第134話「森の潜伏者」
フェムネの案内で、イナール大森林の中、魔票で魔獣を操っていると思われる連中のテントを発見した。
テントの数は、2つ。
今も、その中に操っている奴らはいるのだろうか?
遠巻きに、そのテントを見張る。
今のところ、テントにも周囲にも動きは無いようだ。
しばらく、このまま監視を続けてみよう。
マレイナもフェムネも、テントの中に何者かがいると言う。
「僕らなら、もう少し近付いても、気付かれないよ。」
マレイナ「それ、危ないよ。」
「大丈夫、大丈夫。テントの前に行っても大丈夫だけど、今はしない。」
2匹のフェムネがテントに近付いて行く。
その気配は、小さな獣程度で、気配は少ないようだ。
キオウ「あいつら、すげえな。あんなにキモがすわってるとは思いもしなかったぜ。」
テントの30m程まで近付くと、様子を探っているようだ。
やがて、急ぎ足で帰って来た。
「いる、いる、いた。中に3人いたよ。」
目標の人物は、全て、中にいるようだ。
このまま眺めていても、仕方ない。
下手に攻撃をしても、取り逃がす可能性もある。
自分とキオウとフォド、マレイナ姉妹とイルネに分かれて挟み込む事にした。
「僕らも、行くよ。」
フェムネも同行を志願してくれたので、彼らにも二手に分かれて仲間らの援護を頼む。
キオウらとテントの反対側へ回り込むようにして移動する。
それに、4匹づつのフェムネも付いて来ている。
イルネらと、挟み込む位置へと移動したので、双方でテントに近付く。
まだ、奴らの動きは無いが、向こうも気付いているはずだが?
キオウ「おお~い、ちょっといいか?」
キオウが声を掛けた瞬間、テントから何かが飛び出して来た。
声を掛けた自分らの方に、2人のフードを被った奴らが武器を振りかざして襲い掛かって来た。
その反対側に、別の1人が飛び出したが、そちらはイルネらが抑えているはずだ。
2人の人物の獲物は短剣だ。
それをキオウと2人で迎え撃つ。
こいつらを上手く捕まえられると良いのだが。
互いに剣を交える。
向こうは、こっちを殺すつもりで切り掛かっているのが解かる。
素早く鋭く切り込んで来る。
捕らえようとして、簡単にできるものではない。
こちらも、こいつを倒すつもりで対処するしかない。
何度も刃を叩き付け合い、相手の隙を探り合う。
こいつは、そう簡単に倒れてくれるような奴ではない。
そこへ、見覚えのある泡が空中を漂って来た。
それを見た瞬間、後ろに数歩下がる。
誘われたように、奴が前に飛び出すと、その顔の前に泡がふわりと重なった。
その途端、急にくしゃみを始めるフードの人物。
もう、剣を構える余裕も無い。
その剣をこちらの長剣で叩き落とすと、そいつの胴体を蹴り、地面に倒してやった。
そして、そいつに馬乗りになると、腕を縛り拘束する。
キオウと戦っている奴には、無数の石礫が叩き付けられ、このフードの人物は身を構えて固まった所をキオウの槍で剣を叩き落とされた。
キオウも、そいつを蹴り倒して抑え込むと、フェムネが殺到し縛り付けた。
呪文もフェムネが放った物である。
キオウ「お前ら、手際がいいな。」
「これでも、冒険者やってるから。」
いつの間にか、更に逞しくなった彼らがいた。
武装した2人は拘束したが、もう1人はどうか?
そいつは、武器のような物は持ってはいないが、見慣れぬ物を右手にかざしていた。
(何だ? あれは?)
大きなガラスの容器、その上に手に持つ為の金具が付いているようだ。
そいつは、その金具を持ち、容器をぶら下げるようにして手に持っていた。
その容器に何かが入っているのが見えた。
容器いっぱいに入る黒い塊が。
その容器を持った人物に、イルネらは対応に困っているようだ。
だが、そいつが呪文のような物を唱え出した。
すると、そいつとは別の呪文の詠唱のような物が微かに聞こえた。
周囲に、狗毛鬼や獣悪鬼が何匹も現れた。
まさか、そうやって魔獣を呼び寄せていたのか?
以前、迷宮で見た、魔族が魔獣を呼び寄せたような事が、今、目に前で起きた。
咄嗟に、フォドがフードの人物の周囲に、光の円陣を展開させた。
すると、魔獣の出現が止まり、呼び出された魔獣も混乱しているようだ。
イルネがフードの人物から、容器を奪い取ろうと、迫る。
それを自分も援護に向かう。
マレイナ姉妹は、呼び出された魔獣らを切りまくっている。
そいつに、迫ると、容器の中身が見えた。
(これは、頭か?)
そう、容器の中に黒の魔人の頭が入っていた。
これが、魔獣を呼び出していた仕掛けなのか?
容器を2人で奪い取ると、そいつは、ナイフを取り出したが、簡単にイルネに制圧された。
奪い取った容器を今一度よく見てみる。
間違い無い。
中にあるのは、黒の魔人の頭だ。
出現した魔獣は、マレイナやフェムネらが一掃した。
3人のフードの人物も、何とか捉える事ができた。
それには、フェムネの協力も欠かせなかった。
3人のフードを剥ぎ取ると、人間族の男性である。
ただし、魔族の頭を入れた容器を持っていた人物の頭には、黒い石が正面に嵌った冠があった。
イルネ「さて、退魔師が、ここで何をしていたのかしら?」
「貴様、何故、それを知ってる!」
キオウ「解り易いお宝だが、それが無いと魔族に命令できないのかな?」
「ぐっ!」
黙ったところを見ると、キオウの言葉が当たったらしい。
テントの中を探るが、奴らの生活用品程度しかない。
マレイナらが倒した魔獣らを調べると、胸に魔票が付いていたので、それも回収する。
呼び出した段階で、魔票が付いていたのだが、召喚の方法も進化しているのか?
3人をタンドリアの町に連行する。
護送に、フェムネも付き合ってくれている。
フェムネが周囲を探るが、今回は、こいつらの仲間はいないようだ。
「大丈夫。最初から仲間いない。」
ここには、この3人だけが潜んでいたようだ。
人数の割りに、大きな事をやっていたな。
町へ着くと、本部代わりの宿屋へ捕虜を連れて行く。
サイガ「何だ、こいつら?」
「ああ、今回の騒動をよく知ってる奴らだよ。」
そして、フェムネの方も気になるようだ。
サイガ「また、変わったのも出て来たな。」
キオウ「こいつらは、冒険者仲間さ。森で助けて貰った。」
サイガ「お前ら、顔が本当に広いな。」
フェムネの事は、ここのギルドや冒険者にも説明しておいた。
「確かに、これはナールの町で発行された冒険者タグですね? 皆さん、本当に冒険者なんですね?」
「そだね。こっちでも依頼受けるかもしれないから、よろしくね。」
受付嬢も驚いたようであったが、彼らを受け入れてくれそうだ。
フェムネの方は、問題は無いだろう。
問題なのは、捕まえた3人だ。
こいつらは、タガドール地方の領主の所に送られる事になるのだが。
この退魔師が、どんな地位にいるのかも解らない。
軽く尋問をしてみても、何も答えない。
退魔師以外の2人は、護衛役なのだろう。
サイガらを案内し、テントや持ち物も回収した。
自分らが離れていた間に、ここの様子を見に来た者もいないようだ。
翌日、サイガ自ら兵士らと共に捕虜を連れて行く。
サイガ「今回は、助かったぜ。呪文だけでなく、こいつらまで捕らえてくれて。雷光の戦乙女と西方の炎風、よく覚えておくぜ。じゃあ、またな。」
サイガは、いなくなったが、しばらくは、ここの警戒の為に残った。
退魔師らを捕らえてからは、魔獣の出没も途絶えた。
今回は、これで解決と考えて良さそうだ。
魔獣の群れが出て来なくなったが、普通にここにも魔獣もいる。
だが、それでも、森林の中が以前に戻ったようだ。
再びフェムネを呼び出して、森の様子を聞いてみた。
「もう、問題ない、ない。今度も、あなた達に助けて貰ったよ。ありがと。」
「いや、こっちの方が助けられたよ。お前らがいなければ、こんなに上手く解決しなかったさ。ありがとうな。」
マレイナ「本当、短い間に、立派な冒険者になったんだね。」
「そう、そう。僕ら、魔法得意で、森の中では早く動けるし、隠れる上手い。」
イルネ「そうね。森の中では、あなた達には敵わないわね。」
「そんな事ない。雷光のお姉さん、とっても強い。僕ら、びっくり。」
フェムネにも、雷光の戦乙女の名が浸透しているのかもしれない。
ディーナ「じゃあ、みんな、またね。」
「うん、うん、また会おう。」
フェムネらが、森の中に消えて行った。
今回の彼らは、タンドリアの町の名産品「タンドリ団子」が気に入ったようで、こちらでも依頼を受ける事にしたらしい。
森の冒険者は、なかなかに逞しい。
自分達も、ハノガナの街へ戻る事とした。
今回の事件の結末は、アグラム伯爵の城館で聞けるだろう。
今回の遠征は、思ったよりも短く済んだな。
今日は、大きな事件があって、文章を書くのになかなか集中できませんでした。
ご冥福をお祈りいたします。




