第114話「ハノガナの休日」
久し振りに戻って来た、ハノガナの街の城門を潜った。
まず、向かうは、アグラム伯爵の城館である。
借りていた馬を馬屋に返すと、自分達は伯爵の執務室に呼ばれた。
アグラム「ご苦労であった。今回も寄り道しただけの成果もあったようだな。」
今回の遠征での粗筋は文で報せておいたので、あとは細かな部分を説明する事になる。
アグラム「そうか。魔術の伝授は上手くできたか。しかも、それを魔族相手に試せたのも良かった。だが、あのナグトアンにとっては面倒な事になったようだな。しかし、奴もたまには、そのような予想外の事を対処した方がいい。あやつは、そのような事から逃げたがるからな。今回の事は良い機会よ。」
そして、遺跡で見付けた黒い宝石の嵌った冠を伯爵に手渡した。
アグラム「ほう、これがそうか? うん、確かに、ダラドラムド王国の退魔師の物に似ている。この宝石は、同じ物だろうな。だが、テリオン地方の辺りは、ダラドラムド王国の領内にあった事はない。しかも、その遺跡とやらは、かの王国が作られる前の物であろう。これには、どんなつながりがあるのだろうな? 一度、この冠を迷宮の半妖精に見せてみるのも良いかもしれん。」
あの地下の連中と、また会うのはどうも気が引けるが。
アグラム「それと、言葉を話す魔族か。過去に魔族と取引した話は聞いた事があるので、驚くべき事ではないが、こちらが思う以上に連中は、この世界の事を理解しているようだな。そして、奴らがこの世界のどこかに多数、存在するのは間違いなさそうだな。全く、頭の痛い話だな。君らには、まだまだ働いて貰う事になるぞ、これは?」
それも、ありがたくない話だ。
アグラム「まあ、今は、少し休め。ご苦労であった。」
伯爵から、1人、35ゴールドを受け取ると、自宅へと帰された。
久し振りの我が家ではあるが、留守中の埃が所々に溜まっている。
今は、軽く掃除し、本格的に手を入れるのは明日以降にした。
飯を家で作るのも何だから、街へと出掛ける。
キオウ「しばらく、休むか? 家の片付けもあるし。」
ナルルガ「魔法学園にも資料を出すから、2日くらいは休みたいわ。」
フォド「ナルルガさん、手伝いましょうか?」
ナルルガ「お願いできる?」
「こっちは、菜園の手入れだな? マレイナは、どうする?」
マレイナ「そうだね。家で、やる事はいろいろあるかな?」
しばらくは、やる事に困らないようだ。
翌朝、普段よりも遅く起きると、菜園を見に行った。
随分と雑草が伸びている。
それを引き抜き、成長し過ぎた作物も取り除く。
その後、水遣りや庭の片付けをしていると、マレイナも起きて来たようだ。
庭の事が片付くと、台所に向かう。
「何か、手伝おうか?」
マレイナ「うん、台所はやるから、居間の方の掃除をお願い。」
マレイナと分担しながら家の中を片付けて行く。
「お姉さんの事、もう少し待って欲しいな。」
マレイナ「そうだね。手掛かりが、少な過ぎるから、今はどこに行けばいいのかも解らない。」
「一度、レデス地方のケムンの町だったかな? そこに行こう。それからは、やっぱりハルム王国に行く事になるかな?」
マレイナ「それがいいかも。姉さんが、どんな名前を使ってるか、解かっただけでも収穫だよ。」
掃除をしていると、フォドも2階から降りて来た。
フォド「おや、お2人共、早いですね。もっと、ゆっくりしていてもいいのに。」
「何となく目が覚めたからね。それでも、いつもよりは、遅かったさ。」
マレイナ「外が明るくなると、目が醒めちゃうんだよね。」
フォド「お2人は、健康的ですね。掃除、私も手伝いますね。」
3人で、掃除を始めた。
やがて、台所の方は、終わったので、マレイナは買い出しに向かう。
掃除が終わる頃には、マレイナも戻って来たので、遅めの朝食だ。
フォドがマレイナを手伝い、自分は水汲みや、菜園から料理に使えそうな物を採りに向かう。
料理ができる頃に、キオウも降りて来た。
キオウ「みんな、早いな。やる事、残しておいてくれよ。」
「2階はまだだから、後でやってくれ。それより、ナルルガも起こしてやれよ。」
キオウ「あいつ、今日は昼まで眠る気じゃないのか? 何か、昨日も夜、起きてたぞ。」
キオウが、2階に上がって行った。
だが、なかなかに降りて来ない。
しばらくして、2階から何か声が聞こえて来た。
キオウが、慌てて階段を駆け下って来た。
「何か、あったか?」
キオウ「な、何でもない。」
食卓に料理が並んだ。
そして、少し空いて、やっとナルルガが降りて来る。
降りて来たが、
ナルルガ「最低、何、見てたのよ、あんた。」
キオウを睨みつける。
キオウ「見るも何も、お前が、あんな恰好で寝てるのが悪い。しかも、ただの下着だろ。嫌なら、ちゃんと服を着て寝ろよ。」
ナルルガ「私も着替えようとしたのよ。でも、その前に寝ちゃっただけなんだから。」
キオウ「だから、全部、お前のせいだからな。」
ナルルガ「見ただけでしょうね。触ってたら、あんたパーティー追放だからね。」
キオウ「誰も、触りはしないよ。お前なんて色気の無い奴なんて。」
ナルルガ「失礼ね。その割には、いろいろ見てたじゃない!」
キオウ「見てねぇ~し。過敏に反応すんなよ。そもそも、声を掛けても起きない方が悪い。」ナルルガ「こっちは、起こしてなんて頼んでないわよ。」
キオウ「それじゃあ、食卓とか片付かないだろ。マレイナだって困るさ。」
ナルルガ「それは、そうだけど。」
フォド「さあ、お2人共、もういいですよね。食事にしましょう。」
マレイナ「そうだよ、お腹空いてるでしょ? みんなも食べられないよ。」
ナルルガの気も済んだようだ。
やっと、食事が始まる。
ナルルガ「私だって、出てる所は出てるし、引っ込んでいる所はちゃんと引き締まってんのよ。」
そうでもないらしい。
家の片付けも、粗方終わったので、マレイナと2人で、ギルドに向かった。
勿論、依頼を受けに行くのではなく、情報を聞くのと、自分ら宛てに文が届いていないか確かめる為だ。
ヘルガ「あら? 久し振りね。」
ギルド内では、特に問題も無いようだ。
迷宮内の拠点も平常通りで、心配してたネアンら灰の盃の妖戦鬼らとのトラブルも無いようだ。
ヘルガ「こっちは、いつも通りだったわよ。」
逆に、こちらがシロノリアの町の地下遺跡の事を語った。
ヘルガ「そう、そんなの見付けたの。また、他所でもいろいろやってたのね、あなた達。」
文も、フランやマガセから届いていた。
ギルドでの用事も終わったので、買い出しついでに街中を歩き回る。
マレイナ「フランから文が来てたから、丁度良かったよ。返事、すぐに書こう。」
「そうだね。こっちも、マガセに書くよ。」
マレイナ「この返事が来たら、姉さんを探しに行こうかな?」
「そうするか? よし、自分も行くよ。」
マレイナ「本当に、いいの?」
「ああ、前からの約束だしな。お姉さんを見付けたら、こっちで一緒に暮らすのもいいかもね。」
マレイナ「そうだね。それ、今まで考えた事、無かったよ。」
「悪くないだろ? ここでの生活も悪くないさ。」
3日程、自分達にしては、のんびりとした生活をしていた。
ナルルガは、アデト魔法学園に、地下遺跡で見た魔方陣や、魔族に関する報告書を提出した。
ついでに、紫の魔人が身に着けていた装飾品の鑑定も依頼する。
一段落したので、黒い宝石の嵌った冠を半妖精に見せに行く事にした。
自分達だけで向かうのも不安はあるが、今回は西方の炎風の仲間にイルネだけを加えて向かう。
久し振りの迷宮での活動は、緊張もする。
あの深層に到達した時の圧が、こんなに重かったのかとも。
洞窟の中を進んで行くと、何者かが現れた。
こちらが足を止めても、相手は近付いて来た。
向こうも、何かしらの交渉をする気でいるらしい。
やがて、半妖精らが現れた。
「久し振りだな。」
「そうであるな。隣に住む人らよ。」




