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第110話「遺跡の野営地」

 地下の神殿がある住居跡で、野営する準備を始めた。

ここならば、身を寄せる建物が幾つもある。

手頃な広さの隣り合う家屋を見付け、その2棟で野営する場所を作る。

野営と言っても、その家屋を使うので、迷宮内などで寝泊まりするよりは遥かにマシだ。

その2棟の周囲に、ナルルガらが結界を張り、その間に自分らが家屋の内部を清掃した。

エルノア「先生は、結界の張り方も、いろいろご存知なのですね。」

ナルルガ「ハノガナの迷宮でも、拠点を設置したのを手伝った事もあるわ。それと、前に話したけど、ハルム王国でも一角鬼の群れを撃退した物を敷いた事もあるから。」

エルノア「集落全体を囲む結界なんて、凄いですね。」

ナルルガ「あの時は、それしか無くて必死だったから。上手く行くとも思わなかったし。迷宮内での拠点設営の方が自信はあったわ。ただ、設置まで時間が係ったし、仲間らの援護が無かったら、失敗してたでしょうね。」

イルネ「ふふ、ナルルガも、感謝してたの?」

ナルルガ「ま、まあね。それはね。」


グランマド「なあ、あんたらは、こういう仮の野営地点をよく使うのか?」

キオウ「ハノガナの迷宮ではたまにな。今は、ギルドの拠点も迷宮内にあるからな。ただ、作るのは手助けしたが、あそこ使ってないな。」

「作ったはいいけど、あそこから迷宮へと入る機会が無かったからな。戻ったら、あそこを使ってみるか?」

マレイナ「それいいかもね。みんなで手伝ったんだから、使ってみようよ。」

キオウ「ああ、大タコとかとも戦って作った場所だからな。」

グランマド「大タコ? あの海に棲むタコなのか? 本当に、ハノガナの迷宮では、いろいろな事があるみたいだな。噂は何度も聞くが、こうして実際に活動してる奴の話を聞くと、驚くばかりだよ。」

グランマドの配下の騎士らも、一度、行ってみたいと言っている。

キオウ「その時は、案内するぜ。魔獣も、まだ冒険者が到達していない場所も、幾らでもあるからな。」


 野営地の準備が整ったので、周囲を再び探索する事にする。

野営地の建物には、結界を張ったので、魔族らも寄せ付ける事は無いはずだ。

2棟使うのは、一応、男女で分ける為だ。

ナルルガ「でも、あの紫の魔人には、効かないと思うわ。あいつは、格が違うから。」

それでも、野営地に置いておくのは食料などだから、奴らに荒らされても問題無い。

ただ、魔獣なら、食料を食い荒らすような事はするだろうが、魔族はどうなのだろう?

小魔人らは、人を食べてはいたが。

キオウ「まあ、いいさ。やられた時は、町に引くだけだ。」

また、グランマドらと二手に別れて、地下遺跡の探索を始める。

グランマド「じゃあ、また後でな。」

「ああ、互いに無理はしないように。紫の奴は手強いからな。その他にもいるかもしれない。」

エルノア「ええ、気を付けますわ。あなた方も、注意してください。」


グランマドらと別れて、地下の通路を進む。

まだ、この地下の遺構の全容は解らない。

進めば進む程に、その規模が広がっている。

キオウ「もしかして、ハノガナの迷宮と同じくらいに広がってるのか?」

イルネ「流石に、そこまで広くは無いと思うわ。向こうは、自然の洞窟なども混ざっているから。」

そうだろうな。ここは、まだ人の手の入ったと思える場所しかない。

それと、魔族としか出会わないのは、どうしてなのか?

自分達が入って来た封鎖された場所しか、出入口が無いのだろうか?

こんなに地下に町のような物があるならば、そんな事はないとは思うが。

ただ、今まで見付かっていないという事は、他の出入口も封鎖されたままなのかもしれない。

ナルルガ「でも、紫の魔人は、たまに目覚めていたような事を言ってた。」

イルネ「そうすると、奴らが自由に出入りできる場所はありそうね。」

キオウ「あいつに、その場所を聞いておけば良かったか?」

フォド「次は、ちゃんと聞きましょう。他にも、何か教えてくれるかもしれませんよ。」

「でも、また会いたい相手ではないな。」


進んで行くが、新たな住居跡を見付けるだけだ。

そして、影に潜んでいる魔族に出会う。

マレイナ「また、何か動きだしたよ。」

「ばさっ」という音がして、小魔人が地表に降り立つ。

最初に1匹、次にもう1匹が現れる。

そいつに向けて、光の尖槍を放つ。

1発は避けられたが、2発目が当たる。

後は、切り掛かるだけだ。

剣と爪の切り合いが始まる。

奴は、受けた光の呪文が効いているようだ。

必死に爪を振り回すが、それを避けて、剣を振るう。

奴の手を切り付けると、悲鳴のような物を上げた。

そして、爪にダメージを与えて攻撃力を奪うと、その体へと剣を振るう。

奴の胸を裂き、腹を薙ぐ。

飛んで逃げようとしたので、その脚を切断する。

バランスを崩し、床に落下する魔族。

そこへ追撃を掛け、袈裟懸けに奴の胴体を切る。

断末魔の声を上げ、奴が動きを止めた。

仲間らを見ると、キオウが爪の攻撃を槍で凌ぎ、何度も突きを相手の胴体に突き刺している。

そして、最後には喉の辺りを貫くと、そいつは動かなくなった。


キオウ「ここは、小物だけか?」

マレイナ「他に気配は無いよ。」

イルネ「いないみたいね。」

廃屋を探るが、魔族は見当たらない。

少しばかりの遺物が見付かったので回収する。

「今日は、この辺にするか?」

フォド「そうですね。本格的な調査は、明日以降ですね。」

キオウ「何か、張り合いないな。もっと、何か見付からないとな。」

マレイナ「明日には、何か見付かるよ。」


野営場所に戻ると、しばらくしてグランマドらも戻って来た。

グランマド「ちょっと、奥の方で妙な物を見付けたんで、明日は一緒に探りに行かないか?」

「妙な物?」

エルノア「ええ、以前、ハノガナの迷宮で、魔族を封印していた事を話してくださいましたよね?」

ナルルガ「魔族が、封印されている場所があったの?」

エルノア「いえ、まだ確認はしていません。でも、光が見えたんです。」

イルネ「光? 封印の光かしら?」

グランマド「でも、違うようなんだ。あんたらは、確か白い光の中に魔族がいたと言ってたよな。」

フォド「ええ、白い光の魔法陣の中に、魔族が閉じ込めてあるんです。」

エルノア「それが、そこは、光の色が変化するんです。白だけでなく、赤とか青とか、その他の色に。」

グランマド「何か、異質な感じがしてな。光を見ただけで、そこら辺はまだ探っていないんだよ。そもそも、魔族がうろつく場所で、魔族が封印されてるなんて訳は無いだろう? だから、ここは、協力して調べるのがいいと思ってな。」

ナルルガ「確かに、ここで魔族が封印されてる場所があるなら、変な話ね。」

キオウ「なら、明日、そこに行ってみるか?」

マレイナ「何があるんだろうね。」


 謎の場所の探索は、明日行う事とし、今日は、もう休む事とした。

食事の準備をする。

キオウ「ナグトアン、あんたは普段、どんな活動をしているんだ?」

グランマド「そうだな、子爵の城館やデルキトンの街の警備ってのが、一番の仕事だな。たまに、領内の小さな村の魔獣退治なんてのもするがな。冒険者のいない場所は、領主の仕事にもなる。ただ、うちの大将は荒事が好きな方ではないからな。余り、そんな仕事は無いかもな。」

エルノア「テリオン地方は、比較的、魔獣も少ない土地と言われていますし。ただ、ここが見付かったので、今後は解りませんから。」

ナルルガ「魔族がいると、そいつらが魔獣を呼び出すかもしないからね。」

グランマド「本当に、そうなるのか? 今までは、そんな事は無かったが。」

フォド「魔族の考える事は解りませんから。時間の経過など無頓着なようでしたから、我々、妖精族よりも長寿なのでしょう。それから、戦いを楽しんでいるような口振りでしたから。」

グランマド「なら、あんた達も、ここに残って対処してくれないか?」

キオウ「それは難しいんじゃないのか? うちの伯爵も人使い荒いから。」

イルネ「私も、いろいろやらされたわ。」

キオウ「でも、俺は、騎士に憧れもあったから、今の生活は悪くないよ。」


グランマド「冒険者から騎士になるのも珍しくはないが、そんなに機会があるものじゃないからな。サダ、お前もそうなのか?」

「そうだな。自分では、成り行きで騎士になれたからな。ありがたいけど、そこまで騎士に執着は無いかな?」

グランマド「そうなのか? 勿体ない。」

「冒険者になったのも生活の為だから、どこで何をしようが、それ程の拘りもないよ。」

エルノア「先生は、どうなんですか? アグラム伯爵のお抱え魔術師になるのですか?」

ナルルガ「そうね。私は、もっと魔術を極めたいというのが本音ね。だから、まだ誰かに仕えるとかは考えてない。ただ、伯爵の仕事を手伝っていれば、推薦が貰えるかなって。」

キオウ「ハノガナのアデト魔法学校じゃダメなのか? あそこなら、実績もあるから、すぐにでも入れてくれるんじゃないのか?」

ナルルガ「行くのは、ケリナの魔法学院がいいわ。この国で魔法を学ぶなら、あそこがいいから。」

フォド「そこにも、伝手ができてますから、不可能ではないでしょうね。これに、伯爵からの推薦状があれば間違いないでしょうが。」


エルノア「フォドさんは、何がしたいとか無いのですか?」

フォド「えっ? 私ですか? そうですね。私は、皆さんと一緒にいて、それで世界を見て回れるなら、それでいいです。」

エルノア「マレイナさんは、どうですか?」

マレイナ「私? そうだな、フォドと同じかな? 私もみんなと一緒がいいな。でもな。」

イルネ「でも、何?」

マレイナ「ううん。何でも。」

ナルルガ「らしくないじゃない。言いなさいよ。」

マレイナ「そうだね。人を探したいかな。」

イルネ「人を? 誰の事?」

マレイナ「うん、親しい人だけど、手掛かりが無くてね。」

マレイナは、それきりで黙ってしまった。

「いつか、探しに行こう。前にも言ったけど、手伝うから。」

キオウ「何だ、サダ。マレイナの人探し、知ってたのか?」

「あっ、前に、ちょっとだけ聞いた事があったから。」

ナルルガ「そう? 私も手伝うよ。仲間じゃない。」

マレイナ「ありがとう。みんな。」

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