖を持ち長衣をまとっている。

他の5匹は、今まで見た事がある革鎧に様々な武器を装備している。

長衣の見慣れない奴は、連中の魔術師のようだ。

そいつが短く何か唸ると、先程の魔法の弾か矢のような物が発せられる。

それを風の守りで防ぐ。

こちらも魔法の攻撃をするが、これもあちらに弾かれる。

そんなやり取りをしている内に、互いの間合いは狭まり、接近戦移る。

キオウと自分だけでなくマレイナも片手剣を抜き前衛となる。

しかし、前衛は、あちらの方が多い。

組み合ってみると、狗毛鬼は自分達と同じ位の力量だ。

互いに、切り付けては避け防ぎを繰り返す。

特に、盾持ちの奴は厄介だ。

ことごとく、こちらの攻撃を盾で防いでは反撃して来る。

広場に、武器のぶつかり合う金属音が響き渡る。

この音が、狗毛鬼の味方を引き寄せないのか不安もある。

ナルルガは、相手の魔術師と魔法の応酬をしている

前衛は3対5で、やや押され気味ではあるが、何とか踏み止まる事はできている。

その均衡も、いつまで保ち続けられるのか?


だが、その体勢も、終わりの時が来た。

狗毛鬼の魔術師が、息切れして来たのだ。

何度も呪文の詠唱らしき行動を取っていたが、息絶え絶えになりナルルガの魔法の攻撃を喰らって床に崩れ落ちた。

魔法の使用限界に、達したのだろう。

火炎矢に射貫かれる相手の魔術師。

ナルルガ「あんたもなかなかだったけど、私の敵じゃないわね。」

ナルルガには、まだ余裕があるようだ。

次に、ナルルガの風の刃が狗毛鬼の戦士達を襲う。

すかさず、キオウの戦槍が、呪文を食らいよろめいた奴を攻め立てる。

防御を崩され倒れる相手。

もう1匹の狗毛鬼を、ナルルガの魔法が狙い撃ちする。

そこへ、自分が戦斧の渾身の強打を繰り出す。

狗毛鬼の革兜の上から、頭を叩き割ってやった。

これで、前衛の数は互角だ。

けれど、残った連中が手強い。

盾持ちは、それで魔法を弾き、怯む隙を見せない。

数が同じになり押される事は無いが、それでも連中の陣形を崩せない。

ナルルガにもそろそろ休養が必要で、彼女に甘える訳にもいかない。

しばし、互角の死闘が続く。


こうなっては、自らの技量を信じて目の前の相手と向き合うしかない。

攻撃、回避に防御、今まで培ってきた技術を駆使して戦うのみ。

それは、相手も魔獣であっても同じだろう。

彼らの独自の鍛錬などがあるかは不明だが。

狗毛鬼には、獣系やその他の魔獣とは違う知性もある。

時に打撃を食らい、時にこちらの攻撃が当たる。

ある種の恍惚感を覚えながら敵と切り合う。

が、その饗宴も呆気なく終った。

マレイナの切り返しが、対峙した相手の武器ごと手首を切り落とす。

マレイナ「どうだ!」

そこへ、少々魔力を回復したナルルガの風の刃が止めを刺す。

数的に有利になった自分達は、残った2匹を始末する。

僅かな違いが、生と死を分けたのかもしれない。

倒した相手から耳を切り取り、価値のありそうな物だけを剥ぎ取ってその場を後にする。

狗毛鬼の魔術師の身に付けていた装飾品には、何かしらの価値がありそうだ。

他の狗毛鬼の反撃を受ける前に、引き下がる事にした。

途中、鉱物を採掘できる場に立ち寄り、依頼の目的を果たす事も忘れなかった。


 今回の各自の報酬は5ゴールド、まあまあの儲けだ。

この稼ぎが、維持できると良いのだが。

今の生活は、4人で月に100ゴールド、つまり10000シルバーも収入があれば家賃、生活費、装備の手入れなどが可能であろう。

今日の稼ぎを月に5回は達成できれば良い。

だが、何時も上手く行くかは不安であるし、より良い報酬を求めるには装備の強化も必要になって来るはずだ。


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