第13話「悪夢との邂逅」
冒険者として順調に活動を続けるサダ達。
だが、そこに思わぬ落とし穴が。
久し振りに故郷のニナサに村へと変えるサダ。
そこで、過去の事件と対峙する事となる。
4人での共同生活が始まってから、約2ヵ月が過ぎた。
キオウが戦士Lv.22、自分とナルルガ、マレイナは、それぞれ戦士、魔術師、狩人のLv.21となっていた。
冒険者ランクは、Dに上がった。
久し振りにギルドのボードで能力を計ってみたが、全員の分を載せると長くなり過ぎるので代表で自分の物だけを出す。
「戦士Lv.21」
「農夫Lv.5」
「斧術Lv.20」
「棍術Lv.15」
「格闘術Lv.4」
「水魔法Lv.15」
「地魔法Lv.10」
「腕力+8」
「敏捷性+4」
「土質鑑定+4」
「植物鑑定+4」
「植物育成+2」
それなりに、成長している。
格闘術を取得したのは、たまに戦闘で、魔獣を殴る蹴るなどする事があったからだろう。
だが、今までの冒険者生活が、順調過ぎたのかもしれない。
ある日の依頼で、キオウが負傷した。
キオウ「いや~、面目ない。」
「ちょっと、今回はやばかったな。しばらく、大人しくしていないと。」
ナルルガ「調子に乗り過ぎたのよ。たまには、静かにできていいじゃない?」
命の危険は無いが、回復魔法や回復薬を使っても、完治には数日掛かりそうだ。
これは、冒険者生活に慣れたと思った、油断なのかもしれない。
キオウ「俺に、気を使う事はないぞ。皆で仕事をして来てくれ。俺は、家でちょっと休んでいるから。」
「いや、これは皆で休めって事だと思うよ。しばらく、ギルドの仕事は休みを取ろう。」
マレイナ「そうだね。たまには、ゆっくりしようよ。」
キオウ「悪いな、みんな。それなら、俺は一度、故郷へ帰るよ。」
「えっ? そうか。それもいいね。」
ナルルガ「帰るの? なら、私もオルタナの町の家に帰ろうかな?」
キオウ「何だよ。お前も帰るのかよ。」
ナルルガ「オルタナの町までよ。途中まで、一緒に行ってあげるわ。片手の使えない誰かさんを1人で帰すのも可哀想だし。」
キオウ「何だよ。田舎くらいは、俺1人で大丈夫だぞ。」
ナルルガ「別に、あんたを心配しているんじゃないの。ただ、自分の家に帰るだけだから。」
キオウ「サダ、マレイナ、本当にごめんな。ちょっと、家で傷を治して来るから。」
「そんな気にすんなよ。たまには、家でゆっくり休んで来いよ。」
そうは言ったが、オルタナの町以来、常に傍にいた仲間と少し離れるのは寂しくも思えるが。
(さて、暇だな? どうするか? 何か、久し振りに作るかな? あっ、それとも、ニナサの村に行ってみるか?)
「マレイナ、自分も故郷のニナサの村に行ってみようと思うんだけど。多分、記憶を失ってた2年前から帰ってはいないし。まだ、知り合いもいるから、この機会に行こうかと。」
マレイナが自分を見詰めている。
マレイナ「そうか、故郷か。ねえ、私も一緒に付いて行ってもいい?」
「えっ、別にいいけど、何も無い田舎の小さな村だよ。」
マレイナ「それでもいい。サダの生まれた村、見に行きたいな。」
断る理由も無いので、2人で村に向かう事にする。
ハノガナの街からニナサの村へは約13km、3時間強も歩けば着くだろう。
ハノガナの街を昼前に発ち村へ向かう。
道は、あの日に通った道しるべの先まで続いている。
草原の中の道を急ぐ訳でもなく、時に休みながらマレイナと2人で向かう。
途中、自分が意識を取り戻した辺りに来た。
周囲は、草原ばかりだから、特に目印になるような物もない。
「この辺りだったかな? 意識を取り戻したのは。」
マレイナ「何も無いね。」
「そう、だから、その時は、何をすればいいかも思い付かなかったよ。」
マレイナ「何で、ここだったんだろうね?」
「そうだよな。何で、こんな何も無い所にいたのかな?」
途中、農夫や行商人らしき人物らと擦れ違うが、魔獣に遭遇する事無く村に到達した。
村の中が、何故だか騒がしい。
村人達が、浮足立ったように速足で歩き回っている。
何か起きたのだろうか?
「あの、何かあったんですか?
たまたま、顔見知りの村人を見付け、声を掛けてみる。
「えっ、お前はサダか? 元気だったのか?」
「ええ、お久しぶりです。」
この人とも、数年前までいろいろと関わった思い出がある。
確か、父と同じく農夫だったと思う。
「今は、ハノガナの街で、冒険者をしているんです。」
「冒険者? それなら、村長の所に行ってくれ。村長なら、詳しく説明してくれるはずだから。」
村長は母の叔父だった男だ。
村長の家に行くと、驚きと喜びの混ざった顔で迎えられたが、すぐに厳しい顔付に変わった。
「また、被害者が出たのだ。」
「被害者? また、何が起きたのですか?」
被害者とは、村の近くで幾人かの村人が魔獣に襲われたらしい。
数人が亡くなり、辛うじて生き残った人もいるようだ。
襲って来た魔獣は、自分達家族を襲った魔獣と同じ相手のように思える。
生き残った人々によると、大型の狼に似た魔獣だという。
狼に似た魔獣も何種類かいるが、この付近ではほぼ見掛けない。
いるのは普通の狼で、森に獲物がいない時にはたまに家畜を襲う事もあるが、滅多に人里に出て来る事はなく、ましてや人を襲う事も無い。
どこからか流れて来た魔獣が、再び付近に出没しているのかもしれない。
自分もその魔獣に襲われたはずだが、何故か今も思い出せない。
過度の恐怖心が、忘れるように仕向けているのだろうか?
村長はギルドを通さずに、自分達に討伐を頼みたいとの事だった。
ギルドを通して仕事の依頼を出すのも良いが、ニナサの村には冒険者ギルドは無い為に、他の町まで行かなければならない。
その時間差の間に、また被害者が出るかもしれない。
丁度、村では志願者を募り、村人達自ら退治しようとしていたらしい。
そこへ偶然に、冒険者である自分とマレイナが来たという訳だ。
報酬は1匹討伐毎に、1ゴールド出すという。
狼に似た魔物は少なくとも3,4匹はいるようだ。
村に来たタイミングは偶然だが、村人らの危機を放置する事もできない上に、自分にも関わる事でもある。
マレイナに聞くと、頼みを受けても良いとの事だ。
迷わず討伐を受ける事にした。
まずは、情報集めで生存者らに魔獣の話を聞く。
襲われた時間帯は昼過ぎ、夕方近くと様々で活動する時間に規則性は無いようだ。
場所は森の中や周辺で、村に近付く気配は今の所はない。
夜になれば村人達が、森に近付く事はほとんど無いので、夜間の被害は無い。
その魔獣の特徴は、黒毛に白い横線の入ったような外見らしい。
大きさも普通の狼よりやや大きく、2mを越える位はあるようで、下敷きになった村人の体長よりも大きかったらしい。
それと、その赤い目が印象に残っているそうだ。
被害に遭った村人は気付いたら、数匹のその魔獣に囲まれていて、一気に襲い掛かって来たらしい。
攻撃は牙によるものだけのようで、何か特殊な攻撃能力は無いようだ。
だが、その牙の攻撃力は侮れず、喉を嚙み千切られた村人は一撃で致命傷を負ったようだ。
自分は知らない魔獣だが、マレイナには覚えがあるらしい。
マレイナ「バロの魔犬」
「魔犬? そいつも、魔獣なのか?」
マレイナ「ええ、ここアデレード地方ではないけど、そいつに似た魔獣が数年前に出た事があるの。バロは、そいつが出現した町の名前よ。」
マレイナ自身が見た訳ではないが、バロの町の周辺でも被害が出て、冒険者らが討伐したらしい。
マレイナ「私も噂を他の冒険者に聞いただけ。魔犬は、その時は、十数匹は出たそうよ。」
今回、村付近に出たのは数が少ないから、マレイナと2人で退治できるかもしれない。
ただ、油断はできない。
気を引き締めて、マレイナと2人で村近くの森に向かう。
森に向かいながら考えた。
自分はバロの魔犬に、以前、出会ったのだろうか?
両親を襲ったのも、その魔犬なのか?
自分だけは何故に助かり、しかも、その後に2年も空白があったのか?
あの日の森に、両親と出掛けた覚えはあるのだが、その先がどうしても思い出せず、次に記憶があるのは、あの草原に立ち尽くしていた事だけだ。
マレイナ「どうしたのサダ、考え込んじゃって。」
「いや、2年前に、両親達と自分も魔犬に遭遇したのかなって。」
マレイナ「どうだろう? でも、サダは生きているんだから。もしも、お父さん達の仇なら、今日、決着を付けよう。大丈夫、私達ならできるよ。」
「そうだな。ありがとう。」
気を引き締めて、魔犬が出没する場所に向かう。
森の様子は、いつもと変わらない。
この森も、昔は遊びや薪拾いや狩りで、何度も来た覚えがある。
魔獣が出る事自体が稀で、昼間ならば子供達だけでも出掛けるような場所だ。
生えている木々や切り株、所々に横たわる苔むした岩など見覚えがある。
迷う事無く、村人たちがよく薪拾いに来る森の中の広場のようになっている場所に辿り着く。
ここでも、村人が襲われたという。
広場で、魔犬の痕跡を探す。
こういう時は、マレイナの方が上手い。
マレイナ「うん、何か獣の足跡があるよ。でも、これ、犬か狼か、それとも別の奴かよく解らないや。でも、少し、大きいかな? これが魔犬だと思う。」
それ以外にも猪の足跡もあるようだ。
間違いなく魔犬はいる。
ただ、その痕跡は数日は前のようだ。
魔犬を求めて、森の奥へと更に踏み込む。
しばらく歩いていると、森の下生えをガサガサとかき分けて近付いて来る物がいる。
息を潜め、音の正体を探るが出て来たのは1匹の猪だった。
猪をやり過ごし、また森の中を進む。
そして、また広場のような場所に出た。
広場の中央にある岩を何気なく見た時、何時の間にかそれは居た。
黒毛に白い毛の混ざった狼のような生き物。
バロの魔犬だろう。
岩の上に1匹のそれが座っている。
その赤い目と、自分の視線が絡んだ。
その一瞬で、冷や汗が全身に浮かぶ。
あの目を以前、見た事がある。
赤い瞳に、何か残酷な印象を与えるそれを。
あの目、そうだ両親と薪を集めに森に入った時に見た。
3人で薪を集めていた時に、不意に目の前に現れた黒い影と赤い瞳。
父は、自分と母を逃がす為にその場に一人残った。
父の棍棒を構える姿を尻目に、母を急がせて村に向かう。
後ろから聞こえた父の叫び声。
森の中から飛び出して来た別の黒い影が母に飛び掛かり、その首に噛み付く。
自分はその影を母から引き離そうとするが、また別の影が飛び出して来て自分にも襲い掛かる。
その生き物に馬乗りにされ、その前脚が自分の胸を抑え付ける。
抑えられ息が苦しい。
そして、顔に感じた荒い息遣い。
口から零れる唾液の臭さが、今も鼻に残っている。
そして大きく開かれたその口が、牙を自分の喉に突き刺さる。
何か声を出そうとしたが、ごぼごぼとした音しか出せなかったと思う。
やがて、目の前がゆっくりと暗くなり、何も見えなくなった。
そうだ、自分はあの日、この魔犬に襲われて命を落としたはずだ。
そんな記憶が頭の中に蘇る。
だが、蘇ったのはその時の記憶だけではない。
別の記憶の印象が頭の中に浮かび上がって来る。
自分は、森の中とは別の場所にいた。
見覚えはあるが、何だか解らないその街中。
高い石作りのような建物が立ち並ぶ、その下を歩く沢山の人々。
その服装も見覚えがあるが、どこか違和感がある。
空は暗く夜のようだが、街中には所々に明るい光が灯っている。
そして、人々が歩く横を何か四角い物が走っている。
四角い物の中に人が乗っているのが見えるが、あれは乗り物だろうか?
呆然とその光景を見ていると、ドスンと何かが落ちて来た。
何か大きな衝撃を感じて倒れ込む。
すぐ横に、また別の人物が倒れていた。
その人物から血が流れ出ている。
周囲の人達が悲鳴を上げた。
この記憶は、何だろう?
やがて、その記憶は薄れて行く。
「ビュン! ビュン!」
何かが空気を割くような音がする。
はっと、意識を戻すとマレイナが続けざまに短弓を放ったようだ。
2本の矢が岩の上に座る魔犬を狙い撃ちする。
1本の矢は反れて岩に当たったが、もう1本は魔犬に突き刺さる。
軽く悲鳴を上げる魔犬。
慌てて自分も戦斧を構える。
すると、岩陰から別の影が飛び出して来た。
これも、魔犬だ。
魔犬が2匹、更に出現した。
それら3匹の魔犬に囲まれるような体勢になる。
前に自分が出て、後ろに短弓を構えるマレイナが陣取る。
正面と左右から自分目掛けて魔犬が飛び掛かって来る。
少しばかり前に出て来た右側の魔犬を戦斧で薙ぎ、その勢いのままに正面の奴も切り付ける。
だが、連携が上手く、こちらの攻撃が当たらない。
戦斧を繰り出すと、魔犬がさっと後ろに飛び下がる。
マレイナの短弓も構えると横に避け、狙いを避ける。
マレイナも片手剣に構え直し、2人で横並びになって魔犬と対峙する。
魔犬も警戒したようで、唸り声を上げながらこちらと向き合う。
牽制に、軽く前に出て噛み付く動作をする魔犬。
そこをマレイナが切り付けると、別の魔犬が彼女に襲い掛かって来るが、すかさず自分がそいつを戦斧で切り付ける。
致命傷ではないが、打撃を当てる事に成功する。
また、睨み合いの体勢に戻った。
緊張を破ったのは、マレイナの魔法だった。
片手剣を構えながら、光弾を続けざまに3発、中央の魔犬に連射する。
今までの攻撃と違う為か、連続して光弾を受ける魔犬。
そこへ踏み込んで、戦斧を叩き込んでやった。
戦斧に頭を叩き割られ絶命する魔犬。
そこを左右から襲い掛かられるが、その1匹をマレイナが剣で牽制し、自分も肩からぶつかりに行きもう1匹を弾き飛ばす。
残り2匹だ。
マレイナが2発の光弾を1匹に向けて放つと、避ける魔犬。
そこを狙って戦斧で、横薙ぎに切り付ける。
避け損ねた魔犬の前脚を1本切断できた。
回避能力の落ちた魔犬を光弾の連射が襲う。
全弾命中。
崩れ落ちる魔犬。
残り1匹。
だが、背後に気配を感じ自分達は横に避ける。
後ろを確認すると、別の魔犬が2匹、こちらの様子を伺っている。
「くそ、まだいたのか!」
振り出しに戻ってしまった。
先にいた残った魔犬と、後から来た奴らが合流する。
再び、囲まれるような体勢になる。
マレイナが光弾を連射するが、1発当たった程度でこれは致命傷にはならない。
試しに自分も魔法の石塊を放つが、当たったのは最初の1発だけだった。
魔犬達も、慎重にこちらを伺う。
均衡を先に破ったのは、今度は魔犬達の方だった。
3匹一斉に、マレイナに飛び掛かって来る。
それを自分も、戦斧を振るって必死に牽制する。
マレイナ「このっ!」
辛うじて避けるマレイナ。
彼女の左側の革製の籠手に、噛み跡が見える。
こちらは、自分の攻撃が1匹を捉えたが、致命傷には程遠いようだ。
次は、自分に目掛けて3匹同時に飛び掛かって来た。
1匹を横に薙いで撃退するが、残る2匹に体当たりをされ仰向けに大地に倒れ込んでしまった。
戦斧の柄を横に構えて身を守るようにするが、致命傷を受けないように防ぐのが精一杯だ。
マレイナは、残る1匹に手が離せない。
絶体絶命だ。
ふと、何か記憶が蘇って来る。
そうだ、この状態はあの日に魔犬に襲われた時に似ている。
魔犬の息が顔に辺り、唾液が頬に落ちて来る。
言い知れない恐怖と、体の中から何か興奮とも思える感情が湧き上がって来る。
また、こいつらにやられてしまうのか?
あの時は母も自分も、そして父も助けられなかった。
そんな恐怖と怒りの混ざった感情が、走り廻る。
そして、また別の記憶も何故だか頭の中に浮かび上がる。
何だろう、高い石造りの建物の屋上に立つ自分?
金属製の柵を乗り越えその屋上の端に立ち、夜の街を見下ろす記憶。
夜だというのに、街には様々な色の光に溢れている。
輝く街灯?
道の中央を走る四角い何か。
自分がいるのとは違う建物も明るく光っている。
こんな光景、今まで見た事があっただろうか?
いや、見た覚えがある。
ふらっと、身を建物の前の空間に踊り出す自分?
勢い良く下の路上を目掛けて落ちて行く自分。
そして、下を歩く誰かに、そのままの勢いで激突した。
痛みは、感じない。
ただ、そのまま意識が薄れて行く。
両腕に押し掛かるような衝撃を感じ、我に返った。
目の前には、迫る魔犬。
自分の戦斧の防御に、苛立つような仕草を見せる。
渾身の力で魔犬を払いのけ、膝蹴りを喰らわす。
飛び下がる魔犬の隙をついて立ち上がる。
記憶の混乱から醒めて、今の状況を確認する。
周囲を見ると、マレイナは1匹の魔犬と戦っていた。
自分の前には、2匹の魔犬がいる。
均衡を破る為に、目の前の1匹に切り掛かる。
別の魔犬も飛び掛かって来るが、これを体当たりで突き飛ばすと、先程の魔犬に再び攻撃を続ける。
数では負けているのだから、無傷で生き残るのは難しい。
肉を切らせて骨を絶つしかない。
1匹の魔犬に、攻撃を集中する。
こちらの捨て身の攻撃に、怯む様子の魔犬。
迷わず戦斧を叩き続ける。
強打、強打、強打、魔犬の回避も限界がある。
もう1匹の魔犬も必死に食らい付いて来るが、そんな物は後回しだ。
ついに追い詰め、その止めを刺す。
続けて、残った奴にも戦斧をお見舞いする。
その頃、マレイナも魔犬を1匹、片手剣で切り捨てた。
残り1匹。
魔犬は不利を悟ったか、自分と距離を取ろうと下がり始める。
そこをマレイナの光弾、自分の石塊が襲う。
魔法の連射に、呆気なく倒れる魔犬。
戦いは終った。
自分の身体を確認すると、鎧の隙間から何か所か血が滲んでいる。
革鎧も数カ所破損している。
マレイナ「サダ、血が出てるよ。今、回復するね。」
「ありがとう。マレイナは大丈夫か?」
マレイナ「私の方は、かすり傷程度だよ。」
討伐した5匹の魔犬の尾を切断し、証拠として持ち帰る事にする。
全ての魔犬を倒したのか判断は出来ないので、しばらく森の探索を続けたが、日が傾いて来たので村に戻る事にする。
村では、皆が出迎えてくれた。
「よくやってくれた。」
「いえ、全て倒したのか、まだ解りません。数日は、様子を見ます。」
その日は、村の鍛冶屋に武具の修理の依頼をし、深い眠りに付いた。
眠りながら、幾つも交じり合う記憶が蘇った。
その中に、父と母の記憶もあった。
今の2人は、自分に笑みを浮かべてくれていた。
魔犬の討伐から数日、マレイナと森の探索を続けたが、魔犬の新たな痕跡は見付からなかった。
とりあえず、討伐は終了したと見ても良いだろう。
「村長、多分、奴らは全ていなくなったと思います。」
「おお、ありがとう、サダ。これで、両親も浮かばれると思うぞ。」
「はい、これでハノガナの街へ戻ります。」
「たまには、帰って来て顔を見せてくれ。」
「ええ、よろしくお願いします。」
旧友のトルドや、他の顔見知りにも別れの挨拶をする。
ニナサの村を後にした。
報酬は、2人で8ゴールド貰えた。
ハノガナの街の我が家に戻ると、数日してキオウ達も戻っていた。
キオウ「おお、サダ、マレイナ、久し振り。お陰で怪我もすっかり治ったよ。」
キオウは、故郷の村にある温泉に浸かっていたそうだ。
何でも、怪我や病気に効果があるそうで、今回の仕事で負った傷も癒えたらしい。
ナルルガは、久し振りにオルタナの町で依頼を受けていたらしい。
1人で依頼を受けたのではなく、臨時で他の冒険者らと組んで幾つかこなして来たのだとか。
ナルルガも自分達と仕事をするようになり、協調性も生まれて来たのだろうか?
翌日は皆で休み、明後日から依頼を受ける事にした。
ニナサの村から街へ戻って来てから数日が経った頃、借家の庭の片隅で小さいながら薬草の農園を作り始めた。
それを何故、始めたのは説明はつかない。
ただ、母が自宅の庭で同じよう薬草やら薬用植物などを作っていた事を覚えている。
久し振りの故郷に戻り、それで思い出したのかもしれない。
両親の好きだった香辛料が取れる植物も植えた。