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第12話「冒険者、家を借りる」

 ハノガナの街に来て、早1ヵ月が経った。

やはり、ここの街での稼ぎは良い。

だが、宿で部屋を借りるのも出費が嵩むので、どうしたら良いかと思っていたが、その解決策をマレイナが提案してくれた。

「この街の稼ぎもいいけど、出費が痛いな。」

キオウ「飯代に宿代。オルタナの町にいた時よりも、金を使うよな。」

マレイナ「だったら、みんなで家を借りない? 楽しいよ、きっと。」

そうか、4人で家を借りるのか?


今まで赤い牛の3等部屋を借りていたが、これが1日40シルバー掛かる。

一月で考えると、12ゴールドの×4人分である。

考えようによっては、家を借りた方が安上りかもしれない。

こんな時にも、ギルドで相談してみるのが良い。

ナルルガ「え~っ、あんた達と、一緒に住むの? マレイナとならいいけど、男と住むのはちょっとね。」

マレイナ「何で、楽しいよ。私、ご飯とか作るよ。」

ナルルガ「でも、キオウとか、いやらしい事しそうだし。」

キオウ「そっ、そんな事をするかよ。サダ、何とか言ってくれよぅ。」

「だ、大丈夫だよ、そんな心配。キオウは真面目だから、そんな事はしない。多分。」

キオウ「多分じゃなくて、俺、変な事なんてしないから。」

マレイナ「大丈夫。みんな仲間だよ。今まで、仲良くやって来たじゃない。」

ナルルガ「そうね。変な事したら、直ぐに出て行って貰うから、覚えておいてね。」

キオウ「出て行くのは俺かよ。へいへい、そんな心配するなよ。」

マレイナ「よし、みんな賛成だね。良かった。」

4人で家を借りるのには、ナルルガは消極的ではあったようだが、マレイナに押し切られるようにして、結局は賛成してくれた。


 ヘルガに相談すると、不動産屋を紹介してくれる。

不動産屋に赴き、相談し何軒かの借家を紹介して貰った。

どれも物件としては悪くはないが、家賃は宿屋に泊まるのと、それ程には変わらなかった。

何件か見て回ったが、予算と折り合いが付かない。

それは何件目かであったか? やや街の郊外ではあるが、何とか予算以内の物件を見付ける事ができた。

一月の家賃4000シルバー、つまり40ゴールドになる。

二階建ての一軒家。

一階に調理場と大部屋、それにちょっとした工作場や納屋もあり、二階には小部屋が5つもあった。

敷地内には井戸もあり、生活には不自由はない。

井戸で汲んだ水を温め納屋に置いた桶に溜めれば、ちょっとした風呂にも使える。

工作場では、簡単な金属加工や大工仕事などができそうだ。

二階の部屋は、各自の個室として一部屋づつ使う事になった。

最初の家賃は、最低2ヵ月分は先に払って欲しいとの事で、皆で出し合い2ヵ月分だけ払った。


家を借りたはいいが、家具等は備え付けの物位しかない。

まずは、様々な物を揃えるのに、また稼がなくてはならない。

それに、食事も自分達で買い調理する事になる。

しばらくは、家の様々な物を揃える為、それから使い果たした貯蓄も貯めるのに、踏ん張らないと。

そして、2ヵ月後には、新たに家賃の問題も出て来る。

稼ぐ為に、地下迷宮に向かう日々が続く。

幸いな事に、採掘場で金鉱石を見付ける事もあり、思った以上に稼げる事もあった。

1ヵ月程に間に、少々余裕が出て来るまでには、貯蓄する事ができた。


 家を借りて、変わった事もあった。

以前の宿屋暮らしの時には、ほぼ毎日のように依頼をこなし、疲労が溜まったならば一日程休むの繰り返しであった。

今は、それ程に焦って宿代を稼ぐ事もないので、週に1回は休養日を設ける事にした。

自分は鉱石を採掘したからなのか、金属加工の技能を身に付けたので、採掘で持ち帰った鉱石からちょっとした装飾品などを工作場で作ってみた。

最初は趣味の域を出なかったが、その内に店で買い取りをして貰える程度には上達した。

キオウは、たまに家具などを作っている。

集団生活が、当初は苦手だったナルルガも皆に慣れて、今は普通に暮らしている。


ナルルガには、魔法を皆で習ったりもした。

魔法を本格的に学んだのはナルルガだけであり、他は何となく見よう見真似で始めたようなものだ。

魔法の使い方、イメージの描き方等、学ぶ事は多々あった。

魔法の基本は、イメージだ。

頭で思い描いて、それを現実で形にする。

それだけでなく、魔法の言葉で呪文を唱え、魔法をより形にしたり威力や効果を強化する。

魔法の言葉は、この世界の日常会話等とは、また違った言語だ。

これを習うには、魔術師の師から教わるか、魔法学校に通うのが普通である。

自分達は親から習ったナルルガが師となって簡単な物を学んだのである。

ナルルガは短期ではあるが、魔法学校でも習った事もあるそうだが。

魔法を教えるようになったからか、それとも共同生活をし始めたからか、以前は感じていたナルルガの棘ある態度が、丸くなったように感じる。

彼女自身が、自分達に気を許してくれているのだろうか?


マレイナは料理に掃除に洗濯と、様々な家事をやってくれている。

家事は分担で交代しながらやる約束であったが、彼女が積極的に他を助けている内に中心となり、やるようになっていた。

マレイナは、いろいろな料理をするのだが、焼き菓子などもよく作ってくれた。

それが、なかなかに美味だ。

マレイナ「今日は、ケーキ焼いたよ。」

ケーキと言っても、少しばかり大きな焼き菓子で、砂糖やナッツが乗った物だ。

ナルルガ「! マレイナ、これも美味しい。もう1個頂戴。」

キオウ「また、喰うのかよ。毎回、余計に喰ってないか、お前。」

ナルルガ「いいじゃない。美味しいんだから。」

マレイナ「ちゃんと、多めに作っているから、まだあるよ。キオウもサダもどう?」

「ありがとう。じゃあ、もう1つ貰うよ。このケーキも美味しいよ。」

ナルルガ「マレイナのお菓子とか料理、私好きだな。」

マレイナ「ふふふ、ありがとう。」

大分、お気に入りのようで、ナルルガとマレイナの仲も良い。

ナルルガだけではない、マレイナの明るさに、皆、助けられ、癒されている気がする。

何時の間にか自分達のパーティーは、家族のような関係になっていた。

ただ、まだ誰もが恋愛までの感情は、抱いていないようであった。

4人の中で恋愛感情が生まれてしまうと、今の関係が崩れそうな恐れもあったのかもしれない。


 ある日、冒険者ギルドでマグルに声を掛けられた。

マグル「良かったら、依頼を手伝ってくれないか?」

「えっ、別にいいけど、どんな依頼だ?」

マグル「毒吐きマダラヘビなんだけど、その素材が目的なんだ。」

キオウ「マダラヘビか。確かに面倒な奴だな。」

マグル「あいつの毒牙が何本か欲しいけど、なかなか他に手伝ってくれる奴がいなくてね。まあ、無理には頼めないけど。」

「いいよ。前に世話になったのだから、今度は自分達が力になるよ。いいよな、みんな?」

マレイナ「私は手伝ってもいいよ。」

ナルルガ「私も同意。」

キオウ「いいぜ、行こう。」

手強い相手だが、以前戦った時よりも上達はしているので、仲間と相談の上でマグルの依頼を一緒に受ける事にした。

まずは、あの地下の空洞を目指す事にする。


途中で大食い鬼や軍隊アリなどに遭遇したが、以前に毒吐きマダラヘビに遭遇した空洞に到達した。

前列に自分とマグルが立ち、中央にナルルガ、後衛をキオウとマレイナが務める。

周囲を警戒しながら空洞の奥へ向かう。

しばらくして、以前に討伐したマダラヘビの遺骸と思われる物が残っている場所に辿り着いた。

マダラヘビの骨格は辛うじて残ってはいたが、その肉は何物かに食い散らかされている。

マグル「ダメだな。毒牙は残っていない。」

キオウ「誰かさんが、口を燃やしたからな。多分、あの時に破壊したんだろう。」

ナルルガ「何よ。あれで、毒液を封じられたじゃない。」

「それにしても、あんなに大きいマダラヘビが、こんなにボロボロだ。」

骨格は残っているが、他の部分は、ほぼ残っていない。

マレイナ「何かが食べたんだね。」

キオウ「まあ、今回は、口への呪文攻撃は封印だな。」

ナルルガ「解っているわよ。」

改めて、マダラヘビの捜索を再開する。


空洞に到着して約20分程進んだだろうか?

空洞の端には、まだ到達しない。

すると、あの聞き覚えのある床を擦るような音が響いて来た。

マレイナ「来た。こっちに向かって来るよ。」

全員の緊張が高まる。

マレイナが、マダラヘビの背後と思しき場所に光の玉を幾つも放つ。

明るい光がゆっくりと落ちて来て、浮かび上がる毒吐きマダラヘビの姿。

マグル「行くぞ。」

キオウ「おう、みんな油断するなよ。」

自分は戦斧を、マグルが片手剣をマダラヘビに叩き付ける。

そこに、キオウも戦槍を持って加わる。

前衛3に、後衛2の陣形に変わった。

ナルルガとマレイナは魔法や弓で攻撃を開始する。


体の硬さ、大きさは厄介な相手だが、以前に戦った経験もあり、またマグルが加わっているので、問題無く対処はできそうだ。

気合いを込めた強打、連撃が、少しづつ致命傷を与えつつあるようだ。

だが、吐き出す毒液の塊は、確実に避けないとこちらが致命的な傷を負う。

そこは前衛と後衛の連携で、前衛が切り込んでは後衛から魔法や弓の遠距離攻撃が打ち出される。

そして、後衛を狙おうとしてくれば、前衛がそれを阻止する。

マグルの剣戟は、凄まじい。

己の速度を活かした連撃と確実に強撃を与えて行く正確な攻撃、手数の多さ、技の多さは目を見張る。

キオウの槍の連撃も速度、攻撃力と申し分ないが、マグルの場合、それに身のこなしも加わっている。

自分の斧術には真似のできる技ではないが、それは攻撃の質の違いで、こちらは手数こそ敵わないが一撃の重さが違う。

いつしか、マダラヘビは体を魔法の攻撃で穴だらけにされ、前衛の攻撃に切り裂かれる。

15分程の戦いであったろうか?

マダラヘビが空洞の床にその巨体を投げ出す。

今回も気を抜かずに、その頭を切り落とす。

毒牙を注意深く切り取り、討伐の証の鱗も削り取る。

マグル「まずは、1匹目」

キオウ「続いて行くぜ。」


更なる獲物を追い求め、空洞の探索を続ける。

暗がりに消えて行く倒したマダラヘビの体に、何か小さな物が集まって来る気配がした。

次のマダラヘビには、踝まで水に浸かった場所で遭遇した。

やや足場は悪い所ではあったが、先程と同じく無事に討伐を終えた。

近くで乾いた少しばかり盛り上がった場所を見付け休憩する。

それにしても、この空洞は大きい。

天井も高く、上も見えない。

こんな空間が、地下迷宮の中にあるとは。

マグル「まだまだ、こんなの迷宮の極一部さ。まあ、オレも全てを見た訳じゃないけどね。

でも、そんな冒険者は、まだ1人もいない。」

マレイナ「こんな空間が、迷宮に幾つあるのかな?」

冒険者らが何十年何百年も探っても、その終わりが見えないというのが、実感できる。

こんな巨大な空間が、地下には幾つもある。

そんなの、地上にいると想像もできないだろう。

中には、毒吐きマダラヘビよりも巨大な魔獣の住処もあるという。


再び探索を始める。

この日、あと2匹のマダラヘビを仕留めた。

毒牙も充分に集まったので、街へ戻る事にする。

今回の報酬、マグルが素材以外には放棄したので、他の者の取り分は1人3ゴールドとなった。

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