第112話「魔法陣、解除」
地下の遺跡で、魔族が利用する移動の魔法陣を見付けた。
そこは、今も魔族達が利用し続けている。
遺跡全体の調査も、まだ終わってはいない。
だが、そろそろ、シロノリアの町のギルドで、ここの事が冒険者らに開示されるだろう。
キオウ「どうする? もう少し調査を続けるとしても、あの魔法陣はそのままでもいいのか?」
ナルルガ「そうね。あれをそのままにしておいて、魔族がぞろぞろ出て来るのも困るわね。」
イルネ「入口を私達が開けてしまった。そこから、魔族が地上に出て来ても困るわね。」
エルノア「あの魔法陣を壊すまでしないでも、一時的に使えなくする事はできないでしょうか? こちら側が使えなくなれば、魔族も移動して来る事はないかと。」
グランマド「それだ。先生、魔法陣に細工して、使えなくする事はできるかい? また、戻せるようにしておいて。」
ナルルガ「そうね。可能だと思うわ。魔法陣の一部、あの光る石を動かしてやればいいと思うわ。」
魔法陣に細工をして、使用不可能にする事にした。
まずは、あの光の魔法陣へと向かう。
そして、ナルルガ、フォド、エルノアと神官の1人に、魔方陣の細工を始めて貰う。
残りは、魔族の出現に備える。
エルノア「魔方陣の解除は、どうやってするのですか?」
ナルルガ「まずは、この魔方陣の特性を読み取るわ。そして、それを解除する処置をするの。それが終わったら、この光る石を1つでいいから掘り返すわ。」
イルネ「どのくらいの時間が掛かりそう?」
ナルルガ「そうね、この前も魔方陣を調べてみたから、1時間もあれば無力化できると思うの。その間、お願いね、みんな。」
ナルルガらが、魔方陣の解析を始めた。
一度、全体を見直し、この魔方陣を敷いた最後の術式がどこに施されたのか探っているという。
そして、それが判明したら、最後の工程だけを解除すると言う。
拠点の設営の逆の作業をすると思えばいいそうだ。
自分らは、光の変化、そして、何かが移動して来た時に出る音を待ち続けた。
ナルルガらが作業する横で、待ち続けるが、何の変化も無い。
ただ、魔方陣の光が様々に変化するのを眺めている。
キオウ「この光を眺めているだけだと、眠くなって来るな。」
「寝るなよ。」
キオウ「寝る訳ないだろう。後で、ナルルガに煩く言われるからな。」
確かに、眠気が襲って来る。
かといって、無駄話をするのも気が引ける。
適当に、体を動かして、眠気を飛ばす。
そう思っていると、光の変化の間隔が縮まり。
(来るな。)
戦いの準備を始めると、例の音が鳴った。
光の中に影が浮かび上がって来る。
影が形になった。
小魔人が2匹に赤の魔人が1匹だ。
キオウとほぼ同時に、赤の魔人に切り付ける。
赤の魔人も、長槍で2人からの攻撃を防いだ。
小魔人にも、仲間らが襲い掛かっている。
赤の魔人が槍を振り回し、距離を取ろうとしている。
そこへ光の尖槍を放つと、動きが鈍る。
奴の懐に飛び込むように、一気に距離を縮める。
奴の槍が向かって来るが、それはキオウの槍に叩き落とされた。
そのまま近付き、奴の胴体深くに剣を差し込んでやる。
押し込まれた剣を掴もうとしているが、そのまま根本まで更に突き刺し続ける。
奴の鰐のような大口が開くと、その中にキオウの槍先が伸びて行く。
剣と槍に突き刺された赤い魔族が絶命した。
他の魔族も、イルネとグランマドが止めを刺していた。
イルネ「大物は、2人に取られたわね。」
キオウ「早い者勝ちだろ。」
イルネ「じゃあ、次は負けないわ。」
また、光の点滅を見守る。
だが、そろそろ、ナルルガらの作業が次の段階に入るようだ。
ナルルガが魔方陣から顔上げた。
ナルルガ「ありがとう。解かったわ。これから、解除し始めるから、よろしくね。また1時間もあればできると思うわ。」
ナルルガが、魔方陣を杖でなぞって行く。
呪文を詠唱しながら、その魔方陣の一部を無効化しているのだろうか?
ただ、その杖は、少しづつしか動かせないようだ。
呪文を長々と唱え、少しづつ、少しづつ、杖を移動させて行く。
魔方陣の働きを消す為には、それをしばらく続けなければならないようだ。
迷宮内で拠点を設営した時と似ているな。
あの時の方が絶望的であったのだが。
だが、その作業を始めてしばらくすると、また光の点滅が激しく変わり始めた。
準備を整えていると、音が鳴る。
(今度は、どんな奴だ?)
朧げに影が浮かび上がって来る。
その影が、いままで以上に大きい。
魔方陣の光の中、大きな影が浮かび始めている。
今までの魔族とは違う。
大きさは、今までの倍以上ある上に、人に似た形をしていない。
似ていると言えば、迷宮で遭遇した大タコだろうか?
山が潰れたような形に見えるのだ。
だが、そいつの姿がなかなか現れない。
朧な影のままなのだ。
「だ、だ、扉、じるのは?」
何か、声のような物が中から聞こえる。
「閉じ、、止め、すぐ、止めろ。」
途切れ途切れに、言葉が聞こえた。
もしかして、魔方陣を閉じさせないように、妨害しに来たのか?
影の中から、何か黒い長い物が1本、突き出て来た。
黒い長い物が、鞭のようにしなりながら、周囲を叩く。
その数が、どんどんと増えて来た。
今は、10本近くの鞭が周囲をデタラメに打ち付けている。
それが、たまに自分らにも向かって来る。
剣で切り付けてみたが、切断はできない。
だが、剣を打ち付けると、黒い鞭が怯んで、光の中に戻った。
しかし、再び鞭が出て来る。
魔方陣を解除しているナルルガらを守りながら、鞭の攻撃を撃退する。
「閉じるな、閉、るな、止め、、めろ。」
鞭の攻撃を叩き落とし続けているが、また、その数が増え始めた。
今では、15本程の鞭が魔方陣を中心に周囲を薙ぎ払おうと蠢いている。
イルネ「キリが無いわね。」
イルネが剣に魔力を込めて行く。
その剣が光を放った。
その光る剣を黒い鞭に叩き込む。
すっぱりと、鞭が切断された。
切られた鞭は、崩れて消えた。
そのまま、イルネが次々と、鞭を剣で払う。
その度に、叩き切られる鞭。
一時的に、鞭の数は減ったが、剣の光が消えると、また増え始めた。
再び剣に魔力を込めるイルネ。
だが、彼女ばかりに任せる訳にはいかない。
自分も光属性の魔法を剣に込めて、鞭を切る。
1本、2本、3本が限界か。
イルネは、まだ切り続けていた。
マレイナも剣に魔力を込めると、切り始めた。
幾度か、鞭を切り落としていると、魔方陣の光が弱まり始めた。
そして、光の中の影が消えると。
周囲は真っ暗になった。
突然、光が周囲を照らしたかと思えば、光が天井に向けて飛んだ。
フォドが、光の玉を飛ばしたようだ。
ランプの灯りを点けた。
ナルルガ「ありがとう。終わったわ。あとは、この石を1つ掘り返して頂戴。こっちは、休ませて貰うわ。」
鉱石を掘り出す道具で、床から魔方陣を構成していた石を掘り出す。
この石も魔鉱石らしい。
ナルルガ「貴重な物だから、石は傷付けちゃダメよ。」
取り出しが終わったので、魔方陣から少し離れた場所に置いた。
やっと、自分らも休憩だ。
グランマド「さっきの影は、何だ? あれも魔族なのか?」
イルネ「姿はよく見えなかったけど、そうみたいね。また今まで見た事の無い形だったけど。」
キオウ「でも、何でこっちに来なかったんだ。あの鞭みたいなのは、攻撃して来たけど。」
マレイナ「体が大きくて、こっちに出て来るのに、時間が掛かるのかな?」
「そうかもな。あの影も体全体が見えていたのではないのかも。」
グランマド「まだまだ、魔族ってのは、いろいろいるみたいだな。」
キオウ「すげぇ巨大なのもいるからな。家よりデカイ奴とか。」
エルノア「そんなのが、この魔方陣の向こう側にもいるのでしょうか?」
フォド「そうかもしれません。我々は、魔族の事をほとんど知らないのですから。」
ナルルガ「もっと、魔族の事を調べた方が良さそうね。」
エルノア「ええ、そうですね。デルキトンの街に戻ったら、私も調べてみます。」
ナルルガ「そうなると、ハノガナの街じゃ限界があるかもしれないわね。」
魔方陣を解除するのに、思った以上に時間が掛ったので、このまま野営地を引き払いシロノリアの町に戻る事とした。
地下の遺跡の調査は、とりあえずここまでとした。
あとは、町の冒険者らに引き継ぐ事としよう。
ここまでの活動をギルドにも報告した。
「そうですか、その魔方陣は解除して頂いたのですね。ありがとうございます。」
ナルルガ「魔方陣を復活させる術式は、後でまとめて提出するから、少し待ってね。」
「はい、解りました。それで、その地下遺跡の事ですが、数日以内に情報開示します。」
それと、紫の魔人が身に着けていた装飾品だが、様々な魔法が掛けられている事が解かった。
ただ、自分達がそれを受け取るよりは、研究に回した方が良いと判断し、1組は、エルノアからデルキトンの街の魔法学園に預ける事とした。
もう1組は、ハノガナの街に持ち帰る事となる。
グランマドらの仕事は終わったので、デルキトンの街に明日戻るそうだ。
自分達は、どうするか?
キオウ「もう少し、様子を見てみるか?」
「そうだな。遺跡がどうなるかも見守った方がいいかな? イルネは、どう思う?」
イルネ「そうね、伯爵も、もうしばらくは待たせておいてもいいわよ。」
イルネがそう言うなら、いいかな?




