第105話「牛頭の守護者」
デルキトンの街から、少しばかり離れた場所にある地下迷宮に入った。
そこで、久し振りに、珍しい魔獣に遭遇する。
牛頭巨人、牛の頭を持つ、巨体の魔獣だ。
そいつが、蜥蜴人を率いて、下の階層に降りる階段の前に陣取っている。
グランマド「こいつとも、あんたら戦った事があんのか?」
キオウ「前に一度だけだがな。」
グランマド「こっちは、噂に聞いた事があるだけだよ。やっぱり、ハノガナの迷宮は魔獣の宝庫らしいな。」
「ここも、負けてはいないさ。そこまで歩き回らずに、こんな奴に出会うんだからな。」
牛頭巨人の前に、蜥蜴人の方が動き出した。
盾で身を守りながら、奴らが曲刀で切り掛かって来る。
3匹の蜥蜴人を自分とグランマドともう1人の騎士で対処する。
他の者は、牛頭巨人へと向かう。
ナルルガらが、魔法の加護を掛けてくれる。
今日は魔法が使える者が多いので、あっという間に全員の加護が掛け終わる。
この場面では、雑魚的な扱いの蜥蜴人だが、手強い奴らだ。
鰐人以上の硬い鱗で身を守り、妖戦鬼を越える武器の扱いの上手い奴らだ。
大型の曲刀を片手で軽々と扱い、円形盾で更に身を守る。
いや、盾は守りにだけ使わない。
こいつ、盾でも殴り付けて来る。
それでも、手強い蜥蜴を徐々に追い詰めて行く。
こっちも必死だ。
攻撃力は、武器に魔法の属性を上乗せしているから、こちらの方が威力がある。
硬い鱗を切り刻み、曲刀と盾を避けて、切り込んで行く。
こいつと、白狗毛鬼とでは、どちらが上のか?
ほぼ、互角の相手に思える。
そんな相手を今の自分は、追い詰めようとしている。
やがて、手甲の無い場所の腕を切り付けると、重い曲刀を持たせる力を奪った。
盾を構えたが、庇いきれない部位を狙う。
蜥蜴人の膝の辺りを切り付けると、体勢を崩した。
そして、その首を薙ぐ。
が、生命力が強い。
今度は、胴を切ると、ガードが開いた。
そこへ致命的な一撃を首に再度加える。
仲間らをと見ると、まだ牛頭巨人と2匹の蜥蜴人は健在だ。
牛頭巨人は問題無い。
グランマドも、大丈夫だ。
となると、もう1人の騎士の加勢に回る。
2対1で攻めると、流石の蜥蜴人も分が悪い。
体力はあるが、防戦一方の奴を一方的に攻めて、その守りを打ち破る。
グランマドの方も、片付けたようだ。
残りは、大物1匹だけだ。
牛頭巨人は、大斧を振り回し、仲間らを寄せ付けない。
斧の刃は、1m程もある大物だ。
あの大斧を武器に当てられると、簡単に折られるかもしれない
そして、凄まじい体力。
既に、何カ所も仲間らの攻撃が当たってはいるが、奴に衰えは見えない。
ハノガナの迷宮で出会った奴よりも、体が大きく見えた。
大斧を振り回し、叩き付けて来る巨人。
その鼻息が荒い。
奴が迫って来ると、他の魔獣に無い圧力を感じる。
それは、水竜や黒炎大トカゲに接している時以上の圧だ。
後ろからナルルガらが呪文を叩き込むが、それを大斧で避ける。
キオウ「こいつ、意外と頭いいな。」
だが、多勢に無勢である。
巨人を囲み、切り刻む。
流石の奴も魔法を付与した上に、武技で威力を上げた攻撃の前では、少しづつ押されて行く。
キオウの槍の穂先が奴の手甲を裂き抉り、武器を保持できなくなった所をイルネとマレイナが切り込む。
更に、そこへ自分とグランマドらが切り付け、再び仲間らが次々と傷を広げて行く。
左右から、イルネと合わせて奴の首を狙って切り付けてやった。
かなり効いたはずだ。
そこへキオウやグランマドらが、奴の胸や腹を切り裂く。
籠ったような声を出したかと思うと、奴が床に倒れ伏した。
大きな音を立て、大斧が転がった。
グランマド「やっと、終わったか。こんな大物と戦うのは久し振りだぜ。」
キオウ「ああ、こんな奴らがごろごろいたら、身が幾つあっても足りないさ。」
フォド「皆さん、怪我はありませんか? 遠慮なく言ってください。」
激戦であった。
体の所々に、切られた所や、打撲の痕がある。
フォドら神官に回復して貰う。
そして、しばらくは、ここで休憩だ。
階段を守る奴らを倒したから、ここは安全地帯だろう。
キオウ「この次は、17階か。下には、どんな魔獣がいるんだ?」
「蜥蜴人よりも、強い奴には間違いないな。」
グランマド「それは、少しキツイな。」
キオウ「軽く探って、無理ならば戻ればいいさ。」
「それにしても、まさかここで、牛頭巨人なんかに会うとはね。」
キオウ「この下には、うじゃうじゃいるなんて無いよな?」
グランマド「そんなにいる奴ではないからな。階段の守りで、たまたまいただけだろう。それでも奴を倒したんだ。これ、ちょっとした自慢になるな。」
ハノガナの街の迷宮でも、数年に一度遭遇する程度の奴だ。
それは、この辺りでも変わらない。
確かに、そんな奴を倒したのだから、自慢にはなるかな?
と、音もなく、階段の辺りが光った。
ナルルガ「何? 今の光? まるであれは、」
マレイナ「何か、階段を登って来るよ。」
一瞬で、緊張が高まる。
階段の辺りが光ったように見えた。
あの光は、まるで、魔法陣の光だ。
そして、足音を立てて、階段を4匹の蜥蜴人が登って来た。
グランマド「まさか、これがここのからくりだったか? 魔獣は、こうして出現するのか?」
光った感じは、魔族の封印されていた場所で、魔獣らが呼び出されているのに似ていた。
だが、今回の魔法陣は、階段の下に出現したのか、その全容は解らない。
だが、目の前に、蜥蜴人が迫って来ている。
グランマド「こんな所で、休むんじゃなかったな。」
皆で、戦闘態勢を再び取り、備える。
蜥蜴人は手強いが、数は少ない。
一気に畳み掛ける。
新手の蜥蜴人の戦斧や大剣の攻撃を避け、止めを刺して行く。
長引かせれば、また、奴らが出て来るかもしれない。
少し気は焦るが、ひたすらに攻める。
大物と戦った後ではあるが、気力を振り絞る。
それにしても、いろいろな武器を扱う奴らだ。
大剣を避け、切り込む。
そして、4匹の飛び入りを全て倒した。
グランマド「これ以上、ここにいるのは、ヤバイ。下を見るなら、直ぐに行くぞ。」
地下17階へと降りた。
ここも、上の階層と変わらずに、回廊が続いている。
しばらくすると、反応がある。
ここで出会ったのは、胴体の半分が頭のようになった大型の魔獣、大頭巨人だ。
一見ユニークな姿だが、巨人と名の付く魔獣はどれも怪力の持ち主だ。
手に持つ武器は、棍棒や石斧だが、そのサイズが奴らの体に合った大きな物だ。
しかも、奴らの体に切り付けると、傷が塞がって行く。
こいつも回復力を持つ奴だ。
傷を直さないうちに、何度も切り付けてダメージを重ねる。
蜥蜴人とは、また違った厄介さだな。
そして、2mを越えた巨体故にか、体力も無駄に多い。
更には、こいつの大頭が硬い。
剣で叩き付けても、表面が傷付く程度で、頭をかち割る事ができない。
それでも、3匹の大頭巨人を片付けた。
グランマド「よし、この階層の確認はできたな。それじゃあ、引こう。」
「賛成だ、長居は無用だな。」
急ぎ、地上へと向かう。
その途中で、幾度も魔獣らと出会いはしたが、無事に地上へと戻れて、まずは安心した。
あとは、街へと帰るだけである。
デルキトンの街に戻ると、ギルドに報告した。
グランマド「迷宮の16階の階段を守る奴をぶっ倒して来たぞ。」
「そうでしたか。それで、どんな魔獣が守ってましたか?」
「牛頭巨人と、蜥蜴人が3匹いましたよ。」
「えっ? 牛頭巨人? また、そんな珍しい相手が。」
キオウ「それと、17階では、大頭巨人に遭遇したよ。」
「そうですか。17階はそいつらが徘徊しているのですね。それにしても、牛頭巨人が出たとは、驚きました。」
キオウ「まあ、俺らも、あいつで2匹目だけどな。」
「ええっ? 2匹目? そんなに出会う物なのですか?」
キオウが試しに言ってみたら、大騒ぎになってしまった。
それ位に、珍しい魔獣なのである。
また、あの迷宮で、魔獣が出現した時の事も報告した。
「そうでしたか。あの迷宮で、光を見たという報告は少数ですがありましたが、そんな仕組みが。」
ナルルガ「もしかしたら、もっと下層に魔族がいて、そいつらが呼び出しているのかもしれないわ。」
可能性はあると、自分も思う。




