第102話「対立する相手」
朝、自宅の菜園での一仕事が終わった頃、マレイナの朝食の準備が済み、他の仲間らもいつものように揃った。
キオウ「おはよう。今日は、どうする?」
マレイナ「また、迷宮かな? どう?」
ナルルガ「でも、半妖精に遭うのは何か嫌ね。あいつら、今のところは何も仕掛けて来ないけど、絶対に何か企んでいるわよ。」
フォド「そう考えるのが良いですね。余り近付き過ぎると、何をして来るのか。」
「あのまま、あの辺りを歩き回れば、奴らの集落に出てしまうかもしれない。それは歓迎されないだろう。」
キオウ「全力で阻止して来るかもな。」
「まだ、聞き出す事もあるかもしれない。余り刺激を与えない方が良いだろう。」
マレイナ「なら、今日は、他の所に行くのがいいね。」
ギルドに向かい、魔獣討伐の依頼を受けると、迷宮へと向かう。
今日は、半妖精とは会いたくはないので、神殿の方角には向かわない。
進めば、深層の入口の辺りには到達できるルートを選んで行く。
所々で下り、また水平に戻ったかと思えば下る。
そして、独特の圧を感じ、肌がぴり付いて来たら、目標の場所である。
ここまでの道中で、幾度か魔獣と遭遇するも、その全てを撃破して来た。
だが、ここから先は、どれも手強い相手ばかりになるはずだ。
最初に遭遇したのは大角鬼だった。
7匹の大角鬼と出会うと、そのまま戦闘が始まった。
こいつら相手なら、それ程に苦戦する事は、今はない。
次々と、奴らを切り捨て、やがて戦いも終わる。
キオウ「前は、苦戦してたけど、いつの間にか俺ら強くなったな。」
こいつらとの初めての出会いは、何とか深層へと辿り着いた時だった。
それから、随分と時が経ったように思える。
しばらくすると、また何者かが近付く気配がする。
マレイナ「近付いて来るけど、これは、あれかな?」
「あれって何だ?」
マレイナ「うん、妖戦鬼だと思うけど、どうする?」
神殿の近く以外で、久し振りの妖戦鬼に遭遇するようである。
あそこから、この辺りは離れているから、灰の盃とは多分、別の部族の奴らだろう。
「そうか、どうするか? 別の部族ならば、戦闘になるか?」
マレイナ「試しに、声掛けてみようか?」
イルネ「そうね、試してみましょうか?」
やがて、30m程の距離に6匹の妖戦鬼らしき姿が見えた。
マレイナ「コンニチハ、ハナシ、シヨウ。」
連中が立ち止まった。
止まって、互いに顔を見合わせて何か小言で呟いている。
マレイナ「ハナシ、シタイ。」
「オマエ、ダレ、コトバ、ナラウ?」
返事は来た。
マレイナ「アナタノ、ナカマ、コトバ、ナラウ。」
「ダレニ、ナラウ?」
灰の盃と答えても良いのだろうか?
マレイナ「ホカノ、ブゾク、ナラウ。」
また、連中は話をしている。
だが、仲間内でも意見がまとまらないのか、たまに声が高くなる。
そのこぼれて来る内容は、余り平和的な物では無さそうだ。
「オマエラ、テキ、タタカウ。」
マレイナ「タタカイ、サケタイ。」
「ダマレ、タタカエ。」
そして、連中は切り掛かって来た。
キオウ「くそっ、仕方ないか。」
結局、戦う事となった。
一度は会話ができたが、こいつらには友好的にする気は無いようだ。
こうなっては、こちらも応じるしかない。
妖戦鬼を2匹切り倒した。
マレイナ「モウ、ヤメル、タタカイ。」
「テキ、タタカウ、ハナシ、ナイ。」
やはり聞くような相手ではないようだ。
そして、最後の1匹だけになった。
イルネ「タタカイ、ヤメル。」
「ダマレ、ナカマ、カタキ。」
戦い始めたのは、そちらだろう。
だが、最後の1匹も抵抗を止めない。
迷わずに、こちらを攻めて来る。
仕方なく、最後の1匹も切り倒した。
マレイナ「話し合えたのに。」
イルネ「しょうがないわ。話を聞くような奴らではなかったわ。」
ナルルガ「やっぱり、他の部族では、事情は違うようね。」
キオウ「ああ、多分、ここら辺の奴らとは和解なんて無理さ。」
「そう、なんだろうな。」
全ての妖戦鬼との戦いを止めるには、まだまだ時間が掛かるのか?
それとも、それは無理な話なのか?
その後も、妖戦鬼に遭遇するが、結果は同じだ。
言葉が通じても、奴らに戦いを止める理由にはならないようだ。
こいつらが特別に好戦的な訳ではなく、灰の盃が例外だっただけなのか?
この先を進めば、奴らとの戦いが増えるだけだろう。
ここは、後退する事とする。
キオウ「また、来るのに気が重い場所ができたな。」
「ああ、迷宮での活動も、また限界なのか?」
複雑な気持ちで、街へと戻る。
明日は、休息日だな。
翌日、少しばかり遅く起き上がると、菜園の手入れをいつもよりも念入りに終えた頃、朝食の準備ができた。
マレイナ「ナルルガは、どうしたの?」
キオウ「まだ、寝るってさ。」
フォド「まあ、お休みの日くらいは、ゆっくりして貰いましょう。」
他の仲間らが朝食を終えて寛いでいると、イルネが訪ねて来た。
今日は、ここで打ち合わせをするのだ。
イルネ「あら? ナルルガは?」
キオウ「まだ、寝てるよ。」
イルネ「そう、ならもう少し待ちましょうか?」
マレイナ「なら、私、何か作るね。」
マレイナが台所に籠ってしばらくすると、何やら甘い匂いがして来た。
すると、ナルルガがやっと2階から降りて来た。
「おはよう、やっと起きたか?」
ナルルガ「マレイナ、何を作っているの?」
キオウ「それで起きてきたのか? 今、何か作ってるよ。」
ナルルガが顔を洗い終わった頃には、マレイナの調理も終わったようだ。
マレイナ「焼きはちみつパンが出来たよ。」
ナルルガが、朝食の前に焼きたてのパンを食べ始めた。
他の仲間らも、食卓に付いてそれを食べ始めた。
フォドがお茶を入れてくれる。
イルネ「いろいろ、伯爵や屋敷の人達から話を聞いて来たわ。」
「で、どうだった?」
イルネ「まあ、多少はね。ただ、情報としては少ないわ。」
イルネは、ダラドラムド王国に関する話を聞いて来てくれた。
イルネ「あちらは、随分と習慣なども違うようね。」
ダラドラムド王国、ラッカムラン王国よりも建国は100年は古い国家だ。
その王は、神官を兼ねていると言う。
信仰するのは、四主神だが、国王が、あの国においては最高神官の座も兼任しているそうだ。
あの国は、宗教国家でもあるのだ。
故に、国家の運営は、宗教との関りも多い。
我が国やハルム王国、ナハクシュト王国では、そこまで宗教が政治に関わる事は無い。
フォド「ちょっと、特殊な国のようですね。」
イルネ「そして、我が国だけでなく周辺諸国との関係は良くないわ。建国が遅い国は、見下した所もあるから。」
ナルルガ「そんな宗教国家が、魔族を利用するのかしら?」
イルネ「さあね。魔族を利用するのも、何かあるのかもしれないわ。」
マレイナ「死体を利用するなんて事も、平気なのかな?」
イルネ「もしかしたら、見下している国の死体なら、使っても構わないとかね。」
キオウ「何か、いけ好かない奴らだな。」
ナルルガ「死体を操るなんて、まともじゃないのよ。」
フォド「他国の者であっても、死体を狩り出すなんて、信じ難い悪行ですよ。」
「また、魔票を使って来るかな?」
イルネ「そうね。前に大分、奪い取ったから、今は必死に作ってるかもしれないわね。」
マレイナ「また、使って来るのかな?」
ナルルガ「魔票を使えば、自分達の兵士は犠牲にはならない。」
「ハルム王国では、死者を火葬にし始めたんだろ? もう同じ手は使えないんじゃないのか?」
イルネ「ハルムではそうだけど、我が国では、まだその対処を始めてはいないわ。それに、」
ナルルガ「死体が無いならば、魔獣を呼び出せばいい。」
キオウ「本当に嫌な奴らだな。自分の手は汚さないってか?」
「だから、何度でもやって来るかもしれない。」
先が思いやられる。