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第109話「新たな魔人」

 川沿いの遺跡から入り込んだ、住居跡。

そこには、何匹かの魔族が潜んでいた。

いま、自分達は、今までに遭遇した事の無い魔族と向かい合っていた。

(あれ? そう言えば、こいつはハノガナの街の迷宮の奥に封印されていた魔族の中にいた奴か?)

確か、30体以上も封じ込められていた魔族の中に、こいつに似た奴もいた覚えがあった。身長は、2m強。

他の魔族に比べると、人間に近い風貌だが、額からは妖戦鬼よりも大きな角が2本突き出ている。

服は着ずに、腰に布を巻き付けただけの姿だ。

その肌は、浅黒いように見えたが、フォドが光の玉を上空に放つと、紫色に見えた。

「紫の魔人」

仮に、そう呼ぼう。


ナルルガが、光の円陣を唱え、紫の魔人を中心に呪文を展開する。

「ふっ、眩しいな。」

奴が、そう呟く。

他の魔族に比べて、効き目が少ないようである。

そこへ、自分とキオウ、マレイナ、イルネで切り掛かる。

それに合わせて、奴が両手を上げた。

すると、その手の中に長剣程の長さの黒い棒状の物が現れた。

その黒い棒が、自分達の剣を弾いた。

あの黒い物は、剣の役割をするようだ。

「数が多いな。」

そう言うと、奴は二本腕で構える。

すると、2本の腕が4本になり、それぞれの腕が黒い棒を握っている。

その4本腕を器用に動かしながら、こちらに切り付けて来る。


その流れるような連続技に、防戦一方に回る仲間達。

その動きも素早い。

奴の攻撃は早いだけでなく、一撃一撃が重い。

こいつ、魔族でも、接近戦が得意なようだ。

未だに、呪文は使ってはこない。

4本の腕に振り回される前衛の4人。

ナルルガらも、隙を見て光の尖槍を叩き込むが、その効果も余り見えない。

「なるほど。我らとの戦いに慣れた人らだな。これは手強い。」

そうは言うが、奴に焦りは見えない。

明らかに押しているのは、向こうの方だ。


奴の動きに無駄が無い。

そして、黒い棒状の塊も、その腕の延長にあるが如く、振り回す。

4本の腕があっても、自然に動かして来る。

その腕が、時に1本、2本、或いは4本と繰り出されて来るから堪らない。

思わず奴との距離を取る。

(くそっ、これでは奴に致命傷を与えられない。)

仲間らと囲んでいるが、その中心で奴の剣舞が優雅に続く。

そう、奴がまるで舞うように、こちらの攻撃を弾き、黒い塊を突き出し振り回す。

4本腕を持つ相手と戦うのも初めてだが、4人の剣士と戦っているようにも感じる。

それも、呼吸がぴったりと合った剣士らと。

そんな4役を務める剣士に追いやられる。

奴の攻撃を防ぐだけになっている。

そして、奴の攻撃が集中すると、その防御も危うい。


ナルルガ「少し間を開けて!」

ナルルガが叫んだので、奴の正面を開ける。

そこへナルルガの新たな呪文が放たれ、奴の体を包み込む。

今度は、闇属性の呪文「黒の閃光」だ。

黒い稲妻のような物が複数回、奴に当たるとその全身へと襲い掛かった。

「なるほど、今度は闇か。手数が多いな。これは効いたぞ。」

初めて効果があったか、そこへまた仲間らと切る付ける。

やや、こいつも鈍り始めたか?

初めて、奴の体に刃が届く。

だが、それも少しの間だけで、また奴に攻撃を阻まれ始める。

キオウ「くそっ、ダメか。」

「いやいや、なかなかに効いたぞ。幾年振りか? 我に打撃を与えたのは?」


だが、奴の余裕の口振りも、はったりなのかもしれない。

少しづつ、奴の体へ攻撃が当たり始めた。

流れるような4本腕のリズムも崩れ始めて来た。

こちらも剣を振るい続け、疲れも溜まりつつある。

けれど、奴も苦しみ始めているようだ。

こちらの剣が当たっても、奴の言葉が出て来ない。

これは、一気に責め立てるべきだ。

イルネが、一瞬、奴を眺めると、新たな剣戟を繰り出す。

気を込めた連続の突きが奴に迫る。

その猛攻に、流石の魔人も防戦一方になる。

(そこだ!)

自分は、その開いた腕の間から、剣先を突き入れる。

キオウの槍先も同じように伸びる。

慌てて、奴の腕が2人の攻撃を弾いた所へ、マレイナが一撃する。

少しばかりバランスを崩した巨漢の魔人。

更に、イルネの必殺の一撃が奴の腕を切り落とす。

そして、それに自分らも続く。


奴も態勢を整えようと、後退し始めたが、その腕も1本、更に切り落としてやった。

離れた奴に、ナルルガの放つ闇の閃光が絡み付くように迫る。

「ぐがっ!」

奴が初めて、苦痛のような声を絞り出す。

そこへ、仲間らが、次々と追撃の一撃を加えて行く。

その幾つかは、奴の残った2本の腕が払い除けたが、体を引き裂く打撃もあった。

そこへ、フォドの放つ、光呪文の閃来光。これは、強力な光属性の呪文だ。

「この人間どもが!」

苦痛で、奴の言葉も荒れる。

イルネ「行くよ。みんな!」

イルネの合図で、前衛全員で、気合いを込めて念連撃。

魔力に気力を上乗せした連続技が、奴の体を切り刻む。

最初は残った腕で、必死に守りを固める奴だが、ほころびた守りを崩すと、そのまま剣戟が奴を襲う。


「がっぅ!」

奴が初めて膝を付く。

「まさか、ここまでやるとは思いもせんかったぞ。」

そこへナルルガの光の円陣が奴を囲んだ。

最初はダメージの無かった呪文だが、今の奴には耐えがたい苦痛のようだ。

再びフォドの閃来光。

奴が、崩れ落ちて行く。

そこへ、イルネの容赦ない一撃。

奴の首が飛んだ。

そして、完全に倒れた奴の胴体。

(終わったのか?)

周囲は、静まり返っていた。


キオウ「やったのか?」

もう魔人が動かない。

ナルルガ「そうね。手強い奴ね。あれだけの呪文に攻撃を喰らっても、余裕だったみたい。」

奴の体を調べてみると、幾つもの装飾品を付けている。

首輪に腕輪、それに指輪も。

腕輪は、最初からある腕にしか着けていないが。

ナルルガとフォドは、どれも魔力が込めてあると言う。

魔族の魔道具なのだろうか?

周囲の住居跡を探ってから、神殿のあった最初の住居跡まで移動する。

そこで、グランマドらと合流する。


グランマド「遅かったな。どうした?」

キオウ「ちょっと手強い魔族に出会ったぜ。」

グランマド「そっちもか? こっちも何匹かと戦って来たぜ。」

エルノア「赤の魔人と小魔人と出会いました。先生達に教えて頂いた呪文で倒せましたが。」

やはり、他の場所にも魔族がいたようだ。

「他に、何かあったか?」

グランマド「他は、遺物が幾つかあった程度だぜ。ここは、魔族がいるだけで、単なる遺跡なんじゃないか?」

今のところは、そうとしか思えない。

だが、何でここは、こんなに魔族が多いのか?

もう少し、ここを探る必要があるかもしれない。

そうなると、町との往復が面倒だな?


 町へと戻った。

そして、翌日、野営の準備を整え、また遺跡に向かう。

神殿のある住居跡に、野営地を作り、そこから周囲の探索を始める事とした。

複数の魔族に遭遇した事も、ギルドには報告し、紫の魔人が身に着けていた装飾品も一度預けた。

「ちょっと、特殊な魔道具かもしれません。お調べしますので、お預かりします。」

換金するか手元に置くかは、まだ決めてないが、調べて貰う事とした。

また、遺跡の事をアグラム伯爵やナグトアン子爵に、文でまた報告した。

魔族がこんなにいるからには、領主らに伝えておいた方が良いだろう。

グランマド「子爵も、今頃、頭抱えてるぜ。」

エルノア「ええ、余り揉め事や面倒な事が嫌いな方ですから。」

グランマド「たまには、刺激も必要よ。そういう事を避けようとするから、頼りないんだよな。」

エルノア「余り、他所の方がいる前で主の悪口は言わないように。」

グランマド「はあ、つい、口が滑ったぜ。」

まだ、あの遺跡には、何かあるのだろうか?

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