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第135話「退魔師の目的」

 ハノガナの街へ、戻って来た。

事件のあらましは伯爵に報告した。

だが、その後の事は、まだこの時点では解ってはいない。

また、しばらく、迷宮に向かう日々が続いていた。

1週間が過ぎた頃に、伯爵からの呼び出しが掛ったので、城館に向かった。

アグラム「皆の者、ご苦労であったな。タガドール地方の領主が、調査の結果を報せて来たよ。」


捕まえた3人は、なかなかに事情を話さなかったらしい。

2人の護衛役は、各国で冒険者や傭兵をやっていた事は解った。

ラッカムラン王国内でも、冒険者の履歴があるのだとか。

こちらは、雇われてから、そう日数も経ってはいない人物なので、タガドール地方の領主は牢に入れたそうだ。

問題は、退魔師の方である。

こいつは、自分の身分、魔獣を呼び出した方法など、一切話さないらしい。

魔族の首は、調査の為にケリナ魔法学院に送られたとの事。

調査の結果は、こちらにも報せてくれるそうだが。

アグラム「退魔師は捉えたが、魔獣を呼び出す呪文も、ダラドラムド王国との関係もまだ解らん。そいつは、妙な魔道具を持っていたらしいから、それなりに地位のある奴だとは思うがな。」


結局、大した事は解らなかった。

だが、魔獣をどのように呼び出すのか、呼び出した魔獣が、どう操られているのかなど、大よその事は解った。

呼び出された魔獣が、既に魔票を付けているのは、どうしてなのか解らないが。

フォド「前もって、呼び出しておき魔票を貼り付ける。そして、また、どこかに待機させておいて、その後は自由に出現させられるとか?」

アグラム「それはあるかもしれん。だとすると、相手は、どの位の魔獣を揃えているのか? 今回だけでも、数百は出て来たようだが。」

相手は、魔獣の軍隊を揃えられると言う事か?

それを呼び出す魔道具も、魔方陣よりも遥かに小型で持ち運びができるまでに改良されているのだ。

また、次に、同じような事をどこでも起こせるという事だ。

アグラム「国境の検問で、その魔道具も対象にしたが、抜け道もあるだろう。」


魔票の作り方、使い方は、半妖精からダラドラムド王国に全て伝わったのだろうか?

半妖精も、まだまだ隠している事が多いのではないのか?

あの国との関係を聞いても、答えはしないだろう。

その答えに、相応する報酬を渡さないと。

その対価に、奴らは何を要求して来るのか。

イルネ「半妖精に聞けないなら、別の人に聞きましょうよ。」


そして、向かったのは、アデト魔法学園だった。

ケルアン「やあ、どうしたのかな? 諸君。」

ケルアンに、幾つかの疑問を聞いてみた。

ケルアン「魔族の首で、魔獣を呼び出す? そうか、またおかしな事を始めたようだな。その首が、まだ生きているならば、それも可能かもしれない。だが、その為には、その魔族を完全に支配下に置かなければ不可能であろう。」

支配下に? とすると、あの退魔師が。

ケルアン「そうだろうな。その退魔師が、魔族を何かしらの手段で手懐けたのであろう。どんな交渉をしたのかまでは、知らんがね。」

フォド「魔族は、体を分解されても生きているのですか?」

ケルアン「元々、生命力に優れた連中だから、可能性はあるはずじゃ。その容器自体が魔道具で、何かしらの機能も備わっているのじゃろう。」


イルネ「それと、ワイエン王国とダラドラムド王国の関係なんだけど、関係は良かったの?」

ケルアン「そうだな。両国は、国交を持ち盛んに協力しておったな。人も物も行き来していた。」

イルネ「なら、魔術関係も互いに情報交換を?」

ケルアン「ああ、勿論、そうじゃ。魔術の研究、情報の共有などもしておった。魔族の事も含めてな。」

石の中のケルアンは、自ら情報を出してはくれない。

こちらが質問を投げ掛けないと。

イルネ「ケルアン、あなたもダラドラムド王国の関係者に会った事はあるの?」

ケルアン「それは、勿論。幾人もワイエン王国に来ておったし、逆にこちらから行った者も大勢いる。」

イルネ「じゃあ、あなたも行った事が?」

ケルアン「ああ、一度だけな。向こうの神聖都市マガンデリアにな。」


「神聖都市?」

ケルアン「そうじゃ。かの国は首都をそのように呼ぶんじゃ。あの国では、宗教が国政の中心にも関わっているからの。首都自体をある種の神殿のように作っておった。」

イルネ「向こうの首都、マガンデリアは、他にどんな特徴があるの?」

ケルアン「儂が行った時は、建国からそれ程に時間は経ってはいなかった。だから、それ程に人口が多い訳でも無かったな。ただ、まるで幾何学模様のような、整った街を作ろうとしているようじゃった。あれは、街自体を何かの魔方陣にでもしようとしていたのかもしれん。」


イルネ「でも、そんなダラドラムド王国が、半妖精に今更、接触して来たのは何故なの? あの国では、魔術の研究も進んでいたんじゃないの?」

ケルアン「そうじゃな。多分、あの国でも研究が続けられていたのか、それとも最近になって再開したのかは解らんが、魔票については、向こうの知識では不充分だったのだろう。」

つまり、魔票の実用化に、ダラドラムド王国の知識や技術では不充分だったのか。

なら、半妖精らは、どんな事を退魔師に伝えたのか?

それを確かめる為に、奴らにまた会うべきなのか?

まだ、タガドール地方での調査も続いている。

その続報を待つ事としよう。


 特にやる事を見付ける事ができないので、また迷宮へと潜る。

まだ、魔鈴を使って見ていない場所もあるはずだ。

今では、多くの冒険者も、それを手にして探索を続けているのだが。

それでも、隠された扉、通路は多い。

いつしか、その探索は、深層にも及んでいた。

そろそろ、深層での魔鈴を試してみても良いだろう。

独特の重く圧し掛かる感じながら、深層を進んで行く。

魔鈴を鳴らすと、それに反応した音が響いて来た。

その場所を確かめ、また仲間らを順番にその隠れた扉の中へと入れて行く。

通り抜けた先は、同じような洞窟の通路だ。

そこを歩いて行くと、採掘中の壁を見付けた。


どうやら、ここの通路を拡張しようとしていたらしい。

もしかして、深層での隠し扉は作業の途中なのか?

所々に、洞窟を削った岩が集めてあり、鶴嘴やハンマーなども放置されていた。

ここに、何かを作ろうとしていた形跡か?

ここにも、倉庫や住居などを作ろうとしていたのだろうか?

この作業をしていたのは、ワイエン王国の人達なのか?

それとも、半妖精なのか。

ワイエン王国時代の物にしては、少し新しいような気がするのだが。

これが、半妖精らによるものならば、厄介な場所かもしれない。

ここがどこにつながっているのか、確かめる事とする。

先を進むと、行き止まりになっていたので、魔鈴を鳴らす。

すると、光った壁の先を行くと、別の洞窟の中に出た。

深層のどこかに。


周囲に、不審な気配は無い。

警戒を続けながら、先を進む。

しばらく進むと、魔鈴を何度か鳴らしてみたが、反応が無い。

それでも、やっと、反響が聞こえて来る場所があった。

そこへと入り込む。

と、また小部屋のような手の入った場所を見付けた。

中には、いろいろと仕舞ってあるが。


倉庫らしい場所を探ると、巻物が幾つも見付かった。

魔術についてではなく、何かの記録が書き留められているようだ。

これは、持ち帰り、街で調べてみるのが良さそうだ。

まだまだ、いろいろな物が溜め込んであるので、探ってみると、以前、半妖精らに渡した照明器具が置いてあった。

これは、奴らの倉庫らしい。

マズイ物を見付けたのでなければ良いが。

キオウ「これは、ヤバイ所か?」

「そうだな。急いで引き返すのがいいかもしれない。」

イルネ「奴らが、何もしてこなければだけどね。」

急いで、街へと戻り始める。

マレイナの警戒も、いつも以上に慎重にやって貰う。

そして、街へと無事に戻れた。


「あの巻物を調べてみよう。」

それに、何が書かれているのか解らないが。


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