第101話「謎の神官」
マグルらと共に、迷宮に入り、半妖精とまた接触した。
魔票の事を聞いてみると、その技術を教えた相手の事を奴らは語り出した。
「そいつらの特徴で、何か他には無いのか?」
「そうであるな。奴らが、全員がフードとマントを着けていたので、よくは解らないのである。ただ、武装した奴らと、冠を着けた者は、国が違うような気がしたのである。異国の者と言うのは、その神官らしき男だけであったのである。」
フード? もしかして、あの自分達と何度か戦った連中なのか?
イルネ「神官もフードで顔を隠してたの? 武装していたのは、この国の者なの?」
「ああ、神官らしき者の冠は、フードに中に見えただけである。武装した者らは、この国がどこの国かは解らぬが、この直ぐ上の国であるかと思うのである。」
武装した奴らは、この国で雇われたのか?
なら、その神官みたいな奴は、どこから来た?
その黒い宝石の嵌められた冠だけで、解かるのだろうか?
神官のようなのが、黒幕なのか?
ナルルガ「ねえ、その金属片では、どんな物が動かせるの?」
「そうであるな。石、木、金属などで造った物などが動かせるのである。」
ナルルガ「なら、その、何かの生き物の死体などは、どうなの?」
「生命を失いし肉体も、同じく動かせると思うのである。ただ、その死せる物の状態によると思うのである。」
ナルルガ「1つの物体に、複数の金属片を付ける事で、そいつを強化する事はどうなの?」
「そのまま数を増やすだけでは効果は無いのである。特別に整える必要があるはずである。ただし、我らは、その技術までは知らないのである。」
複数使う事で、強化はできるだろう。
それを自分達は、実際に見た。
ただ、その方法を、こいつらは知らないのか。
となると、魔票を使っている連中は、独自にその技術を得ているのだろうな。
イルネ「それから、あなた達が、迷宮の中に魔族を封印したのかしら?」
「魔族? ああ、それは我らの祖先が行った事である。しかし、今の我らには、そこまでの力は無いのである。」
イルネ「あなた達だけでは、魔族には敵わないの?」
「はは、残念ながら、そこまでの力は無いのである。我らは、非力なのである。」
ナルルガ「なら、あなた達の祖先がどうやって魔族を封じ込めたの?」
「古の時代には、強力な術も術者もおったと聞いているのである。だが、今は、そんな者などいないのである。そんな力があるならば、いや、その話は止めておくのである。言っても仕方ないのである。」
そんな力があれば、さっさと地上を取り戻していると言いたいのか?
まあ、それができないから、迷宮から出て来ないという事なのだろう。
だが、地上なら、幾らでも土地はある。
現に開拓村のある辺りは、今はどこの国家にも属してはいないし、あの廃都市もかつてはワイエン王国の都市の1つだったはずでは?
何か、こいつらが迷宮に拘る理由があるのかもしれない。
それは、彼らが半妖精となった理由と関係しているのだろうか?
「あんた達は、地上に戻りたくないのか?」
突然の質問に、彼らは口をつぐんだ。
「この直ぐに上にある場所ではないが、離れた場所にならあんた達が住める場所もあるぞ。」
仲間らの目も、自分に集まっている。
「折角の話だが、我らにも事情があるのである。今となっては、ここの暮らしも悪くはないのである。」
やっぱり、何かがあるのだな、迷宮の中に。
地上には出たいが、その場所が限られている。
そして、この迷宮で暮らす事にも意味があると。
だが、迷宮で暮らす理由は何だ?
まだ、自分らが知らない秘密が迷宮にはあるのか?
疑問が次々と浮かんで来る。
「ああ、君達に会えたのは、喜ばしい事だが、そろそろ別れの時が来たようである。地上の土産にも感謝するのである。これは、少ないが、その礼とするのである。」
唐突に、話を切り上げたいようだ。
そして、彼らも何かの包みを差し出して来た。
その包みを少し離れた場所へと置いた。
互いの贈り物を手にした。
「また、会える日を楽しみにしているのである。」
「ああ、またな。こちらもいろいろ聞けて助かったよ。」
イルネ「さようなら、地下の人達。」
「ああ、地上の人よ、さらばである。」
半妖精は引き上げて行った。
後ろにいた連中も、その動きを察したのか、どこかに消えていた。
イルネ「何で、あんな事を聞いたの? 地上に戻りたいなんて。」
「いや、奴らは、ハノガナの街に拘らないならば、開拓村の辺りにでも移動すれば土地があるはずだ。だが、奴らはそれをしない。あの廃都市も、元は奴らの先祖の物だろう。」
ナルルガ「確かに、不思議ね。ハノガナの街が余程良いのかしら?」
フォド「それとも、迷宮に住み続ける理由があるとか。」
マグル「おいおい、それじゃあ、奴らが離れたくない程のお宝が迷宮にあるのか?」
「離れたくないのではなく、離れられないのかもしれないぞ。」
コーグ「迷宮に縛り付けられているとでも?」
ナルルガ「ここでしか生きられない体になってしまったとか?」
マレイナ「もしかして、封印された魔族に力を貰っているとか?」
フォド「それはあるかもしれませんね。マレイナさん、鋭いです。」
キオウ「まあ、今は、そんな事はいいや。連中、何を置いて行ったんだ?」
包みを開けてみると、何かの鉱石のようだ。
フィーダ「鉱石か。ここじゃあ、何の石か解らないな。ギルドで見て貰わないと。」
ナルルガ「あげた衣服以上の価値がある事を祈るわ。」
立ち話を続けていてもしょうがないので、街へと戻る事にした。
途中、何度か魔獣と遭遇したが、それらを撃破し街へと無事に戻れた。
ギルドに立ち寄り、魔獣の討伐の報酬を受け取る。
そして、半妖精から貰った鉱石の鑑定もお願いした。
ヘルガ「そうね、大半は銀鉱石ね。少し金鉱石も混ざっていたけど、35ゴールドってところだわ。」
キオウ「おい、奴らに渡した衣服は、幾らしたっけ?」
ナルルガ「15ゴールド。少しは儲かったみたいね。」
イルネ「今回は、いろいろ聞けたから、それだけでも良かったんじゃない?」
「そうだな。魔票の事も解らない部分が見えて来た。」
フォド「そして、正体不明の神官ですね。何者なんでしょうか?」
ギルドからアグラム伯爵の城館に向かった。
そして、半妖精の語った事を伝えた。
アグラム「そうか、魔票の情報は、奴らから出たのか。そして、その神官だな。黒い石の嵌った冠だったのだな。」
イルネ「そのようです。彼らも、珍しく思ったようです。」
アグラム「多分、奴らが、その神官を知らないのは当然だろう。」
フォド「何か心当たりが?」
アグラム「実際に見た訳ではないから、確証は無い。だが、そんな物を被った神官もいると聞いている。ダラドラムド王国にはな。」
イルネ「ダラドラムド王国! それは、」
アグラム「一気にキナ臭くなって来たな。」
イルネ「ええ、ダラドラムド王国と言えば、我が国やハルム王国とは敵対関係にありますから。」
アグラム「黒の石は、確か、魔を退ける神官の証だとか。」
フォド「魔を退けるですか?」
アグラム「ああ、その専門の神官で、退魔師などと呼ばれているようだ。」
イルネ「そんな者達が。」
アグラム「ダラドラムド王国が、魔票の技術を半妖精から伝え聞き、それをより高度な術へと発展、もしくは大昔の術式を復活させた。その実験を廃都市で行い、それをハルム王国で実行した。」
イルネ「そう考えると、辻褄が合いますね。」
アグラム「だが、魔票を使って死体ども動かす事はできたとして、それで一角鬼まで操れるのか?」
イルネ「もしかして、ダラドラムド王国は魔族の協力を得ているとか。」
アグラム「それは、無いだろう。魔族が人間らの望みを聞くとは思えない。」
ナルルガ「ならば、捕らえた魔族に一角鬼を呼び出させたとか。」
アグラム「その方が、確率は高そうだな。ダラドラムド王国は、魔族を封印し一角鬼らを呼び出したと。」
イルネ「そうですね。今後は、動く死体だけでなく、魔獣の大群が出現する可能性も警戒しないといけないようですね。」
「ハルム王国では、一角鬼だったけど、他の魔獣も呼び出せるんじゃないのか? この前、迷宮で見た黒の魔人は、大食い鬼と狗毛鬼も呼び出していた。自分らにも黒の魔人が倒せたくらいだから、捕まえる事はできるだろう。」
フォド「国家が本気でやるならば、もっと強力な魔族を捕まえられるでしょう。」
アグラム「益々、深刻な事になりそうだな。早速、各方面に伝えなければ。」
マレイナ「この情報、ハルム王国のフランにも伝えても良いでしょうか?」
アグラム「ああ、伝えてやれ。向こうの方が、ダラドラムド王国には近い。」
アグラム「それと、半妖精の奴らは、魔族を封印する事はできないのだな。それは信じても良さそうだな。そえができるなら、奴らも魔獣を呼び出していただろう。」
イルネ「魔獣を呼び出している形跡は無いですね。できるならば、私達に嗾けていたでしょう。」
アグラム「いろいろと知識はあるようだが、地上に影響を及ぼす程の力は無いようだな。」
「それと、奴らは迷宮から離れられない理由があるようです。」
アグラム「理由? そうか、それで今も迷宮の中にいると。奴らにはそんなに居心地が良いのか? 或いは、生きて行く為の物が何かあると。」
ナルルガ「迷宮自体に力を貰っているのか、それとも封印された魔族にそれをして貰っているのか。」
アグラム「魔族に力を貰っているなら、奴らが自棄を起こしてあいつらを解き放つ事は無さそうだな。」
イルネ「そうだといいのですが。」
アグラム「まあ、その辺りを今は考えても仕方はない。黒い冠の神官。そいつらの事も調べよう。本日も、ご苦労であった。」
伯爵の城館から自宅へと戻った。
ダラドラムド王国だって?
また、面倒な事になりそうだ。