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第124話「イナール大森林」

 ダラドラムド王国に近い国境の町、トトンの町からパシコの町へと戻って来た。

国境のこちら側から向こうを覗いただけなので、どうという印象を受けた訳ではない。

ただ、その領土を見える範囲で覗いただけの話だ。

別に、国境線を跨いだら、別世界という訳でもない。

生えている植物も同じだ。

見えたのも、遠くにある町と、国境に近い場所を歩いていた数人の姿だけである。

何か、向こう側の生活の営みなどが見えた訳でもない。


見た印象は、情報が少な過ぎて何も無い。

見たままなら、こちら側のハルム王国や、自分達のラッカムラン王国と大きく変わった点など解りもしない。

それは、意図的に、そう見せているのかもしれないが。

ラッカムラン王国でも、かの国と国境を接している地域が、東部や北部の一部地域であるが、自分達はそこには行った事は無いのだが、こことそうは変わらないように思えた。

国境近くで長年暮らしているフランには、あちらにどんな印象があるのだろうか?


フラン「そうだな。かつては、幾度も剣を交えた国でもある。最近ではないので、私自身が戦った事は無いのだが、子供の頃にもあり父や親族の者らが、戦った事もある。」

それは、ラッカムラン王国でも同じだ。

この10年程は、干戈を交える事は無かったが、あの国とは幾度も衝突した事があるのだ。

故に、自分達にとって、あの国の印象は良い物ではない。

それは、フランにも同じようだ。

イルネ「私の父らも同じよ。親族で命を落とした者もいるわ。」

フラン「そうだな。私の叔父や従兄らの中には、亡くなった者もいる。あの国をどう思うかと言えば、憎しみもあると言ってもいいだろう。それは、向こうにとっても同じかもしれないが。」

自分の家は、平民だった上に、ダラドラムド王国とは住んでいる場所も離れていたので、あの国の事を今まで身近に感じた事などは、一度もない。

だが、代々の貴族や騎士の彼女らは事情も違う。

フラン「ガノアの村の動く遺体や一角鬼の件から、この辺りは静かだ。けれど、その静けさが逆に恐ろしくも感じるよ。次は、もっと大きな事件になるんじゃないかとね。」


 パシコの町に数日滞在したが、そろそろ、自分達も戻らなければならないだろう。

フランにも、別れを告げ、ケリナの街に向かう事とした。

フラン「久し振りに会えて、楽しかったぞ。また、会う機会を楽しみにしてる。」

マレイナ「フラン、またね。」

イルネ「また、文を送るわね。」

「それじゃあ、また。」

再び馬に乗ると、国境を越えてケリナの街へと戻って来た。

出発してから、1ヵ月以上が過ぎており、ナルルガの通学は既に始まっていた。


ナルルガ「随分と長い寄り道だったようね。」

ナルルガとディーナが顔を合わせた。

ディーナが来た事に、ナルルガも安心した様子だ。

ナルルガ「よろしくね。できれば、仲間らの面倒も見て欲しいけど。」

ディーナ「初めまして。お期待に沿えるかは解りませんが。」

クラガとメリナッサの技術習得には、もうしばらく時間が掛るので、ケリナの街の滞在は、もうしばらくは続きそうである。


ケリナの街に、しばらく滞在する事になったが、自分達には余りする事は無い。

ケリナ魔法学院に行ってみたり、自分は貧民街にマガセに会いに行くなどしていたが、そんな程度だ。

冒険者としての活動は、美味しい依頼が少ない。

キオウ「ここの周辺で、何かいい町とか無いのか?」

稼げそうな町をギルドで聞いてみた。

「そうですね。ナールの町なら、森があって、いろいろ魔獣やら獣が多いので、ここよりも皆さんに向く依頼があるかもしれませんね。」

ギルドの着飾った美人受付嬢は、そう提案してくれた。

ナールの町まで、馬で3日の距離だ。

そう言えば、メルアノの街で買ったディーナの乗馬馬だが、ケリナの街からはナルルガの乗っていた馬が使えるので街で売った。

販売価格は50ゴールドになったので、僅かばかり儲かった。


 ナールの町は、規模の小さな町である。

イナール大森林の近くにあり、林業などは盛んではあるが、他にこれと言った特徴の無い土地である。

イナール大森林は、ここグラナイト地方の西部から西にあるタガドール地方まで及ぶラッカムラン王国最大の森林である。

その為に、沢山の獣が生息するが、厄介な事に魔獣も棲んでいる。

その討伐依頼が多い場所でもある。

町のギルドで登録を済ませると、早速、狩猟と魔獣討伐の依頼を受けて大森林へ向かう。

大森林には、町から数百mも歩けば到着する程度だ。

ハノガナの街と迷宮の関係に近いかもしれない。


大森林へと分け入る。

大森林とはいえ、町に近い所は町人らも出入りする事も多いので、木々は疎らで獲物となる獣は少なく、魔獣も余り出現はしない。

依頼の達成には、もう少し奥へと入らなければならないだろう。

今回、ディーナと一緒に依頼を果たすのは初めてではある。

ラドガ渓谷で、彼女らを救出したが、彼女に会ってからは戦闘をした事は無い。

マレイナが、周囲の気配を探りながら進む。

その横には、自分が並び、その後ろにイルネとフォドが続き、キオウとディーナは後ろを警戒する。

森林の中に入り、数百mも進むと、人里に近い場所には思えなくなる。

迷わず動けるのは、ある種の勘だ。

けれど、その勘が狂う事はほぼ無い。


マレイナが足を止めたので、全員が足を止め、周囲の気配を探る。

マレイナが指差した方向の木々の間に何かがちらりと見えた。

何かが進んで来る。

そいつらの横側へ出るように移動して待ち伏せする。

近付くと、正体が解かった。

狗毛鬼が8匹、その内の1匹は黒狗毛鬼のようだ。

全て、鎧を着込んで、武器も持っている。

奴らも足を止め、周囲を探り始めた。

犬のような鼻で、匂いを嗅いでいるようだ。

見付かる前に、先制攻撃だ。


呪文を唱えると、一斉に狗毛鬼らへと向けて放つ。

奴らがこちらの位置を把握する前に、攻撃を始められた。

自分がキオウとイルネと共に切り掛かる。

その後ろにディーナが続き、フォドとマレイナは周囲の警戒の為に後ろにそのまま待機する。

黒狗毛鬼が、自分に向かって来た。

長剣に、円形盾を装備している。

こちらが切り掛かると、左手の盾で防御を固めた。


盾に攻撃を防がれそうになり、長剣に込めた力を一度緩めると、他の場所の隙を探ぐるが、見付ける事はできない。

ならば、その盾に火炎矢を叩き付けた。

盾の表面を焦がしたが、火は直ぐに消えた。

だが、奴は、呪文を警戒し、数歩下がった。

ならば、その他の狗毛鬼を適当に狙い、火炎矢を数発放つと、黒狗毛鬼が誘われたように前に出て来た。

そいつの横から薙ぐように長剣を振り素振りをすると、更に釣られて奴は盾を横からの攻撃に備えて構え直す。

だが、こちらは、反対側へと体の位置を変えて、開いた奴の胴体を狙い剣の軌道を変えた。

急激な変化に、奴の体と盾の動きが一瞬遅れた。

けれど、その一瞬の差があれば、一撃を決められる。

素早く長剣を突き出すように、奴の体を狙うと、鎧を貫いてやる。


黒狗毛鬼も上段から剣を振り抜いて来たが、逆にこちらも踏み込むと、左腕で奴の降り下げられる手首の下の辺りを押し返すように動かす。

奴の剣の動きを阻害し、武器の動きを殺してやった。

攻撃を封じられた奴の腹を目掛けて剣を突き出すと、避ける事もできずに、その一撃が命中する。

腹の部分の鎧が砕けた。

鎖帷子の金属片が剣にひしゃげられて行く。

そして、そのまま奴の腹に突き刺さる。

奴も、必死に武器を振り回そうとして来たので、剣をその体から抜き出して距離を取る。

抜いた剣の作り出した傷口から、血液がどぼりと出て来た。

奴は、引かずにこちらへと向かって来る。

そこへ既に唱え終わった呪文を叩き込むと、そいつの動きが止まった。

動きが無くなったところへ、再び剣で切り付ける。

奴の胴体を一直線に引き裂く。

ここまで、打撃を与えれば、黒狗毛鬼も戦いは続けられない。

まだ、立っていた奴の喉を突き刺すと、体がぐらりと倒れて行った。

次の相手を探す。


だが、仲間らがほぼ倒している。

ディーナの戦い方も凄い。

手にしたエストックが、狗毛鬼を次々と刺し貫く。

その一撃一撃が、致命的な場所を刺し通している。

堪らず狗毛鬼は崩れ落ちた。

仲間らと、8匹の狗毛鬼を倒した。

「ディーナの剣も凄いな。」

ディーナ「そんな事は無いわよ。」

キオウ「いや、凄い攻撃だよ。動きも早いけど、狙いが的確だよな。俺の槍よりも凄いぜ。」


その後も、大食い鬼の一団を討伐した。

その他にも、マレイナが弓で、大角鹿を仕留めた。

大角鹿は、枝を切って縛り付け、キオウと2人して町へと運んだ。

短い時間ではあったが、依頼を達成できた。

ここは、ケリナの街よりは、稼げそうな場所である。

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