第139話「地図の果て」
迷宮で見付けた、巻物に書かれていた地図。
それを頼りに、魔崇人などという、面倒な奴らに出会ってしまった。
奴らは、ワイエン王国の末裔と、魔族が交わり誕生したようだ。
その姿は、魔族のそれとほぼ違いは無く、人間の面影はほとんど無い。
しかも、同じく旧ワイエン王国の末裔である半妖精は、あいつらを封印していた。
多分、どちらも人間を越えた力を望み、地上への復帰を目指して生み出されたはずなのに。
何故、その片方だけが、封印されたのか?
それだけ、恐ろしい物を秘めているからではないのか?
魔票で制御しなければ、半妖精の方が支配されてしまう恐れがあったのかもしれない。
地図の存在は、迷宮各所で魔鈴で開く隠し扉の存在を幾つも教えてくれた。
だが、そのほとんどを今では開拓しつつあった。
今は、ハノガナの街から最も遠い地図に載っている地域を調べている。
キオウ「この先に、何だか幾つも袋小路になってる場所があるな。」
「そうみたいだな。けど、その手前の大きな空間が気にならないか?」
そう、地図の端には、隠し扉の印が幾つか書いてある。
けれど、その手前に大きな空白がある。
意図的に、書いていないのか? それとも、地図のように大空洞になっているのか?
フォド「行って確かめるしかないですね。」
地図上の空白地帯へと足を進める。
この辺りは、自然の洞窟のような構造だ。
通路代わりに使っている場所は、幅も高さも3m程度。
だが、この地図通りならば、目指す空洞は50m以上は幅がありそうで、実際には、もっと大きいのかもしれない。
しかも、地図の上下に横たわっているので、全長は、どの位なのかも解らない。
100m、200m、いや、それ以上かもしれない。
迷宮内を横断するような大きな空間だ。
それだけの大きさがあれば、地龍だって動き回れるであろう。
もしかして、奴らの通路なのか?
空間に辿り着いた。
ここは、かなり深層に入り込んだ場所のはずだ。
隠し扉の近道を使わず、入り組んだ迷宮の経路を経ていたら、とても到達は難しい場所だ。
こうして自分達が来れたのも、そこを近道として通って来たお陰である。
途中、隠し扉で区切られていない箇所では、何度も魔獣らと遭遇し、それを切り抜けて来た。
段々と、魔獣が手強くなっているのを体感する。
この辺りでは、大角鬼や灰白巨人さえ、弱く思えるような場所なのだ。
こんな場所で、半妖精が暮らしているとすれば、何かしらの対策が無いと難しいであろう。
ディーナ「本当に、大きな空洞なのね。」
そこは、地図に書かれていたように、目の前を横切るように大きな空洞になっている。
耳を澄ますと、風の抜けて行く音が聞こえる。
その他には、ああ、混ざっている。
風の流れる音に混ざり、微かに何かが落ちるような音、何かの鳴き声、そして、中には囁き声に思える音も。
ある種の重さと共に、迷宮の深層で感じるいつもの感覚だ。
とりあえず、先へと進む事とする。
この空洞につながっていた通路の入口には、夜行性のある塗料を塗って目印としておく。こうしておけば、帰り道も探し易い。
ただ、これを付けておくと、半妖精に勘付かれるかもしれないが。
マレイナが、周囲を警戒しながら進む。
今の段階で、何も近くにはいないようだが。
空洞の中を進んで行くが、周囲には何も見えない。
前後左右だけでなく、天井も。
ここの天井は、30mは越える高さがあるのであろう。
ただ、勘で正面に向かっているつもりだ。
マレイナ「急ごう。何か空気が変わったよ。」
マレイナが何かを感じたらしい。
急ぎ足で進んで行くが、何か音が聞こえる。
微かに吹く、風の音に混ざって。
似たような音を何度か聞いた覚えもあるのだが。
明らかに音が大きくなり、それがこちらに向かっている感じがする。
マレイナ「やっぱり近付いて来るよ。なかなかに大きいよ、これは。」
マレイナが感じた方角へ、光の玉を幾つか撃ち出した。
それに倣って、フォドも同じ方角の上に向かって同じ光属性の呪文を放つ。
風を裂くような音が、段々大きくなる。
そうだ、この音は、南に向かった時に出会った風翔竜の羽根の音に似ている。
いや、あいつみたいに滑空してくるのではない。
羽ばたく音も聞こえた。
光の玉が、大きな影を捉えた。
黒い巨大なコウモリ、そんな印象を持った。
いや、コウモリにしては尾が長い。
そいつが羽ばたきながら、洞窟を飛んでやって来る。
翼にやや長い首、それよりも長さのある細長い尾。
ディーナ「あれは、大蛇竜よ!」
大蛇竜、こいつも龍ではなく、大型のトカゲの仲間だ。
腕が翼のようになっており、翼の長さは3mを越える。
体は細長く、その尾は2mはあるであろう。
近付かれる前に、呪文を放ち攻撃を開始する。
火炎矢を奴に向かって放つ。
仲間らも呪文を放ち始めた。
何発かは外れたが、その内の幾つかが当たる。
胴体は細く、呪文も当たり難いが、その翼は大きくよく当たる。
呪文が複数当たり、その羽根がぼろぼろになって行く。
そうなると、奴も空中に留まる事ができなくなる。
こいつは地上に落としさえすれば。
だが、予想に反して、地上に降りた奴は素早く羽根を畳むと、蛇のように体を素早くくねらせながら、こちらに向かって来る。
大蛇竜の名前は伊達ではないようだ。
トカゲと言うよりも、翼のある蛇と思った方が良さそうだ。
こちらに近付くと、噛み付こうと頭を振り下ろして来る。
フォド「牙に気を付けてください。毒があります。」
今は巨大な毒蛇になっている。
向かって来る頭に長剣で切り付ける。
ディーナ「こういうデカイ奴は、やり難いのよ。」
と言いながら、ディーナのエストックが炎を纏い、蛇竜の体を貫く。
「がぎゃっ!」
悲鳴を上げ、動きを止めた奴に一斉に切り掛かる。
細長い体をくねらせながら抵抗を続けるが、徐々に切り刻み、やがて奴の動きを止める。
イルネ「さあ、鱗を切り取ったら、急いで反対側へ抜けるわよ。」
また、新たな魔獣が現れる前に、ここを突っ切るしかない。
数十mも進むと、ようやく反対側の壁に到着する。
暗闇を進んで来て、多少の誤差はあるだろうが、魔鈴を鳴らす。
すると、30m程先の壁が光り、鈴に共鳴した音を放っていた。
フォド「あそこですね。」
キオウ「ああ、急いで入ろう。」
また、仲間らを1人づつ、壁の内側へと送り込む。
入った先は、また3m幅の洞窟の通路である。
その先を進むと、枝分かれした場所があるはずだ。
20m程進むと、左右に洞窟が分かれている。
地図だと、左右のそれぞれが、また2つに分かれているはずだ。
キオウ「さて、どうする?」
「いつも通り、右側から順番に見て行こう。どうせ、4つしかないから。」
右手に進むと、1本目の枝道は無視して、奥の枝道を目指す。
行き止まった所で、左に進むと、木製の扉があった。
マレイナに扉を確認して貰う。
マレイナ「大丈夫。仕掛けとかも無いよ。」
木の扉を開けると、石造りの部屋になっている。
10m四方の部屋だ。
中には、久し振りに長櫃のような木箱を4つ見付けた。
箱にも、罠は無い。
キオウ「さて、どんな物が入ってるんだ?」
木箱を開けると、巻物やら装飾品などが入っていた。
装飾品は遺物としてギルドで買い取って貰えそうだ。
持ち運びができる物だけ持って行く。
巻物は、これも古代語で書かれている。
イルネ「また、ケルアン先生にお願いするのが良さそうね。」
1つ目の枝分かれした場所は、これで終わりだ。
念の為、部屋の中で魔鈴を鳴らしてみたが、反応は無い。
地図にも書かれていないから、隠し扉は無いのか?
続いて、2番目の枝道を進むと、ここにも木戸がある。
罠などを確かめ、中へと入る。
そこも、さっきと同じような部屋で、木箱が2つある。
中身は、装飾品に、古い金貨だ。
これも少しばかり持ち帰る。
ここでも魔鈴は反応が無い。
よし、今度は3番目の枝道だ。
その先にも木戸で区切られた部屋になっていたが、そこには何も置かれてはいない。
ならば、鈴を鳴らしてみると、奥の壁が光り反響している。
地図を再度確認したが、隠し扉の表記は無い。
「地図に無い扉か。何があるんだ。」
キオウ「入って確かめるしかないさ。」
キオウを先頭に、壁の隠し扉を潜り抜けて行く。
さて、その奥には、何があるんだ?




