第120話「絞り込まれる情報」
メルアノの街に来て数日、未だにディーナの有力な情報は無い。
ここの冒険者の人数が多いのもあるが、誰が彼女と距離が近かったのかもよく解らない。
そんな話を余所者が聞き出そうとしても、簡単に話てくれるものかどうか。
人付き合いは得意なはずのマレイナも、やや苦戦しているのかもしれない。
まあ、今は、自分らも仲間である事を認知して貰うしかない。
その為にも、依頼をこなし実績を示すだけだ。
その為に、魔獣を探し回る。
周辺のギルドの無い小さな村の一角鬼集団の討伐、農場を襲った大食い鬼の撃退、隊商の交通を妨げた狗毛鬼への警戒など。
幾つも依頼を消化している内に、顔見知りの冒険者らも増えつつあった。
そうなると、いろいろ情報が入って来る。
「ディーナ? ケムンの町にいるんじゃないのか? 向こうでも、よく活動してたから。」
また、ケムンの町に戻るのもどうかと思うので、他の情報を集める。
そう言えば、彼女は仲間と組んで活動しているのだろうか?
「ディーナの仲間? そうだな、最近は4人で組んでるよ。戦士2人と魔術師1人に彼女かな? 彼女は、魔法も武器も得意だから、どこでも重宝してたけどな。」
段々と、情報が集まって来る。
「魔法も幾つか属性が使えるみたいだな。武器は、エストックを使ってるから、魔法戦士かな、ディーナは?」
そして、ついに次の行先についての情報も得た。
「そう言えば、ラドガ渓谷に行くって言ってたかな? あそこの迷路みたいな所は、鉱物とかも沢山採れるから。最寄りは、ラドの町だよ。」
ラドガ渓谷、長年、河川が浸食した場所で、今は雨季の時以外はほとんどの地域が枯れた谷間になっているようだ。
流れが複雑で、削った地形が複雑になり、それが迷路状になっているという。
川が削った剥き出しの岩肌から、様々な鉱物が採掘できるそうだ。
複雑な地形で、魔獣もよく徘徊している場所らしい。
キオウ「よし、行くか。」
「今度こそ、ディーナを見付けられるよ。」
マレイナ「ありがとう。」
情報を得た翌朝、メルアノの街を立つ。
ラドの町には、4日もあれば着くだろう。
ラドの町よりも先にラドガ渓谷の方が先に見えて来た。
なるほど、これはなかなかに見応えのある風景だ。
深い場所では100mは深く大地が削られている。
これは、上り下りも場所によっては大変だし、地形を把握していないとえらく遠回りにもなりそうだ。
渓谷を眺めながら馬を進ませて行くと、町が見えてきた。
規模はそれ程に大きくはない場所だ。
これなら、人探しは楽だろう。
宿に寄ってからギルドに向かうが、今は昼過ぎなので、冒険者の姿は見えない。
皆、今の時間帯は、何かしらの依頼を達成する為に踏ん張っているのであろう。
受付嬢に、登録を頼んだ。
「あら? あなたは?」
マレイナの姿を見て、受付嬢が何か思い付いた様子だ。
期待を込めて、理由を聞いてみる。
「ええ、いえ、似た冒険者を知っていたので、つい。」
その似ている冒険者とは、ディーナの事だろうか?
「そうですよ。何故、彼女の事を?」
マレイナが事情を話した。
「そうだったのですか、ディーナの妹さんで。」
マレイナ「少し事情があって、別行動をしていたので。それで、姉というか、ディーナさんは、今、どこに?」
受付嬢の話だと、ディーナは、今もこの町に冒険者として登録していると言う。
「今朝も、依頼を仲間らと受けていましたから、夕方には戻って来ると思いますよ。」
ついに、ディーナに会えるようだ。
時間を潰す為にも、自分達も軽めの依頼を受けて渓谷に向かう。
折角、来たのだから、少しは渓谷に接してみないと。
鉱物の発掘依頼を受けて、現場へと向かう。
ギルドでは、渓谷の地図も貰って来たので、大丈夫だろう。
受付嬢には、ディーナと入れ違いにならないように伝言も頼んでから、出発した。
町から出ると、渓谷へと向かうルートが幾つもある。
その中でも、渓谷の浅い谷間に向かう道を選び進む。
今日は、飽くまでもお試しみたいな依頼なのだ。
そこらで掘れる鉱物は、余り価値は無く、魔獣にも遭遇する可能性は低いだろう。
入門者向けの危険度の少ない地域でもある。
それでも、削られずに残った岩山と、谷の落差は大きい。
眺めていても、飽きない壮大な光景だ。
ガイデイル渓谷と比べると、あちらの方がみすぼらしく思えてしまう。
こちらは、ラドガ大渓谷と呼んだ方がいいかもしれない。
キオウ「すげぇ~眺めだな。何だか、自分が物凄く小さく思えて来るよ。」
イルネ「あら? 実際に小さいじゃない?」
キオウ「イルネ、その言い方は無いだろ。まるで、」
イルネ「まるで、ナルルガみたい?」
キオウ「あっ、ああ、そうさ。あいつなら、そう言って来るだろうな。」
イルネ「ふふ、ちょっと真似してみた。」
フォド「でも、本当に自分が小さく思えますね。自然の力の前では、何と無力さを感じる事か。」
「ここに来て、良かったな。こんな絶景を見られるなんて。」
マレイナ「みんなが喜んで貰えるような風景が見られて良かった。それにしても凄いね。
空が飛べたら、鳥みたいに、上から眺めてみたいな。」
「それはいいな。でも、そんな高い場所から見るのは少し怖いかもな。」
発掘場に来たので、掘り始めた。
ハノガナの街の迷宮でいえば、上層で見付かるような鉱石ばかりが掘れただけだが、今日はこれで満足しよう。
数も揃ったので、町へと戻る。
行きも帰りも、魔獣のまの字も無い道中だった。
ギルドに入ると、冒険者らが1日の仕事を終えて次々と戻って来ていた。
自分らも掘り出して来た鉱石を納品して報酬を受ける。
全部で4ゴールド程にしかならないが、仕方ない。
受付嬢に、ディーナのパーティーの事を聞いてみた。
「そうですね、今日は、まだ戻ってはいません。」
そのまま、ギルドで彼女らの戻りを待つ事にした。
けれど、日が落ちても、彼女らは帰って来ない。
キオウ「ちょっと、遅くないか?」
「ああ、そうだな。こんな暗くなっては、渓谷での移動も大変だろうに。」
イルネ「もしかして、渓谷でキャンプして、今日は戻らないとか。」
受付嬢に聞いてみた。
「そうですね。確かに戻りが、遅いですね。キャンプの可能性も無い訳ではありませんが、今回の行先は魔獣も多いので、宿営するならば危険の少ない場所に移動しているかと。でも、そこまで必要な依頼では今日は無かったと思いますが。」
更に、待ってみたが、戻って来ない。
今日、出た冒険者らの全てが戻って来たが、ディーナら4人は姿を見せない。
「これは、変ですね。何かあったのかもしれない。」
だが、日が完全に落ち、渓谷は真っ暗闇に包まれている。
捜索するのは、無理であろう。
彼女らが向かったであろう場所を聞いてみた。
「多分、ゴランカの谷の辺りかと思うのですが。そこで産出する鉱石が、今回の依頼の目的になっています。多少、依頼の数が多かったのですが、それでも戻って来ないのは、何かしらのアクシデントがあったのかもしれません。」
この時間になってしまっては、どうしようもない。
明日になってから、自分らが捜索に向かう事とする。
まんじりともしない夜が明けた。
自分らは、支度を整えると、まずはギルドに向かう。
受付嬢は、まだディーナらが戻って来てはいないと言う。
正式に捜索するには、少々早いので、自分らは自主的に捜索を行う事にした。
ついでに、鉱石採取と魔獣の討伐依頼も受けて出る。
目指すゴランカの谷は、町から向かって2時間は掛ると言われた。
少々、遠いいが、向かって確かめるしかない。
昨日とは、別のルートから渓谷の奥へ進む。
町を出ると、長々と続く下り道を進む。
ひたすら下るのではなく、途中で今度は登りになるはずだ。
そして、それを登り切り、次に下れば目的地に着く。
携帯する食料や飲料も、多めに持って向かう。
依頼が達成できないのでキャンプしたのならば良いが、何かしらの理由で遭難したり動けなくなっている可能性も高い。
全員が、押し黙って、もくもくと下り道を歩いて行く。
下りの底と思える場所で、角無し鬼の群れに遭遇する。
ラッカムラン王国では、余り見掛けない魔獣だが、ハルム王国では各地に生息しているようだ。
こいつらは、角を失った大角鬼なのだろうか?
それとも、こいつらの仲間に角が生えて大角鬼へと変わったのか?
その理由を知っている者はいるのだろうか?
などと考えていたが、仲間らと共に、全て切り倒していた。
道は登りへと変わった。
ここまでは、ディーナらにつながる痕跡は無い。
何カ所かに足跡が残ってはいたが、それが彼女らの物なのかは判断できない。
冒険者らしき足跡もあるが、魔獣の痕跡もある。
周囲を魔獣らも蠢いているのは間違いないようだ。
道を登り切ると、また下りへと変わった。
ここを下り終わると、ラドガ渓谷の中でもゴランカの谷と呼ばれる地域に入るはずだ。
そして、その谷へと到着したようだ。
周囲を見回す。
両側は岩山のようになっており、その間は増水期には川が流れる場所らしい。
谷底は、水が流れて削ったのであろう。
比較的、平らな地形になっている。
まだ、ディーナらの手掛かりなどは見付けてはいない。
キオウ「さて、この奥にいるのか?」
フォド「ええ、それを確かめてみましょう。」
「マレイナ、みんな、行くぞ。」
谷の間へと自分達は入り込んだ。




