第117話「ケリナの別れ」
自分達は、再びケリナの街へと向かっていた。
今回は、イルネ以外にも、クラガとメリナッサの2人の魔工術師も同行している。
彼らは、アデト魔法学校に所属しており、黒凰石を精製し魔道具として完成させる技術をケリナ魔術学院に学びに行くのだ。
2人共、人間族で、クラガは30代前半の男性、メリナッサは20代後半の女性である。
2人は、乗馬ができないので、数日前から訓練を始めていたが、まだ何とか馬に跨れる程度の腕前だ。
クラガ「騎士殿らと違って、馬に縁が無いですから。」
いや、自分らも、騎士に叙されたが馬は自前でも無いし、たまにこうして借りて乗る程度なんだが。
メリナッサ「それにしても、ナルルガさん、凄いですね。学院への推薦を貰えるなんて。でも、拠点の設営でも大活躍でしたから、当然かもしれませんね。」
馬に不慣れな彼らに合わせてゆっくりと進み、6日目にケリナの街へ到着した。
まずは、ユドロ侯爵の別邸に向かうと、馬と荷を預け、ケリナ魔法学院へと向かう。
タバル教授に会うと、黒凰石と魔抗冠を渡した。
タバル「ええ、話は文で読んでおるから承知してある。ええ、また君達と、働ける事は嬉しい。ええ、黒凰石の精錬の方法も幾つか判明しておる。ええ、まずは、この魔抗冠を解析し、同様の物を作ってみようかと思う。ええと、今回は、アデト魔法学校からも人員を派遣して頂きありがたい事である。それと、ええ、ナルルガ君、また受講する機会を得て良かったな。我が校も、ええ、君のような優秀な学生は歓迎である。」
ナルルガ「ありがとうございます。再び、ここで学べる機会を与えて頂き、ありがとうございます。」
今回、ナルルガは、まずは上級講座を受講する事になる。
その期間は、半年である。
だが、その講座が始まるまで、約1ヵ月の間があるようだ。
ナルルガ「それまでは、クラガらと一緒に黒凰石の精錬を学んでいるわ。
ナルルガが、続けて上位の講座を受けるのならば、数年は、このケリナの街への滞在を続ける事となる。
今回のケリナの街までの旅が、自分達との最後の行動になるかもしれないのだ。
ナルルガの滞在先は、ユドロ侯爵の別邸となるそうだ。
マレイナ「しばらく、ナルルガちゃんともお別れだね。」
ナルルガ「何よ、まだここにみんなも、しばらくは滞在するんでしょ? それに、ここにもまだまだ伯爵に派遣される事が、何度もあるんじゃないの?」
そうかもしれないが、それでも今まで一緒にいた仲間が離れるのは寂しいものだ。
フォド「そうですね。私にしてみれば、短い時間ですが、皆さんには、そうではないのでは?」
イルネ「どこまで講義を受けるかにもよるけど、上位だけで終わらせる気は無いのでしょう?」
ナルルガ「そうね、少なくとも、上級の上の特級までは受けるつもりよ。それでも、講義の期間だけでも1年半になるわね。特級から上は長いから。」
「そうか、少なくとも、その期間は戻って来れないんだな。」
マレイナ「長いよね。それは。」
何故か、キオウの口数が少ない事を、この時は気付かなかった。
ケリナの街で、数日を過ごした。
自分は、マガセに会いに行ったりしていたが、何か他にする事はないかと仲間らと話し合った。
マレイナ「あのさ、ちょっと寄り道ってできないかな?」
マレイナに、何か考えがるのだろうか?
マレイナ「レデス地方に寄りたいんだけど。」
方向的には、アデレード地方とは全く違うのだが。
アデレード地方に帰るなら行先は南の方だが、レデス地方だと東側だ。
しかも、ケリナの街のあるグラナイト地方からは、テリオン地方を通り抜けてから到達する場所である。
テリオン地方は、少し前までいた地下遺跡のあった場所だ。
「ちょっと、方向が違うな。どうかな?」
イルネ「今は、他に何も予定は無いわ。遠出のついでに寄ってもいいわよ。」
マレイナ「いいの? 本当に?」
イルネ「ちょっと位はいいわよ。たまにはね。ただ、行った先の費用は、自分達で負担すればね。向こうでも依頼を受けちゃいましょう。」
フォド「行きましょう。是非。」
ナルルガにも、出発の事を伝えた。
ナルルガ「もう行くの? もっと、残るかと思ったけど。黒凰石の精錬もまだよ。」
「少し、寄り道するから。また、こっちに寄るよ。」
ナルルガ「そうなの? で、どこに行くのよ。」
「レデス地方だよ。」
ナルルガ「レデス地方に? そう、ついに行くのね。上手く行くといいね、マレイナ。」
マレイナ「ありがとう。行ってくるね。」
ナルルガ「じゃあ、みんな、またね。」
フォド「ええ、また会いましょう。」
レデス地方に向かう事となった。
イルネ「ねえ、ちゃんと、挨拶した? はっきりと思う事を伝えておいた方がいいんじゃない?」
キオウ「えっ? 何をだよ。まあ、街を出る時には、挨拶の1つでもするけどさ。」
イルネ「そういう意味じゃないんだけどな。これから数年は、たまにしか会えなくなるのよ彼女に。いいのかな~って、私は思うんだけど。」
キオウ「べ、別にいいさ。冒険者が別れたり組んだりは、珍しくもないだろ。」
そして、旅立ちの準備ができた。
レデス地方の後で、またケリナの街に寄るつもりではある。
馬上の人となり、ナルルガらと、ここで別れる事になる。
ナルルガ「じゃあね、みんな。今までありがとう。旅は気を付けてね。」
「ああ、ナルルガも頑張れよ。離れるのは寂しいが、みんな、いつも心は1つだからな。」
ナルルガ「何、それ。でも、オルタナの町から、サダとキオウには、世話になったって思ってるよ。魔法学院に通えるのも、2人といたからかな。ありがとう。」
「ナルルガに、そんな事を言われると思わなかったな。でも、こっちも、いろいろ助けになったよ。」
ナルルガ「そうでしょ。私を仲間にして良かったよね?」
マレイナ「じゃあ、行ってくるね。」
ナルルガ「お姉さんの手掛かり、見付かるといいね。」
フォド「ナルルガさん、お元気で。やっぱり、別れは寂しいですね。」
ナルルガ「そんなに、悲しまないで。私も残り難くなるから。」
イルネ「それじゃあ、またね。学院に、また通えるの羨ましいわ。」
ナルルガ「なら、あなたも通う?」
イルネ「できるならね。」
仲間らの別れが済んだようである。
ナルルガ「あんたは、何か言ってくれないの?」
キオウ「いや、今更、言う事ないかなって。」
ナルルガ「そう、なら、握手しようか?」
ナルルガがキオウと握手していた。
キオウ「やっぱり、手、小さいな。」
ナルルガ「そうでしょ。魔術師は、か弱いんだから。」
キオウ「そうだな。いつも、気に留めてないとな。」
ナルルガ「じゃあね。」
自分達は、東の方に向かう。
馬は、テリオン地方を過ぎ、レデス地方に来た。
この地方も、ハルム王国に行く時に通った場所だ。
そして、ケムンの町へと到着した。
宿に馬を預け、この町のギルドへと向かう。
町の規模は中くらい、ギルドにもまあまあ冒険者もいるようだ。
登録を済ませると、情報収集だ。
まずは、どんな依頼が多いのか、受付嬢に聞いてみた。
「そうですね。ここらも大きな町ではありませんから、魔獣もそこそこに出没します。
地形も複雑なので、沼地やら森もあって、あいつらが沢山いますよ。」
なかなかに、魔獣も多い場所らしい。
マレイナ「あの、ここにディーナって女性は、所属してます?」
「ディーナ? いえ、今、彼女は、ここの所属ではないわ。5ヵ月くらい前までは、ここにいたけどね。その前も、何度か来た事はあったわね。何で、彼女の事が?」
マレイナ「多分、その人は、私の姉だと思うんです。でも、事情があって離れ離れになってしまって、行方を探しているんです。」
「そう言えば、あなた、彼女に似てるわね。そう、お力になれなくて、ごめんなさい。」
マレイナの姉は、やっぱり、今はこの町にはいないようだ。
だが、もう少し、情報を集める為に、ここに数日滞在する事にした。
翌日から、ケムンの町のギルドで、依頼を受ける。
受注したのは、魔獣の討伐依頼だ。
町を出ると、魔獣がよく出没するという沼地へとまず向かう。
人は余り近寄らない場所らしいが、その為に魔獣の巣窟になっており、そこから町の間近まで奴らが出没して来るようだ。
少しでも多く、奴らを倒すのが目的だ。
まばらに木の生えた、腐った植物が目立つ沼地へと来た。
フォド「水位が下がって、水草が腐っているようですね。」
ぬかるんだ泥の中を進む。
相手も、泥の中を集団で進んで来た。
大食い鬼が8匹、こちらの方に向かって来た。
少し数は多いが、それ程に強い魔獣ではない。
剣を抜いて、奴らへと立ち向かう。
(何か、違うな)
一瞬、そう思った。
そうだ、今までなら、最初にナルルガが1発は強力な呪文を叩き込み、魔獣らに打撃を与え混乱させていた場面である。
自分は、魔法戦士だから、剣に魔法を授与する事はできるが、キオウとマレイナにはそれができない。
フォドも、防御魔法は得意てはあるが、魔法の属性付与は全属性でできる訳でない。
早くも、ナルルガの抜けた穴の大きさを痛感した。
大食い鬼の振り下ろして来た棍棒を避けると、横から奴の脇へと踏み込むと、そいつの腹を切り裂いてやった。
苦痛に顔を歪ませながら、棍棒の二撃目を横殴りに向けて来たので、その軌道から身を避けて、また数歩踏み込むと、そのまま剣を奴の腹に向けて突き刺す。
よろけたそいつの首に目掛けて横から剣を浅く流すと、奴の喉を切り裂いた。
大量の血液が吹き出すと、泥の中にそいつが倒れ込んだ。
それを確認して、次の大食い鬼に向かう。
その合間も、ナルルガがいれば、呪文を放ち、奴らを牽制してくれたのだが。
新たな敵は、石斧を構えて、自分が近付くのを待ち構えていた。
いや、既に奴の一撃が繰り出されていた。
大きく上段に構えた石斧を勢いよく振り拭いて来る。
だが、その攻撃は、横に体を逃がしてやれば、難無く避けられる。
石斧を振る風圧を感じたが、その腕を剣で横へと薙ぐと、奴の腕が石斧を振った勢いのままに飛んで行った。
腕を失った奴の胴体を袈裟懸けに剣で切り裂く。
この攻撃で、奴の戦いは終わった。
仲間らも、大食い鬼を制圧していた。
少し休みを取る。
キオウ「何か、違うな。戸惑っちゃうよな。」
「魔法の援護が無いと、どうも攻め方も単調になる気がする。」
キオウ「止めを刺した後だよな。無防備になってる気がする。」
マレイナ「ナルルガちゃんがいたのが、当たり前だったからね。」
仲間が抜けるって、こんなに変わるものなのだな。
その後も、違和感を覚えながら、魔獣の群れを幾つか討伐した。
ナルルガがいない戦い方を、自分達は早急に探さないといけない。




